表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智光秀  作者: tosahime
11/18

第11話・近江・安土

pixivに投稿した作品を修正・加筆したものになります。本能寺の変前後の1ヶ月を全18話にしました。


第11話・近江・安土


6月5日、何の抵抗も受ける事無く安土城に入った光秀は城内の探索を命じ天主に向かう。一歩一歩踏み占める様に天主の階段を上る光秀。

光秀 「明智光秀、参りました」

まるで、そこに信長がいるかの様に声を掛け、恐る恐る最上階を覗き見る光秀。

光秀 「上・・・様・・・・・」

湖面の反射に照らされた天主最上階は静寂に包まれていた。

信長 「光秀か。どうした?」

何時もと変わらない信長の声が聞こえた気がした。しかし、信長が居る筈の場所には誰もいない。床の間にバテレンから贈られた地球儀が置かれている。ゆっくり近づき、クルクルと地球儀を回す光秀。

光秀 「唐入りか」

明で地球儀をピタリと止める光秀

光秀 「バテレンめ。旨い事を言って我らと明国を戦わせ、弱ったところを掬い獲るつもりでいたのであろうが、上様がそんな事に気が付いていなかったとでも思っているのか!」

勢いよく地球儀を回す光秀

光秀 「明国と我が国とでは大きさが違い過ぎる。唐入りなどすれば、国が滅びる」

上座に向かい座る光秀。ジッと上座を見る目に涙が溢れて来る。

光秀 「私は、大変な事をしてしまった」

信長に代わり天下人になった光秀は、喜びよりも後悔に苛まれていた。

光秀 「私は、これから、どうすればいいのだ」

虚しさが覆いかぶさってくる。

光秀 「ふッ。はは。ははははッ・・・・・はは・・・・」

笑いながらも涙が止まらない光秀

光秀 「上様。申し訳ありません!」

床に額を押し付け平伏する光秀。

秀満が上がって来る。気配に気付き、平静を装い振り返る光秀

光秀 「城内の探索はどうであった」

秀満 「その事ですが、驚くべき事が」

光秀 「驚く?」

秀満 「とにかく、此方へ御出で下さい」

何事かと思いながら秀満に付いて行く光秀

秀満 「驚かれますな」

天主2階の襖を開ける秀満

光秀 「おォ!」 

驚嘆し目を見開く光秀

光秀 「こ、これは・・・・・・・」

秀満 「下の階にもまだあります」

そこには、何も無いと思っていた多くの金銀と寺社から強制的に差し出させた寺社宝の数々がそのまま残されていた。

秀満 「敵に役立つ物は残さない。撤収の鉄則です。それなのに、城に火も放たず、しかもこれら数々。理解できません。余程、慌てていたのでしょうか」

光秀 「そうではない。これだけの物を運び出すには人手と手間が掛かる。御台様の事じゃ。宝物よりも家臣達の命を優先させたのであろう」

秀満 「流石は御台様。潔いですな」

光秀 「うん。だが、我らには有難い事じゃ」

光秀は直ぐに宝物の目録を作らせ、所有がはっきりしている物は社寺へ連絡をして回収に来させる。連絡を受けた社寺は光秀の判断に驚き、信長に徴収され諦めていた宝物の返却に感謝する。


