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明智光秀  作者: tosahime
16/18

第16話・丹波・亀山城

pixivに投稿した作品を修正・加筆したものになります。本能寺の変前後の1ヶ月を全18話にしました。


第16話・丹波・亀山城


6月13日夕刻

秀吉 「首を持って来た者には褒美を取らせる」

明智軍の撤退を確認した秀吉は、直ぐに伏見から醍醐、宇治にかけての村々に落ち武者狩りの触れを出す。しかし、明智軍の主力は丹波衆。勝竜寺城から丹波の国境までは僅か2里(8km)。しかも、丹波は明智軍の後方。例え村の者だと言っても、首を一つでも獲りたい羽柴軍の足軽達に通用するはずは無く、ましてや、武器など持っていれば尚更。明智軍の撤退と羽柴軍の追撃戦の巻き添えを避ける為、街道沿いの村人達は避難しているので、丹波へ向けては落ち武者狩りの触れが出せなかった。

勝竜寺城へ続々と兵が逃れて来るが籠城の出来る城ではない。

光秀  「歩ける者はそのまま丹波へ向かえ!」

家臣達 「殿!」

光秀  「急げ!ここは直ぐに包囲される」

家臣1 「では、殿もお急ぎ下さい!」

光秀  「ワシは、ここで殿しんがりを務める」

家臣2 「それはなりません!討ち死にするのは我ら傷兵だけで十分です。殿も丹波へ!」

家臣3 「最早、我らには丹波まで歩けるだけの力が残っておりません」

家臣4 「我らがここで時を稼ぎます故、殿は丹波へお急ぎ下さい!」

光秀  「ワシが不甲斐ないばかりに・・・・・」

家臣達 「殿!」

そこへ斎藤利三が引き揚げて来る。

斎藤 「殿。申し訳ありません」

光秀 「おお。斎藤。無事であったか」

斎藤 「はい。殿の素早い決断に救われました」

光秀 「よし!では、急ぎ、丹波へ向かえ」

斎藤 「いいえ。丹波へ向かうのは殿で御座います!」

光秀 「ワシが殿しんがりを務める。その間にお前達は逃げろ!」

斎藤 「殿しんがりは私が勤めます!撤退の指示と同時に戦況の知らせを出しましたので、坂本、安土への伝令も、羽柴が落ち武者狩りの触れを出す前に京を抜けられた筈。それに、亀山城からは留守居の者達が迎えに来ます。どうか、ここは私にお任せ下さい」

光秀 「斎藤・・・・・・」

斎藤 「さあ、お早く!」

光秀 「死に急ぐなよ」

斎藤 「そう簡単には死にません」

光秀 「うん」

大きく頷き合う光秀と斎藤

光秀  「よし!では、動ける者は直ぐに丹波へ向かう!近江の方々も、ここは一旦丹波へ向かわれよ。近江へは落ち武者狩りの危険が高い」

近江衆 「丹波の方々からすれば我々は余所者。よろしいのですか?」

丹波衆 「何を言う。共に殿を信じて戦った仲間ではござらんか。遠慮は要らん」

近江衆 「申し訳ありません」

光秀  「謝るのはワシの方じゃ」

家臣1 「お急ぎ下さい。羽柴勢が迫っております!」

光秀  「すまん」

勝竜寺城へ残る事を決めた兵達に頭を下げる光秀

家臣2 「我らは、殿に最後までお仕えできて幸せです!」

家臣3 「さあ、急ぎ、丹波へ!」

怪我をして満足に動けなくなった傷兵達が鉄砲を構え狭間の前に座り込む。傷兵は槍で無惨に止めを刺されるだけである。それなら、少しでも光秀の役に立って死にたい。満足気な表情で光秀を送り出す傷兵達。光秀脱出の直後、小さな勝龍寺城は2重に包囲される。

