第15話・山崎の戦い・決戦
pixivに投稿した作品を修正・加筆したものになります。本能寺の変前後の1ヶ月を全18話にしました。
第15話・山崎の戦い・決戦
6月13日早朝、秀吉は光秀の与力衆であった高山、中川、池田を先鋒として山崎へ進軍。官兵衛は本陣との間に堀秀政を中堅として配置、天王山の麓に布陣する羽柴秀長には2000の兵を追加し、後方、側面より3者のもしもの寝返りに備える。
両軍は円明寺川を挟んで対峙。しかし、光秀の思惑通り、秀吉側は朝から全く動く事なく時間だけが過ぎる。
迫る日没。待ち切れない信孝と丹羽が秀吉の本陣へ押し掛けて来る。
信孝 「ええ~い、何をしておるのじゃ。朝から全く動いていないではないか!」
丹羽 「臆したか、羽柴殿!」
いらいらしながら陣幕内を歩き回る信孝。それを鬱陶しそうに見る秀吉。敵味方の配置図をジッと見ている官兵衛
黒田 「さすが、明智様です」
秀吉 「で、状況はどうなのだ?」
黒田 「明智様は兵の少なさを地形で上手く補っております」
信孝 「何が地形じゃ!見れば分かるではないか!数の上でも我らの方が圧倒的に有利!」
丹羽 「信孝様の仰る通り。羽柴殿は何を躊躇っておる!」
信孝 「何じゃ、明智のこの手薄な布陣は!」
光秀の布陣を差す信孝
信孝 「羽柴!このまま明智の本陣へ突撃じゃ!!」
丹羽 「その通り!」
秀吉 「まあまあ。信孝様も丹羽様も落ち着いて下され」
地図を見ながら話を進める官兵衛
黒田 「数の上だけでは確かに我らの勝ち。しかし、今は5分」
秀吉 「3倍の兵がいるのに5分か?」
黒田 「この戦。川を先に渡った方が負けです」
秀吉 「あんな川をか?」
黒田 「はい」
信孝 「それを臆病だと言うのだ!」
丹羽 「いかにも!川を渡るのが怖いなど、子供ではないのだぞ!」
秀吉 「まあまあ、お二人共、少しは冷静になされよ」
信孝と丹羽をなだめる秀吉
黒田 「明智様は我らが攻めて来るのを待っています」
信孝 「上等じゃ。我らの力を見せてやれ!」
丹羽 「あんな川など簡単に跳び越せばよい!」
黒田 「同じ川でも『守る川』と『攻める川』は違います」
秀吉 「どう言う事だ?」
黒田 「守る前の川は防御となり、攻める前の川は障害となります」
信孝 「淀川なら分かる。だが、あの様な狭い川に違いなどあるか!数で一気に押せば良いのじゃ!」
丹羽 「如何にも!」
秀吉 「まあまあ、お待ち下さい」
二人の焦りに呆れる秀吉。官兵衛は広げられた地図を指し示しながら話を続ける。
黒田 「この山崎は淀川と天王山に挟まれた隘路。その為、明智様は、この円明寺川に沿って陣を敷いています。たとえ川幅は狭くとも、川を渡るには足が遅くなり勢いが落ちます。しかも、見たところ、あの川は川底が浅いため、堤が土塁の様に高くなっています。明智様はわざと布陣に間隔を取り、手薄と見せかけ我らを誘い込み、我々が川を渡り堤を超えるのを待って一斉に鉄砲を撃ち正面が後ろへ下がります。臆したと思い、そのまま攻め込むと陣を鶴翼に変え、包み込む様にして鉄砲を撃ちかけるでしょう。明智様の持つ鉄砲の数は2000。2度、3度と撃たれれば、こちらの戦力はあっという間に削られてしまいます。」
秀吉 「鉄砲の数では我らより明智の方が圧倒的に多い。明智の鉄砲隊は確かに厄介じゃ」
黒田 「明智様の鉄砲隊は織田家随一と聞いております。しかも、鉄砲は守りに使ってこそ、その威力を発揮します」
信孝 「例え一斉に鉄砲を放たれても、次の弾を込めるまでに一気に騎馬で攻め込めばよいではないか!」