6月6日、各寺社の僧や宮司は光秀の気が変わらない内にと宝物回収の為、朝から安土城へ押し駆け、返却待ちの長い行列が出来る。

「お礼を申し上げたい」と寺社は願い出るが、光秀は丁重に断る。

天主最上階から安土の城下を見渡している光秀。

光秀 「上様は、何時もここから何を見ていたのだろう」

信長と同じ景色を見ている筈なのに、信長が見ていたであろう景色が自分には分からない。

光秀 「天下布武、か・・・・・」

秀満が慌てて階段を駆け上がって来る。

秀満 「殿!!」

光秀 「どうした慌てて。何かあったのか?」

秀満 「昨日、大坂城代、津田信澄様が殺されたそうです」

光秀 「信澄殿が?・・・・・で、誰に?」

秀満 「信孝様と丹羽様です」

光秀 「何故、味方を討つ?」

秀満 「恐らくは」

光秀 「ワシの娘が信澄殿に嫁いでいるからか?」

秀満 「あらぬ疑いを掛けられたものかと」

光秀 「何とも気の毒な」

秀満 「さぞ、御無念だったと思います」

光秀 「・・・・・・・・・・・・」

ジッと琵琶湖を見る光秀 

秀満 「殿?」

光秀 「ワシは、大きな間違いをしたのかもしれん」

秀満 「と、申されますと」

光秀 「安土に誰もいない事は分かっていた。柴田も羽柴も直ぐには動けん。安土は始めから秀満に任せ、ワシは大坂へ向かうべきだったのではないか、とな」

秀満 「しかし、あの時、信孝様は2万の兵を率いています」

光秀 「信孝様に与えられたのは統治を始めたばかりの伊賀衆。戦意など初めから無かったのだ」

秀満 「確かに。今、大阪に残っている兵は信孝様と丹羽様の3千から多くて4千」

光秀 「ワシが直接、大阪へ向かっていれば、未だに態度を表明していない摂津の高山や中川もそのままワシの従い、信澄殿も死なずに済んだのではないかと思うのだ」

秀満 「弱気な事を。それは、今だから言える事であって、あの時点では分かりません。もしかすると、高山や中川は、殿が兵を率いて向かうと籠城していた可能性もあります。そうなると、我らは動きが取れなくなります」

光秀 「そうじゃな。確かにそうじゃ。しかし・・・・・」

秀満 「迷われますな!」

光秀 「ふッ。迷われますな、か・・・・・ふふッ、ははははッ!」

突然、笑いだす光秀

怪訝そうに光秀を見る秀満

光秀 「斎藤にも同じ事を言われたわ」   

秀満 「斎藤殿に?」

光秀 「どうやら、一番、覚悟が出来ていないのはワシの様じゃ」

秀満 「殿?・・・・・・・・」

どことなく虚ろな表情だった光秀の表情が変わる。

ハッキリと前を見る顔に聡明さが戻る。

光秀 「明日、ワシは坂本へ帰る。安土は任せたぞ」

秀満 「はッ!」


6月7日、何時まで経っても挨拶に来ない光秀に痺れを切らした朝廷は吉田兼見を勅使として遣わす。

坂本へ帰る準備を進めている光秀

秀満 「殿。京より吉田様が訪ねて来られましたが」

光秀 「吉田殿が?」

秀満 「殿がなかなか挨拶に来ないので、不安でならないのでしょう」

光秀 「取り敢えず会わねばなるまい。直ぐに参る」

秀満 「はい」

安土城御殿内

光秀 「お待たせいたしました」

吉田を上座に座らせ、自らは下座に座る光秀

公家を下座に座らせた信長に対し、同じ御殿内で全く反対の対応をする光秀

吉田 「これは明智殿。この度の快挙、まことに、おめでとうございます!」

光秀 「わざわざお越し頂き、ありがとうございます」

吉田 「坂本にいると聞いて来たのですが、安土へ向かったと言うので此方へ来てみれば、なんと、既に安土を押さえ、僅か4日で近江を平定しているではありませんか。いや~、驚きましたぞ。天晴れ!天晴れ!」

光秀 「いえ、それ程では」

吉田 「それにしても見事な勝ち戦。流石は明智殿じゃと、都でも大評判です」

光秀 「それはそれは、恐れ入ります」

吉田 「所司代と織田の将兵を使って京の治安維持をするなど、この様な事は明智殿にしか出来ません。明智殿こそ、天下人に相応しいお方。ここは、一日も早く、京へ帰られ、参内して頂きたい。皆、首を長くして待っております」

光秀 「私も、近江を押さえてから京に帰ろうと思っていたところでです」

吉田 「それは良かった。では早速、京へお戻り下さい。我ら一同、心待ちにしております」

光秀 「公家衆の喜び様は、これらの書状を見れば一目瞭然です」

書状の束を吉田に見せる光秀

吉田 「こ、これは・・・・・」

驚く吉田

光秀 「今日だけでも、これだけの書状が私の元へ届いております。上様を討った事を公家衆が嬉しく思うのはよく分かります。そして、少しでも私の味方を増やそうと思ってしてくれているのもよく分かります。しかし、この様な気遣いは今後、一切、止めて頂きたい」

吉田 「な、何の事ですかな?ほほ・・・・ほ、ほほほほッ」

扇子で口を隠し笑って誤魔化す吉田

吉田 「それはそうと明智殿。帝も今回の明智殿のお働きに感銘なされ、三職を推認されております。官位は明智殿の思いのまま。明智殿は土岐源氏の血を継いでおられるとか。いっそ、征夷大将軍になられては如何ですか?」

