序節
S英社ス◯パーダッ◯ュ大賞にて最終4作品までの絞り込みに耐えた本作。
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第一典の途中までを掲載します。
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人気のない街道。
黒い霧が渦を巻いて立ち上り、やがて空に溶けるようにして消えていく。
辺りを包むのは静寂と血の色の黄昏……
その中で一人の男がただ黒い霧が消えゆくのを睨み据えていた。
異様な風体の男だ。
身長はかなり高く、その半身をマントで覆い、背に鎖で雁字搦めにされた棺らしき箱を背負っている。
どこか不吉さを感じさせるその姿は、仄暗い夕日に染め上げられ、さらに不気味さを増していた。
やがて黒い霧は消え、生暖かい風が男の長い髪と額に巻いている布の端を微かになびかせる。
「……臭うな」
男は風上に目をやり呟く。
「休む暇も無しか……まあ、それもいい」
男は鋭い眼光はそのままに口元だけで笑みを浮かべる。
「立ち止まるのは性に合わねえ……」
男はその身を翻し歩き始める。
その背は遠ざかり、やがて紅の闇に消えていった。
古の昔
世は戦火で覆われ、
人々は貧困と病魔にあえぎ
影に腐敗が澱み
闇に強大な魔が潜む
暗黒の時代があった……
人々はその中で何を思い生きたのか。
これは歴史の闇に埋もれた
語られぬものたちの足跡……