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明智光秀  作者: tosahime
6/18

第6話・織田信忠

pixivに投稿した作品を修正・加筆したものになります。本能寺の変前後の1ヶ月を全18話にしました。


第6話・織田信忠


「明智謀反!明智謀反!」

大声で叫びながら妙覚寺の門へ駆けて来る彌介。門番が慌てて彌介を止める。しかし、彌介の言っている事が直ぐに理解できない。

門1 「待て待て。明智様がどうしただと?」

彌介 「謀反!謀反!」

門2 「謀反?誰が?」

彌介 「明智、謀反!」

門1 「明智様が謀反?」

門2 「落ち着け、彌介。明智様が謀反などする訳がなかろう」

本能寺の方角を指差す彌介。本能寺の方向には煙が上っている。

門1 「ま、まさか・・・・」

門2 「明智様が・・・・・」

慌てて彌介と共に信忠に知らせに走る門番

門1 「殿!殿!!」

信忠寝所の前に控える小姓

小姓 「何事だ!騒々しい」

門1 「明智光秀様、御謀反に御座います!」

小姓 「えッ?・・・・・」

小姓も一瞬戸惑う。

信忠 「何事じゃ!」

騒々しさに出て来る信忠。直ぐ彌介に気付く

信忠 「彌助ではないか。どうした。父上に何かあったのか?」

彌介 「明智謀反!逃げろ!逃げろ!!」

彌介の慌て様に事の重大性を感じると同時に『逃げろ!』と言うのが父、信長の自分に対する最後の命令だと確信する信忠。急いで本能寺を確認できる場所へ駆けだす。本能寺の方向を見ると黒煙が天高く立ち上っていた。

信忠 「逃げろ、か・・・・・・」

光秀が謀反を起こしたのである。抜け目のない万全の体制を取っているに違いない。

信忠 「万に一つも逃げられる可能性は無いだろう」

信長と同じである。光秀を良く知るが故の判断ミスを信忠もしてしまう。

そもそも、生死を賭けた修羅場の経験が無い信忠に『逃げる』と言う選択肢は初めから無かった。

騒々しさに小姓達が集まって来る。

直ぐに京都所司代・村井貞勝が200の兵と共に駆けつける。

村井 「若様!明智光秀、謀反に御座います!」

信忠 「父上はどうなった!」

村井 「最早、本能寺に近づく事はできません。火を放ったと言う事は、自害されたものと思われます。直ぐ、こちらにも明智の兵が押し寄せましょう。妙覚寺では防戦に不利。ここは一先ず、二条城へ籠られたが良いかと」

