最終話 革命後の日の出
……早朝の時間、フードが付いている黒い上着を羽織っている私はユグドラシル共和国の首都郊外にある革命による犠牲者を祀る慰霊碑の前に立っている。
何故、危険を犯してまでこの慰霊碑の前にいるのか?
理由は簡単だ。
……結局、帰って来なかったあの少女に祈りを捧げるためである。
あの子は……私のために死んだんだ。私が勇者召喚なんて試さなければ……死ぬこともなかったはずなのに。
だから、せめてもの償いとして、これから毎年この日に……私はここに来るだろう。
……あの革命が起きてから一年の時がたった。
あの日から2日後に、革命軍は脆弱な帝国軍を粉砕し皇帝も討ち取ったことで、ユグドラシル共和国暫定政府の成立を宣言した。
そう、たった数日で大国ユグドラシル帝国は滅びたのだ。
隣国への亡命に成功した私以外の皇族は全て殺されたそうだ……もっとも、エマ姉様は名前を変えて生きているだろうが。
いけない。
この慰霊碑を、恐らくメイも下に埋められているだろうここに来るとやっぱり思い出しちゃうな……色々と。
私は、共和国政府に指名手配されている身だ。
ここで色々考えたいこと、感傷に浸りたい想いはあるが、さっさと隣国である王国に帰らなければならない。
両手を組んで、目を閉じる。
メイ、安らかに……。
心の中でそこまで祈った時、背後から声がかけられる。
「おはようございます、アイリス様」
その声で、革命後にも関わらず私の名前を様付けで呼ぶ人。
あぁ、奇跡はあったのだ。
私は、後ろを振り返る。
そこには、金髪の女性に押されてこちらに近づいて来る車椅子に乗った黒髪の少女の姿があった。
目から涙がこぼれ落ちる。
間違いない……彼女は。
「えぇ、おはよう……メイ」
「ちゃんと、追いつきましたよ……約束通りに」
時間はかかりましたけど、と微笑みながらメイは言う。
聞きたいことは山ほどある。
したい事も山ほどある。
でも、まずは……。
「メイ、返事を言う約束よね?」
「そうですね……」
彼女は、深呼吸してから迷いなく、はっきりと言った。
「私は、アイリス様の……いえ、アイリスのことを愛しています」
「そっか……うん、良かった……本当に良かった……」
止まることなく流れ続ける涙を上着の裾で拭きながら、そう呟く。
涙を拭き終わったあと、私は空を見た。
あぁ、綺麗な日の出だ。
私たちの、新しい人生を祝福しているかのように。
これにて、完結です。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。もし、この作品が良いと感じたら
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では、また機会があれば。