第12話・中国大返し・備中高松
pixivに投稿した作品を修正・加筆したものになります。本能寺の変前後の1ヶ月を全18話にしました。
第12話・中国大返し・備中高松
6月3日午後、秀吉は、京都から備中高松に至る街道の主な村ごとに待機させていた早馬の引き継ぎにより、200㎞を僅か1日半と言う驚異的な早さで光秀謀反の知らせを得る。通説では、毛利へ謀反を知らせる光秀の使者が間違えて秀吉の陣地へ迷い込んだのを捕まえた事になっているが、一日半で200㎞の未舗装路を草鞋で走るのは不可能である。そもそも、密書を託された使者が秀吉と毛利の旗印を、例え夜であったとしても間違えるだろうか?そんな途中での不慮の災難を想定して、秀吉は書状や伝言ではなく、タスキを繋ぐ事で結果だけが分かるようにしていた。その為、早馬を引き継ぐ者達は自分が何を伝えているのかさえ知らなかった。
握り飯を食べる秀吉の前に駆けて来る伝令
伝令 「申し上げます!」
秀吉 「何じゃ」
苛つきながら答える秀吉
伝令 「京よりタスキ!」
秀吉の目が鋭く輝く。
秀吉 「色はッ!」
伝令 「白!」
タスキを握る右手を力強く突き上げる伝令
秀吉 「よしッ!!」
手をたたいて立ち上がる秀吉。
秀吉 「ようやった。ようやったぞ、明智!!」
嬉しさを堪え切れず、不気味に笑う秀吉
秀吉 「街道警備の者に伝えよ。西へ行く者は犬猫一匹通すな!隠れて通ろうとする者は切り捨てい!」
黒田 「殿。やりましたな」
秀吉 「いよいよじゃ。いよいよじゃー!!」
大声で笑いながら周りを見渡す秀吉
黒田 「しかし、第二報が来るまでは確信が持てません」
秀吉 「心配するな。あの明智が謀反を起こしたのじゃ。決して、討ち漏らしはない!」
黒田 「そうかもしれませんが・・・・・」
慎重な態度を示す官兵衛
家臣 「京より伝令!」
大声と共にざわつきが近づく陣幕の入口を見る秀吉と官兵衛。家臣達に抱えられた伝令が秀吉の前に倒れ込みながら赤いタスキを差し出す。
伝令 「京よりタスキ!」
ポンッと手を叩き満足した様に大きく頷く秀吉
黒田 「上様は間違いなく、自害された様です」
秀吉に頭を下げる官兵衛
秀吉 「安国寺を呼べ!」
家臣 「はッ!」
直ぐに先発隊として、石田三成には姫路までの駅を置いていた村々に炊き出しの用意と休憩所として街道沿いにある神社や寺、家の借り上げを進めさせる。村の者達は何事かと驚いたが、家賃も手間賃もみな相場の2倍。しかも、炊き出しの米は自分達も食べ放題と言うので交渉は直ぐに決まる。村の者達は田畑の作業を止め、休む間も惜しんで直ぐに炊き出しを始め、子供達も焚き木を拾い集める。
各陣地の幟や陣幕はそのままにして、毛利側には交代の為の移動と見せかけてゆっくりと移動させ、夜までに後詰めの撤退が完了する。集合場所は姫路城。早く帰った者はその分長く休む事ができた。
足軽1 「おいおい。今から姫路に向かえ、って、一体、何があったのだ?」
足大将 「戦略上の事は我らにも分からん。とにかく、姫路まで急げと言うだけだ」
足軽2 「まさか、毛利に背後を衝かれたとか?」
足大将 「要らぬ心配はするな!」
足軽2 「しかし・・・・・」
足大将 「その証拠に、街道沿いの村々で炊き出しをしているので飯は食べ放題だそうだ」
足軽3 「こ、米の飯が食えるのか?」
足大将 「そうじゃ。米の飯が食べ放題じゃ!!」
足軽達 「おお~」
足大将 「しかも」
足軽1 「しかも?」
足大将 「姫路城では酒も飲み放題!」
足軽2 「さ、酒も飲めるのか?」
足大将 「好きなだけ飲んでいいそうじゃ」
足軽3 「流石、羽柴様じゃ」
足軽1 「気前がええのう」
皆、祈る様に手を合わせて秀吉の振る舞いに感謝する。
足大将 「早く行かんと、他の部隊に食われてしまうぞ!」
足軽2 「それはいかん」
急いで帰り支度を始める足軽達
足大将 「急げ急げー!」
