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平助と王 日・台爺い絵巻  作者: 真桑瓜
20/22

夜市

夜市




翌朝、私服の警察官が現れて本格的な捜査が始まった。

本格的とは言っても、昨夜聞かれた事を再度詳しく聞かれただけである。

昼までには警察は引き上げた、ただ居場所ははっきりしておいて貰いたいと言い残して行った。

メイメイは車を運転して出て行った。台北空港まで吉田を迎えに行く為である。

台北に着くのは夕方になる。今夜は圓山ホテルに泊まって明日高雄に戻って来るつもりだと言っていた。

平助は車の屋根の修理のことを聞いたが、メイメイは笑って首を振った。

李と熊さんはジープで烏山頭ダムへ出発した。二人は馬が合いそうだ。

平助と王は、食堂のテーブルで茶を飲んでいる。

「爺い二人になってしもうたの」王が言った。

「若いと言う事は忙しいという事じゃ。年寄りは暇なのじゃよ」

「後で高雄の街に出てみんか?」

「いいな、屋台で一献傾けるか?」

「うむ、そうしよう」




「すごい混雑じゃな」平助が目を見張った。「まるで正月の、天満宮の参道じゃ」

「年に一度この時期に四日間だけ開かれる夜市じゃからな」

日頃は静かな商店街も、今日ばかりは派手な飾り付けをして賑わっている。

「個人商店は殆どの店が休みじゃ。その代わり屋台が無数に営業しておるよ。平助は何が喰いたい?」

「う〜む、海老を焼くいい匂いがしておるな」

「ちと寒いが、海老を肴にビールと行くか?」

「そうか?儂ゃちっとも寒くはないぞ。日本なら今頃綿入れを着とる頃じゃからな」

商店街の両脇に屋台が並び、通路の真ん中にテーブルが設えてある。

屋台で買った食べ物をそこで食べられるようになっているのだ。

赤い看板の店で其々に二匹づつ海老を買った。塩を振って焼いただけのシンプルな料理だ。

「川海老か、でかいな」

「この辺りの川ではオニテナガエビが獲れる、海老の釣り堀もあるくらいじゃ」

王が別の屋台から胡椒餅と緑の小瓶の台湾ビールを買ってきた。

テーブルは何処も一杯だったが、ちょうど二人連れが席を立つところで、此処に座れと言ってくれたので礼を言って腰を下ろした。

「過年好!」

「新年おめでとう!」

二人は改めてビールで乾杯した。

「お、この海老は旨いなビールに良く合う!」

「胡椒餅も旨いぞ、本場は台北じゃが儂は此処の胡椒餅が好きじゃ」

「故郷自慢か?」

「ああ、戦時中は色々な所に住んだが此処より良いところは無かった」

「お主は根っから高雄の人間じゃの」

「いかにも・・・な」王は言葉を切って平助を見た。「最近歳を取ったと思わんか?」

「なんじゃ?唐突に」

「髪は薄くなったし、シワも増えた。階段が辛うなって膝や腰が痛い」

「どうしたのじゃ?お主らしくもない」

「今度の戦いで、儂もつくづく老いを感じたのよ。蔡景の攻撃に壁まで追い詰められ、つい武器に手を伸ばしそうになった」

「しかし、蔡景を倒したではないか」

「結果的にはそうなった。幸運だったのじゃよ」

「運も実力のうちじゃ」

「平助、本気でそう思うのか?」

「・・・」

「ふふふ、正直な奴じゃ」

「正直ついでに言うとな、老いは儂も感じる事がある」

「ほう、どんな時じゃ?」

「蹴りが出んようになった。足は移動の為だけに使いたい」

「儂も足幅を広く取ることがキツうなった。若い者から見れば楽をしているように見えるじゃろうな」

「無理に動くと、自分の力で自分の身を痛める」

「躰にガタが来ている証拠じゃ」

「仕方がないのぅ、長年使ってきた躰じゃもの」

「そうやって少しずつ出来んようになって行くのじゃな」

「儂の知り合いの尼さんが言っておった、『人は出来ることを一つずつ神様にお返しして行って、全て返し終わった時に死ぬ』のじゃと」

「蓋し名言じゃの」

「しかし、返せば得るものもある」

「ほう、何を得るのじゃ?」

「出来なくなった躰を得る」

「そして最後は死を得るのか」

「そうじゃ、採算は合うのじゃよ」

「違いない」そう言って王は笑った。

「平助・・・」

「なんじゃ?」

「あの手紙に書いておった事、まんざら嘘でもないのじゃよ」

「病気のことか?」

「胃癌だそうじゃ、躰のあちこちに転移して手の施しようがない」

「誰にも言ってはおらんのか?」

「メイメイは薄々感づいておるやも知れぬ」

「女は勘が鋭いからのぅ」

「お主も分かっておったのじゃろぅ?」

「空港で再開した時に確信した」

「そうか・・・」王はジッと平助を見詰めた。「最後にひとつだけ頼みがある」

「なんでも言うが良い」

「儂と最後の勝負をしてくれ」

「やはり・・・な。その為に儂を呼んだのであろう?」

「聞いてくれるか?」

「もちろんじゃ」

「かたじけない、これで思い残すことはない」

「いつ何処でやる?」

「明日、十八羅漢山」

「分かった。ならば今日は心ゆくまで呑もうぞ」

「あはははは、楽しいのぅ」王は心から晴々と笑った。



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