斎藤 「日が沈めば戦闘は中止される。日没まで後僅か。それまで、何としても持ち堪えるぞ!」

兵達 「おうッ!!」

西国街道を山陰道へと逃れる兵にも追手が押し寄せるが、日没になったため追撃の中止命令が出され、あちらこちらで羽柴軍の勝鬨が響く。続々と明智の敗残兵が夜道を丹波へ向かう。明智側は光秀の撤退の判断が早かったのと、鉄砲隊による防戦が中心だった為、兵の被害は最小限に抑えられていた。しかも、負け戦で心身共に疲れ果てた落ち武者とは違い、十分に戦える余力を残しての敗走である。

残されている記録では、明智側の死者3000に対し羽柴側の死者は3300。この数字からだと、両者拮抗の合戦だった様に見えるが、勝者は戦果を多く、被害を少なく公表するのが常である。単純に倍半分として考えた場合、明智側の死者は1500で羽柴側の死者が6600となる。山崎の戦いは結果的に光秀の敗北ではあるが、内容的には光秀が勝利していたのである。

家臣1 「道沿いの村々は避難しており、落ち武者狩りをする様子はありません。どうやら、羽柴は丹波へ向けては落ち武者狩りの触れを出せていない様です」

家臣2 「そもそもこの数じゃ。落ち武者狩りをしようにも手が出せまい」

多くの足軽達が丹波へ向かうその様子は、敗走と言うよりも行軍である。

家臣3 「と言う事は、丹波へ逃れている者達に多くの乱波が紛れ込んでいる恐れがある」

一人の足軽が光秀を囲む家臣達の間をすり抜けて行く。何も言わず光秀に切りかかろうとする足軽。槍を突き出して防ぐ家臣

家臣3 「乱波じゃ!斬れ!!」

切り伏せられる足軽

家臣4 「殿へ不用意に近づく者を警戒せよ!」

光秀を囲み移動する家臣達。亀山城から馬で駆け付けた留守居の家臣達が沓掛で光秀達を待っている。

家臣達に囲まれ沓掛に辿り着く光秀

留守1「殿!」

留守2「良くぞご無事で」

光秀の前に跪き、悔し涙を流す留守居の家臣達

光秀  「すまぬ。全てはワシの責任じゃ」

留守1 「何を弱気な」 

留守2 「勝負は時の運。殿に責任は御座いません」

留守3 「それよりも、一刻も早く亀山城へ」

留守1 「馬を用意しております。お乗り下さい」

家臣1 「いや、馬に乗ると目立ちます。ここは、我らと共に歩かれた方が良いかと」

光秀  「心配するな。皆が歩いておるのだ。ワシも歩こう」

次々と逃れて来る足軽達。その様子を見て直ぐに指示を出す光秀。 

光秀  「逃れて来る者が安心できる様、亀山城へ向けての街道沿いに篝火をできるだけ多く焚け」

家臣1 「し、しかし、そう様な事をすれば、目立ち過ぎて襲撃を受ける恐れがあります」

光秀  「構わん。羽柴の攻撃は無い」

自信を持って堂々と答え、沓掛に引き上げの為の陣を構える光秀。周囲に次々と篝火が灯されていく。沓掛の後は老ノ坂、直ぐに丹波本国である。

多くの篝火で低い梅雨空の雲が明るく染まる沓掛方面をジッと見ている秀吉。

秀吉 「派手にやってくれるではないか」

黒田 「かなり、自信がおありの様で」

秀吉 「腹の立つ奴じゃ」

勝竜寺城の方向を見る秀吉

秀吉 「此方の篝火の方が負けておるぞ」

黒田 「此方も篝火を増やさせましょうか?」

秀吉 「明智に負けるな」

黒田 「はい」

秀吉 「あの城からはネズミ一匹這い出せぬ様にしろ」

黒田 「畏まりました」

秀吉 「あの様な城など、夜明けと共に攻め落とせ!」

黒田 「はい」

伝令を向かわせる黒田

秀吉 「それよりも官兵衛」

黒田 「はい」

秀吉 「逃げるとすれば、明智は何方へ逃げたと思う」

黒田 「明智様は、迷う事無く丹波の亀山城かと」

秀吉 「だろうな。あの篝火を見れば間違いあるまい」

黒田 「明智軍の殆どは丹波衆です。丹波は直ぐ隣。しかも、丹波へ向けては落ち武者狩りの触れが出せていません。明智様の事です。近江へは落ち武者狩りの危険を予測し、近江衆も丹波へ向かわせているでしょう。その為、今回は乱波を紛れ込ませ易くなっています」

