13話「十一女ルビィは皆に見守られ幸せに生きる」
十一女ルビィ・サーベリオは、サーベリオ家主人とその二人目である妻との間に誕生した娘だ。
ただ、最初の妻とルビィを生んだ二人目の妻は歳こそ離れてはいるものの実の姉妹であり、また、男の奪い合いをした結果そうなったわけではない。というのも、不幸にも姉が早めに亡くなったのだ。それで、代わりとして妹がサーベリオ家の主人と結婚することとなっただけなのだ。
ゆえに、それほど複雑な関係にはなってしまっていない。
なので二人目の妻から生まれたルビィも姉たちから嫌われていたり虐められていたりといったことはなく、何ならむしろ温かく見守られていたくらいで。
サーベリオ家は、構成こそ複雑だが、心情的な意味ではそれほど複雑なことにはなっていなかった。
のびのびと育ったルビィは十八の夏に学生時代の友人であった青年ルイと婚約。
何もかもすべて順調かと思われた――のだが。
「俺、好きな人できたんだ。この子。だからさ、ルビィ、お前とはおしまいにするよ」
ルイはルビィを裏切った。
一瞬冗談かと勘違いするくらい残酷な形で。
「え……」
「婚約は破棄な」
「どうして!?」
「だから言ったろ。この子を好きになったんだ、って。同じこと何回も言わせるなよめんどくさい」
その時のルイは惚れた女性のことしか見えておらず、ゆえに、ルビィの気持ちなどはほんの少しも考えていなかった。
「酷いわ……そんな、そんなの、いきなり……」
「うるせぇよ!!」
「……どうして怒鳴るのよ」
「お前がうぜぇからだよ!! 分からねぇのか? お前がうぜぇんだ! うざいうざいうざいうざいうっざいんだよ、くたばれや!!」
――そうしてルビィとルイの関係は叩き壊されたのだった。
それからしばらく、ルビィは酷く落ち込んでいた。
ただ、そんな彼女にも支えになろうと思う優しい人はいて、それが将来彼女の夫となる青年サバートである。
「なぁ、ルビィ、泣くなって」
「私だって……こんな、こんな情けなく、いつまでも……泣いていたくない、でも……でもね……辛いの、悲しいの……どうしてか涙が止まらなくて……」
「……まぁ、仕方ないよな、そうだよな」
「いつもごめん。こんなで。面倒臭いって思うよね」
「いやべつに。そうは思わない。可哀想だなぁとは思うけどさ。女の子をこんな風に泣かせる男とかサイテーだなとも思うけどさ」
「……ごめん、サバート……こんなのに付き合わせて」
サバートは常にルビィに寄り添っていた。
彼女が弱音を吐く時。
彼女が涙流す時。
どんな時でも傍にいたい、そんな風に考えているサバートだった。
「本当に……ごめん、付き合わせて」
「いいっていいって。というか、これからもずっと付き合うよ」
「……ほんと?」
「当たり前だろ」
「……それは、嬉しい、かも。申し訳なさもあるけど……でも、やっぱり……そんな風に言ってもらえたら……勇気が湧いてくる、気がする」
そんなサバートに支えられ、ルビィは徐々に心の健康を取り戻す。
「勇気て」
「大袈裟……かな」
「悪いこととは思わないけど、これまた大層なこと言うなぁって」
「……本心。だってサバートがいなかったら私きっとここまで立ち上がってこられなかったと思う。全部、全部ね……サバートがいてくれたから、だから、今があるって思うの」
ちなみにルイはというと、婚約破棄宣言の数日後に亡くなった。
路上で刺されたのだ。
まったく知らない人から。
四十代くらいの痩せ細った男性で、凄まじく兄を恨んでいる人だったそうなのだが、その兄とルイが若干似ていたらしく――完全な勘違いであったのだが刃物で刺され、不幸にも即死となってしまった。
また、ルイが惚れていたあの女性はルイの死を知ったことで正気を失ってしまい、今はアヒルのおもちゃで遊ぶことしかできない状態となってしまっているらしい。
ルイも、ルイが大切にしていた女性も、共に幸せにはなれなかった。
一方で。
ルビィは長い間支えてくれたサバートと結婚し、辛いことなど何一つない穏やかな日常を手に入れたし、清らかな心で幸せになることができた。
そしてこれからも。
そう、いつまでも。
彼女はその優しい世界で生きてゆくだろう。
悪いことをせず生きてきたルビィには、きっと、初めから幸福な未来が約束されていたのだろう。それは神との約束。確かなものだ。ゆえに、その約束、幸せな未来は誰にも壊せない。