足軽達 「おおー!!」
姫路までの駅が置かれていた街道沿いの村々には秀吉が用意した大量の米を積んだ荷駄隊が控えている。次々と炊き上がる米や水を運ぶ男達。女達は米を握り、借り上げられた休憩所に並べる。当然、村人達も握り飯を好きなだけ食べられるし手間賃は倍、僅か2日か3日の事である。皆、喜んで作業をしている。文句を言う村人は一人もいない。
子供 「握り飯じゃー!握り飯じゃー!」
子供達が両手に握り飯を持って嬉しそうに走り回っている。
しかし、全ての家で米を炊いても一つの村で炊ける米の量は知れている。3千から4千人分を炊き上げるのが精一杯である。一度に2万人分もの食事を用意できる村や町は無い。しかし、今回は規則正しく並んでの行軍とは違う。編成や部隊は関係なく、姫路を目指す各自体力次第の撤退である。朝から晩まで、1日中ゾロゾロと足軽達が村々を通過するので決められた時間に決められた量の食料を揃える必要は無い。その為、話を聞きつけた近隣の村々から持ち込まれる握り飯や総菜も秀吉は全て買い取り、2万人分と言う信じられない量の食料を確保しようとするが、それでも次々と引き上げて来る兵の数に量が追いつかない。
足軽1 「飯!飯をくれ!」
村人 「米を炊くのが間に合いません。先程用意した握り飯はもうありません」
足軽2 「では、水だけでもよい」
桶にある水を柄杓で掬って飲む足軽達
将兵 「今、この村に握り飯は無い!握り飯が食いたい者は次の村まで急げ!」
足軽3 「次の村か~」
ぐったりする足軽達
足軽4 「次の飯が出来るまで待つかな~」
将兵 「何を言っとるか!走れ走れ!姫路では酒が待っとるのだぞ!」
足軽1 「やはり、それが一番じゃな」
足軽2 「仕方が無い。次の村まで行くか」
足軽3 「早く酒が飲みたいしな」
足軽4 「次の村では炊き立ちの米が食えるかもしれんし」
将兵 「そうじゃそうじゃ。元気を出せ!」
足軽1 「よ~し。もう一息、頑張るか!」
互いに励まし合い、次の村を目指す足軽達
秀吉は直ぐにでも引き返したい高鳴る気持ちを抑え、その日の内に和睦の為の最後の話を進める。
秀吉の本陣へオロオロとしながら赴く安国寺恵瓊。
秀吉 「安国寺殿、待っておったぞ」
安国寺の到着を待ち切れなかったとばかりに迎える秀吉
恵瓊 「羽柴様。急な呼び出し、一体、どうされました」
秀吉 「喜べ。上様の許しが下りた」
恵瓊 「おお~。待ち望んだ上様の下知。それで」
秀吉 「城兵の助命を認める」
恵瓊 「じょ、助命が認められたのですか!」
秀吉 「城兵の皆殺しはワシも望んでおらん。上様を納得させるのに往生したぞ」
如何にも、信長か生きているかの様に振る舞う秀吉
恵瓊 「清水様が最も懸念とされていた城兵の助命が・・・・・・」
思わず涙を零す恵瓊
秀吉 「それともう一つ、嬉しい報せがある」
恵瓊 「助命の他に、もう一つ嬉しい?」
秀吉 「5ヶ国の割譲と言っておったが、3ヶ国で良いそうじゃ」
恵瓊 「ご・・・・・・・・」
驚きで言葉が続かない恵瓊
秀吉 「これにもワシは苦労した」
ぐったりとした様子で恵瓊を見る秀吉
恵瓊 「し、信じられません。この様な大幅な譲歩。あの、あの織田様が・・・・」
秀吉 「それもこれも、ワシの努力の賜物じゃ。感謝せいよ」
信長は既に死んでいるので、条件は秀吉の思うままである。しかし、それを恩着せがましく言う秀吉
恵瓊 「ははッ!この安国寺。大殿に代わり、羽柴様に感謝致します!」
秀吉 「ただな」
恵瓊 「ただ?」
秀吉 「ワシにも、どうしようもなかった事が一つあるのじゃ」
恵瓊 「どうしようもなかった事とは?」
秀吉 「清水殿の切腹じゃ」
恵瓊 「うッ!」
秀吉 「この点だけは上様も譲れん、と言って、ワシにもどうしようもなかった」
恵瓊 「しかし、それは、羽柴様の責任では御座いません」
秀吉 「ワシの力不足じゃ。申し訳ない」