秀吉 「で、乱波はどれ程紛れ込ませている」

黒田 「はい。大体、20程。しかし、手柄目当てに勝手に紛れ込んでいる者もいるかもしれませんから100位はいるかと」

秀吉 「多いのう。それでは、明智の警戒を強めるだけではないのか?」

黒田 「明智様もそれ位は分かっています。分かっていながら、それでも、危険を避けさせる為、近江衆も丹波へ向かわせているのです」

秀吉 「何処までもお人好しな奴じゃ」

黒田 「それが、明智様です」

秀吉 「ふん!明智様か」

官兵衛の言葉に苦笑いをする秀吉

秀吉 「ところで官兵衛」

黒田 「はい」

秀吉 「ずっと気になっておるのだが、お前は何故、明智の『様』に拘る」

黒田 「その事でしたら、はっきりとした理由があります」

秀吉 「言ってみろ」

黒田 「はい。明智様の叡智もさることながら、明智様は、殿に天下人への御運を開いて下さったお方。感謝を込めております」

秀吉 「天下人か・・・・・・・」

フッと笑う秀吉

秀吉 「成る程、そういう事か。うん、納得した。お前らしいのう」

黒田 「ありがとうございます」

秀吉 「では、後で明智の為に神社でも建ててやるか」

黒田 「いえ。何も、そこまでは」

秀吉 「冗談じゃ」

冷たく言い放つ秀吉

秀吉 「良いか」

黒田 「はい」

秀吉 「明智に『様』を付けるのは今日までじゃ」

黒田 「はッ!」

秀吉 「どうせ、明日までの命じゃ」

黒田 「畏まりました」 

恐縮する官兵衛

秀吉 「しかし、官兵衛よ」

黒田 「はい」

秀吉 「明智は、亀山より更に奥へ逃げたりはせんか?」

黒田 「自分が逃げれば追撃は何時までも続きます。そうなれば、丹波の国衆達に迷惑が掛かります。明智様は絶対、その様な事はしません」

秀吉 「そうか。明智は絶対に逃げんか」

黒田 「はい」

自信を持って答える官兵衛

秀吉 「ワシには出来んな。ワシなら何処までも逃げてやる。死んだら終わりじゃ」

何も答えず頭を下げる官兵衛

秀吉 「騎馬を先行させれば半刻(1時間)も掛かるまい。堀に伝えよ。夜明けと共に亀山城へ向かう」

家臣 「はッ!」

勝竜寺城櫓内から篝火で明るくなっている沓掛方向を見ている斎藤。駆け寄って来る足軽

足軽 「羽柴側が城の周りの篝火を増やし始めました」

フフッと笑う斎藤

斎藤 「殿に負けまいとしておるのじゃ」

足軽達も皆、沓掛方向を見ている。

斎藤 「安心しろ。殿だけではない。丹波へ向かった者達は全員、無事に亀山城へ帰還する」

大きく頷き合う足軽達

斎藤 「あの篝火は、引き揚げている足軽達だけではない。我らに対する励ましでもあるのだ」

足軽 「殿・・・・・・」

感動の涙を流す足軽達

斎藤 「羽柴の攻撃は明日の夜明けじゃ。それまでは、我らも休もう」

斎藤が率先して眠り始めたため、足軽達もそのまま眠りに入る。

街道沿いの村々では篝火を焚いて道を照らし、疲れ切って引き上げて来る明智軍を励ます。ゾロゾロと黙って歩く将兵に対し、戦に参加した亭主や息子を探しているのか、途中の村々で頻りに名前を呼び掛けている女達を見かける。

