好きになるということ2
悲しみの役割➖優子
その人とどうにかなろうとは思ってない。ただ必要とされる時に会うだけ。まあ、もちろん好きは好きだけどさ。それ以上に彼が好きなのは彼の奥さんなんだから。
私たちはよくありがちな職場不倫ってやつですね。上司と部下。しかも私は新入社員だった。今までちゃんとした恋愛は経験したことがなかった。いきなり不倫から始まった。やばいよね。
彼はひとまわりぐらい歳上なんだけど、ノリが学生っぽくてさ。新卒の私からしたら親しみやすいよね。だって飲み会の時なんて、テーブルの下に潜って場所を移動したと思ったら、出てきた時には服脱いでるんだもん。そういうのサークルでもやってる先輩いたよね。こういう大人いるんだって、なんか変だけどそんなところに惹かれちゃったんだ。
そんな感じで私たちの距離はすぐに縮まった。週末は会えないから、だいたいは平日の仕事終わりにご飯を食べに行ったり、地方に営業に行った帰りにホテルに寄ったり。ちゃんとデートっていうのはしたことなかったな。いつも二人ともスーツだったよ。
週末は友達と飲みに行くか、ずっと家にいるかって感じ。どちらかと言えば私はインドア派。絢香は土曜日が休みになったら必ず私を飲みに誘ってくれる。月一回のペースで絢香と会ってたかな。
「大丈夫なんですか?会社にバレたら大変じゃないですか?こういうのって女の人の方が不利になっちゃうんですよ。会社に居られなくなっちゃいますよ!」絢香はいつも心配してくれる。
「そうなんだよねー。ちょっとだけバレかけてさー。噂が流れちゃったんだよね。」
「ほらー!もうやめた方がいいですよ。それともその部長だか課長だかが別れてくれないとか?」
「そんなことないよ。私に彼氏ができたら別れるって言ってくれてるし。」
「優子さんはその人とどうにかなりたいの?奥さんと別れてほしいとか考えてる?」はい、絢香酔ってきた。急にタメ口になるから。それが可愛いんだけど。
「ううん。どうにもなりたくないよ。このままでいいの。だって彼、奥さんとラブラブなんだもん。ただ、子どもがいないからさ。外でそういうことしたいんじゃないのかな。」
「じゃあ優子さんはそいつの子ども産むの?ダメだよ!絶対面倒見てもらえないよ!つーかさ、別にその役目は優子さんじゃなくてもよくない?言い方悪いけど、お金出せばさ。いくらでも風俗とかさ…何でもあるじゃん。…マジでそいつムカつく。」
「絢香、大丈夫だから。心配しないで。そこまではまってないから。」
いつもはしっかり者の絢香が、私と飲むと気が緩むのか、結構飲んじゃって酔っ払う。二人だと長い時間飲むからな。もちろん一緒に飲んでて楽しいからだけどね。タメ口になって、ちょっと甘えてくるのも可愛いし。いつも帰り道は手を繋いで歩く。
「優子さんの為にアタシには何が出来る?優子さんには幸せになってもらいたい。」目が開いてるか開いてないかわからないような顔で絢香は呟いた。
「だってさ。もし優子さんが彼と上手くいったとしてもだよ?奥さんはどうなるの?これって誰も幸せになれないんだよ。みんな悲しくなるだけ。…何言ってるかわかんなくなっちゃった。…んー、まあ…そうは言っても、アタシも何も出来ないけどね。たまにこうして一緒にいることしか出来ない。」足元もおぼつかないような感じだけど、しっかりしてるフリして一生懸命喋ってる。絢香、可愛い。
「わかったよ。じゃあさ、絢香。これからも私と一緒に遊んでよ。」
私がそう答えると、恋人繋ぎの手が、さらにぎゅっと強く握られた。