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明智光秀  作者: tosahime
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第5話・本能寺

pixivに投稿した作品を修正・加筆したものになります。本能寺の変前後の1ヶ月を全18話にしました。


第5話・本能寺


午前5時30分。馬の嘶きと共に門前に次々と兵が現れる。何事かと門番は不安に思うが明智の旗印に一先ず安心する。光秀が2日早朝、備中へ出陣する事は皆聞いている。

馬を下り門番の前に進む斎藤。光秀と常に一緒にいるので小姓達も顔は知っている。

門1 「これは斎藤様。こんなに朝早くどうされました」

斎藤 「明智家家老、斎藤利三。殿の名代として、上様へ備中出陣の挨拶に参りました」

門1 「さすが明智様。しかし、上様はまだ御就寝中です。いくら何でも早過ぎませんか」

門2 「明智様なら上様もお怒りにはならないと思いますが」

斎藤 「行軍の都合上申し訳ない」 

門1 「取り敢えず、お側の者に報せて参ります」

斎藤 「かたじけない」

間違いなく信長は中にいる。そう確信した斎藤は、今まで経験したどの戦場よりも緊張しているのを感じ胸が高鳴る。もし、信長が出陣を励ます為、声を掛けに直接出て来ればしめたもの。刺し違えてでも自分が信長の首を獲る。しかし、光秀本人が来たのならともかく、自分ではそれは無いだろう。門番が帰って来るのを静かに待つ斎藤。

そこへ、早朝の行軍に不審を感じた馬廻り衆の毛利良勝が、槍を携えた300人程の馬廻り衆を連れて物々しくやって来る。初動が早い。既に、全ての分宿先に連絡がされているに違いない。

斎藤 「さすが、上様の馬廻りじゃ」

悟られない様に平静を装う斎藤。元々、馬廻り衆が分宿をするのは本能寺が手狭な為だけではない。幾つもの要所に宿を取り、信長へ近づく危険を逸早く察知する為である。当然、早朝の行軍は異変として馬廻り衆は警戒する。