光秀 「それは有難き幸せ。いずれ、参内の折に」

吉田 「そうしてもらえると我らも助かる。では、一刻も早く京へお戻りを」

光秀 「今日、坂本へ帰りますので、明日にでも」

吉田 「おお、それが良い。私はこれより直ぐに京へ戻り、この事を皆に知らせておきます」

光秀 「これからとは、また、急な」

吉田 「いやいや。この様な事は少しでも早く知らせた方が良いかと。では、一足先に、失礼仕る」

光秀 「お気を付けてお帰り下さい」

慌てて御殿を出る吉田。入れ替わりで秀満が部屋に入って来る。

秀満 「吉田様は何と」

光秀 「ワシに三職推認だそうじゃ」

秀満 「まさか、殿が将軍様になられるとか」

光秀 「公家どもは、余程ワシを手懐けたいと見える」

秀満 「公家達は官位さえ与えれば喜ぶと思っていますからな。それで、受けられるのですか?」

光秀 「推認を断った上様の気持ちがよく分かる。今更、将軍に何の価値がある?義昭様がいい例じゃ」

秀満 「義昭様は未だに将軍職にしがみついて手放そうとしませんからな」

光秀 「取り敢えず、明日、京へ向かう。安土にある金銀は全て坂本へ持ち帰り、銀は朝廷と5山に献上する」

秀満 「銀を全てですか?」

光秀 「ここに置いておいても、仕方あるまい」

秀満 「では、早速、準備を」

夕刻、坂本城へ帰った光秀は当日までに届いている情報を確認する。しかし、これと言って表立った動きは無かった。


6月8日早朝、安土に千、坂本に2千を残し、6千の兵と共に京へ向かう光秀。京に7千を残していたので京における明智軍は1万3千になる。

吉田から光秀が8日に京へ帰ると聞いていた公家達が大挙して光秀を迎えるため三条大橋に集まっている。中には、少しでも早く光秀に媚びを売ろうと粟田口で待つ公家もいる。行軍中、その様子を知った光秀は出迎え不要の連絡をする。しかし、他の公家に負けまいと出迎えに集まる公家達は増える一方である。

物見が光秀の元へ駆け付ける。

物見 「申し上げます!」

光秀 「どうした?」

物見 「三条大橋から粟田口にかけ、街道は出迎えの公家と見物人で溢れています」

臣1 「出迎え不要と言っておいたのに」

臣2 「どうします。道を変えますか?」

光秀 「いや。このまま京へ入る。皆の期待を裏切る訳にはいくまい」

臣達 「はッ!」

光秀 「それと、集まってくれた公家衆の名取りをしておいてくれ」

臣1 「全員ですか?」

光秀 「一人も聞き洩らすな。皆、ワシからの褒美目当てで集まって来たのじゃ。それに応えてやらねばなるまい」

臣2 「畏まりました」

粟田口に差し掛かる光秀。光秀に気付いてもらおうと手を振り、扇子を振る公家達

臣1 「いや~、それにしても、驚きましたな、この数」

臣2 「京にこんなにも公家がいたとは・・・・・・」

馬上で一切脇見をせず進む光秀

光秀は歓喜する出迎えの中、宿舎にした妙覚寺に向かい、午後、参内する。

宮中での歓待と公家達の喜び様に驚く光秀。何とか光秀に取り入ろうとする公家達が次々に周りに集まって来る。

信長は朝廷の体裁を維持する献金をしていた。しかし、それは、あくまでも名目上の行いであって、朝廷を敬っての事では無い。信長は天皇こそ否定しなかったが、形式ばかりの朝廷行事には批判的で平気で無視した。当然、公家の存在や官位、役職にも冷ややかで、公家に対する遠慮や献金は一切しなかった。その為、危機感を持っていた公家達は、朝廷や公家に理解のある光秀の登場を救世主の様に受け取る。宮廷内で公家達に囲まれ身動きが取れない光秀。家臣達が公家を押し退け、何とか控えの間に辿り着く。うんざりとした表情の光秀

臣1 「それにしても、公家達の喜び様には参りましたな」

臣2 「あれでは、まるで餓鬼ではありませんか」

臣3 「これからが思いやられますぞ」

光秀 「まあ、そう言うな。公家達の気持ちが分からんでもない」

臣達 「はあ」

呆れて言葉も出ない家臣達

しかし、その後、誰も予想さえできなかった信じられない情報が光秀の元へ届く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