信忠 「父上・・・・・・・」

煙の上がる本能寺の方向をジッと見詰める信忠

村井 「若様、一刻の猶予もありません。お急ぎ下さい!」

信忠 「しかし、二条城には誠仁親王が住まわれている」

村井 「親王には状況を申し上げ、即座に退去願います!」

信忠 「よし、分かった!」

そこへ、毛利が2000の馬廻り衆を引き連れてやって来た。毛利は見廻り中に鬨の声を聞いて異変を知る。

毛利 「おのれ明智。まんまと謀りおって」

しかし、煙が上る本能寺に信長の自決を確信した毛利は、今から行っても手遅れと判断し馬周り衆を集め、次の標的になる信忠の元に向かう。

毛利 「若。我らがいながら、申し訳ありません」

信忠 「相手は明智じゃ。お前の責任では無い」

村居 「とにかく、急ぎ、二条城へ」

慌てて二条城へ駆け込む信忠。既に、光秀による本能寺襲撃は親王にも伝わっていた。

信忠 「申し訳ございません。二条御所を使わせて頂きます」

親王家族は着の身着のままで京都御所へ避難する。

光秀本陣

今でも、出来る事なら信長は本能寺に居て欲しくない、と言うのが光秀の本心である。

光秀 「しかし・・・・しかし・・・・」

光秀の心はまだ揺れていた。気が気でない光秀。

光秀 「上様・・・・・・」

斎藤からの伝令が駆け付ける。

伝令 「申し上げます!斎藤様より、『決行』!」

光秀 「決行・・・・・・か」

諦めたかの様に呟く光秀

光秀 「大将衆を集めよ」

決行した以上、もう迷う訳にはいかない。急がなければ、今度は斎藤達が馬廻り衆に攻められてしまう。周りに大将衆を集める光秀。

光秀 「我らは、これより京へ向かう」

将衆 「京へ?」

驚く大将衆

光秀 「今、斎藤が、本能寺にいる上様を襲撃中じゃ」

煙が大きく上がる京の方向に目をやる大将衆。

将衆 「な、なんと!」

唖然とした表情の大将衆。しかし、今更何を迷う。進行中の現実を確認した以上、殿の決断を信じるしかない。

将衆 「えい・・・・えい・・・・おー・・・・えい、えい、おッー!!」

興奮を抑えきれない大将衆に自然と勝鬨が起こる。周りの兵達は何事かと驚く。

将1 「京じゃ!京へ向かうぞ!」

将2 「殿が今より天下様じゃ!」

将3 「上様じゃ!」

将衆 「おッー!!」

光秀 「騎馬の者を急ぎ本能寺へ向かわせよ!」

慌ただしく駆け出す騎馬隊。大将衆は各隊へ戻り兵達に本能寺襲撃を知らせる。あちらこちらで驚きの声が上がる。しかし、それは直ぐに勝鬨へと変わる。

燃える本能寺を遠巻きに見ながら狼狽する洛中の人混みを明智の騎馬隊が駆け抜けて行く。慌てて道を空ける人々。

午前9時

焼け落ちた書院の前に次々と遺体が並べられ、戦闘を諦め死に切れなかった小姓達が検分に立ち会わされている。若い小姓達には討ち死にするだけの勇気が無かった。分かる者だけで良い、と言われても、小姓達は仲間全員の顔と名前を知っている訳ではない。また、討ち死にした者は誰か分かっても炭の様になった焼死体は判別不能である。更に、倒れる柱や燃え落ちる巨大な棟が圧し潰し、最早、それが亡骸であった事すら分からなくなっている物もある。坊主達も信長を確認する事ができなかった。

斎藤 「クソッ!なんとか、上様を見つける事は出来んのか」

焼け跡を片付けながら遺体を探し、焼け落ちた書院の下も掘り返して首が埋められていないかを確かめるが信長を見つける事ができない。

午前9時30分。光秀が本能寺へ到着する。

斎藤 「殿」

光秀 「上様は?」

斎藤 「今、確認しておりますが、中々、断定は」

光秀 「間違いなく、上様は中に居たのか?」

斎藤 「上様が中にいたのは小姓達や坊主達も認めています。また、門番や毛利の対応からも間違いありません」

光秀 「そうか」

ゆっくりと焼け落ちた書院へ向かう光秀。信長が居たであろう場所に立ち周りを見渡す。

光秀 「上様・・・・・」

謀反は成功した。それなのに喜びが湧いてこない。

斎藤が心配して静かに近づき呼びかける。

斎藤 「殿」

光秀 「・・・・・・・・・」

黙ったままジッと一点を見つめ呆然と佇む光秀

斎藤 「殿!」

光秀 「うん」

斎藤 「大丈夫ですか?」

光秀 「うん。上様を討ち獲ったのだと思うと、急に気が抜けた様でな」

斎藤 「大事なのはこれからですぞ」

光秀 「うん。ところで、逃げた者はいないか?」

斎藤 「裏門より一人。背が高く色が黒かったと言うので彌助と思われます」

大きく深呼吸をする光秀

光秀 「信忠様に知らせに走ったか」

斎藤 「恐らく。しかし、その信忠様ですが、今、二条城に立て籠っている模様です」

光秀 「信忠様が二条城に?」

家臣 「はい!既に、誠仁親王一家は御所へ移られた御様子」

光秀 「何故、逃げていない?」

斎藤 「信忠様はお若い。上様と違い、経験がまだまだ足りないのでは」

光秀 「う~ん」

困った様子で考え込む光秀

光秀 「そのままにして置く訳にはいくまい。さて、どうするか」

直ぐに逃げると思っていた信忠が逃げていない事に光秀は驚くが、気にする程の事では無かった。信長より織田の家督を譲られ、武田攻めの総大将で功績を上げたと言っても、光秀は信忠を全く評価していなかった。信忠に従う事になった家臣達は信長にこそ恩はあれ、信忠には何の恩も無く、皆、信忠の後ろにいる信長を意識して気を使い手柄を与えていただけである。信忠は信長からの大切な預かり者なので傷一つ負わす訳にはいかなかった。そもそも、殆どの城は戦う前に開城され、武田は家臣の離反により自滅しただけで、信忠の武勇で勝った訳では無い。信長が死ねば、信忠に広大な領国と個性の強い織田の家臣団をまとめる能力などとても無いと光秀は思っていた。19歳という若い信忠に家督を譲ったのは、信長もその事に気が付いていて、自分が元気で目を光らせられる内に信忠に経験を積ませ、家臣達が信忠の命令に従う様に習慣づけるためである。しかし、最も大事な甲州攻めにおける論功行賞は、信忠からだと同じ褒賞でも不満を抱き遺恨になる危険があるので『不満があればワシに直接直訴せよ』と言って信長自らが行った。当然、信長に不満を言う者などいる筈が無かった。信長あっての織田家は信長がいなくなれば直ぐに分裂、瓦解する。特に秀吉は真っ先に織田家を離れるだろう。それとも乗っ取るか?信長の盟友である家康も同じで、織田にとっては武田に代わる最も危険な存在となる。勝家は他人の意見を聞かず我が強い。反発は受けても頼られる存在ではない。現に秀吉と対立している。滝川も丹羽も人が良過ぎて押しが弱い。いずれにせよ、信忠を恐れる必要は無かったが、光秀は取り敢えず5000の兵を二条城へ向かわせ各城門の前に陣取らせる。時刻は午前10時。本能寺へ攻め入ってから4時間が経っていた。しかし、今は兵の消耗を最小限に抑えなければならないので無理に城攻めをする気は無かった。

