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005.空間の狭間

 ★ ☆ ☆


「どこ……ここ?」


 てっきり地面に叩きつけられて死ぬかと思えば、すっと着地しちゃったよ。

 割と悲壮な覚悟決めたもんだから、微妙に拍子抜けというか。いやまぁ無事で良かったけどね?


 問題は今の状況だ。


 真っ暗な空間をひたすら落ちたはずなのに、何故かだだっ広い空間の中にいた。形としては洞窟になるんだろう。岩の地面と壁だし。

 ……ただ、その広さが異常ってだけで。

 学校が収まるとかのレベルじゃない。天井や壁がある事は分かるが、何キロ先だか分からない程だ。


 おまけに不思議と明るい。光源どこだよ、と言いたくなるが、まぁ暗いと「なんで暗いんだよ」と文句を言うだろうし素直にありがたく思っておく。


 ちなみに見える範囲でここを説明するなら、岩の地面と壁と天井に囲まれた超巨大洞窟。その中が何故か明るく、しかも森や山や川、湖まである。

 ちょっとした自然界の箱庭、って感じだ。


 とまぁここまではいい。いや良くないけど、遠目に見えるモノに比べたら全然いい。


「……なんっっだよ、あのバケモノ」


 巨大な岩に座る、角の生えた巨人が居た。

 黒い皮膚に赤い目の巨人だ。


 いやいやおかしいおかしい。は?意味分からん。脳みそ許容量超えすぎていっそ笑える。

 遠近感イカれてない?何キロ先にいるか分からんのに、普通に詳細まで見えるレベル。あれ身長100メートルくらいあるんじゃない?サイズがアホすぎだろ、何食えばあぁなる?


 てか巨人のインパクトにもってかれてたけど、よく見たら他にもわんさか居るんだけど。

 空を飛ぶ二対四翼の怪鳥。湖から顔を出す巨大蛇。頭何個あるんだっていう狼。山の頂点で翼を広げる……ドラゴン。


「オワタ」


 一度は口にしてみたかった俗語をチャンスだと呟いてみたが、言ってやったぜという達成感は欠片もない。これ言う時って普通に絶望感しかないからか。


 えーマジか……とんでもないバケモノの巣に落とされたんだけど。

 何?運が良ければ生き残れるとか言ってたっけ?いやどんだけ運あれば生き残れるんだよこれ。無理だろアホか。


「……てか生き残ったとしても、壁を越える?とかなんとかのやり方が分からんわ」


 もう八方塞がりにも程があるだろ、と嘆いたその時。


「ーー壁越えの方法はシンプルじゃよ。ここにいる生物を全て倒せば良い。最後に残った一匹が壁を越える……というよりこの空間が崩壊して外へ出れる訳じゃな」


「っ!」


 まさかの回答が返ってきて、慌てて振り向く。


 そこには漆黒の美しい毛並みを持ち、赤と金の瞳を妖しく煌めかせた……デカい猫?がいた。


「……やっべ、猫じゃらし拾ってこなきゃ」


「お主、意外と余裕じゃの……」


 何故か呆れられたが、まずもって誰だこいつ。


「……えと、俺は柳凪と申します。あなたは?」


「ほう?先に名乗る程度の礼儀はあるか。良かろう、我の名は、そうだな、ルナという。そう呼ぶがよい」


 いかにも偽名くさい言い回しするなぁこいつ。

 まぁいいか、名前が違かろうがどうでもいい。


「ルナさんはこの場所を知ってるんですか?」


「知ってる、というよりは理解したといったところじゃの。探知と解析を済ませたところ、先ほど述べた結論に辿り着いたのじゃよ」


 探知。解析。

 ほほー、もしやこれはアレですか。魔法ってやつですか。

 やっべ、悔しいけどちょっとテンション上がっちゃう。


 しかしだ。ルナがこうして俺に話しかけた理由を考えれば、一番あり得そうな理由は笑えないものな訳で。


「まさか俺、食われたりします?」


 全員殺せば出れる。つまり俺も殺される。何故俺からかって?そりゃ間違いなくこの空間で最弱だろうしね。


「……まぁ半々じゃったよ。食うか、組むか」


「組む……?」


 やっぱ食う気はあったんすね、と内心震えながら、若干見えた希望に食いつく。


「うむ、そこは我の持つ力の性質の問題での。誰かと組む方が色々都合が良いんじゃよ」


 はぁ。まぁよく分からんけど、生きる可能性はあるっぽい?いやマジで頼んます、さっきから冷や汗やばくて背中びしょびしょなんだって。


「じゃが人型で知能があると思うて来てみれば、近くでよぅく見ても……雑魚じゃの」


「あ、はい」


「いらぬかのぉ、やっぱ食うか」


 オワタ。


「お、おおおお待ちくださいルナ様ぁ!わたくしめ、料理とか出来ます!」


「調味料もなしにか?」


「出来ません!」


「素直でよろしい。さて食うか……」


 そう呟き一歩近づくルナさん。巨体と、何より経験したことのない威圧感みたいなのに体が竦み、震える。

 死ぬ死ぬ!怖い怖い怖い!


「あああと!必ず!恩は返します!ですのでどうか試すと思って!」


「…………」


 と、止まった?こんな空手形で?いやでもこれしかない!気張れ俺の口ぃ!


「今は雑魚です!多分最弱です!でも強くなる方法と、時間をもらえば必ず強くなって恩を返します!」


「……………ふむ。誓えるかの?」


「はい、誓います!」


 どうせ死ぬならなんぼでも力になるわ!むしろ嘘つく余裕もねぇよ!


