第七話 私の選択
「……崩壊って、どう言うことですか?」
「うん、そうだね……私が最初に国を救ってくれって貴女に頼んだじゃない?」
「はい、そうですね」
そう。
彼女は、そもそもユグドラシル帝国を救う事が出来る勇者を召喚しようとして私を召喚したんだったね。
もちろん、覚えてる。
「実は、今ユグドラシル帝国は市民革命が起きる寸前ってとこなんだ。私たち皇族をこの座から引きずり落として、この首を切り落とす……そんな市民革命がもうじき起こる」
彼女は、自分の首に手を当てながらそう言う。
でも、革命が起きる原因はなんなのだろうか?
「そもそも、なんで革命が?」
「あぁ、それは……お金、だね」
「お金?」
「そう。単純な理由でしょ? 今、この政府にはお金がない。お金がない理由はまぁ、色々かな? 数年前に終結した世界大戦にかかった莫大な戦費、経済不況、前皇帝の政策の失敗……数えてたらキリがない」
ふーん、なるほど。
なんか、最後のヤツ以外はどうしようもない感があるけど。
あ、でも戦争は……戦争はどうなのだろうか?
「世界大戦は、どうにかならなかったの?」
「残念だけどならなかったね。なんて言ったって、こっちは侵略された側だしねー」
若干おちゃらけた感じで、肩を窄めながら彼女はそう言う。
……侵略された側は、国土防衛のために戦争せざるを得ない。
なるほど、確かにどうしようもない。
「……厳しい状況だったのですね」
「えぇ、今の皇帝陛下……私の父上が即位した時には既に手遅れ。長期的な不況を甘んじるかそれとも……神樹を1000年以上守ってきた私たちユグドラシル家の政権を転覆させて、借金を踏み倒すしかやれる事はないでしょうね」
でそう言う背景があって今、アイリス様たちユグドラシル家は前者を、市民たちは後者を選んだって訳か。
……どっちが悪いとか、ないんだろうな、多分。
「……それで、今のユグドラシル帝国の民のほとんどは革命派よ。軍部すらも、ね。ヤツらが放棄する日……Xdayが来た暁には、私たちユグドラシルは皆殺し待ったなしって訳」
「それで、それを私に聞かせて何を……?」
「貴女に選択権をあげる」
「選択……権?」
「そうよ。貴女は選択することが出来る……このまま負け確定の私の護衛を続けるか、それとも……市民になるかをね」
……選択。
それは、前の世界でしてこなかった事。
私は……産まれてこのかた、引かれたレールを歩いて来た。
誰かに選択権を渡していた。
自分で何も決めなかった。
でも、この世界で私に選択権が帰ってきてしまった。
いや、帰ってきた。
今度こそ、自分で決めなければならない。
普通に考えれば、市民になるのが一番いいだろう。
わざわざ、負け戦をしたいヤツはいない。
ただ……。
私は、アイリス様の顔を見る。
……ハッ。
答えは決まった。
いや、決まっていた。
「もちろん、アイリス様の護衛を続けますとも」
「「えっ?」」
アイリスはもちろんのこと、エマまでもが驚いていた。
「だって……目の前に居る潤んだ瞳の少女を放置していくなんて出来ないですよ」
……それに、助けを求めて私をここに連れてきたんでしょう?
助けを求めている人の手を払うのは良くないさ。