1話「長女トピアは少々内気」
今から、二十人の娘がいるサーベリオ家の話をしよう。
サーベリオ家の主人には二人の妻がいる。
最初に結婚した女性とその女性の死後に結婚した女性の二人だ。
ちなみにその二人は実の姉妹。
共に美しい長い銀髪の持ち主である。
◆
最年長、サーベリオ家の長女トピア・サーベリオは、母親譲りの美しい銀髪と整った容姿の持ち主。幼い頃から美少女として周囲の人たちからもてはやされていた。
そんな彼女だが、少々内気な性質で。
ゆえに勘違いしたり威張りだしたりといったことはなかった。
簡単に言うなら、表現するなら、彼女は自分の価値に気づいていない人だったのだ。
そんな彼女に婚約者ができたのは二十歳の春。
父親の紹介で知り合った青年タスが相手。
自己評価は低めだが真面目さは高く両親にも忠実な彼女は、あまり知らないタスと婚約することを比較的すんなりと受け入れた。
結婚相手は自分で決めたい! というような人間ではなかったから。
トピアは婚約者となったタスに熱心に尽くした。
好きだから、ではない。
それが義務だと思っていたから、である。
だが、タスはトピアを愛することはなかった。
彼はトピアとの関係をすぐに切ることはしなかったが、裏では職場で知り合った女性とできていて、その女性ばかりを可愛がっていた。
タスが愛しているのは絶対的にそちらの女性だったのだ。その心だけは容易く揺らぐことのない確かなものであった。たとえ婚約者がいようとも関係ない、と、彼の心はそういったものであった。
そしてその果てに。
やがて婚約を破棄する時が訪れる。
浮気がトピアにばれてしまったことが婚約破棄のきっかけであった。
最後の日。タスはトピアを自宅へ呼びつけて婚約破棄を宣言。しかも浮気相手を連れた状態で。そして彼は浮気相手と共にトピアを侮辱するような言葉を並べた。彼女の心を折ることだけを目的としたかのように。
――そうして二人の関係は終わった。
トピアは酷く落ち込んだ。
しかし本当の意味で痛い目に遭うのは彼女ではなかった。
婚約破棄宣言から三日後の午後、タスと浮気相手の女性はこの世を去ることとなった――たまたま出掛けていた先で賊に襲撃され、武器で切り裂かれて、出血多量により二人揃って落命することとなったのだ。
後にトピアは別の男性と結婚。
年の差結婚ではあったが、男性に可愛がられ、今は幸せに暮らしている。
心が綺麗な彼女は純粋に深く愛される道へ進むことができたのだった。