表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/27

17話「十五女カローリアはもう我慢できない(1)」

 十五女カローリア・サーベリオには婚約者がいる。


 彼の名はアインズ。

 爽やかさを絵に描いたような容姿の青年だ。


 しかし彼には女性関係において独特の趣味がある――というのも、彼は、好きな女性に対して唾をかけたくなるという性質を持っているのだ。


 それで、カローリアは、いつもアインズから唾をかけられていた。


「やぁ! カローリア。今日も可愛いね! ……ぷっ」

「わっ……や、やめてください、唾をかけるなんて」

「おっと失礼。たまたまかかってしまった。申し訳ない」

「……あの、それ、いつもですよね」

「何を言っているんだい? はは。そんなわけないじゃないか」


 穏やかな春の日。

 顔を合わせれば唾を飛ばされる。


「やぁカローリア、最近暑いけどどうだい? 元気かい? ……ぷっ、ぷっ、ぷっ」

「やめてください! 本当に!」

「おや? 何を、だい?」

「唾をかけられるのは不快なんです……!」

「僕は何もしていないよ」

「してるじゃないですか!」

「いやいや。まさか。気のせいだよ、それは。好きな人に唾をかける男なんているわけがない」

「明らかにかかっています」

「まさか! 気のせいだよそれは。僕は君を愛しているからね、そんなことはしないよ」


 暑くなり始めた夏の日。

 対面するとやはり唾を数発飛ばされ、しかもそれが驚きの命中率。


「やぁ、カローリア。夏ももうすぐ終わりそうだね。暑さも落ち着いてきたかな? ぷっ。……ああそうだ、近頃は山菜が美味しいよね。ぷっ、ぷっ、ぷぷっ、ぷっ」

「また唾かけですか……」

「山菜の話をしているだけだよ? ぷっ」

「ほら! 今も! かけたじゃないですか!」


 夏の終わり頃も。

 もはや当たり前のように唾をかけられる。


「君はいつも何を言っているのかな? 何度も言っているけれど、気のせいだよ、間違いなく」

「もう……本当に、嫌なんです……唾をかけないでください」

「かけていないよ」

「かけています!」

「落ち着いて、カローリア。君は何かを勘違いしているんだ。僕は君を虐めるようなことはしない。好きだからね。……ぷっぷっぷっ」


 やめて、と言っても、アインズはとぼけるばかり。彼が己の行動を省みることはない。自覚がない、ということはないのだろうが、そのことに触れれば知らないふりをするばかり。


 ――そんなアインズの振る舞いに耐えきれなくなったカローリアはやがて。


「婚約、破棄します!!」


 強い決意で。

 言い放った。


「え……カローリア、どうして?」

「唾をかけられるのが嫌だからです!!」


 きょとんとするアインズ。

 もう我慢しないと決めたカローリア。


 二人の見つめる未来は重ならない。


「耐えられないんです! 会うたび会うたび唾を飛ばされて、かけられて、でも知らないふりされて……汚いですし、不快ですし、尊厳を踏み躙られているように感じられて……しんどいんです。だから離れたいんです! いえ、離れる! そう決めたんです。私はもう我慢できません!」


 どちらかが我慢する関係というのは長続きしないものだろう。


「そんな……勘違いだよ、どうしてそんな……」

「とぼけるのはやめてください!」

「分からないよ。そんなことを急に言われても。理解できないんだ」

「これまで何度も言ってきました! やめてくださいと! でも貴方はとぼけるばかり……考えてみてもくれなかった。だからもう無理なんです。こんな関係を続けるのは不可能なんです。私はもう、貴方とはいられません!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