『観』
『観』
蹴りが、あらぬ方向から飛んで来た。踵が真上から落ちてくる。
メイメイの躰は宙に浮いていた。
左の鎖骨をやられた、とっさに首を捻って避けたからだ。
メイメイはおよそ戦いに相応しくない格好をしていた。
ドレスのように開いたスカートの中から、縦横無尽に足が飛び出してくる。
吉田は、メイメイの躰軸の僅かな傾きから、蹴りの出てくる方向を予測するしかなかった。
スカートが目眩しとなって蹴りの初動が見えない。スカートが翻る度に、吉田の傷は増えて行く。薔薇色のスカートが、まるで闘牛士のケープのように吉田の眼を幻惑する。
いずれ、あのケープの中から十字剣が飛び出して、吉田はトドメを刺されるのだろう。
勿論、メイメイは剣など持っていないのだが、吉田はそんな幻想に囚われた。
見なければいいのか?否、見なければ確実にやられる。
今は、メイメイの軸の揺らぎだけが頼りなのだ。
見て、考えるんだ。否、見たままを感じるのだ。
武蔵はなんと言っていたかなぁ?ああ、そうだ『見の眼弱く、観の眼強し』
『そうだ、観の眼だ!』吉田は思考を断ち切った。
メイメイの躰が揺れた瞬間、吉田の一本拳がメイメイの鳩尾に突き立っていた。
「それまで!」平助の声がして、吉田は現実に引き戻された。
「吉田君、介抱してやれ」平助の声が命じた。
数日後、王は台湾へと帰って行った。誰も見送りには行かなかった。
それが王の望みであり、武術家の別れだからである。
「出逢いも別れも『一期一会』じゃからのぅ」
宴の最後に王が言った言葉だった。
ただ、吉田だけは国際線のロビーで、メイメイと見つめ合っていた。
「僕、必ず迎えに行きます・・・」
「待っています・・・」
「きっと・・・」




