第八話 初めての任務
……何か話し声が聞こえる。
私は、僅かに瞼を開く。
「……それで、貴女の決断は変わらないのですね、姉様」
「えぇ。生き残れるなら、エマ・フォン・ユグドラシルなんて辞めてやるわ」
「……分かりました。後ほど、帝国陸軍最高司令官は市民からの銃撃により死亡したと発表して起きます」
「よろしくお願いするわ。今のわたくしは、皇族にこき使われている一介のメイドに過ぎないので。あぁ、安心なさい。貴女と交わした契約は」
……よく聴こえない。
まぁ、大した話じゃないだろう。
二度寝しよ。
私の意識は、再び深い深い闇へと沈んでいく。
シャアーというカーテンを開く音。
その直後に降り注ぐ眩い太陽の光。
……起きる時間か。
私は、瞼を開いて、身体を起こす。
「おはようございます、メイ様」
「おはよう、エマ……あれ?」
「どうかいたしましたか?」
なんか……エマの声をさっき聞いたような。
いや、気のせいか。
私は、さっきまで寝てたものね。
「いや、なんでもない。で、今日の予定は?」
「はい、こちらの紙にまとめておきました」
私は、エマからメモ用紙のようなものを受け取る。
ふむふむ……要約すると朝から夕方までオフのアイリス様が遊び回るのを護衛する任務しかないね。
……ん? ちょっと待った。
「あの、エマさん?」
「はい、なんでしょう?」
「早速、護衛の任を任される事になるけど……書き間違え?」
「いえ、正しいことしか書いていませんよ」
嘘でしょ?
昨日、超突貫工事で射撃能力を手に入れただけなんだけど……。
そんなんで、皇族の護衛とか務まるのかしら……?
しかも、国内の治安は世紀末レベル。
「……あぁ、自分の技能を心配してそんな事を。大丈夫ですよ、今の護衛要員に最も必要とされている要素はただ一つ……護衛対象の背中を撃たない事ですので」
「あっ、そういう……」
そういえば、国内の人のほとんどは反帝政派だったっけ。
てかそれ、城の内部にも及んでるのか。
「基本的に、皇族や高位の貴族、親衛隊以外は城の中の人であっても、信用出来ませんね」
……ユグドラシル帝国怖い。
前世(?)に戻りたくなってきた。
ま、冗談はさておき。
「そう言う事なら分かりました。この任務、無事遂行してアイリス様を無傷で帰します」
「はい、頑張ってください。では、とりあえず朝食にするとしましょうか」