14話「十二女リリシエリーナはまともな生き方を求める」
十二女リリシエリーナ・サーベリオの婚約者サハイルは賭け事が大好きで、ことあるごとに友人や知人からお金を借りてはそれを賭けにぶち込むというような人物だった。
「サハイルさん、賭けはもうやめてください!」
「はい~? リリシエリーナ、いきなり何だよ偉そうに」
「偉そうだなんて……そんな話ではありません。けれど、もう結婚するのです。これからはきちんとした生活をする必要があると思うのです」
「ああ~っ、真面目! 真面目! うっざぁ~。うっざうっざうっざぁ~!」
リリシエリーナはサハイルの賭け事大好きなところを良く思っておらず、たびたびそういったことはやめるよう訴えていた。
が、何の意味もなくて。
サハイルは賭け事という沼にどっぷりはまったまま。
己の行動を反省しようとは少しもしない。
基本的に悪い意味で自己中心的な彼は、反省ということを欠片ほども知らない人だった。
そんな彼はリリシエリーナからのまともな忠告にもただ不満を抱くだけで、彼はたびたび周囲に「リリシエリーナさぁ、うぜぇんだよなぁ~」とか「あの女いっつもごちゃごちゃ言ってきてさぁ~、まぁ~じでダルいんだ。吐きそうなくらい。もぉ~見たくねぇ~って感じ」とか「あいつ、リリシエリーナ、そうそう。あいつまっじでくたばってほしぃわ」だとか、そういった愚痴をこぼしていた。
「サハイルさん!」
「はぁ?」
「聞きましたよ。また借金を重ねたそうですね。賭け事で大負けしたとか」
「うっせぇな、たまたまだろ~が」
「もう……やめてください。将来が心配です。いつまでもこんなでは……私たちの未来は」
リリシエリーナがそこまで言った、刹那。
「うるっせぇな!!」
サハイルは怒りを爆発させた。
「テメェいい加減にしろよ! うるせぇんだよいちいち! 誰に向かって言ってんだ口きいてんだ!」
一度爆発したサハイルは止まらない。
「あんなぁ! 何してよ~がこっちの自由だろが! テメェにはあれこれ言う権限なんてねえだろが! そんなことも分かんねぇってのか!? ああ!? 脳行方不明か!?」
リリシエリーナは唖然としている。
「テメェの脳みそは腐ってんのか!!」
「……何を、言って」
「人の生き方にあれこれいちゃもんつけてんじゃねぇよ!!」
「で、ですが」
「黙れ! うるせぇ! 黙れ黙れ黙れ……黙れつってんだろ!!」
――そしてやがて。
「ま、もうい~わ。婚約、破棄な」
サハイルはそこにまで思考を至らせてしまう。
「リリシエリーナ、テメェ、要らねえわ」
まさかの発言に戸惑いを隠せないリリシエリーナではあったが。
それでも時は流れて。
愚かな男が決めたことを書き換えられる者はその場にはおらず。
「永遠にバイッバァ~ッィ~ン」
サハイルが決めたことがすべて、というような状態で。
「捨ててやる、テメェなんか」
「本気なのですね」
「当たり前だろが」
「……分かりました」
あっという間に終わりへと向かう。
「バイッバァ~イバイッバァ~イバイッバァイイイ~ッン~バァイバァァ~イィィ~ッンバイバイバイバァァ~イィィ~ッン永遠にバイバァ~イ~ッンバカ女バイバァイ~ンバァ~イバァイバァ~イバァイバカ女バァ~イバイッバァ~イバイッバァ~イ~ンッバァイバイッバァ~イ」
婚約破棄から一ヶ月。
サハイルは夜の街で偶然出会った魔法使いに捕らえられ数週間魔法で拷問され後に死亡した。
魔法使いは三千年生きているのだが、その魔法使いを過去に理不尽な目に遭わせた人間がサハイルによく似ていて。魔法使いが見ず知らずのサハイルを痛めつける対象に選んだのはそれが理由だった。魔法使いは、かつて自身を傷つけた人間によく似ている人間を痛めつけることで、復讐心を少しでも満たしたかったのだ。
婚約破棄から一年半。
リリシエリーナは昔の知り合いの紹介で知り合った青年と良い雰囲気になり、共に将来を考えるところまで進展した。
今、リリシエリーナとその青年は、純粋な想いを抱えながら互いだけを見つめている。