丹羽 「信孝様の仰る通り!」
秀吉 「丹羽様は長篠をお忘れか!」
丹羽 「うッ!」
黙り込む丹羽
信孝 「何じゃ?・・・・ん?・・・・長篠?」
長篠を理解できない信孝
黒田 「土地の者に聞いたところ、今の空模様だと、明日は晴れるそうです」
信孝 「それは良い!絶好の合戦日和ではないか」
丹羽 「気持ちの良い勝ち戦になりますぞ」
信孝 「さぞ、父上も兄上も喜ばれる事であろう」
二人を無視して話を進める秀吉と官兵衛
黒田 「守りの鉄砲は攻める鉄砲の3倍の効果があります」
秀吉 「すると、明智の鉄砲は6000か?」
黒田 「はい。そのつもりで考えなければなりません」
秀吉 「まずいのう」
信孝 「だから、一気に攻めろと言っておるではないか!」
丹羽 「羽柴殿は臆病風にでも吹かれたか!」
何を聞いておったのだ、と思いながら無視を続ける秀吉
黒田 「しかし、その鉄砲の弱点は湿りです。今日の様に雨が降ったり止んだりの天気では、火縄と火薬の維持が難しく、不発になる鉄砲が多く出ます」
秀吉 「それでは、何としても、今日中に決着を着けねばならんな」
黒田 「はい。しかも、我らと反対に明智様側は、何とか今の状態を明日まで維持したいと思っている筈。その為、士気はそれ程高く無いと思われます」
秀吉 「となると、日没まで・・・・・・後、一刻(2時間)といったところか」
配置図をジッと見る秀吉と官兵衛
秀吉 「で、どうする?」
黒田 「無理にでも明智様側を動かすしかないでしょう」
秀吉 「どうやって?」
黒田 「誘います」
秀吉 「誘えるか?」
黒田 「やるしかありません」
信孝 「押せ!押せ!一気に押して出よ!」
丹羽 「決戦じゃ!」
何とかならんのかこの二人は、と、うんざりした表情の秀吉
秀吉 「日没までに間に合うか?」
黒田 「間に合わせます」
秀吉 「よし。やってみよう」
黒田 「まず、正面の高山、中川を右、淀川沿い、池田の横へ移動させます」
地図を指し示しながら策を述べる官兵衛
秀吉 「高山、中川に池田の横へ移動する様に伝えよ!」
伝令 「はッ!」
走り去る秀吉伝令
光秀本陣に伝令が駆け込んで来る。
伝令 「申し上げます!正面、高山、中川隊が左に移動を始めました!」
旗印で何処の部隊かが分かる。
光秀 「待ち切れずに動いてきたか。陽動じゃ。斎藤に動くなと伝えよ!」
伝令 「はッ!」
走り去る光秀伝令
家臣1 「羽柴は攻め込んで来るでしょうか?」
光秀 「天気じゃ」
家臣1 「天気?」
空を見上げる光秀
光秀 「今の空模様だと明日は晴れるそうじゃ」
家臣2 「成る程。我らにとっては絶好の戦日和ですな」
光秀 「それ故、羽柴は焦っておる」
家臣3 「やはり、我らの鉄砲を警戒しているのですな」
光秀 「兵の数は多いが、晴れると羽柴側は不利になる。大した雨ではないが、湿りは鉄砲にとっては大敵じゃ。明日に持ち越さず、羽柴は無理をしてでも今の天気を利用し、今日中に決着を着けようとしておるのじゃ」
家臣1 「しかし、日没まで最早1刻(2時間)もありませんぞ」
光秀 「問題はそこじゃ」
家臣2 「数で一気に攻め込んで来るつもりでしょうか?」
光秀 「その切っ掛けをつくろうとしておる」
家臣3 「多くの犠牲を出してでも、ですか?」
光秀 「先鋒は摂津衆じゃ。羽柴にとっては痛くも痒くもない」
家臣1 「中川も高山も羽柴に臣従したばかりに」
家臣2 「我らに味方しておればよかったものを」
家臣3 「哀れな奴らじゃ」
光秀 「必ず羽柴は攻めて来る。各陣、今一度、兵の気を引き締めよ!」
