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明智光秀  作者: tosahime
7/18

第7話・徳川家康

pixivに投稿した作品を修正・加筆したものになります。本能寺の変前後の1ヶ月を全18話にしました。


第7話・徳川家康


5月17日午後、安土城明智屋敷内で家康饗応中の光秀は信長に呼ばれ席を外す。

酒井 「急に退席とは、何があったのでしょう」

榊原 「嫌な予感がします」

本田 「まさか、我らを討ち獲るつもりでは?」

井伊 「十分に考えられます」

ジッと考え込む家康

酒井 「殿。今回の饗応、やはり、織田様の罠だったのではありませんか?」

榊原 「道理で、織田様の機嫌が良かった筈です」

本田 「おのれ、織田信長。我ら三河武士の意地を見せてやりましょうぞ!」

家康 「皆、落ち着け」

本田 「しかし、殿」

家康 「上様の事じゃ。そんな回りくどいやり方はせん。我らを殺すつもりなら、織田領へ入った時に襲っておる」

酒井 「確かに。織田様は一直線なお方。わざわざ安土まで呼んで芝居はしないでしょう」

榊原 「では」

家康 「我らよりも急を要する何事かが起こっているに違いない」

榊原 「何事とは?」

家康 「う~ん」

刺客が潜んでいないかと部屋の周りを確かめて回る家康の家臣達

家康 「上様を疑う様な事はするな!」

本田 「しかし・・・・・」

家康 「よいか!今後、もし、ワシの目の前で上様を疑う様な事をすれば、ワシの手でその者の首を刎ねる。よいな!」

一同 「はッ!申し訳ありません」

そこへ光秀が帰って来る。

光秀 「徳川様。失礼いたしました」

家康 「我らは一向に構いませんが、織田様にとって、何か重大な事が起きたのではないかと、心配致しておりました」

光秀 「徳川様に御心配を掛け、申し訳ありません」

家康 「宜しければ、聞かせて頂けませんか」

光秀 「当家の恥となりますので申し上げ難いのですが、今後の予定もありますのでお知らせ致します」

家康 「ありがとうございます」

光秀 「実は、備中への出陣が急に決まりまして」

家康 「明智殿が、ですか?」

光秀 「羽柴殿から毎日の様に救援の催促が来ておるのです」

家康 「明智殿の救援とは、羽柴殿も心強い」

光秀 「更に、上様自ら備中へ向かうと言いだされましてな」

家康 「上様が備中へ?」

光秀 「信忠様がこの後、徳川様の案内役を務める事になっているのですが、今回の毛利攻めも信忠様が総大将になりましたので、今後の事は上様から知らせがあると思います。それまでは、当屋敷を存分にお使い下さい」

家康 「お気遣い、ありがとうございます」

光秀 「私も急ぎ、出陣の準備をしなければなりません。徳川様には申し訳ありませんが、これにて、失礼させて頂きます」

家康 「御武運をお祈りいたします」

光秀 「ありがとうございます」

部屋を出る光秀。頭を下げ見送る家康。

榊原 「また、えらく急な出陣ですな」

酒井 「羽柴殿からの救援催促、怪しくありませんか?」

家康 「例え相手が毛利だとしても、上様に助けを求めるなど、ワシも怪しいと思う。そもそも、ワシはあの男を信用しておらん。上様も恐らく同じであろう。そこで、状況を確認する為、明智殿を一先ず備中へ向かわせるとみた」

