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平凡?な高校生とダンジョンのある世界

 俺の名前は万野秀一(まんのしゅういち)。16歳で高校一年生だ。


 今は学校終わりに、一人でのんびりと下校している最中である。


 突然だが、この世界にはダンジョンが存在する。


 ここは地球、そして日本であるが、2年程前に突然、世界中にダンジョンが発生した。


 当時は世界中が大パニックになったが、現在はなんだかんだで社会はダンジョンのある世界に順応した。


 ダンジョンのモンスターだとか、ステータスやスキルだとか、ドロップアイテムだとか、それによる社会への影響などについても説明すべきなのだろうが、長くなるので省略する。


 よくあるファンタジー作品のジャンルの一つ、「現代ダンジョン系」の世界観を理解できるならばそれでいいだろう。


 未成年は禁止されているためダンジョンに入ったことはないが、俺はニュースやらネットやらである程度の知識は身に付けているつもりだ。


 そう言うわけでこの世界はゲームのような世界になったわけだが――――


 ―――ところで貴方はゲームの世界に憧れたことはないだろうか。


 現実の世界では上手く行かないことばかりで、ゲームの世界に逃げてしまいたいと思ったことはないだろうか。


 そんな人達からすれば、現代ダンジョンは天国のような世界――――などと期待していた人もいたらしいが、そんな都合のいい話などある訳がなかった。


 そりゃそうだ。よく考えればわかると思うが、ゲームの世界で主人公が旅に出て、仲間とともに強くなり、悪の組織を壊滅させ、そして世界最強になる。そんなことが可能なのは、頑張れば攻略できるようにゲームが設計されているからだ。


 もしもゲームの世界に転生したとして、ただのNPCになってしまえば意味がない。


 運良く主人公になることができれば成功者になれるのかもしれないが、それは現実世界で天才として生まれるのと大差ない。


 "ゲームの世界に行って無双したい"は"天才になりたい"を言い換えているだけに過ぎないのだ。


 そう考えると、ゲームも現実も世知辛い世界であることは変わらない。


 そしてこの世界も似たような物だ。富や力を求めてダンジョンの探索者になる人はもちろんいるが、それは皆同じである。


 ダンジョンに踏み入れればステータスを得られるが、その程度のことでゲームの主人公、勇者のような唯一無二の存在になれたりはしない。


 初期のスキルの数やパラメーターの高さに恵まれ、通常と差別化できる要素を持つ人もいるが、それでも上には上がいる。


 その上を目指して努力し、レベルを上げ、有名な探索者になる人もいるにはいるが、それはダンジョンの無い世界で努力して出世するのと何が違うのだろうか。


 やはり元の世界と何も変わらないのだ。


 言わずもがな、そうやって成功する人も本の一握り。


 自分が特別な人間であるかなど、期待するだけ外れた時のむなしさが大きくなるだけだ。



 *



 小学生の頃、俺は学校で周りの誰よりも成績が良かった。


 体育を除くテストの点はいつも高く、周りから「天才秀一」というあだ名で呼ばれていた頃もあった。


 呼びにくいという理由から本当に少しの間だけであったが。


 成績の良さは通っていた塾でも同じで、いつも先生や家族から褒められていた。


 そして俺自身もそれを誇りに思っていた。


 しかし中学生になる頃に引っ越すこととなり、小学校を卒業した後にそこから少し遠くの中学校へと入学したのだが―――そこには俺よりも成績の良い人がいた。


 それも一人や二人ではなく、成績は学年のトップ10にすら入ることができなかった。


 俺の成績は全体で見れば上位ではあったのだが、当時の俺は非常にショックを受けた。


 ショックを受けた俺はそんな彼らに追いつこうと、一番の人と同じ塾に通うことにしたのだが、そこには俺より成績の良い人が更にたくさんいた。


 学校で一番の人さえもその塾で見ればそこそこでしかなく、俺は上位どころか平均にすらなれなかった。


 俺は大海を知らない井の中の蛙だったのだと、その時気がついた。


 それからの学校生活では、特に目立つこともなく大人しく過ごした。


 ダンジョンが発生するなどの騒ぎもあったが、何だかんだで高校受験も無事に終わり、問題なく入学し、今に至る。



 *



 …と、話がかなり脱線してしまったが、まあ要するにダンジョンと聞くと期待してしまう人もいるかもしれないが、発生したところで世の中はそう甘くないということだ。


 さて、また話を変えるが、俺には最近悩みがある。

 それは―――退屈なことだ。


 中学の頃の部活は「男子は運動部に入るべき」という風潮が強く、それに流されるような形で運動系の部活に入部した結果、運動の苦手な俺は後悔した。


 だからこそ高校では文化系の部活に入部したのだが、今度は活動日がほとんどない上に幽霊部員だらけという、もはや部活として機能していないような所に入ってしまった。


 運動部の忙しい日々は苦痛であったが、退屈過ぎるのもそれはそれで苦痛なのだ。


 今更別の部活にも入るのも気が引ける。さほどレベルの高い高校に入らなかったため勉強に関しては特に問題ない。


 ならば趣味に時間を費やすべきかと考えたが、好きな漫画やアニメは週に一回ぐらいしか最新話が更新されないし、時間は余る。


 以前はゲームをよくしていたが、愛用していたゲーム機が壊れた時から疎遠になっている。


 そういえばだが、ダンジョンが発生してからというものファンタジー作品が少なくなっている気がする。


 ダンジョンやら魔法やら、手が届かないからこそ憧れる想像のような世界が現実になった今、ファンタジーの需要が減ってしまったといったところだろうか。


 友達と過ごそうにも―――引っ越してからは友達の作り方なんて忘れてしまった。


 中学、高校と、いつも一人で過ごしている。


 小学生の頃はそういった意味でも輝いていた。あの頃は友達がいて、学校でお喋りしたり、放課後に公園で遊んだり、皆で秘密基地を作ったり―――


「…秘密基地、か」


 懐かしい。いくら秘密基地を作ろうとしても他のグループと取り合いになったり、大人に見つかって解体させられたりして、ならば本当に誰にもバレない所に作ってやろうと一人が言い出して、そして偶然にも俺が発見した誰にも見つからないであろう場所に俺達は秘密基地を作った。


 俺が発見している時点で誰にも見つからない場所というのは矛盾しているし、しばらくは持つかもぐらいに思っていたが、そのあとは本当に誰にも見つかることはなく、小学校を卒業するまではずっとその秘密基地を遊び場にしていた。


 引っ越してからは行く機会がなくなってしまったが、そういえば今通っている高校は昔の小学校の近くで秘密基地も遠くない。


(久しぶりに行ってみるか)

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