光秀 「皆、済まない。ワシが不甲斐ないばかりに」

光秀はそんな女達に心の中で何度も謝罪する。

さらに篝火が煌々と焚かれる亀山城。怪我をして帰って来る足軽達に水を与え手当てをする女中達。城に残っていた者総出で敗残兵を迎え入れる。しかし、敗残兵の中には、多くの秀吉が送り込んだ乱波が工作活動の為に紛れ込んでいる。それを見分ける為に方言があるのだが、今回は近江衆が一緒の為,丹波訛りだけで見分ける事が出来ない。男達がほぼ出払っている為、気丈な女中達が薙刀を持って周囲の警戒に当たり、他の女中達は乱波を意識しつつ、手当てを平等に行う。 

深夜、光秀は亀山城へ帰還する。

女中達 「殿!」

光秀に気付いた女中達が光秀の周りに集まり涙を流す。

光秀  「すまん。皆に迷惑をかけた」

女中1 「何を仰いますか。迷惑など一切御座いません!」

女中2 「殿さえ無事であれば、我らにも覚悟は出来ております!」

光秀  「心配するな。ワシに構わず手当てを続けよ」

女中達 「はい!」 

御殿へ光秀を運ぶ家臣達。

光秀 「城にある金と食料は全て分け与え、動ける者は直ぐに城を出ろ。女達も夜明けと共に落ち延びさせよ。城下の者達にも乱取りを避ける為、暫く城下を離れる様に言え。朝には、この城は包囲される。急ぐのだ!」

最期まで周りの者を気遣う光秀。皆、寝ている暇など無かった。夜明けと共に沓掛より進軍を始めれば、先鋒の騎馬隊が亀山城に着くのに半刻(1時間)も掛からない。6月の夜明けは早い。

光秀  「近江の国衆達も多く逃れて来ている。すまぬが、面倒をみてやってくれ」

丹波衆 「お任せ下さい」

光秀  「頼む」

足軽達は自分達の村へ向け撤退を開始し、城下が戦場になると言うので町人達も一斉に避難を始める。女が城に残る事を許さなかった為、夜明けを待って光秀に最後の挨拶をして女中達が城を出る。

光秀 「皆、無事に落ち延びてくれ」

城門で逃れる者達を見送る光秀

家臣1 「殿。どうやら、動ける者は皆、去った様です」

光秀  「そうか」

家臣2 「我らで一矢、報いてやりましょうぞ」

光秀  「お前達はよいのか?」

家臣3 「我らは最期まで、殿に従いますぞ」

見渡すと、それでも200近い家臣が残っている。

何度も大きく頷く光秀

光秀  「よし!では、全ての城門を閉めよ!」

家臣達 「はッ!」

6月14日午前6時

すっかり夜は明け、城は羽柴軍によって完全に包囲されている。防戦の無い城門が次々に打ち破られていく。一気に本丸に向かう羽柴軍。だが、ここで初めて抵抗を受ける。残っていた光秀の家臣達は本丸の防衛に集中していた。城門に迫る羽柴軍に鉄砲が一斉に火を噴く。左右に座る家臣が弾込めをして光秀に交互に鉄砲を渡し、光秀が城門の窓から次々と撃つ。