井伊 「羽柴殿は本当に救援を必要としているのでしょうか?」

家康 「そこじゃ、問題は」

酒井 「羽柴殿が何か企んでいると?」

本田 「企むと言っても、一体、何を・・・・・」

酒井 「羽柴殿は播磨、但馬、因幡を攻略、備前、美作を調略、毛利攻めを順調に進めていると聞いております」

本田 「怪しい!それは増々怪しいですぞ!」

厳しい表用でジッと考え込んでいる家康

家康 「誰か、備中の戦況を急ぎ調べてくれぬか」

本田 「それなら服部半蔵が良いでしょう。服部の足なら安土から備中まで4日、戦況把握に1日、帰るのに4日、都合、9日もあればはっきりするかと」

家康 「出来るか、服部」

服部 「はッ!十分に」

家康 「だが問題は、この後の我らの行動が決まっていない事じゃ」

酒井 「上様まで備中へ向かわれるとなると、我らは・・・・」

榊原 「もう、三河へ帰ってもよいのではありませんか?」

家康 「勝手な行動は取れん。ここは、上様の指示を待つしかあるまい」

臣達 「はッ!」

家康 「上様は前々からワシに京、堺の見物を進めていた。恐らく、この後、三河へ帰る前に、京へ向かわされる可能性が高い。もし、京へ行けば、ワシは茶屋の屋敷に滞在する。服部は今すぐ備中へ向かい、状況を確認次第、茶屋の屋敷へ来い」

服部 「はッ!」

部屋を出る服部

家康 「我らは取り敢えず、上様からの指示を待つ」

臣達 「はッ!」

光秀はその日の内に坂本へ帰り陣触れを出して出陣の準備を始める。

家康一行は21日まで信長の気まぐれな接待を受けながら安土に留め置かれ、京、堺見物

の為、22日に2000の兵を率いた信忠と共に京へ向かう。

榊原 「やっと出立か」

本田 「何もせずに一日を過ごす4日間は長う御座いましたな」

井伊 「息が詰まりました」

家康 「問題はこれからじゃ。皆、気を抜くな」

臣達 「はッ!」

信長と合流する為、信忠は京見物を2,3日で終わらせ堺へ向かい、月末には京へ帰る予

定でいたが、家康はあそこも観たい、ここも観たいと京での滞在をわざと引き延ばした。

信忠も家康の希望を無視する訳にはいかず、結局、そのまま京へ滞在する事になる。

5月25日、夕食を終え寛いでいる家康

本田 「殿。服部が戻りました」

部屋に入り家康の前に座る本田と服部

家康 「で、備中の戦況はどうであった?」

服部 「はッ!羽柴殿、優勢にて、毛利と和睦を進めています」

家康 「やはりな」

服部 「それと、不思議な事に、籠城中の毛利軍に対し、食料を送っていると言う噂を聞きました」

井伊 「敵に食料だと?」

本田 「何を考えているのだ、羽柴は」

酒井 「もしかすると、和睦の引き延ばし」

本田 「和睦を引き延ばす?」

家康 「待っておるのだ、羽柴は」

本田 「待つ?」

家康 「明智殿が謀反を起こすのを」

本田 「な、何と言う奴」

服部 「京より備中に至る街道沿いの村々には駅が造られ馬が何頭も待機。情報伝達の為、一日に何度も行き来しています。しかも、駅が置かれた播磨の村々には、食料を満載した荷駄隊が控えていました」

