訃報
訃報
平助が王の訃報を受け取ったのは、その年も押し迫った頃であった。
「王の奴、とうとう逝ってしまいおったか」
「先生は最後まで無門先生に感謝しておられました」報告にきたメイメイが言った。
「そうか・・・」平助の頬を涙が一筋流れた。「生き残った者の感傷かのぅ」
「あの日、先生方が戻られたのを見て全ての疑問が解けました」
「躰中痣だらけじゃったどん、なんとも清々しい表情ばされておいもしたな」熊さんが言った。
「先生はその為だけに、無門先生を日本から呼び出されたのですね」
「劉のこつはただの口実に過ぎんかったちゅうこつですか」
「なぁに、王は最後に儂と遊びたかったのじゃよ。素直に言えば良いものを」
「王先生は天邪鬼でしたから」
「儂もあんな頑固爺いにはお目にかかった事がない」
「師匠も同じこっですたい」
「年寄りには年寄りの事情があるもんじゃよ」
「ところで、道場はどうした?」平助がメイメイに尋ねた。
「兄が継ぎました。あの道場は高雄市民の心の拠り所ですから」
「耶律は捕まったのか?」
「いえ、まだ捕まってはおりません。ただ、噂は広まるのが早いものです、事実上劉は失脚したも同然です」
「もし、もっと早くに耶律に再会しておったら・・・?」
「私は“もし“と考える事はありません。過去は二度と戻る事はありませんから」
「正解じゃ、儂も見習おう。年寄りはつい昔の事ばかり振り返ってしまうからの」
「師匠、いつか王先生の墓参りに行きもそ」
「そうじゃな、もう一度十八羅漢山を見てみたい」
「その時は私もお供致します」
『その必要は無いぞ。儂は墓なぞにジッとしてはおらんからな』
「ん!今、王の声が聞こえなんだか?」平助が道場を見回して言った。
「いえ、何も」
「師匠の空耳ですたい」
「そうじゃろうの。儂も耄碌したものじゃ」
「では、私はこれで」メイメイが立ち上がった。
「うむ、ありがとう。ご苦労じゃった」
メイメイは挨拶をして道場を出て行った。
『相変わらず、気の強い娘じゃ。人の居らぬ所ではあれ程泣いていたのに』
また、何処からともなく王の声が聞こえたが、平助は黙っている事にした。
妖怪 王に続く




