その黒歴史は消せない?
あなたにとって『消したい過去』や『無かったことにしたい過去』はありますか。
今のご自身にとっては恥ずべき『やらかし』だったとしても、それが貴重な経験となっているのかも。
その森ではハイビスカスが赤い花をさかせていた。
木の根元に小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、水ようかんが乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
「んとね。白猿さん。このあいだ昔のおもちゃの資料をみたんだけど、『スーパーカー消しゴム』っていうのが載っていたの。これ知ってる?」
「子狸くん。それは昭和の頃にガチャガチャと呼ばれていたカプセルトイで流行ったやつだな。かっこいい外国車の形のゴム製のおもちゃだ。字は消せないけどな」
「そうだったんだ。消しゴムなのに消せないって変なの」
「消しゴムは、紙でこすると表面が剥がれてまとまる。いわゆる消しくずが出る。鉛筆の線を消しゴムでこすると、紙についていた黒い物質が消しゴムに吸着して、それが消しくずになるんだ。でもスーパーカー消しゴムなどのおもちゃは消しくずがでないから、黒い汚れを塗り広げることもあるんだ」
「んとね。だとするとおもちゃの方は、消しゴムとして使わないほうがよさそうだね」
「スーパーカー消しゴムのブームの後、怪獣消しゴムが人気になった。これはウルトラマンシリーズや円谷映画の怪獣の人形になったものだ。そのあと少し間があいて、キン肉マンのキャラクターの消しゴムがそれまで以上のブームになったんだ。まぁ、消しゴムとしては使えないけどね」
「へぇー。そうだったんだ。んとね。消しくずを集めて粘土みたいにして遊ぶこともあるよね。練り消しゴムっていうんだっけ」
「練り消しゴムは、白いやつも文房具として売られているぜ。それも昭和時代に子供たちの間でブームになった。粘土みたいにこねたり、引っ張って伸ばす感触が人気だったみたいだ」
「練り消しゴムって何に使うのかな。普通に鉛筆で書いた字は消しにくいよね」
「美術のデッサン用で使われているぜ。デッサン用の紙はザラザラしていて、普通の消しゴムでこすると紙を痛めやすいんだ。練り消しゴムだと、完全に消すだけじゃなくて、鉛筆や木炭で描いたものを薄くすることもできるんだ」
「なるほど。普通の字を書くときはあまり使わないの」
「ちなみにデッサンの木炭を消すのには、練り消しゴムの代わりに食パンの白いところで代用する人もいる。そっちの方が安いし簡単に手に入るからね。日本では明治時代に、食用のパンが普及する間に消しゴム用でパンが使われたんだ。だから食パンはそれを区別できるように『食』の字がつけられたぜ」
「そうだったんだ。もともと食べ物なのに『食』があるのが不思議だったの」
「ところで練り消しゴムの主な用途はもう一つあったんだ。タイプライターで間違えた字を薄くするのにも使われた」
「タイプライターってインクだから。消せないと思うの」
「ああ、インクの字を薄くするだけだぜ。昭和のブームのとき、練り消しゴムは『タイプライター用』と明記された商品も売られていた。当時の小学生では練り消しゴム自体をタイプライターって呼んでた子もいたらしい」