顔を見合わせる家臣達

家康 「これではっきりした。今回の救援要請。間違い無く、羽柴の仕掛けた罠じゃ」

一同 「な、なんと・・・・・・」

家康 「北に柴田、東に滝川、西に羽柴、丹羽も四国へ向かう。今、兵を率いて畿内を動けるのは明智殿だけじゃ」

一同 「・・・・・・・・」

状況を知り唖然とする一同

家康 「上様に救援を求める以上、奴は自分の首を賭けておる。必ず、明智殿が謀反を起こすと」

本田 「どこまでも汚い奴」

井伊 「許せん!」

家康 「しかし、明智殿がこんな簡単な罠に気付かぬ筈は無い。問題は、この、絶好の好機、と言う誘惑に負ける事だ」

酒井 「天下が目の前にあるのですからな」

榊原 「明智殿は謀反をするのでしょうか」

家康 「分からぬ。それは、明智殿にしか分からぬ」

家康を囲み黙り込む家臣達

5月26日、光秀は坂本での軍勢を整え亀山へ向かう。茶屋の屋敷にいる家康にも明智行軍

の知らせが届く。

酒井 「殿。今、明智殿が京を通過中です」

榊原 「明智殿の兵は凡そ3000。鴨川を渡ると南下して七条通りを丹波口へ向かっています」

家康 「洛中を避けるとは、さすが明智殿じゃな」

そこへ井伊直政が外出から帰って来る。

本田 「勝手に何処へ行っておった!」

井伊 「明智殿の行軍を観て参りました」

酒井 「で、どうであった?」

井伊 「はい。噂通り、明智殿の隊列は見事なものです。七条通りは見物人で溢れていました」

酒井 「京の人々が行軍を見る事は余りありませんからな」

井伊 「何と言っても、明智殿の旗指物は小振りで綺麗ですから」

本田 「旗は大きく目立った方が良いのではないのか?」

酒井 「旗指は敵・味方の区別が出来れば良いのだ」

井伊 「では、我らの旗指も明智殿に倣い、小振りにしてはいかがですか?」

酒井 「そうだな。それはいい」

家康 「確かに、小振りの方が足軽達も動き易いだろう」

本田 「では早速、国元へ知らせ、作り替えさせましょう」

家康 「うん。それと、一応、何時でも出陣が出来る用意をさせておいてくれ」

本田 「出陣、ですか?」

家康 「念の為じゃ」

酒井 「やはり、明智殿が謀反を?」

家康 「それは分からん。あくまでも、念の為じゃ」

本田 「はッ!」

5月27、28日も家康は気楽に巡りたい、と相変わらずのらりくらり京見物をして茶屋の屋敷へ帰る。

28日夜、廊下をドタドタと井伊が駆けて来る。

井伊 「知らせが来ました!上様は明日、安土より京へ向かわれる、との事です」

家康 「明日か」

本田 「いよいよ、動き出しましたな」

井伊 「信忠様が上様を迎える為、代わりに我らの接待役を長谷川秀一様が勤められるそうです」

家康 「よし。では、我らは明日の朝、堺へ向かう」

井伊 「では、長谷川様にその旨、伝えて参ります」

家康 「ところで、明智殿の動きは?」

井伊 「亀山において出陣の準備を進めている、と言うだけで、今のところ、まだ、入っておりません」

家康 「上様が京へ入られたら、今まで以上に明智殿の監視を強めよ」

井伊 「はッ!」

5月29日早朝、家康一行は堺へ向かい、入れ替わる様に午後、信長が本能寺へ到着する。

船で淀川を南下して堺へ到着した家康一行を堺代官・松井友閑が出迎え、宿所の妙国寺に案内する。

翌6月1日、家康一行を朝は今井宗久、昼は津田宗及、夜は松井友閑が接待をする。

本田 「朝から晩まで一日中茶の接待とは、さすがに疲れますな」

榊原 「一体、何時まで続くのですか?」

家康 「やれやれ。堺での儀礼とは言え、流石にここまでとは思わなんだ」

妙国寺へ帰り部屋で寛ぐ家康

廊下を駆けて来る井伊

井伊 「殿。亀山より知らせが入りました」

家康 「動くのか?」

井伊 「はい!明智殿は2日、備中へ向かうため、亀山城を1日の夕刻、出陣するそうです」

家康 「1日の夕刻?」

本田 「1日と言えば、今日ではないか」

井伊 「はい。そのまま備中に向かうそうです」

酒井 「亀山から京までは半日も掛からぬ筈」

本田 「深夜の行軍とは、不自然ですな」

榊原 「確かに。夕刻に出れば、深夜に京へ着きます」

酒井 「不自然過ぎます」

家康 「何かあるとすれば、間違いなく、2日の朝じゃな」

顔を見合わせる家臣達

考え込む家康

家康 「我らは、明日の夜明けと共に堺を発つ」

榊原 「長谷川殿が不審に思われませんか?」

家康 「上様から堺での滞在日数は決められていない。堺での所用が全て終わったと言えばよい」

榊原 「はッ!」

酒井 「そうなると、どの道を通るか、ですが」

畿内の絵図を用意して広げる酒井

酒井 「摂津茨木の中川、高槻の高山をはじめ、摂津の大名は皆、明智の与力衆。大和の筒井も明智殿と親しい。摂津、大和を通るのは危険です」

榊原 「堺より船を使う手もありますが」

酒井 「船を手配している間に密告される危険があります。しかも、海上での船の行程は予測が出来ません」

本田 「明智殿と行動を共にするとすれば、我らを討ち獲る為、茨木の中川が夜明けと共に堺へ向かって来る恐れがあります」

榊原 「我らが堺にいる事は明智殿も承知。京街道は避けるべきです」

本田 「では、どうやって三河へ帰ればいいのだ!」

酒井 「宇治田原、山口城の山口秀康殿は殿とも面識があり、織田様への忠誠心が強いと聞いております。一先ず、東高野街道を宇治へ向かい、甲賀を通り東海道で伊勢に抜けるのが一番かと」

