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平助と王 日・台爺い絵巻  作者: 真桑瓜
12/22

宴の夜

宴の夜



「お嬢さん、先生が張り切っていましたよ。アラを捌くんだっ・・て」

座卓に座布団を並べながら吉田が美希に話し掛けた。因みにアラとは一般にはクエと呼ばれる魚の事である。

「吉田さん、王先生とは初対面なのですね?」

「はい、拳法の達人だとか、楽しみです」

「無門先生の中国版と思って頂ければそう遠くないと思いますが・・・」

「そりゃ大変だ。もしその二人が暴れ始めたら、誰も止められませんね」

「ほほほ、暴れられることは無いと思いますが・・・でも、もしそうなったらメイメイさんに止めて貰います」

「メイメイ・・・さん」

「圓山大飯店の総支配人の秘書で王先生のお弟子さんですわ」

「へ〜、お強いのですか?」

「さあ、腕前の程は知りませんけれど、すごくお綺麗な方ですよ」

「はあ、無門先生も美女には弱いですからなぁ」


その時玄関の方で訪う声がした。お手伝いの重さんが対応している。

間も無く、重さんに誘われてグレーのスーツ姿の女性が現れた。

「こんにちは」メイメイが言った。

「あら、メイメイさんこんにちは。王先生とご一緒じゃ無かったのですか?」

「先生は無門先生と一緒に参られます。私は美希さんのお手伝いに参りました」

「まあ、ありがとう。助かりますわ」

美希は吉田をメイメイに紹介しようと振り向いて驚いた。吉田がポカンと口を開けて突っ立っている。

「吉田さん、どうなさったのですか?よ・し・だ・さん・・・」吉田の目の前で手をひらひらと振った。

ハッ!と我に返って吉田が叫んだ。「し、失礼しました。ぼぼぼ・・僕、吉田と云います!」

よほど慌てているのか、声の音量調節が出来ていない。

「こんなに近くに居るんですもの、そんな大声出さなくても聞こえますわ」呆れて美希が注意する。

「は、はい!」まだ出来ていない。

「メイメイです、よろしくお願い致します」メイメイが微笑んだ。

「ここ・・こちらこそ」吉田は可哀想なくらい狼狽している。「ぼ、僕・・先生を手伝って来ます!」そう言い残し、吉田はあたふたと居間を出て行った。

「変な人・・・」美希は呆れてそれを見送った。「きっと、メイメイさんがあまりにもお綺麗なので吃驚(びっくり)したのですわ」

「まあ、そんなことは無いと思いますが・・・それより何をしましょうか?」

「そうね、台所で重さんを手伝ってもらおうかしら・・・」

「エプロンは持参しております、早速参りましょう」

「今度は吉田さん、どこに逃げるのかしら・・・」美希は困った顔で呟いた。



槇草が熊さんと連れ立って現れた、熊さんは珍しく洋装である。

「近所ん質屋に安か出物があいもしたで」

「師匠と王先生は、そこの駄菓子屋で小太郎への土産を買っておられるよ」槇草が言った。

美希は二人を座敷に通し、玄関まで平助達を迎えに出た。

平助と王が、何やら楽しげに談笑しながら近づいて来る。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

「おお、美希さんか出迎えご苦労じゃな」平助が言った。

「着物がようお似合いじゃ、今宵はメイメイと華の共演じゃのぅ。これは小太郎への土産じゃ」

王は、そう言いながら美希に紙袋を渡した。

「まあ、有難うございます、小太郎も喜びますわ」



「さて、始めましょうか!」剛三が宣言した。

奥の襖が開いて、艶やかな花柄のチャイナドレスに身を包んだメイメイが現れた。

吉田が真っ赤な顔をして、ぎこちなくその横に立っている。

「なんと、艶やかな!」宴席から溜息が漏れた。

「吉田、何をニヤケておる。早く、その二人で手に持った大皿を座卓に置け」剛三が吉田に言った。

「先生、僕、ニヤケてなど・・・」

「吉田さん、参りましょう」メイメイが吉田を誘って座卓の真ん中に伊万里の大皿を置いた。

皿には、剛三の捌いた海の幸が山盛りである。


二人が席に着くと、あらためて剛三が挨拶をした。

「王先生、メイメイさん、ようこそ我が剛道館へ。今宵は心行くまで楽しんで行ってください」

剛三に促されて、王が立った。「日本に来て本当に良かった。この思い出は一生忘れることは無いじゃろう」

「では乾杯の音頭を、熊さん頼みます」剛三が頭を下げた。

「ならば、皆さん盃ば上げちくいやんせ・・・王先生とメイメイさんの健康ば祝して、乾杯!」

「乾杯!」全員で唱和し宴は始まった。



宴も進み小太郎が剛三の膝でうたた寝を始めた頃、突然王が言い出した。

「そこのお若いの、メイメイを嫁に貰わんか?」

一瞬、座が静かになった。吉田は何の事か分からず惚けた顔をしている。

「私は、私より強い殿方でなければ嫁ぎません!」メイメイが吉田の方を向いて言った。

初めて自分の事を言われたと気付いた吉田は慌てた。「えっ、ぼ、僕ですか?」

「王先生は、酔うといつもこうなのです」

「そうでもせんと、いつまでたっても嫁に行かんじゃろうが」

「私は、兄と槇草さんと両先生以外に、強い殿方を知りません」

「なら、吉田君がお前を負かしたら嫁に行くのじゃな?」

「そ、そんな・・・突然言われても」吉田が狼狽した。

「なんじゃ、メイメイでは不足か?」

「い、いえ、そんな・・・不足だなんて」

メイメイが意を決したように立ち上がった。

「分かりました、明日、吉田さんと太刀合います!」

「メイメイさん・・・何を」

「よかじゃなかね吉田さん、太刀合うてみなっせ。まだ勝つと決まった訳じゃなか」熊さんが言った。

「そうだよ吉田、願っても無いチャンスじゃないか」剛三が囃子立てる。

「メイメイさんはそれで良いのですか?」美希が訊いた。

「構いません・・・吉田さんなら。でも、全力で戦います、私が勝ったらこの話は御破算です」

「よう言うた。決まりじゃ!見届け人は平助に頼む」王が平助を見た。

「責任重大じゃの」

「では、明日。場所はこの剛道館で」剛三が高らかに宣言した。



宴が終わり、片付けをしながら美希が言った。「吉田さんは良い人よ」

「分かっています、でも、私より弱ければ諦めます」

「貴女は強い人ですね・・・」





















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