11話「九女ナインティシアは愛され系女子」
九女ナインティシア・サーベリオは可憐な女性だった。
その性格の良さゆえに同性からも大人気。
どんな時も、どんなところでも、多くの人たちから温かく見守られると同時に可愛がられていた。
もう、とにかく、愛嬌を絵に描いたような人物だったのだ。
ある人は「ナインティシアさん? んもー、とーっても可愛いの!」と彼女について感想を述べていたし、また別のある人は「ナインティシアさんって本当に素敵な女性よね。可憐な花、って感じで。見ているだけで心が澄みわたってくるかのようよ。もしかしたら女神の生まれ変わりかもしれないわね」と嬉しそうに彼女について語っていた。
それほどに彼女は皆から愛されていたのだ。
……ただ、婚約者である男性ツリスだけは、彼女のことを愛してはいなかった。
というよりナインティシアのことを『あざとい女』と呼び馬鹿にしていたのだ。
彼にとっては彼女を見下すことだけが人生において楽しいことだった。
なのでナインティシアの優しくすることはなかったし、何なら真逆で、ナインティシアを貶めるような言葉を発することばかりに意識を向けていた。
そんなツリスはある時突然婚約破棄を宣言する。
「泣いて謝るなら考え直してやってもいいが?」
「……分かりました、婚約破棄ですね、では……私はこれで失礼いたします。今までありがとうございました。さようなら」
ツリスはナインティシアに頭を下げさせたかったのだがその作戦は失敗に終わり。
「お、おい! いいのか!? 婚約破棄だぞ!? お前の価値を下げる出来事だが、それを、そんな風に流していいのか!? 婚約破棄されたとなれば価値なし女だと思われるのが通常だろう! それでもいいのか!?」
その時になって慌てても、もう手遅れ。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぃぃぃぃ! 何か言えよおおおおぉぉぉぉぉぉ! ナインティシア聞こえてるんだろおぉぉぉぅぅぅぅぉぉぉぉおお!? 返事くらいしろよおおぉぉぉぉぉ! 婚約していた相手の言葉を無視するのかぁぁぁぁぁ!? 意地でも無視するつもりなのかああぁぁぁぁぁぁぁ!? それはさすがに酷すぎるぞおおぉぉぉぉぉぉ! 女として終わってるううぅぅぅぅぅぅ!!」
ツリスはもう相手にされていなかった。
「おいナインティシアぁぁぁぁ! ナインティシアぁぁぁぁぁぁぁ! 聞けよおおぉぉぉぉぉぉ! 偉大な男様の言葉だろぉがあああぁぁぁぁぁ! 無視するとはどういうことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 聞けええぇぇぇぇぇぇ! 返事しろおおおぉぉぉぉぉぉぉ! おいおい、無視すんなよおおぉぉぉぉぉぉ! 聞けよぉぉぉぉぉぉ! ありがたい言葉だろおおぉぉぉぉがああぁぁぁぁぁぁ!!」
その後、ツリスのこれまでのナインティシアへの悪い態度に関する情報が世に流れ、それによって彼の評判は地に堕ちることとなった。
ツリスの悪しき心は皆の知るところとなる。
そして一度そうなってしまえば彼への皆からの印象は最悪なものとなりそれが改善することはない。
もう誰もツリスをまともな男性とは認識しない。
もう誰もツリスをきちんとした人として受け入れはしない。
ゆえに、彼は社会的に終わったのだった。
一方ナインティシアはというと。
婚約破棄の話を聞きつけてやって来た以前から彼女の惚れていた資産家の男性と結婚、幸せな暮らしを手に入れることに成功した。
今、ナインティシアは、夫からも周囲の人たちからも愛されている。
花咲くような魅力を持った女性として。
彼女はこれからも愛されて生きてゆくことだろう。