榊原 「伊賀を通る手もありますが」

本田 「確かに。殿は織田様の伊賀攻めから逃れて来た者を多く匿っています。その事を恩に感じ、伊賀衆がお味方してくれるのではありませんか?」

酒井 「甘い!二度の伊賀攻めで、伊賀衆は女、子供に至るまで無惨に殺されている。織田への恨みは並大抵ではない。少々伊賀者を匿ったと言っても、織田の盟友である我らが殿を助けるとは思えん!」

井伊 「そうですね。万が一を考え、伊賀は通らぬ方が良いでしょう」

家康 「伊賀は避ける。甲賀日野城の蒲生定秀殿は安土の後詰として上様の忠実な家臣。もし、何事か起こった場合、安土にいる上様の御家族を直ぐに保護される筈。我らも甲賀では蒲生殿を頼ろう」

井伊 「とにかく、伊勢まで行ければ伊勢は織田様が治める織田領。甲賀から伊勢へ抜けるのが一番です」

酒井 「それに、甲賀の信楽は茶屋殿との取引がある筈。茶屋殿にも頼んでみてはいかがでしょう」

家康 「よし!では、我らは東高野街道を四条畷に向かう。明智殿がそのまま備中へ向かえば京街道に出て京へ向かい、上様に挨拶をしてから三河へ帰る。しかし、もし、明智殿が謀反を起こした場合、先ず、宇治へ向かい山口殿を頼る。それから、甲賀の蒲生殿じゃ」

一同 「はッ!」

家康 「状況を確認する為、夜明け前に誰かを京へ向かわせねばならん」

本田 「その役目、某にお任せ下さい」

家康 「お前の槍は目立ち過ぎる」

酒井 「いえ。ここは目立った方が良いかと」

家康 「何故じゃ」

酒井 「もし、明智殿が謀反を起こした場合、間違いなく茶屋殿が殿に知らせに走る筈。京から堺へ向かうには京街道を通ります。行き違いにならない様、目立つ方が」

家康 「成る程。では本田。お前に任せる。状況が分かり次第、四条畷に向かえ」

酒井 「落ち合う場所は分かり易い様に四条畷神社がいいでしょう」

本田 「分かりました」

酒井 「長谷川殿にも明朝の出立を知らせますか?」

家康 「何事も無かった時の為に、知らせずに出る訳にはいかんだろう」

酒井 「では、長谷川殿に知らせて参ります」

家康 「うん」

廊下に人の気配を感じ障子を開ける本田

本田 「誰じゃ!」

慌てた様子の穴山梅雪

穴山 「こ、これは失礼仕った!厠の帰りじゃ。徳川殿の部屋に明かりが点いておったのでな。一言挨拶を、と思ったまで。決して、悪意は御座らん」

家康 「我らも、これから床に就くところです。穴山殿にご心配を掛け申し訳ありません」

穴山 「いやいや。こちらこそ失礼仕った」

家康に挨拶をして家康の部屋を離れる梅雪

梅雪が確実に部屋から遠ざかるのを待つ酒井

酒井 「ところで、穴山殿ですが」

黙ったまま大きく深呼吸をする家康

酒井 「穴山殿は、我らの弱みともなる今回の一連の行動を全て知っております」

本田 「このままにしておく訳には」

何も言わず黙って頷く家康。家臣達も黙ったまま家康を見て頷く。

そそくさと自分の部屋に入る穴山。

臣1 「殿。どうされました?」

落ち着かない穴山の様子を不審に思う家臣

穴山 「徳川め。何を考えておる」

臣2 「徳川殿がどうかされましたか?」

穴山 「よいか。徳川の動きを見張れ。特に、明日の朝じゃ」

臣3 「何かあるのですか?」

穴山 「明日の朝、必ず動きがある筈じゃ」

臣1 「はッ!」

穴山 「明日に備え、ワシは一足先に寝る。お前達も交代で休め。抜かるなよ」

臣達 「はッ!」

家康の動静を警戒する穴山梅雪


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