「……力は非常に弱々しいが、礼儀もあり、我を前に口を開ける程度には胆力もある。……まぁとりあえず組んでみるかの?ダメなら変えれば良い事じゃし」


「ありがたき幸せッ!」


 よっ、良かっったぁあああ!

 はぁぁぁ〜〜、生きた心地しなかったわぁ……とりあえず平伏しとこっと。

 ははー!とその場に膝をついてみせると、ルナさんは呆れたように笑う。


「にゃふふ、お主案外余裕じゃのぉ。まぁ良い、見て回ったところ意思疎通がまともに出来そうなのはお主くらいじゃしの。せいぜい死なぬように励んでくれ」


 あー……なるほど?つまり会話不可能の化物ばかりだから、仕方なく消去法で選ばれた訳ね。

 まぁいかにも凶暴な怪物ばっか居るしね。言葉とか通じる気がしない。


「ではさっさとやるとするかの。早速こちらに向かっとる魔物もいる事じゃし」


「マジすか。え、早い早い。やばくないです?」


「お主次第では生き残れる。いいから黙って聞けい」


 はい。


「色々省いて大まかに伝える。我の力は【夜】じゃ。その性質から【昼】と定義した生者と組む事でより【夜】が際立つ。つまり力の本質を発揮できるのじゃよ」


 ふっ……ごめん、既に意味分かんないすわ。省きすぎのせいか?それともこの猫の説明力不足か?いや事前知識不足な気がする。


「ふむ……つまりの、お主と組めば我な全力を引き出せるのじゃ」


「おぉ、なるほどですね」


「そして組むにあたり、お主と魂を共有する。構わぬじゃろ?」


「いや構うじゃろォ!!魂の共有とかいかにもヤバいヤツぅ!悪魔とな契約とかで出てくるワードじゃんか!」


「我を悪魔なんぞと同じにするでないわこの罰当たりが!とくと聞け!我は月影夜猫!とある世界にて夜を司る神獣じゃぞ!」


「知るかぁ!いやなんか凄いのは分かるけどだからって俺の貴重な魂を渡せるか!大事に残してた最後の一個だぞ!」


「童のお菓子扱いか!邪法でもない限り一人一つなのは当然じゃバカタレ!ええい、共有したとて悪影響はないわ!むしろ我の加護を得て力が増すじゃろうよ!お主にも【夜】の一端が宿るはずじゃ!」


「ウチの魂をどうかよろしくお願いします」


「娘を出す父親かの?てかその切り替え、ちと怖いのぉ……なんぞ精神異常にでもかかっとる?」


 びたーんと平伏したら引かれた。

 いや力もらえるなら是非もない。現状100パーエサになるだけだからね俺。


「はぁ、まぁ良い。目を閉じろ」


「うっす」


 これでいきなりガブリ、とかないよな。いやないない。するならとっくに食われてるし。……ない、よね?


「……むむ、ちとサイズが小さいの。ちっさい男じゃの」


「言い回しすげえ不服だけど聞き流します」


 てめぇがデカいんだよ。何だよ高さ2メートルオーバーの猫って。体長何メートルあんだよ。もはや虎よりデカいわ。


「仕方ないの。久方ぶりに姿を変えるか……まぁお主もこの姿の方が接しやすかろ。よし、ではいくぞ」


「うっす」


 いくぞ、とか言われても何するか知らんけどね。

 とか思ってると、唇に触れる柔らかく温かい感触。……ってこれは?!



「っ、んぅ?んむ?!んー?!」


 思わず目を開くと、ドアップで映る少し浅黒な肌と、漆黒の髪。誰?!いやてかこれっ、ちょ、なんでキス?!


 しかし暴れようとすると抱きしめられる形で拘束。

 ビクともしないルナさんは、そのまま俺を離さずに掴んだままキスをし続けて……1分くらいだろうか。体感の話だから実際はもっと短いかもだけど、それくらいして解放された。


「な、な、なな何をっ?!えっち!」


「は?誰がえっちじゃあほう。言うたじゃろ、契約じゃ。安心せえ、無事完了したわ」


「俺のッ!ファーストキスがぁッ!」


「む?おう、お主童貞じゃったか。ふむ、まぁここを無事出れたら相手をしてやっても良いがの」


「何の話してんだてめぇはよ!」


 それはそれとして今の話詳しく。いややべぇ化け猫とはいえ、猫耳獣人、しかも可愛いときたら揺れちゃいますがな。まさに驚天動地なり。


「まぁ今のは契約の為の儀式のようなものじゃ。キスにカウントする必要はなかろ。なんといったか……あぁ、人工呼吸みたいなもんじゃよ」


「人工呼吸とか知ってるんすね、猫のくせに。てか何で人型?猫のくせに」


「図太い精神持っとるのぉ……まぁ頼もしいと捉えておいてやろう。人型なのはお主が小さすぎての、キ……儀式が上手く出来んかったから、我の第二形態になったんじゃよ」


「あと何回変身残してます?」


「くっくっく、あと2回じゃよ。この意味が分かるかの?」


 あらやだノリ良すぎ。

 てか何で知ってんの?


「にゃはは、懐かしいの。お主やはり地球から落ちてきたんじゃな。……まぁ今はいい、ほれ来たぞ。早速やってみようではないか」


 色々気になるセリフはあったけど、それどころじゃなくなった。

 背後から地響きレベルの足音か聞こえてきたからだ。


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