恵瓊に頭を下げる秀吉。慌てる恵瓊
恵瓊 「め、滅相もありません。羽柴様が私に頭を下げられる事はありません」
頭を下げたまま上目使いに恵瓊の様子を見る秀吉
恵瓊 「開城に際し、敗軍の将が腹を切るのは常識。城兵の助命が認められただけでも有難い事です」
秀吉 「では、この条件で清水殿との交渉、お任せしてもよろしいか?」
恵瓊 「はい。勿論で御座います。早速、清水宗治に伝えて参ります」
秀吉 「そうしてくれ。許しを出したとは言え、上様は気まぐれなお方じゃ。上様の気が変わらぬ内に、急いだ方が良いぞ」
恵瓊 「ははッ!」
念を押す秀吉。直ぐさま船に乗り高松城へ向かう恵瓊。
本陣から眺める秀吉と黒田
秀吉 「清水は直ぐに受け入れると思うか?」
黒田 「はい。清水様は家臣思いと聞いております。城兵の助命を出せば、間違いなく」
秀吉 「和睦を急ぐとは言え、急に大幅な譲歩をすれば警戒されるからな」
黒田 「清水殿の切腹は妥当かと」
秀吉 「うん。だが問題は、毛利が何時、明智の謀反を知るかじゃ」
黒田 「警備を増やしたとは言え、国境を全て監視する事は出来ません。毛利への伝令は必ず手薄な場所を見つけ、知らせを届けます」
秀吉 「早馬を引き継いで昨日の今日じゃ」
黒田 「毛利に伝わるのは早くて明後日、5日かと」
秀吉 「すると清水には、明日にでも腹を切ってもらわねばならんな」
黒田 「はい」
湖上の高松城へ着く恵瓊
恵瓊 「清水様!清水様!」
清水 「安国寺殿。慌ててどうされた?羽柴殿から、何か、新しい提案でも?」
恵瓊 「やっと、織田様の許しが下りたそうです」
清水 「そうか。良かった。やっと織田様の許しが下りたか。して、その内容は」
恵瓊 「城兵の助命は勿論、領土の割譲も3ヶ国でいいそうです」
清水 「城兵の助命が認められたか。それは良かった」
恵瓊 「羽柴様が織田様に掛け合って下さいました」
清水 「羽柴殿には感謝せねばな」
恵瓊 「唯、残念な事に、清水様の切腹だけは譲れぬそうです」
清水 「気にするな。ワシの命が城兵の助命と2ヶ国に相当するのなら大した物だ。喜んで御受けしよう」
恵瓊 「しかし、大殿は5ヶ国を渡してでも、清水様の切腹を回避しようとしています。開城の判断は任されているとは言え、勝手に切腹を受け入れるのは」
清水 「敵に食料を恵んでもらわねばならぬ程、我らは窮地に瀕しておる。ワシ一人の命に拘り、これ以上、多くの城兵を苦しめる訳にはいかん」
恵瓊 「清水様・・・・・・」
清水 「安国寺殿。この事は、ワシが腹を切るまで、大殿には黙っていてもらいたい」
恵瓊 「承知いたしました」
涙を零し、頭を下げる恵瓊
恵瓊は急いで宗治の同意を秀吉に報せる。
秀吉 「そうか。清水殿は受け入れたか」
恵瓊 「城兵の助命が第一と」
秀吉 「流石、毛利殿が5ヶ国を掛けるだけの武将じゃ。この秀吉。清水殿のご決断に感銘いたしました」
手を目に押し当て泣き真似をする秀吉。それを見て、恵瓊も下を向き、涙を流している。
秀吉 「で、切腹を何時するか、じゃが」
急に態度を変え、冷ややかに恵瓊に問い掛ける秀吉
恵瓊 「清水様も織田様の気が変わらぬ内にと、明日の朝、羽柴様の本陣からも見える様に船上において腹を召されるそうです」
秀吉 「そうか!明日の朝か」
嬉しそうに恵瓊に確認する秀吉
恵瓊 「はい。少しでも早く、城兵を開放してやりたいと」
秀吉 「見事!天晴れである!」
恵瓊 「ははッ!」
秀吉に平伏する恵瓊
官兵衛を見ながらほくそ笑む秀吉。ゆっくり頷く官兵衛
恵瓊は明日、清水の最期を見届ける為、再び湖上の高松城へ向かう。
秀吉 「これで、一先ず片付いたな」
黒田 「いえ、まだ、最も肝心な毛利の引き上げが残っております。明智様の謀反を知った毛利の撤退を確認するまでは気が抜けません」
秀吉 「しかし、和睦は成立したのじゃ。もうワシらは居らんでもよかろう」