家臣達 「はッ!」
慌ただしく伝令を走らせる家臣達
高山、中川隊が淀川沿いの池田隊の横へ移動する。
秀吉の本陣内に次々と伝令が状況を伝える。
もたらされる情報を確認しながら前線の様子をジッと見ている秀吉と黒田
黒田 「さすがは明智様」
秀吉 「明智は動かんな」
黒田 「動きませんな」
信孝 「それ見ろ!」
丹羽 「羽柴殿の軍師の目は節穴か?」
信孝 「だから、数で押せば良いと言っておるではないか!」
丹羽 「その通り!」
無視を決め込む秀吉
秀吉 「で、次はどうする?」
黒田 「高山、中川に川を渡り攻め込ませます」
秀吉 「川を先に渡った方が負けではなかったのか?」
黒田 「捨て駒です」
秀吉 「捨て駒か・・・・・・」
厳しい表情で考え込む秀吉
黒田 「日沈まで最早、時がありません。無理は承知の上。その無理をしてでも動かさなければ、今日中の決着になりません」
秀吉 「う~ん」
今一つ思い切れない秀吉
黒田 「淀川に沿って側面から攻め上がりますので明智様側は鶴翼になれません。ただし、
片翼とは言え、こちらの犠牲は甚大なものとなります」
秀吉 「う~ん」
甚大な犠牲が出ると言う黒田の言葉で更に躊躇する秀吉
黒田 「その後、池田にも渡河を命じます」
信孝 「待て。待て、待て、待て!」
丹羽 「その様な事をすれば前面は堀だけではないか!明智の本隊に本陣目掛けて攻め込まれたらどうするつもりじゃ!」
黒田 「池田殿は別として、高山、中川は元々明智様の与力衆。状況次第で何時、明智様に寝返るやもしれません。膠着状態は人を不安にします。」
秀吉 「そうだな。うん。ではこの際、奴らを使い捨てるか」
黒田 「はい。ただし、功を奏した場合は一番手柄、と言う事で」
秀吉 「いいだろう」
意を決し立ち上がる秀吉
秀吉 「高山、中川に川を渡って攻め込めと伝えよ!」
伝令 「はッ!」
黒田 「攻めて来れば、明智様も応戦せざるを得ません」
秀吉 「うん。ワシも覚悟を決めた。今日中に決着を着けるぞ!!」
黒田 「はい」
床几に座ったまま頭を下げる官兵衛
伝令を最初に受けた高山隊が鬨の声を上げ先頭を切って突撃を開始する。
川を渡り堤防を越えるのを待ち、津田の鉄砲隊が一斉に火を噴く。
黒田 「よし!」
手を叩き立ち上がる官兵衛
黒田 「やっと、始まりましたな」
秀吉 「始まったな」
黒田 「これで、後は天気」
秀吉 「雨乞いでもするか」
信孝 「おいおい。そんなに呑気に構えておって良いのか?」
丹羽 「これで天気が変わらなかったらどうするのだ!」
二人を無視してジッと戦況を見守る秀吉と黒田
光秀 「羽柴め。やはり、明日まで待たずに決着を付けに来たか」
家臣1 「しかし、日が沈むまで最早半刻(1時間)もありません」
家臣2 「このまま、なんとか日没に持ち込めば・・・・」
光秀 「消極的な気持ちでは一気に攻め込まれてしまう。全力で防ぐ事に集中せよ」
家臣達 「はッ!」
斎藤、柴田の鉄砲隊が左に寄り、側面から高山隊に容赦なく襲い掛かる。
高山隊に続き中川隊も突撃を開始する。
淀川沿いに布陣する津田隊が後ろに下がり高山、中川隊を奥に誘い込み片翼を形成。斎藤、柴田の鉄砲隊と共に側面より攻撃を強める。
黒田 「高山、中川を盾にして、池田を淀川に沿って右から後ろへ廻り込む様に明智様の本陣へ攻め込ませます」
秀吉 「よし!池田に淀川に沿って右から明智の後ろに廻り込む様に明智の本陣へ進めと伝えよ!」
伝令 「はッ!」
