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平助と王 日・台爺い絵巻  作者: 真桑瓜
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西門紅楼

西門紅楼



翌朝槇草は青白い顔をしてフロントに現れた。

「どうしました、槇草さん?」メイメイが驚いて尋ねた。

「水に・・・当たったようなのです」

「まあ!それは大変」メイメイは困った顔をした。「では、高尾への出発は明日に延期しましょう。

「いや、それには及びません」

「急ぐ旅ではありません、私に良い考えがあります。それにその体調ならかえって都合がいい」

『こんな状態に都合がいい事などあるのか?』槇草は怪訝な顔をした。

「台湾で罹った病は台湾の薬で治すのが一番です」メイメイは槇草の不安を拭うように言った。

「それにしても、その服装では窮屈です。先ずは町の衣料品店に行って適当な服を見繕いましょう」

メイメイはタクシーを呼んで台北駅近くの城中市場に槇草を連れて行った。小規模な市場だが衣料品が充実している。

『昔、天神にもあったな、こういう所』槇草は懐かしさを感じた。

メイメイはいくつかの店を回って、槇草の為にGパンとトレーナー、それに暖かそうなカーキ色のコートを買った。

「靴はこれでいいですか?」メイメイが選んだのは黒のバスケットシューズだった。「良く似合います。五歳は若く見えますよ」

「有難う、なんだか気持ちが軽くなりました」槇草はメイメイに礼を言った。

「では今から、西門紅楼へ向かいます」そう言ってメイメイはまたタクシーに手を挙げた。

流しのタクシーの車体は酷いものだった。スプリングの飛び出たシート、床は腐って穴があき、道路が丸見えだ。日本なら廃車は確実だろう。



西門紅楼とは八角形の赤煉瓦造りの建物を入り口とし、背後の一帯を指した地域で、統治時代に日本人によって設計された。その古めかしさはタクシーと大差無い。

中に入ると小さな映画館のような佇まいの店があった。中は小さなステージと観客席が三十席ほどの劇場になっていた。客は一人も居ない。

「まだ時間が早いようです。まずは隣の薬店に行ってみましょう」

店に入ると漢方薬の匂いがした。ガラスのショーケースに見たこともないような薬草が並ぶ。

「你好、・・・你好!」メイメイが奥に向かって声を掛けた。

すると、奥からこの店の雰囲気にはおよそそぐわない屈強な若者が現れた。

薄いシャツの上から鍛え上げた肉体が透けて見える。

メイメイが中国語で何か話しているが槇草に解るはずも無い。

すると若者は軽く頷いて一度奥へ引っ込み、再び現れた時には手に湯呑みを持っていた。

「これを飲めと言っています」メイメイが若者から湯呑みを受け取り槇草に渡す。

見ると白い液体が湯気を上げている、飲むと甘酸っぱい味がした。すると覿面に効果が現れた。腹に蟠った違和感がスッと消えたのである。

槇草はびっくりしてメイメイを見た。

「どうですか?」

「驚きました!あんなに気分が悪かったのに・・・」

メイメイが若者に何か言った。若者は満足そうに何度も頷いている。

「さあ、そろそろ始まります。隣の店に戻りましょう」

「何が始まるのですか?」

「行けば分かります」メイメイは槇草の問いには答えず、さっさと店を出て行ってしまった。




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