黒田 「例え、小早川が我らに内通しているとはいえ、最後まで信用はできませんぞ」
秀吉 「陣払いをしている我らを襲うと言うのか?」
黒田 「小早川はそこまで下劣ではありません」
秀吉 「では、吉川か?」
黒田 「吉川元春は毛利家随一の智将。小早川も吉川も、既に、我らが撤退を始めた事に気が付いている筈です」
秀吉 「今は戦略上の移動と思っているのであろうが、問題は、明智の謀反を知ってどうするか、じゃな」
黒田 「はい。小早川が吉川を押さえられるかどうかにかかっています」
険しい表情の官兵衛。大きく溜め息をする秀吉
秀吉 「お前は小早川に会った事があるか?」
黒田 「はい。何度か」
秀吉 「うん・・・・・・・・・」
黒田の返事に頷き考え込む秀吉
秀吉 「よし。ではこの際、奴の心をしっかりと掴んでおくか」
黒田 「褒美を増やしますか?」
秀吉 「褒美で寝返る者は褒美次第で簡単に裏切る」
黒田 「では、何をされます?」
秀吉 「今から小早川の本陣へ行く」
黒田 「今から?」
秀吉 「そうじゃ」
黒田 「今からだと、夜中になりますぞ」
秀吉 「時が惜しい」
黒田 「し、しかし・・・・・・・で、誰が?」
秀吉 「ワシじゃ」
黒田 「と、殿が?」
秀吉 「ワシの使者として赴くお前の家来として付いて行く」
黒田 「・・・・・・・・・」
全く予想も出来ない秀吉の行動に言葉を失う官兵衛
黒田 「し、しかし、幾ら何でも、殿、自らが・・・・・・・」
秀吉 「我らが撤退する理由を小早川に話す」
黒田 「どの様な理由を述べられるのですか?」
秀吉 「正直にそのまま話す」
黒田 「明智様の謀反を、ですか?」
さらに驚く官兵衛
秀吉 「つまらん言い訳は直ぐにバレる。そうなると、ワシを疑う様になる」
黒田 「小早川は信じるでしょうか?」
秀吉 「その為にワシが行くのじゃ。どうせ幾ら隠しても、2,3日の内には毛利にも知られる事になる。その前に、小早川に教える」
黒田 「しかし、内通しているとは言え、この様な大事。好機として小早川は毛利へ知らせるのではありませんか?」
秀吉 「いや、その逆じゃ」
黒田 「えッ?」
秀吉 「これ程、我らにとって不利となる情報は無い。そんな信じられない情報を直接ワシから聞くのじゃ。お前なら、どう思う?」
黒田 「いくら何でも、それは・・・・・・・」
秀吉 「敵の大将が来るのじゃ。その場で捕えれば大手柄。しかも、不利な情報の提供。これは、完全に自分を信じているからこそ出来る事」
黒田 「自分が試されていると?」
秀吉 「信用を得ようと思えば、先ず、此方から信じてやる事じゃ」
黒田 「しかし、上様は、それで何度も裏切られています」
秀吉 「行動で示さねば思っているだけでは伝わらん。上様は要領が悪かっただけじゃ」
黒田 「分かりました。では、直ぐに手配します」
秀吉 「急げ」
黒田 「はッ!」
小早川の本陣へ『黒田が会いたい』と言って使者を送り、了承が得られたので秀吉を伴って小早川の本陣へ向かう黒田
家臣 「殿。黒田殿が参られました」
隆景 「通せ」
黒田と家臣に扮した秀吉が小早川隆景の前に通される。
黒田 「小早川様、お久しゅう御座います」
隆景 「これは黒田殿。この様な夜分に失礼ではありませんか?」
黒田 「失礼は重々承知の上」
隆景 「余程の事がおありの様で」
黒田 「左様」
隆景 「で、一体、どうされました?」
床几に座ったまま優越的な態度で余裕を持って官兵衛に臨む隆景。後ろからついて来ていた家臣と思われた男の後ろに回り跪く官兵衛。その行動に怪訝な顔をする隆景
黒田 「羽柴、秀吉様で御座います」
頭を下げる官兵衛
隆景 「えッ!」
思わず立ち上がり呆然とする隆景
秀吉 「あ~、構わん構わん。そのままそのまま。小早川殿に会うのは初めてであったな。突然来たのじゃ。驚くのも無理はない」