明智の鉄砲隊はその威力を遺憾なく発揮し、高山、中川隊は進む事が出来ない。淀川沿いに池田隊が背後に回り込もうとするのに気付いた斎藤は一部の鉄砲隊を背後に向ける。
光秀 「いかん。羽柴が正面から一気に来る!」
池田の動きを見た光秀は即座に判断する。
光秀 「本陣の鉄砲隊を全て正面へ回せ!」
家臣1 「はッ!」
光秀 「長槍隊を鉄砲隊の後ろに着けよ!」
家臣2 「はッ!」
本陣の鉄砲隊と長槍隊が慌ただしく斎藤、柴田隊の抜けた正面へ移動する。
しかし、ここで降り始めた雨の為に不発になる鉄砲が出始める。
両手を広げて空を見上げる官兵衛
黒田 「天が我らに味方しましたぞ!」
秀吉 「よ~し、雨じゃ!もっと降れ。もっと降って明智の鉄砲を濡らせ!」
不気味に笑いながら陣幕内を歩く秀吉の顔に恐怖を感じる信孝と丹羽。
秀吉 「だが、相変わらず鉄砲の音が響いておる」
鉄砲の音が気が気でならない秀吉は苛立つ。鉄砲の扱いに長けた光秀は雨天を意識した備えをしているので直ぐに鉄砲が使えなくなる事はない。しかし、それでも、勢いは落ちて来る。
黒田 「正面の部隊が高山、中川の突撃で右に寄りました」
秀吉 「前が空いたな」
黒田 「明智様は本陣の鉄砲隊を正面に移動させて来ます。その前に、中堅の堀隊を明智様の本陣へ向け攻め込ませます」
秀吉 「よ~し!堀を明智の本陣目掛けて突撃させよ!」
伝令 「はッ!」
堀の騎馬隊が一斉に明智の本陣を目指す。しかし、光秀の判断が秀吉の判断より早かった為、光秀本陣の鉄砲隊が既に正面で堀の騎馬隊を待ち構え一斉に鉄砲を放つ。
光秀本陣へ駆け込む伝令
伝令 「堀隊が動きました!」
光秀 「信孝、丹羽がこの後に来る。それから羽柴の本隊じゃ」
家臣 「いよいよですな」
光秀 「急ぎ、後詰めの鉄砲隊も正面の援護に向かわせよ!」
家臣 「はッ!」
雨の為に不発になる鉄砲が増えてくる。しかし、長槍隊が鉄砲隊の前に出て長槍を馬の鼻先へ向け槍襖で騎馬隊を止める。右往左往する堀の騎馬隊。槍襖で食い止めている間に後ろへ下がり、弾込めを終えた鉄砲隊が再び前に出て銃撃を始める。
黒田 「流石は明智様。鉄砲と長槍を上手く使っています」
秀吉 「褒めてどうする」
黒田 「直ぐに後詰めの鉄砲隊も駆け付ける筈」
秀吉 「大丈夫なのか?」
黒田 「全て出し切らせます」
秀吉 「正念場だな」
黒田 「お互いに」
堀の長槍隊が騎馬隊の前に出て明智の長槍隊との突き合いになる。
一進一退の両軍。右には斎藤達の銃撃を受ける高山、中川隊がいるので、槍襖の左を回り込もうとする堀の騎馬隊。しかし、正面に向け陣形を変えていた左の御牧、諏訪隊がそれを迎え撃ち、堀の騎馬隊は槍襖を回り込むことが出来ない。
秀吉 「明智は中々粘っているではないか」
黒田 「統率の取れた陣形移動。流石は明智様です」
秀吉 「ここは、敵ながら天晴れ!と認めざるを得んか」
黒田 「はい。しかし、ここまでです」
秀吉 「頃合いか?」
黒田 「はい」
二人の会話にオロオロとしながら焦りを感じる信孝
信孝 「おい、羽柴。抜け駆けはいかんぞ!」
丹羽 「その通り!上様の仇を討つのは信孝様じゃ。羽柴殿は控えておれ!」
急いで自分達の陣へ駆け戻る信孝、丹羽
呆れた表情で二人が立ち去るのを見送る秀吉。ほくそ笑む官兵衛
黒田 「簡単に引掛かりましたな」
秀吉 「あれでは兵が逃げ出す筈じゃ」
黒田 「いかにも」
秀吉 「だが、これで、信孝が丁度良い弾除けになってくれるわ」
黒田 「はい」
ニヤリと笑う秀吉
秀吉 「騎馬隊の用意じゃ!」
家臣 「はッ!」
秀吉 「信孝の後を行き明智の本陣を目指せ!」