毛利 「これは、斎藤殿ではありませんか」

斎藤 「毛利様。おはようございます」

毛利は信長、斎藤は光秀と共にいるのでお互い顔は知っている。

毛利 「こんなに朝早く、どうされました?」

門2 「斎藤様は明智様の名代として、上様に備中出陣の挨拶に参りました」

毛利 「それは、ご苦労様です」

斎藤 「行軍の都合上申し訳ありません」

用心深く馬廻り衆を門前に残したまま門内に入る毛利

外のざわつきに信長も目を覚ましていた。

信長 「何事じゃ」

小姓 「はッ!確認して参ります」

そこへ門番がやって来る。

門1 「申し上げます!明智光秀様、備中出陣の挨拶に参りました」

信長 「光秀が来たのか?」

門1 「いえ。家老の斎藤様です」

信長 「光秀ではないのか」

残念そうに返事をする信長。毛利が信長の前にやって来る。

毛利 「明智様家老の斎藤殿が参られました。朝、早過ぎるのが気になりましたが、足軽達に殺気立った緊張感は無く、ただ、挨拶に寄っただけと思われます」

まだこの時点で、斎藤は信長の襲撃を兵達に知らせていない。

信長 「そうか。挨拶か・・・・・・」

光秀ではなかった事に残念そうな顔をして少し考え込むが、納得したかの様に頷く信長

信長 「うん。光秀の事じゃ。心配には及ばん」

毛利 「はッ」

信長 「直接出向くまでもあるまい。ご苦労である、と伝えよ」

門1 「はッ!」

引き返す門番

小姓 「まだ早う御座います。もうしばらくお休みになりますか?」

信長 「すっかり目が覚めてしまった。今日は早目に飯にするか」

小姓 「はッ!」

信長 「そうじゃ、良勝。お前も一緒にどうじゃ」

毛利 「いえ、私にはまだ、朝の見廻りが御座いますれば」

信長 「そうか。お前の自慢話が聞けると思ったのだが、それは残念じゃ」

毛利良勝は桶狭間で今川義元の御首級を獲った武将である。

部屋に入る信長

駆け戻る門番。やはり信長は直接現れなかったか、と納得する斎藤

門1 「斎藤様。上様より『ご苦労である』とのお言葉です」

斎藤 「有難きお言葉。感謝致します」

門番 「どうか、御武運を」

斎藤 「うん」

毛利も門に戻って来て帰りかけた斎藤に声を掛ける。

毛利 「それでは斎藤殿。御武運を」

斎藤 「ありがとうございます」

門番と毛利に頭を下げ、敢てゆっくりと歩き隊列に戻る斎藤

斎 「いよいよじゃ。いよいよじゃ」

興奮を抑えながら斎藤は馬に乗り伝令を呼び寄せる。

斎藤 「殿に『決行』、とだけ伝えてくれ」

伝令 「はッ!」

連絡に向かう伝令

毛利は馬廻り衆を3隊に分け見廻りに向かう。

毛利の動きを確認しながら騎馬武者達を自分の周りに集める斎藤。

斎藤 「これから言う事を心して聞け」

斎藤のただならぬ気配に緊張が走る。

斎藤 「我らは、これより、上様のお命を頂く」

予想もしなかった言葉に思わず手綱を引いたため馬が後退りをする。

斎藤 「我らの殿が、今日より、天下様となられる」

余計な説明は必要無い。

斎藤 「遠慮はいらん。従えない者は、今すぐ隊列を離れよ」

顔を見合わせる騎馬武者達。が、意を決し、斎藤を見て頷く。それを確認した斎藤も騎馬武者達を見て頷く。

斎藤 「足軽達にも知らせよ」

騎武 「はッ!」

騎馬武者達は自分の隊列に戻り、今から信長を討ち獲る事を兵に告げる。

足軽達に動揺が起きる。その驚きは隊列の動向を見守る門番にも伝わる。

門1 「斎藤様は何を言っているのでしょう?」

門2 「さあなあ。何か手違いでもあったのではないのか?」

中々移動を始めない斎藤達に不安を感じ始める門番

斎藤の指示で騎馬武者に続いて足軽が一隊、二隊と移動を始める。やっと移動を開始したかとホッとする門番。しかし、向きを変え南に向かうのではなく、どうも本能寺の裏へ向かっている様だ。

門1 「あれ?何処へ行くのだ?」

門2 「明智様と合流するのではないのか?」

だんだんと不安が大きくなる門番

斎籐 「よいかッ!今日より、我らの殿が天下人となられる。必ずや、上様を討ち獲れ!」

兵達 「おうッ!」

本能寺へ向きを変える斎藤。

門番は斎藤の号令に「えッ?」と耳を疑う。

門1 「おい。今、斎藤様は何と言ったのだ?」

鉄砲を持った小隊が前に出て玉込めを始める。

門2 「謀反だ。間違いない。謀反だ!」

門1 「ま、まさか。明智様だぞ。あの明智様が・・・・」

門2 「急いで門を閉めろ!」

慌てて門を閉め知らせに走る門番

外のざわつきは書院にいる信長にも聞こえていた。

信長 「外が騒がしい。何をしておる」

森乱 「小姓達が喧嘩でもしているのでしょう。確認してまいります」

確認に向かおうとする森乱丸

そこへ門番が大声で駆けて来る。

門番 「申し上げます!明智光秀様、御謀反にございます!」

信長一同、門番の叫んでいる言葉の意味が分からなかった。

信長 「光秀が謀反?」

一瞬戸惑う信長。しかし、その後の決断は速い。

逃げるのが上手い信長である。1000か2000の兵なら寺の包囲が手薄になるので躊躇う事なく小姓達と共に一点突破を図り本能寺を脱出するのだが、ここからでは明智軍の様子が分からない。それでも、光秀だけで1万6千の兵がいる事を知っているし、光秀の与力大名も加わっていればそれ以上になる。