二条城は将軍義昭を守るために信長が造った城である。義昭が京を追放され、今は親王一家が生活をしているため、籠城の備えなど全くしていないので武器も無ければ食料の貯えも無い。信忠の2000に所司代と信長の馬周り衆が加われば一食分にもならない。近江や丹波からだと半日で駆け付ける事が出来るが、今の信忠に救援が直ぐに来る事は無い。取り敢えず逃げ出せない様にしていれば、その日の内に餓えてしまう。何もしなくても、5日もすれば決着する。

その信忠達は、明智の兵が直ぐに妙覚寺に攻めて来ると思い二条城へ移ったのに中々現れないので不安を募らせていた。初めは親王家族を逃がすのを待っていると思っていたが1時間経っても2時間経っても現れない。

信忠 「何故、明智は攻めて来ない」

毛利 「城の周りに明智の兵はいませんでした」

信忠 「いない?何故だ」

村井 「これは恐らく、罠かと」

信忠 「罠?」

村井 「知らせによると、明智の兵は沓掛から桂川の河川敷に集結していた模様。明智も今は戦力の消耗を少しでも抑えたい筈。無理な城攻めはせず、明智は与力衆に手配して京を遠巻きに包囲し、手薄と思わせて我らが出て来るのを待っているものと思われます」

信忠 「成る程。城外のこの静けさ。確かに策略家の明智らしい」

村井 「ここは、我慢の為所ですぞ」

信忠 「逃げ出して捕まったとあっては末代までの恥。父上も直ぐに火を放ち自害したに違いない」

周りの者まで緻密な光秀をよく知るが故の判断ミスを繰り返してしまう。

そして待つ事4時間。やっと現れた明智の兵は各城門の前に陣取る。これから最後の一戦

が始まると意気込む信忠だが、明智の兵は一向に攻めて来ない。

光秀は鉄砲隊を周囲の公家屋敷の屋根に登らせ二条御所内へ向け撃ち込ませる。後は気勢を上げ、信忠が逃げ出さない様に見張るだけでいい。明智の戦法にいら立つ信忠。

信忠 「おのれ明智。卑怯にも程がある。我らを炙り出すつもりか!」

絶え間なく撃ち込まれる鉄砲は外にいる兵を容赦なく狙い、弾は御殿の奥にまで届く。兵達は物陰に隠れ身動きが出来ない。途絶える事のない射撃は信忠を精神的に追い詰めて行く。

信忠 「もう限界じゃ!ワシは腹を切る。ワシの首は床下に穴を掘って埋めよ!」

村井 「なりません!埋めたが為に焼け残り、後で掘り返されて見つけられれば自害した意味がありませんぞ!」

信忠 「では、どうすれば良い」

村井 「上様も亡骸は焼き切った筈。直ぐに御所内にある油を集めるのです!」

信忠 「成る程、最もじゃ。よし。直ぐに油を集めよ!」

耐えている時間は長く感じる。結局、信忠は明智の鉄砲隊による射撃を我慢仕切れず、自ら

城に火を放ち自害する。

燃え始めた二条城を見て信忠の自害を確信した光秀は城内に残る兵に対して勧告をする。

光秀 「これ以上の戦闘は無意味である。戦う意思の無い者は刀を捨てて城を出よ」

所司代の兵は勿論、守るべき信長、信忠を失った馬廻り衆と多くの兵が光秀に投降する。そ

の中には彌助もいた。城に残る事は死を意味する。その為、村井も毛利も出て行く者達を引

き留めなかった。残ったのは所司代の村井と毛利の率いる馬周り衆約300。

火は二条城全体に広がっている。信忠と共に激しく燃え上がる御殿を確認した村井と毛利

は最後の意地を見せる為、燃える二条城から打って出る。鳴り響く鉄砲の音。

城を包囲してから1時間後の午前11時。信忠の抵抗は自滅に終る。


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