思い出の場所
「よし、ここだここだ」
誰かに解体されてないかと少し心配したが、秘密基地はまだ残っていた。
中に入ると、そこにはごみ捨て場で見つけた椅子やテーブル、絨毯、毛布などがあった。
専用に買ったが今はボロボロの懐中電灯や時計もあった。これらはもう動かないだろう。
(ああ、この感じ、思い出のままだ)
ここにいると、なんだか小学生の頃に戻ったかのような懐かしい気持ちになってくる。
中は結構広く、奥の方は皆が持ち込んだ玩具やら漫画やらの置き場にしていたが、それは今は置かれていない。
(まあ俺も私物は回収したし、皆も回収したんだろうな)
そしてその場所には、ダンジョンへの入り口があった。
「……」
…さて、中の様子を一度振り返ってみよう。中にあったのはごみ捨て場で見つけた椅子やテーブル、絨毯、毛布、ボロボロの懐中電灯や時計、そして玩具や漫画は回収されていて代わりにダンジョンへの入り口が―――
「ん?」
壁に開いた大きな穴、それだけならただの穴だが、その先はピンク色のもやがかかっていて見えない。
現実離れしたその特徴は明らかにダンジョンへの入り口である。
しかし、ダンジョンというものはこうも野晒しにされているようなものではない。
全てのダンジョンは国によって管理されていて、周囲には買い取り所があり、入り口付近には見張りがいる。
新しく発生するなどの話も聞いたことがない。
(まさか、本当に誰にも見つからなかったのか?)
スマホで近くのダンジョンを検索する。その結果によるとここから半径1キロ以内にダンジョンは無いとされていた。
もしもこの2年間、誰もここへ立ち入らずに見逃されていたとしたならば、この状況に説明がつく。
しかしそんなことがあり得るだろうか。資格を持たない人がダンジョンへ立ち入らないように世界中の隅々までが調査されたと聞いているが、それでも見つからなかったというのならばもはや気味が悪い。
さて、今はどうするべきだろうか。これに関する対処法は知らないが、とりあえず親とダンジョン取締役会に連絡するか?
そうだな。それが正しい。
『…ッテ』
「ん?なんだ?」
『マッテ』
どこからか声がする。
『セッカクダカラ、ハイロウヨ』
誰だ?そして何をいってるんだ?
『オイデ、キミハイイモノヲ、モラエルヨ?サア』
…
…声が止んだ。何だったんだ今のは。わけがわからない。
しかしなぜだろう。今の声を聞いてから無性にダンジョンに入りたい気持ちになってきた。
(なんだか、ダンジョンに呼ばれている気がする)
入ろうか?いやダメだ。俺は未成年でダンジョンに入る資格がない上に、あったとしても手順を踏まずに勝手に出入りするのは犯罪である。
ましてやこれは何の情報もないダンジョン。ただでさえダンジョンは危険な場所なのに難易度も未知数。
そこへ何の考えもなしに入るなど、頭がおかしいとしか言いようがない。
やはり連絡しよう。そしてここは新しいダンジョンとして認定されて、それで―――
*
「ここだよ。ほら」
「へぇー。こんな所よく見つけたな。秀一」
小学五年生の時、友達である3人をこの場所へ連れてきた時のこと。
「秀一!本当にここなら大丈夫なんだよね!もう取られたりしないんだよね!」
「いや、鉄美、流石にそこまでの自信はない。けどそう簡単には見つからないと思うぞ」
「十分十分。史恵はどう思う?」
「…別に。秘密基地作ろうって言ったの皆だし」
「史恵ちゃん、もうちょっと興味もとうよ」
「というか、そもそもここは何に使われてた場所なの?見ただけじゃ見当つかないんだけど」
「まあまあ史恵、細かいことは気にするな」
あの頃は、ここが誰かの私有地だったとしても、見つかれば謝ればいいぐらいに考えていた。
危険じゃなかったからか?
否、そんなことは気にしていなかった。
「それにしても、ここ本当にいい場所だよね。姉ちゃんにだけでも自慢しちゃダメかな?」
「ん~?巧真~?」
「わかってる!わかってるよ鉄美!冗談冗談!ちょ、首絞めるの無し!」
「秀一、ちょっとビリビリボールペン貸して」
「わかったから!それはマジでやめて」
「一応聞くけど、史恵も誰かに言ったりしないよな?」
「そりゃあね。私としては別にいいんだけど、みんなとの秘密をバラすような趣味はないからね」
「全く、もうちょっと素直になれよ」
「はいはい」
「じゃあ、さっそく作ろう。俺達の秘密基地を」
*
ここは俺達の秘密基地。皆で過ごした思い出の場所。
もし通報すればこの場所は国に管理されることになる。
そうなれば当然秘密基地は解体され、二度と秘密基地にすることはできない。
あの頃、没取されないようにとせっかく見つけた俺達だけの場所。それを本当に手放していいのか?
…なんて、小さい子じゃあるまいし、我儘を言っていい状況ではないことはよくわかっている。
けど、もしそうなったら――――
――――凄く寂しい…
…少しだけ、入ってみようか。すぐに出れば危険もないだろうし、ステータスを得るぐらいなら黙っていればわからない。
少しだけなら…