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18話「十五女カローリアはもう我慢できない(2)」

 今さら何を言われてもカローリアの心は変わらない。


 それが現実。

 それが真実。


 これまで己の行いを省みず歩んできたアインズが今さら焦ったところで時既に遅し。


 それからもしばらくアインズは粘った。考え直してほしい、というようなことを繰り返し訴えた。愛している、想っている、そんな言葉を繰り返して。けれどもそんな言葉はカローリアには届かない。これまでずっと嫌な思いをさせられてきたカローリアからすれば、どんな甘い言葉もそれがアインズからのものである限りただひたすらに不快なものでしかないのだ。


 今さら何をしようとも、アインズがカローリアの心を取り戻すことなど不可能なのだ。


 ――そうしてカローリアは平穏へと帰った。


「婚約、破棄になったんですって?」

「あ、おばさん、お久しぶりです! そうなんですよー。色々あって、しばらく忙しかったんです」

「……浮気でもされたの?」

「違うんです」

「あら」

「実は、アインズさんが、以前から会うたびに唾をかけてきていて……もう耐えきれなくなってしまって」


 近所のおばさんと会話することさえ、今のカローリアにとっては楽しいことだ。


「ええ!? つ、唾!? あの人そんなことするの!?」

「そうなんですよー。しかも認めないんです。やめてほしいと伝えてもスルーされるばかりでちっとも改善しなくって。嫌すぎて、耐えられなくて、それで婚約破棄しました」

「ああ……そう、そうだったのね……」

「不快の極みでした」

「それは……そうでしょう、不快だろうと思うわ。それに、そもそもそんなのはおかしな行動だものね」


 また唾をかけられるかも――そう思う必要がない、という、たった一つの事実なのだけれど。

 その件についてずっと悩みずっと重い気分で暮らしてきたカローリアにとっては、とても大きなこと、そして、とても嬉しいことなのだ。


「離れられて良かったわね、カローリアちゃん」

「はい。ありがとうございます。一生……なんて思ったら、憂鬱だったので」

「そりゃあそうよ! 嫌よそんなの! カローリアちゃんは間違っていないわ! それは完全に相手がおかしいのよ」


 アインズは婚約破棄のショックで寝込み、弱っているところに引いた風邪をこじらせてしまい、みるみる衰弱して――あっという間に、半年も経たないうちに、この世を去ることとなった。


 彼の最期の言葉は「死にたくない……」だったそうだ。


 一方カローリアはというと、後にとても気の合う人と知り合うことができ、話は順調に進んでやがてその人と結婚した。


 カローリアはもう不快さを抱えて生きてはいない。


 彼女はありとあらゆる不快なものから逃れて幸せになれたのだ。


 空を見上げる時も。

 風を感じる時も。

 無限の心地よさに包まれて、その中で、彼女は息をして生きてゆく。

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