第九話 壊れかけの平穏Ⅰ
「……お、来ましたね、メイ」
「待たせてしまい申し訳ありません、アイリス様」
「いえ、私が予定より早く来ただけですので問題ありませんよ」
予定通り、城の門前で青色のドレスに身を包んだアイリス様と合流する。
ただ、少々違和感を覚える。
……あぁ、それだ。
初めてあった時のような硬い口調。
私は、そこに違和感を感じていたんだ。
……まぁ、あの元気いっぱいな感じの素の口調では、ユグドラシルの娘にふさわしくないという事だろう。
そう言う風に思い、納得した。
「それで、今日はどちらに?」
そう。
予定の書かれているメモ用紙には、城下町の散策と大雑把にしか書かれていない。
暇な時に、この世界の書籍などを読んで一応ユグドラシル帝国領の地理は頭に叩き込んでいるから、具体的な場所を言ってもらえると楽なんだが。
「……実は」
「はい」
「ノープランってヤツなんです」
「……ノープラン、ですか」
……この人、大丈夫かしら?
国内の情勢とかアレなんでしょ?
なのに、無計画って……。
「いや、何というか、アレなの……そう! 外に出るの始めてだから何処行きたいとかあんまりなくて」
「なるほど、そう言う事ですか」
そう言えば、前も何処かで聞いたな。
なんか、大事な役割があるんだっけか。
……困ったな。
私も別に店とかまでは知らない……てか、知れる訳がない。
「まぁ、とりあえず城下町に行きましょう。正直、外に出るってだけでも楽しみですもの」
「そうですね。では、警護はお任せください」
懐に入っている銃に触れながら、私はそう言う。
この銃はコンパクトだし、上着も着てるから敵には銃の携行はバレない……はず。
何はともあれ。
とりあえず、私たちは門をくぐり抜けて外へと出た。
「「……これが外」」
私たちは、同じ言葉を呟く。
……やたら近代的な風景だ。
まず、そんな感想が出てきた。
全てのものが古臭い、そのことを除けば現代とさほど変わらない風景だ。
近代的な建物に舗装された道路があり、車が走っていて、街灯があって、少々フォーマル具合が強いものの近代的な服を着ている人が闊歩している。
……魔法のある世界。
なるほど、魔法はあるのだろう。
しかし、科学力もきちんと上がっている。
創作は創作、現実は現実というヤツか。
変な先入観を持たないようにしないと。
「行きますよ、メイ」
「了解です」
私たちは、城下町へと歩いていった。