家臣 「はッ!」
動きのとまった堀隊を抜って信孝、丹羽隊が正面より明智の本陣を目指す。しかし、後詰めから駆け付けた鉄砲隊が信孝、丹羽隊に向け、一斉に鉄砲を放つ。
信孝 「え~い、怯むな!突撃じゃー!!」
丹羽 「羽柴に手柄を横取りされるな!」
しかし、途切れる事の無い鉄砲の攻撃を受け思うように進めない上、目の前で次々に倒れていく味方を見て士気が一気に下がり動きが止まる信孝、丹羽隊。
信孝 「何をしておる。進め!進め!前進じゃー!!」
立ち往生する信孝、丹羽隊を尻目に秀吉の騎馬隊が目の前を駆け抜けて行く。
信孝 「あッ!待て!我らが先じゃ!!」
秀吉の騎馬隊は中央を一気に進み光秀の本陣を目指す。
天王山麓羽柴秀長の陣
秀長 「彼方は派手にやっている様だな」
銃声の響く淀川方面を見る秀長
家臣1 「どうやら、殿の本隊が動いた様です」
家臣2 「勝敗が見えたのでしょう」
秀長 「流石、兄者。明智も、これで終わりじゃな」
家臣3 「では、我らも明智の本陣を目指しますか」
秀長 「よし。兄者に後れを取るな!」
家臣達 「はッ!」
戦線が正面から淀川沿いに集中しているのを見て、天王山の麓に陣取る羽柴秀長も光秀右翼に一斉に攻めかかり、それを松田、並河の鉄砲隊が迎え撃つ。
動きの無かった右翼から銃声が響いて来る。
光秀 「遂に総力戦になったか」
音で即座に判断する光秀。総力戦になると数の勝負になる。戦の勝敗がはっきりした以上、無駄な消耗を避け、兵に逃げるだけの体力を残しておいてやらなければならない。兵の犠牲を最小限に抑えるのは敗軍の将が負う最大の責任である。聡明さを取り戻している光秀の決断は早い。直ぐに全軍撤退の指示を出す。
光秀 「鉄砲隊は撤退を援護せよ!」
撤退を助ける為に本陣を移動せず、秀吉の攻撃を自分に集中させる光秀
光秀 「勝龍寺城へ急げ!」
次々に撤退する明智軍。それを追う羽柴軍を明智の鉄砲隊が遮る。
光秀の本陣へ伊勢貞興が戻って来る。
伊勢 「明智殿!」
光秀 「おお、伊勢殿。無事であったか」
伊勢 「撤退の判断、お見事!」
光秀 「すまぬ。幕府衆の方々には申し訳ない結果になってしまった」
伊勢 「何を申される」
光秀 「せめてもの償いじゃ。ワシが羽柴の攻撃を引き付ける。その間に、伊勢殿達は落ち延びられよ」
伊勢 「いえ、本陣はこの伊勢貞興にお任せ下さい。明智殿こそ、急ぎ勝龍寺城へ!」
光秀 「これはワシの責任じゃ。お前達こそ退け!」
伊勢 「なりません!斎藤殿も直ぐに戻られる筈。明智殿が無事なら再起は可能です!」
光秀 「伊勢殿・・・・・」
本陣へ入って来る御牧景重
御牧 「ワシを忘れてもらっては困りますぞ」
振り向く光秀と伊勢
光秀 「御牧殿!」
伊勢 「お主も無事であったか」
御牧 「明智殿。此処は我らにお任せ下さい」
光秀を見ながら大きく頷く伊勢と御牧。唇を噛み締める光秀
本陣へ駆け込んでくる家臣
家臣 「羽柴勢が迫っております!お急ぎ下さい!」
御牧 「さあ、急がれよ、明智殿!」
光秀 「すまぬ」
伊勢 「最期に、良い夢を観させて頂いたしな。感謝しておる」
頷き合う光秀と伊勢、御牧
勝竜寺城へ撤退する光秀。と同時に、羽柴勢に取り囲まれる光秀の本陣。
伊勢 「我こそは足利幕府政所、伊勢貞興である!」
御牧 「同じく、御牧景重!」
伊勢 「この首欲しくば、遠慮なく掛かって参れ!」
伊勢と御牧は光秀を逃がす為に本陣に留まり、秀吉の攻撃を自分達に集中させ壮絶な最期を遂げる。
山崎の戦いは高山隊の突撃から僅か1時間で勝敗が決した。