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異世界に召喚されて、狐になりました。  作者: 夜風 邑
第一幕 七穂神に召喚された雅、十六歳。
3/3

⒉東ノ市で、お取り込み中。

カツ、カツ、カツ。


草履の音が鳴り響き、風が頬を撫でる。

見慣れない光景を眺めながら、撫子の後に続く。


「奥さん!今日は良い品物が入ったよォっ!お一つどうだい?」

「まぁ、凄く良い布だわ」

「今なら、特別お安くするよ!」

辺りには沢山の店が並び、どれも賑わっている様だ。


布屋、服屋、肉屋、魚屋、八百屋、家具屋、楽器屋……。

現実世界でもあった店が、名を連ねている。


朱色の屋根に、たなびく暖簾。

東洋風の世界観が、見る人の心をくすぐる。


懐かしい雰囲気からして、商店街……いや、この世界からしてみれば、市の様な物だろう。

興味が湧いて、あちこちを覗き回る。

今のお金でも、買える物があるかもしれないという希望に従って。


しかし、値札を見て雅は倒れそうになった。

「150マーラ」「265ダイ」「300マーラ」……。

金銭感覚が違うのだ。

否、価値と言った方が正しいかもしれない。

円どころか、ドルすら使えないのだ。

どうりで、武器屋の主人にも通じなかった訳だ。

――「嬢ちゃん、その金は何だ?此処じゃ使えねぇよ」

そのときは服屋だけ例外だと、現実逃避する事が可能だったが、もはやそれも不可能と化したのである。

それはさておき、国際的に通用するドルも使えないとなると、手持ちの15000円と、100ドルは無意味になるのか。

――メイドに持たされた大金だ。決して、雅の意思では無いと、強く主張しておこう。


値札から目を逸らし、撫子の後を追って行く。

――ところで、撫子は一文無しだが、何とかなるのだろうか。

「う」

嫌な想像を、頭を振って遮る。


いつの間にか、撫子は遥か彼方に居た。

雅は息を切らしながらも、撫子の後を追う。

本当は、運動神経は良い方なのに。

――持久力がないだけで。


撫子を追って、小走りになった。

此処で迷えば最後、永遠に帰れないと本能が察する。

撫子と離れるわけにはいかない。


「おかーさん、これ買っ……」

「駄目よ」

「えぇーっ!」


「奥さん美人だねェ!特別にお安くするよォッ!」

「まぁ、お上手ね〜」


「この布が良いわ、お父様」

「よし、これを十くれ」

「毎度ありィ!」


人混みが人混みを呼び、賑わっていると言えば聞こえは良いが、騒がしいと言った方が適切だろう。

つくづく、一人で来ると帰れなくなるのがオチだと痛感させられる。


市場は、気を抜くと迷いそうな所ではあるが、撫子は迷わず進んで行く。

そこは、尊敬するが。


「今から行く武器屋は〜、良い武器があることで有名なんですよ〜!敵をぶった斬れちゃいます!」


――逐一、物騒な事を言わないでほしい。

周りの視線が痛い……。


どうやら、この世界には武器やら戦いやらがあるらしい。

……出来れば、平和な世界が良かった。

上手くいかないかとは思っていたが、ここまで武器が身近に有るとなると、些か不安が生じても不自然では無いだろう。


すぐ側を、人力車が通りかかる。

召使いなのか、家来なのか。

上品な女性を乗せて、懸命に運んでいる。

この世界って、電気は通っていないのか。

くだらない事を思案していると、子供達の遊ぶ声が聞こえてきた。


無論、子供も狐の姿。

和気藹々と遊んでいるが、普通の人間から見れば、異常過ぎて気を失う程である。

狐の擬人化とは、この日の為に作られた言葉ではないだろうか。

行き交う人々は、殆どが狐の耳と尻尾がついている。

これは、正常らしい。


「雅さん!よそ見していると、車にぶつかってしまいますよ〜」

付け加えておこう。

「車=人力車」である。

分かりにくいので、ゲーム的には−10。


「どうしました?雅さん」

撫子はくるりと後ろを見た。

「何でも無いわ」

それより……と、雅は続ける。


「撫子、武器屋は何処なの?」

元々、長い時間歩くのは好まない。

理由?

