15話「十三女ロベルニシトリニアは本が好き」
「おはよう」
「ああ、おばさま。おはようございます。良い天気ですね」
「おやおや。ロベルちゃん、またその本を読んでいるのかい?」
「はい」
「その本好きだねぇ」
「ええ、とても。好きなんです。それに、読めば読むほどに好きになるんですよ」
十三女ロベルニシトリニア・サーベリオは本が好きだ。
物心ついた時からそうだった。
皆が走り回っていた時も、周りが綺麗なものや可愛いものに魅了され集めていた時も、彼女はただ一人木陰で本を読んでいた。
変わっていると言われても。
それでも彼女は自身がやりたいことを貫いていた。
ロベルニシトリニアの人生はロベルニシトリニアのもの――それを、彼女は、若くして誰よりも理解していたのだ。
だから彼女はぶれなかった。
どんな時も己が選ぶ道を真っ直ぐに進んでいた。
そんな彼女もやがて年頃になり。あまり興味はないが婚約することとなる。婚約者となったのは五つ年上の男性で、名はエッデという。周りが勝手に決めた婚約で、本好きな彼女とは対照的にエッデは運動が大好き。なのであまり気が合わないことが予想されたのだが、実際その通りで、二人の間には常に深く大きな溝があった。
それでもロベルニシトリニアは多少歩み寄ろうとしたのだが、エッデはそれを拒否。
エッデがやる気を持って行っていたことといえば、ロベルニシトリニアの悪口を知り合いに言い広めることくらいものであった。
……そんな関係が長持ちするはずもなく。
「ロベルニシトリニア、俺はもうお前とは生きていきたくない」
終焉はすぐにやって来た。
「だから、お前との婚約は破棄とする」
そんな風にして。
エッデは自らロベルニシトリニアとの関係を終わらせることを決める。
――そうして二人の婚約者同士という関係は呆気なく壊れたのだった。
最初から分かりきっていた結末……だったのかもしれない、が、ロベルニシトリニアはその結末を少しは残念に思っていた。
もう少し頑張れたなら。
もう少し何かできたなら。
運命は変わったのではないか、なんて考えて。
けれどもそんなものは無駄な思考でしかなく。
良い関係を保つ、というのは、二人が協力してようやく成り立つもの。どちらか一方だけが努力しても上手くいかないというのが常識。片方だけが頑張ったとしてもその人が疲れるだけ。
その後、ロベルニシトリニアは本屋を開き、かなりの資産家になった。
また、単なるお金儲けだけではなく、多くの子どもに本を無償で提供するというボランティア活動も行っている。
ロベルニシトリニアの願いは一つ。
――多くの人に本というとのの魅力を届けたい。
だからこそロベルニシトリニアは利益の範囲を超えて本の魅力を訴え続けるのだ。
一方エッデはというと、ロベルニシトリニアと離れてすぐに落石事故に巻き込まれ意識不明となってしまった。
命だけは助かったけれど。
生きていないようなものだ。
なんせ、言葉を発することさえ叶わないのだから。
エッデはすべてを失った。
普通に暮らすこと。
平凡な日常。
特筆すべきことはないが繰り返される生活。
彼はもう、どれも、何一つ手にできない。
自由を奪われて。
未来も失われ。
永遠に牢獄に閉じ込められるようなものだ。