家臣1 「お見事で御座います」

家臣2 「さすがは殿。100発100中ですな」

光秀  「うん。何故か今日は、自分でも驚くほどよく当たる」

満足気に頷き、撃ち終えた銃を置く光秀。

光秀  「もう、いいだろう。後は任せた」

家臣1 「はッ!」

家臣2 「我らも直ぐに参ります」

家臣達の言葉に頷き城門を出る光秀

集められた油を御殿に撒く家臣。本丸御殿の奥へゆっくりと歩む光秀。

光秀 「不思議なものじゃ」

薄ら笑いをしながら座り込む。

光秀 「よく考えてみれば、上様を討ってまだ10日と2日。それなのに、もう何年も経っている様な気がする」

脇差を持ち、袂を開いて大きく深呼吸をする光秀

光秀 「因果応報とはよく言ったものじゃ」

ほんの一瞬がとても長く感じる。

光秀 「これが走馬灯と言うやつか」

これまでの人生が次々と思い出される。

光秀 「あの時、上様も恐らく、今のワシと同じ気持ちだったのかも知れん」 

無念の結果であるにも関わらず、死を前にして迷いや後悔は無い。むしろ、清々しささえ感じる。

光秀 「これで、やっと楽になれる」

それは諦めではない。満足にも似た達成感である。 

光秀 「さて、あの世で上様に、何と言って詫びようか」

フフッと笑う光秀

光秀 「上様。明智光秀、これより、上様の元へ参ります。存分に、お叱り下さい」

光秀の首が床に転げ、亡骸に油を掛け火が点けられた。光秀と共に燃え上がる亀山城。

イライラした様子で陣幕内を行ったり来たりする秀吉

秀吉 「間違い無いのか?」

家臣 「はい。間違いありません!」

秀吉 「福知山へ逃げた様子は無いのか?」

家臣 「城は隙間なく囲んでいます。特に、明智が立て籠もった本丸からは絶対に抜け出す事は出来ません!」

歯ぎしりをする秀吉

秀吉 「認めんぞ。ワシは絶対に認めん!」

黒田 「しかし、城内に残っていた者は全て討ち獲っておりますので、明智が死んだ事は疑い様の無い事実と思われます」

秀吉 「面白くないのう。それでは面白くない!」

床几を蹴り飛ばす秀吉

信長の時と同じで、光秀の亡骸は崩れ落ちる巨大な棟に押し潰され、更に燃え続けたので、その存在すら分からなくなってしまった。しかし、光秀の死を確認しただけでは気の済まない秀吉は適当な首を見繕って光秀の首と言う事にして14日午後、本能寺の焼け跡へ自分の手柄を自慢するかの様に晒した。しかも、どうしても光秀が惨めな死に方をした事にしたい秀吉は、亀山城での光秀自害を断固として認めず、泥だらけで田畑を這いずりながら坂本城へ逃れている途中、山科・小栗栖の竹藪で落ち武者狩りの竹槍で突かれなぶり殺しに遭った事にして高札を立て、その成り行きを説明書きした。そして、その内容を見聞きした著名な公家や坊主が手紙や日記にその事を書き記したために信憑性の高い一次資料となり、秀吉の思惑は見事に的中。440年以上経った今に至るまで疑われる事無く、秀吉の嘘が史実として信じ続けられる事になる。

黒田 「いくら何でも、よろしいのですか?」

秀吉 「何がじゃ?」

黒田 「明智の首です」

秀吉 「明智が死んだのは間違いあるまい。それに、お前は明智の顔を知っているか?」

黒田 「いえ。会った事も御座いません」

秀吉 「そうであろう。明智の顔を知っている者がこの京に何人いる?しかも、落ち武者狩りでなぶり殺しに遭った首じゃ。まともな訳あるまい。それらしい首を晒しておけば良いのじゃ」

黒田 「はい」

秀吉 「良いか。あの首はワシが明智光秀と認めた首じゃ。否定は許さん!」

黒田 「畏まりました」

秀吉 「もし、どうしても違うと言う者がおれば、公家だろうが坊主だろうが誰であろうと構わん。遠慮なくワシの元へ連れて参れ。その場で手討ちじゃ」

黒田 「承知致しました」 

信長の首を確認できなかったので晒さなかった光秀と、確認できなくても平気でやってのける秀吉の違いがここにある。しかし、毎日、映像と共にリアルタイムで報道される現代と違い、与えられる情報を信じるしかない当時の人々に対しては、自信を持って言い切った者の勝ち。傷だらけの首は日ごとに腐って更に誰だか分からなくなる。秀吉は情報操作に優れていたのである。


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