……疲れるからだ。


息を弾ませ、撫子の後について行く。

普段、通学する時しか歩いた事がない雅は、早くもダウンしてしまいそうだ。

昔から、何処かへ行く時は、基本自動車。

その他欲しい物は、歩いて手に入れなくとも、既に手の中にあった。

持久力皆無でも仕方がないと思って欲しい。

それに比べ、普段から山菜採りや釣りをしている撫子は、どんどん先に進んで行く。


「雅さん、もうすぐです!頑張ってくださ〜い!」

前から撫子の声が聞こえる。

――なんか、置いて行かれたみたいで癪。


雅の横を、六歳くらいの子が駆け抜けて行く。

その運動能力を、半分くらい分けて欲しい。

いや、三分の一で良いから。

年上らしくもなく、恨み言を頭の中で繰り返す。

リピート機能は、怖い物だ。


「あ、着きましたよ〜。此処に来るの、何年ぶりでしょうか〜」

そうこうしているうちに、武器屋に到着。

今更だが、撫子は来た事がある様だ。


外見は服屋と同じく、白い建物に朱色の屋根。

暖簾には、『武器屋』となんとも、物騒な文字がずらりと並んでいる。


「御免くださーい♪」

撫子は手慣れた様子で入って行く。

その勇気は、毎度感心させられる程だ。

「雅さーん!早く〜っ」

雅も後に続き、恐る恐ると暖簾を潜った。

――定食屋以来の感覚。何故か懐かしい。


「おう!ろく……じゃねぇ、撫子の嬢ちゃん!久方ぶりでェなぁ!」

「撫子ちゃん、いらっしゃい!あら、お友達も一緒?」

愛想の良い老夫婦が出迎えた。

「こーんにちは〜♪お久しぶりですねぇ〜」

撫子が遠慮無く武器を手で触れる。

不気味な色が光った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


――剣、盾、鞭、弓、槍……

綺麗に飾られた武器の数々。

不気味に光る鋭利な物、鈍器等を見て、雅は一歩後ずさる。


「怖い?」

声を掛けて来たのは、奥さんの方だった。

しかし、雅を気遣ったのであるが、生憎、雅はこういう事に慣れていない。

「別に」

一言返すと、雅は店内を見渡す。

良い武器を、探す為に。


主人の妻は、雅の性格を瞬時に見抜く程には、察しが良い人であった。

――この子には、愛情が必要だ。

即座にそう判断した。故に、店から追い出すという選択肢は当然無くなった。


「お嬢さん、属性はなに?」

訳のわからない質問。

異世界系の定番というやつだろうか。

「属性?」

ここはゲーマスの意思に従い、素直にストーリーを進めておくか。


「えっと……。武器のことは、よく知らないわ。お勧めは?」

面倒臭そうに聞く客である。

しかし、夫人は優しそうに目を細めた。


彼女は手前の棚を指差し、食前の説明ならぬ、武器の説明を行う。

「そっちは、遠距離にも最適な物が多いわ。これみたいな、ほら。よいしょっと。そう!これなら、扱いやすいと思うわ」

そして背伸びをして取ったのは、薙刀だった。


紅い柄、銀色に煌めく()の部分は、惹きつける様な輝きを放っている。

石突は黒く、鈍く光る。


「それでね?お嬢さん、これは接近戦でも使えるけれど……」

主人の妻は、穂の部分をいきなり前に突き出した。

「んんっ⁉︎」

撫子が飛び退く。

ヒュッという音がして、刃先が撫子の髪を掠めた。


「半径二メートル以内なら、こんな風に突き出したり、槍の様に投げて使うのもアリ、よ」

現実世界での使用方法はさておき、割と便利な道具だ。

「薙刀、凄いわ……」

本心のままに呟くと、夫人は首を傾げる。


「ナギナタ……?それは何か、よく分からないけど、木刃(もくふ)は便利な武器でしょ?遠距離も、接近戦もアリなの。今なら、特別お安くするわよ?」

それで思い出した。


「撫子、お金、どうする?」

「あ、、、」

しまった!という顔で、彼女は雅を見る。

案の定、すっぱりと頭から抜け出ていたらしい。


「あらあら。おっちょこちょいな子だこと」

「なぁ、文無しなのに来たってのか?すげぇな。撫子の嬢ちゃん、度胸あンなぁ」

夫妻は、あっけらかんと言った。

って、そんな場合じゃ無いのだが。


「あのぅ、お、お金は……?」

一文無しの撫子は、おずおずと尋ねた。

「んー、そうだなぁ」

主人は悩む様に考えると、主人の妻が提案した。

「だったら、撫子ちゃんの隣のお嬢さん」

「雅です」

隣のお嬢さん呼ばわりは気に入らないので、遅すぎる自己紹介をした。


しかし、突き放す様なな言い方でも、主人の妻は悪い顔をしなかった。

それどころか、納得した様に頷き、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「うん。雅ちゃんね。じゃあ、交渉の続きだけど。その妙な食べ物と交換するっていうのは、どう?」