信長 「成る程。挨拶か」

ふッと笑う信長

信長 「光秀め。巧く謀りおったわ」

信長に怒りや悔しさは無かった。光秀なら諦めがつく。ニヤリと笑い、納得したかの様に寺の外へ目を向ける信長

信長 「光秀の事じゃ。抜かりはあるまい。これまでか」

信長は即座に覚悟を決める。しかし、それは、光秀をよく知るが故の判断ミスだった。

信長 「寺にある油を集め、女達と坊主共を直ぐに退去させよ」

迷っている暇は無い。慌ただしく駆け出す小姓達。

信長 「彌介を呼べ」

彌介 「此処に」

異変を感じた彌介は、既に信長の近くに控えていた。

信長 「ワシの最後の頼みじゃ。妙覚寺の信忠に必ず逃げろと伝えてくれ。お前の足なら明智の包囲を抜けられる筈じゃ」

彌介 「上様・・・・・」

信長 「行け!」

彌介 「はッ!」

余裕の無い事は彌介にも分かる。裏門より出て、囲み始めたばかりの明智軍の中を走り抜け

る彌介

兵1 「一人逃げました!」

騎武 「追え!逃がすな!」

軽装で駆ける彌介に足軽達が追いつける筈が無かった。

騎馬武者も追ったが、京の街を自在に走る彌介を見つける事は出来なかった。

信長 「女達には今ある金を全て分け与えよ」

小姓 「はッ!」

持参金が紙に包まれ女達に配られる。

女衆 「上様・・・・」

信長 「今まで世話になった。気を付けて行くがよい」

女衆 「上様もどうか・・・・どうかご無事で」

涙を流しながら信長に一礼をして去る女衆達。

女衆達に続いて坊主達が現れる。

坊主 「上様・・・・」

信長 「すまぬ、迷惑をかけた」

坊主 「どうか、御仏の御加護がありますように」

一礼をして女衆達に続いて退去する坊主達

斎藤 「さすがじゃ」

脇門が開かれ女衆達が出て来るのを見て、斎藤は信長の決断の速さに感心する。

斎藤 「男が紛れていないかだけを確かめよ」

兵達 「はッ!」

次々と走り去る女衆達。しかし、女衆達には行く当てがないので、取り合えず本能寺の近くにあり、信長によって建てられたイエズス会の南蛮寺に匿ってもらう。続いて坊主達が出て来る。

斎藤 「坊主共は一か所に留めておけ」

槍で囲まれる坊主達。最後の一人が出たのか脇門が再び閉じられた。

午前6時。歴史的瞬間が迫る。

時間的な余裕は全く無い。例え火を放ったとしても、信長と分からなくなるまで焼き切らなければならない。火を消されたらお終いである。御首級を獲らなければならない明智側が火を点ける事は無い。そして、信長は『生け捕り』と言う最悪の結果だけは避けなければならなかった。

信長 「必ず、亡骸がワシと分からぬようにするのじゃ。よいな!」

小姓 「はッ!」

涙を流し悔しさを噛み締める小姓達。

信長は何の躊躇いもなく自害し、森乱丸の介錯で信長の首が床に転げる。

集めた油を亡骸に掛け、部屋にも油が撒かれ火が点けられた。

森乱 「よいかッ!ここが焼け落ちるまで誰も近づけるなッ!」

小姓 「おうッ!」

ばらばらに戦ったのでは直ぐに全滅である。信長の亡骸だけは何としても焼き切らなければならない。わずか100人では火が燃え広がる時間稼ぎをするしかなかった。燃える信長がいる書院の周りに集まる小姓達

馬上でその重荷に興奮を感じる斎藤

斎藤 「小姓達が集まっている所を探せ。上様は必ずそこに居る。攻め込め!」

塀を乗り越えた兵が抵抗を受ける事もなく門を開き、鬨の声と共に一斉に雪崩れ込む。

寺に向かいお経を唱える坊主達

誰もいない境内を燃え始めた書院へと進む攻撃隊。そこへ弓矢が飛んでくる。

武1 「鉄砲隊!」

燃える書院に近づけまいと弓を射る小姓達に向け鉄砲が放たれる。

抵抗も虚しく、次々と討ち取られていく小姓達。

気が気でない斎藤は本能寺の境内に入り書院へ向かう。

武1 「斎藤様、火の勢いが激しく、中の様子は全く分かりません!」

斎藤 「何をしている!火を消せ!!燃えているのは此処だけじゃ。例え自害したにしても、上様は間違いなくこの中にいる。早く火を消せ!」

桶に堀の水を汲んで掛けるが、油を撒いているため火の勢いに衰える様子はない。

斎藤 「クソッ!どうにもならんのか!」

武2 「此処にいては危険です。一先ず、寺から離れて下さい!」

火柱を上げ燃える書院。もう、焼け落ちるのを待つしかない。

戦いは僅か20分で終わった。


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