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第二十一話 革命前夜の月明かり

さて、あと一話で完結です。ここまで、付き合っていただいた読者の皆様に感謝を

 私の部屋で、私たちは最後の支度を整えた。

 既に、下の階から爆発音に発砲音、人々の悲鳴に肉の焦げる臭いがする。

 最後の戦闘は既に始まっている。

 私は……アイリス以外の人を助ける気はない。

 というか、助ける余力なんてない。

 私は、私の出来ることだけをやればいい。


「じゃ、行きますよ」


 ドレスの代わりに私の仕事服の予備を来たアイリスを見ながら、そう言う。

 彼女の持つ聖剣は、私がここに転移した時に着てた学校の制服を引き裂いて作った布に包んである。

 そして、彼女の美しい銀髪は目立つので茶色に染めた。


 ……これで、バレにくくはなっただろう。

 後は、神に祈るのみだ。


 自分の持ち物も確認する。


 右手に持っている、安全装置が外れていて、いつでも撃てる状態のハンドガン。

 黒い上着の内ポケットに入っている2本の予備マガジンと手榴弾一つ。

 左手に握っている一本のナイフ。


 これが、今持てる私の最大限の装備だ。

 ほんとは、魔法とか使えたらもっと良かったんだけど……。

 まぁ、ないモノねだりをしても仕方ない。


 私は、部屋の扉を開けようとする。


「……ちょっと待って」


 アイリスにそう言われて、手を止めて後ろを振り返る。

 なんだろうか? まだ、足りないものとかあったかな?

 そんなことを考えていると、彼女の顔が私の顔に近づいていた。


「あの……一体何を」


「私は……貴女のことが、メイのことが好きです」


「……ッ!」


 そう言うと彼女は、私の唇に自分の唇を重ねた。

 突然のことだったので一瞬何が起きたのか分からなかった。

 私の口の中に彼女の舌が入ってくる。

 私の舌と彼女の舌が交わる。


 身体が火照ってきた。

 彼女の美しい銀髪が私の顔に触れ、彼女の甘い匂いと汗の匂いが混ざって甘酸っぱいような匂いが私の鼻腔をくすぐる。


 ……しばらくそうした後、彼女の身体は私から離れた。


「んっ……はぁ、突然のことで驚きました。というか、皇女様が私にキスとか良いんですか?」


「アハハッ、ごめんなさい。でも、もしかしたら貴女が帰ってこないかもって思ったら……それにほら、どうせもうすぐ私は皇族じゃなくなるからさ」


「そう……ですか。大丈夫ですよ、私は必ず帰ってきます。嘘にはしたくないですからね」


「うん、そうね! ……ところでさ、貴女は私のことどう思ってる?」


 ちょっと頬を赤らめて、私から目を背けながらそう尋ねる。

 答えは決まってる。

 ただ……今は言いたくないな。

 言ってしまったら、覚悟が鈍る。


「そうですね……今は内緒、です」


「えーっ⁈ それはないよ、それは」


「ただ……この戦いが終わったら、言いたいと思います。だから、だから待っててください。私が貴女に追いつくのを」


「……そっか。うん、分かった。絶対に……答えを聞かせなさいよ」


「はい、もちろん。じゃ、今度こそ行きますよ」


「えぇ、行きましょう」


 私たちは、覚悟を決めた顔で扉を開ける。

 さぁ、行こうか……地獄へと。






 私たちは階段を降り、一階へと着く。

 さて、いよいよ角を曲がれば敵が居るであろう広間に出る。

 もう戦闘は終わったのか、先ほどまで聞こえていた激しい銃声や爆発音はしない。

 少しだけ角から顔を出して、広間を見る。


 ……いた。休憩をしているのか、敵兵は一つの場所に固まっている。数は……約20。

 思ったより少ない……私の想像以上に魔法を使える貴族や皇族連中が頑張ったのか、それとも一階の別区画に別で主力がいるのか……。


 まぁ、どちらでも構わない。

 結局、私が出来ることは時間稼ぎのみ。

 それにかわりはない。

 ただ、それはそうと戦況は知りたい。

 少し耳を澄ませてみる。


「……で、結局取れた首は3つだけか?」


「あぁ、第三皇子に第四皇子それに第五皇女の首は討ち取ったが……皇帝と第三皇女の首はまだだな」


「まぁ、ヤツらは上階だろう。我々の新政権は、皇帝と聖剣の巫女の首を最優先で取らねば正当性が揺らぐとはいえなんとかなるさ」


「にしても、アイツら中々だったな。流石は神樹の加護を受けてるユグドラシル家の連中だ」


 ……ユグドラシル家の人間、強いのね。

 まぁ、リアルで神の加護を受けてるから妥当か。


 私は、後ろを振り返ってアイリスの顔を見て口を開く。


「ほんとに、この大広間の奥に隠し扉があるんですね?」


「えぇ、間違いないわ。それに、隠し扉と通路の存在も彼らにはバレてないはずよ。ユグドラシル家の人間にしか反応しない魔法の鍵があるから」


「そうですか……なら、手はず通りにお願いします」


「えぇ……私、信じてるから」


 作戦は簡単。

 敵集団の前に手榴弾を放り込み、それが爆発した時の土煙などに紛れてさっさと隠し通路にアイリスが入るという手筈だ。

 その後は、アイリスが帝都から無事逃げ切れる確率を少しでも上げるために、私が出来る限り革命軍の兵と戦闘して城内制圧の邪魔をする。


 私が生き残る確率は四捨五入したら0%というレベルだが……出来る限り善処するとしよう。

 アイリスが生きていれば……それで良い。


 手榴弾のピンが弾け飛ぶ。

 1、2、3……今!