条件に提示して来たのは、お弁当だった。

先程、主人が興味を示し、中を開けたのである。

不思議なおかずに、夫妻は興味を持った様だ。


「こりゃあ、なんだ?」

「卵焼きです」

「じゃあ、これは何?」

「サラダ」


夫妻が質問し、雅が答える。

そして、10分ほど(体内時計だが)過ぎた頃――。


「よゥっし!交換成立だ!雅の嬢ちゃんの『オベントウ』と、木刃の交換でいいなァ?」

「はい」

物々交換とは、なんと便利な手段だろう。


撫子の一文無しが発覚したが、この調子なら、他も何とかなりそうだ。


「そういや、雅の嬢ちゃん。今更武器を買うなんて、珍しいにも程があんなー」

「?」

小首を傾げると、主人が豪快に笑った。


「自分で言うのも何だけどよ。このご時世、撫子の嬢ちゃんくらいの歳なのに、短剣一つも持ってねぇなんて、危な過ぎんだろ?全く、おかしな嬢ちゃんだなぁ。肝が座ってんのかー?」

茶化す様に言われ、この世界の危険性を確認。

どうも有難う。

不安になる要素を加えてくれて。


「まぁ、事情があるんでしょう。あ、それよりね……」

奥さんの言う事には、だが。


「魔法屋の、私の叔母様の所に行くといいわ。話を聞いていると、魔法も知らない様だし」

それは正直、言えているとしか返す言葉が無い。


何故なら、今の雅はプロの目にとって、素人としか言い難い状況なのは、雅も自負しているからだ。

武器を選ぶ時に大切なのは、自分の長所を伸ばす武具を選ぶ事だと、何かの書物に書いてあった。

この世界に魔法がある以上、自分の最大の長所として挙げられるのは、一に魔法、二に身体能力だと考えられる。

普通は、武器を選ぶ際に魔法に属した武具か、確認するのだろうか。

夫妻の話を聞くと、その可能性は否定できない。

むしろ高い。

それもせずと、素人を否定したところで何と言えよう。


撫子並みに感が鋭い夫妻に、雅は押し黙る。

この夫婦は察しが良い様だ。

良いような、悪いような。

「え?何で魔法屋に行くんだ?てか、魔法知らねーのか?なんで?」

――訂正。

察しが良いのは、()()()()である。


「もう!察しなさいな!あ、紹介状書いておくわね」

てきぱきと仕事をこなす夫人は、かなりのベテランと言えよう。

その気持ちは有り難い。が、紹介状の代わりに、1マーラでも良いから欲しいというのは、欲であろうか。

(無論、お金の価値は分からないと付け加えておこう。)


「わぁ、色々有難う御座いまーす♪」

撫子の他力本願も相当なものだ。


「はいはーい。これで!OK!っと!」

幾度か意気込んだ夫人から、魔法屋への住所を書いてもらう。


「気を付けてね!」

木刃を受け取り、急足で外に出た。


「あ、オベントウ有難う!」

「頑張れよー!」

優しい夫妻の声が響いた。


                         ☆★☆☆



「あっ、此処ですね!」

魔法屋についたのは、その5分後。

同じく暖簾に『魔法屋』とでかでかと書いてある。

中からはアロマの匂いが漂っているが、線香だろうか。


「わぁ〜!来るのが久しぶりなので、どきどきしますねぇ」

物怖じせずに、暖簾をくぐった撫子。

その勇気は計り知れないと、末代まで伝えられるだろう。


「……いらっしゃい」

ぼそぼそと声が聞こえる。


「此処は◼️◼️◼️は立ち入り禁止だと言ったっつーの」

風が吹いて、雑音が混じった。

だが、『立ち入り禁止』の言葉はしっかりと聞こえていた。

誰が立ち入り禁止?

――私が?撫子が?