平然とした態度の秀吉に小早川は圧倒される。スタスタと小早川に近づき、座っていた床几を引き寄せ上座に置き勝手に座る秀吉。自分の座る床几を無くし戸惑う隆景。官兵衛と共に並んで秀吉の前に立つ。
秀吉 「先ずは、人払いをしてもらいたい」
隆景 「あ・・・・・は、はい」
自分の家臣達を遠ざける隆景。官兵衛も一緒に陣幕を出る。周りを見渡してから小早川をジッと見る秀吉
秀吉 「小早川殿も、既に、我らの行動に気が付いておられよう」
隆景 「私には撤退をしている様に見えるのですが」
秀吉 「その通り。京へ向かっておる」
隆景 「京へ?」
秀吉 「一日も早く帰らねばならん」
隆景 「京で何かあったのですか?」
秀吉 「上様が殺された」
隆景 「えッ!」
思わず声を出して再び驚く隆景
秀吉 「明智光秀の謀反じゃ」
隆景 「そ、その様な大事を、何故、私に?」
これまでに集めていた色々な情報を頭の中で整理する隆景。
何も言わず、小早川をジッと見ている秀吉。
街道沿いの村々に駅を置き、毎日行き来する早馬。駅に控える荷駄隊。籠城中の清水に対する食料の提供。和睦条件の緩和。それら不自然な行動全ての答えが出た。小早川の頭の回転は速い。
秀吉 「ワシも明日、京へ向かう。後は、よろしく頼む」
小早川の返事を待つ事なく床几を立ち、黒田を従え小早川の本陣を出て行く秀吉。不思議そうに見送る小早川の家臣達。秀吉が出て来ると同時に本陣の周りに松明が一斉に灯される。
家臣1 「い、何時の間に・・・・・・・」
家臣2 「見張りは何をやっておった!」
恐怖に襲われる家臣達
小早川の本陣は羽柴勢に囲まれていた。
慌てて隆景の元へ集まる。
家臣1 「殿!」
家臣2 「殿!」
隆景 「・・・・・・・・・・」
黙ったまま立ち尽くしている隆景。
隆景 「全て、計算済みと言う訳か」
大きく溜め息をする。
隆景 「では、ワシが採るべきこの後の行動も・・・・・・」
夜空を見上げる隆景
隆景 「黒田殿といい宇喜多殿といい、早々と羽柴殿に臣従する筈じゃ」
諦めの薄笑いをする隆景
家臣達 「殿?・・・・」
不思議そうに隆景を見る家臣達
隆景 「いずれ、天下を獲るのは、あの男かもしれん」
秀吉の帰った後をジッと見る隆景
隆景 「ワシも、あの男に賭けてみるか」
納得したかの様に頷く隆景。顔を見合わせる家臣達
6月4日早朝、高松城主、清水宗治は水攻めの湖上に浮かべた船上で切腹する。
と同時に、羽柴軍が一斉に撤退を始める。その様子を眺める小早川。
隆景 「これ程、大胆とは思わなんだ」
家臣1 「我らの撤退を待たずに陣払いとは、羽柴の気が知れません」
家臣2 「殿!これぞ絶好の好機。一気に追い打ちを掛けましょう」
隆景 「それはならん。和睦は既に成立しておる。腹を切った清水殿に恥をかかせるな」
家臣3 「しかし、このまま黙って行かせるのは」
隆景 「和睦後の追い打ちは大殿の名を汚す事にもなる。周りの諸将にも一切手を出すなと伝えよ」
家臣達 「はッ!」
家臣1 「しかし、吉川様が納得するでしょうか」
隆景 「吉川殿にはワシから直接話す」
家臣2 「承知しました。直ぐに手配いたします」
吉川の本陣へ向かう小早川
慌ただしく陣払いをする羽柴軍
秀長 「官兵衛殿。本当に殿は必要ないのか?」
黒田 「心配ご無用に御座います」
秀長 「自信じゃのう」
黒田 「殿の人心掌握術には常々感心させられます」
秀長 「昨夜、出掛けていた様じゃが、何処へ行っておった」
黒田 「小早川の本陣へ」
秀長 「小早川に何をした?」
黒田 「明智様の謀反を報せました」
秀長 「はあ?」
黒田 「殿の行動は我々の理解を超えております」
秀長 「何を考えとるのじゃ、全く」
黒田 「私も驚きました」
秀長 「その場で捕えられたらどうするつもりじゃ。信じられんのう、兄者の行動は」
黒田 「天下人になられるお方ですから」
黙って頷く秀長
秀吉の全軍が西国街道を姫路に向かい一斉に駆け出す。