 手榴弾を敵集団目がけて投げる。


「おい、これ手榴弾だ!」


「は、早くふせ」


 ドーッンという爆発音。

 よし、敵はみんな伏せてる。


「アイリス様っ!」


「……さようなら。また、後で」


 少し、涙を流しながら走っていくアイリス。

 ……よし、敵が起き上がる前に彼女の姿は消えた。


 さて……私も頑張るとしよう。

 まずは、手前にいる起き上がりたての死に損ない2人の脳天に風穴を開けよう。

 発砲音が2連続で響き渡る。


「ちくしょう、敵襲ーッ! 戦闘体制を取れ! あと、お前は増援を呼びに行け」


「了解」


 ……やっぱ、別に主力が居たか。

 まぁ、いい。

 全員皆殺しに……してやると言いたいがまぁ無理。

 せいぜい、それなりに頑張ろ。


 なんて思いながら、頭を壁の内側に引っ込める。

 敵が撃って来た!

 ちっ、どうするかな。装備は向こうの方が上だし。

 とりあえず、敵の射撃が止むか。


 はぁ、いい武器が欲しい。


(リクエストを承認。聖剣のデータを確保します……

10%、20%、50%、80%、100%。データの受け取り、成功しました)


 よし、銃撃が止んだ。

 最低限の部位だけ出して、拳銃を発砲する。


(聖剣を再現します。1%、10%……失敗。100%の再現は不能。性能を落とし、再試行します)


 やっぱり、敵の攻撃を警戒しながらだと精度落ちるな。

 3発撃ったのに、2人しか持っていけなかった。

 あ、敵の銃撃がまた始まりそうだ。

 再び、全身を引っ込める。


 はぁ、地道だ。

 と、虚空を眺めながら銃声が止むのを待っていると。


「油断したなっ! くたばれ、帝国のイヌが!」


「ッ⁈ いつの間に!」


 ナイフを持った1人の兵士が、角から私の目の前に姿を表した。

 油断した……けど!


 拳銃を急いで彼に向けて連続発砲。

 3発撃てば1発くらいは……ッ!


「甘い!」


 コイツ!

 兵士は、異常な速度で身体を捻り銃弾を交わす。

 そして、私の首に近づくナイフの刃。

 ナイフをなんとかしようととりあえず拳銃で受け止める。


 キィンという甲高い音がなると……。


「嘘……」


「へっ、魔法が使えなくて助かったぜ」


 なんと、ナイフによって拳銃が切り裂かれていた。

 これが魔法の力……何が昔と比べたら全然弱くなってるよ!

 普通に強いじゃない。

 どうすれば……とりあえず、使えなくなった拳銃を投げ捨て拳銃を持っていなかった方の手で握っていたナイフで彼を殺しにいく。


 でも、もちろん異常な速度で動く彼に勝てる訳もなく。


「キャッ」


「ま、所詮は小娘だな。警戒して損したぜ、じゃさよなら」


 思いっきり蹴り飛ばされて、背中から階段に激突する。

 彼はナイフを捨てて拳銃を懐から取り出して、そんな私に銃口を向ける。


(……100%、性能70%減の聖剣の再現に成功しました。これより、具現化します)


 バンと乾いた発砲音が響き渡る。


(具現化成功。またそれに伴い、特殊加護"偽・聖剣の巫女"を獲得しました。システム、シャットダウン)


 ……あぁ、時間稼ぎすら出来なかった。

 そんな事を思いながら、近づいてくる銃弾を眺める。

 ……?

 ……いやいや、ちょっと待ってくれ。

 ……()()()()()()()()()()()()()

 私は、一般人だぞ……うん?


 右手に何か……ってこれはっ?

 エメラルドグリーン色の剣……これってアイリス様の聖剣じゃ。

 ……いける、かも。

 私は、瞬時に横に転がり銃弾を避け、そのまま立ち上がり彼に今度は、こちらが超高速で彼に近づいた。


 よしっ、取った!


「くそっ、急になんでこんなはや……あれ? う、腕ガァァァァァッ!!!」


「貴方に恨みはないけど……アイリスのために、死んで」


「ガァッ……ッァ……」


 彼の心臓に聖剣を突き刺す。

 ……あぁ、この力が、力さえ有ればなんとか時間稼ぎが出来るかもしれない。

 私は、角から聖剣を片手に飛び出す。


「お、おい。あの女、出てきたぞ!」


「何のつもりだ……?」


「お、おい……あの剣って」


 あぁ、アイツらか。

 アイツらがアイリスの敵か。


「今度は……コッチの番、ね」


 私は多分、笑っていた。














 ……あれから何時間も人を斬り続けた。

 もう、何人斬ったかなんて30から数えるのを、やめた。


 私も重症だ。


 足はなんで歩けるか分からないレベルでボロボロ。

 肩と腹からは大量の自分の血が流れ落ちて床を真紅に染める。


 あぁ、もう動けないや。

 何も考えられないや。

 でも、でも、でも。

 約束……したからな。

 追いつか……ないと。

 最後に、城の扉を開けて外に出る。


 あっ……もう夜なんだ。

 私は力尽きて、膝から崩れ落ちる。

 いつの間にか、聖剣は消えてた。


「綺麗な月……」


 革命前夜の月明かりに照らされながら、私の意識は遠のいていく。

 そんな中で、声が聞こえた。


「……お疲れ様です、メイ様。よくぞ、私の妹を……」


「エ……マ……」


 あぁ、もう何も聞こえない。

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