「伏線を張ったわね」

雅は深くため息をついた。

しかし、雑音の中身を聞こうとは、到底思えない。

中では、撫子が魔法屋との交渉に勤しんでいたからである。


「あの、でも……」

「とにかく、出てけ。金にならん者は要らんっつーの」

あくまで付き合おうとしない声が、外に漏れる。

「私たち、紹介状は持ってますよ!それに、物々交換なら可能です!」

「……紹介状?」


店主の声に驚きが混じった。

彼女は早々に、切り札を突きつけた様だ。

中に入る勇気が無い雅は、その場で右往左往する。


暫く沈黙が続いたものの、

「……連れってお前さんのこと?だったら、さっさと入ってくれ」


雅は、むっとなった。

が、感情を押し殺す。

――その理由は、面倒臭さにあるにせよ。


「……早く」

フードを肩にまで下ろし、こげ茶の短髪は乱れている。

同じくこげ茶の狐耳には、ピアスが銀色に光っている。


接客の意思が見えない主人ではあったが、此処でクレームを付けても埒があかないだろう。

日が暮れてしまう。


少しの反発にと、主人の言葉に耳を傾けず、ゆっくりと店内に入った。


「で、おたく。魔法を知りたいっつー、認識で合ってる?」

営業する気が欠片も感じられない店主、もとい魔法研究者に向かい、刺々しく言葉を放つ雅。


「極羽雅よ。認識は合ってるけど、接客に関しては勉強し直した方が良いわ。良い塾を紹介してあげましょうか?貴方の様な頭でも入れて、脳を鍛えてくれる……いいえ、無いわね。忘れなさいな」

研究者の狐耳が、ヒクッと微かに動く。

どうやら、逆鱗だったらしい。

研究者は狂った様に怒りだした。


「はぁ?そっちが教えて欲しいっつー、話だよなぁ?求めてる側が偉そうなこと言ったら、教える気にならないっつー、もんだよなあ?」

大きめに出た態度。この様子からして、社交的とは口が裂けても言わない。

言わないのだ。

言えないのではなく。


「さっきから、つーつーつーつー、五月蝿いわ。静かにできないなら、ガムテープで口を塞いであげましょうか?私、この市場の全員から感謝される自信があるわ」

「ふ、ふざけるなぁ!」

雅も社交的では無かったのは、お生憎様だった。

こちらは毒舌歴16年。――ご愁傷様。


心の中で恭しく手を合わせ、彼を見据える。

撫子だけはまともで、しっかりと慌てふためいていた。

「ひぇぇ、み、雅さーん!赫海(せきかい)さぁーん!おっ、落ち着いてぇ……‼︎」


尻尾を丸め、怯えている様子は気の毒なのだが、それを理由に素直に従う気は、雅には無い。


「貴方、店主よね?少しは接客くらいすれば?」

刺々しく言葉を放つ。


「て、てめぇ……!」

ポーカーフェイスが崩れたらしく、彼は酷く顔を歪めた。

殺意のこもった目を、雅に向ける。


その手に握られた短剣に、力が込められるのが分かる。

……あ、ピンチかも。

そう思った時には、遅かった。


目にも止まらぬ速さで、雅の顔に行き着く。

刺される……!

しかし、朱色の目に刃が届く頃。




「――あんた、楽しいん?そんな一言で人、殺そうとしはるなんて。あり得へんわ」




短剣が取り上げられ、宙を舞い、紅い屋根に突き刺さる。


トンッと音がして見てみると、金髪に同じく狐耳と尻尾、淡い蒼色の丈の長い姫服を着た少女が立っていた。

赫海は、その事を呆然と見ている。


長い長い沈黙が、両者を包み込んでいた。


「お前は……まさか」

瞠目して、現れた彼女を見る。

魔法研究者は、深くフードを被り、目を逸らしていた。

声のトーンも、先ほどより少し高い。


まるで、別人の様だ。

つー、と言う癖も皆無。

二人は、顔見知りと考えるのが妥当だろう。


「んー、なんて答えたらええんかな?ま、自己紹介せぇへんのもあれやな。んじゃ、ひとまずやけど」

彼女は、胸に手を当て、狐耳の右側を折り畳んで言った。


総真(そうま)……総真琥珀(こはく)って名乗っとこか」


鈴の様な声音で、聞く人の心をくすぐる。

撫子のハープが奏でる様な声とは違う、でも美しい音色で。


関西弁の彼女――琥珀は、そう名乗った。

んー!

2話目行きました!

あれ?3話目かな⁇

とにかく、ここまで読んでくださって、有難うございます!

さて、謎の関西弁少女琥珀の正体はいかに……⁉︎

みたいな展開になってしまいましたが、次話も頑張ります!

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