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『シャーロット』シリーズ

シャーロットを侮ってはいけない

作者: 七瀬菜々

頭の中を空っぽにして読んでもらえたら嬉しいです



『侯爵家のルーカスが、今度は劇団の歌姫フレデリカに手を出したらしい』


社交界にこんな噂が流れ出した。

ルーカスが女性と噂になるのは、今回に限っての事ではない。

普段は彼に厳しい事を言う侯爵も、婚姻前の女遊びには何も言わない。

安易に貴族女性に手を出していないからという点もあるだろうが、大方、自分の過去もそんな感じだったのだろう。

自分が遊んでいた過去を知る夫人の手前、侯爵がルーカスを咎めるのは格好がつかない。


そして、それが許容される事を知ったルーカスは箍が外れたように、定期的に様々な女性と浮名を流すようになった。

シャーロットがその事を父に相談しても、彼女の父は『女遊びは芸の肥やし。今だけだ』と言う。

女は男の浮気を許容しろという事だろう。


(…芸人でもないのに芸の肥やしなど笑わせる)


シャーロットは心の中で悪態をついた。

彼女は、軽薄な男を何よりも嫌う。

そんな男に成り下がってしまった愛しい人をどうにかすべく、シャーロットは彼を自室へと呼び出した。



***


空は雲ひとつない晴天。

だが、それに反して部屋の中の空気はどんよりとしていた。

部屋を訪れたルーカスは、シャーロットに促されるまま、彼女の目の前に腰掛ける。

シャーロットの側付きのメイドは、二人に紅茶を出すと「ごゆっくり」とだけ言い残し、そのまま部屋を後にした。



互いにひと口、紅茶を啜る。

入室してから約10分。ルーカスは、まだ何も話し出さないシャーロットの方をチラリと見た。

窓から差し込む光に、シャーロットの金糸のような髪が反射する。

その光が眩しかったのか、ルーカスは癖のある長い前髪を触り、目を隠した。



「今朝も朝帰りをしたそうだけれど、侯爵家の者であるという自覚が足りていないのではなくて?」


シャーロットは漸く口を開いた。

ソファに深く腰掛け、扇で口元を隠しながら、ルーカスに対し"侯爵家の跡取りとしての資質"を問う。

彼女の大きな青い瞳は、目の前に座るルーカスをしっかりと見据えていた。


その迫力に気圧されたのか、ルーカスは俯いたまま何も言えない。

しかし、長い前髪の隙間から覗く彼の三白眼は、不服そうにシャーロットをじっと見つめていた。



シャーロットは小さくため息をつく。


「随分とお盛んなようね?お父様が許していらっしゃるからと少し羽目を外し過ぎているのでは?」

「女遊びは芸の肥やしだと父上は言っていた」

「芸人でもないのに、芸を肥やしてどうするのです。侯爵家を捨てて、旅芸人にでもなるおつもりかしら」

「別に子どもは作っていない。問題ないだろう!」

「その辺は心配しておりませんけれど、いつ『貴方の子よ!』と心当たりのない赤子を押し付けられてもおかしくはないのですよ?」

「うるさいな!お前には関係ないだろ!?」

「関係ならあります。貴方の醜聞は私の醜聞になりますもの」


シャーロットはジトッとした目で、吠えるだけのルーカスを見る。


ルーカスは、シャーロットに口煩く言われているこの状況に納得出来ていない様子で、ボソッと一言呟いた。


「…俺の婚約者でもないくせに口出しするな」



実のところ、二人はまだ婚約していない。

二人は数年前に結婚の約束をしたが、そこから何も進展していなかったのだ。

理由は色々だが、そのひとつに年齢がある。3つ年上のルーカスはその時、すでに婚約・結婚が可能な年齢に達していたが、シャーロットはまだその年齢を迎えていなかった。

だから、今の今まで、二人は宙ぶらりんの状態だったのだ。

そして、それを逆手に取ったルーカスは今、遊び倒している。

正式な婚約者ではないシャーロットは、これまでずっと彼の女遊びに口出しできずにいた。



「婚約者になれば口を出す権利があると?」

「"婚約者なら"あるかもな」


言外に『お前にその権利はない』と言うルーカス。

だが、言質をとったシャーロットは、扇の下でニヤリと口角を上げ、一枚の紙を取り出した。

そしてそれをルーカスの前に差し出す。


「な!?」


その紙を見たルーカスは、わかりやすく狼狽える。


「今から婚約するので口出しする権利が発生します」

「お、俺はサインしないからな!」


シャーロットが差し出したのは、婚約の誓約書。つい先日、婚約可能な年齢を迎えた彼女は、今日これを書かせるためにルーカスを呼び出していたのだ。


「貴方はサインするしかありませんのよ?」


シャーロットはパンッと扇を閉じた。

そして、にっこりと微笑んでルーカスの前に一通の文を差し出した。

怪訝な顔で彼女を見るルーカス。

シャーロットは無言で文を開けるよう促す。


封を切ると、2枚の便箋が入っていた。

1枚目の便箋に目を通すルーカス。

そこには一言、こう書かれていた。


《諦めなさい》


ルーカスはバッと顔を上げ、シャーロットを見る。

その目には動揺が窺えた。

シャーロットは素知らぬ顔で彼から目を逸らす。

ルーカスは恐る恐る2枚目の便箋に視線を落とした。

そこにはこう書かれていた。


《人生の墓場へようこそ》


ルーカスは再びシャーロットを見る。


「お、お前…。まさか!?」


彼の便箋を握る手が、わなわなと震えている。

シャーロットは目を細め、ニヤリと口角を上げた。


「婚約誓約書をしっかり見なさいな?侯爵夫妻のサインがあるでしょう?」


ルーカスは文を横に置き、乱暴に婚約誓約書を手に取った。

誓約書の下の方を見ると、後見人が記入するサイン欄に父と母の名があった。

そして、その横には侯爵家の印鑑がしっかりと押されている。

ルーカスはテーブルを思いっきり叩き、前のめりになりながら声を荒げた。


「ど、どうやって父上と母上を丸め込んだ!」

「丸め込むなんて人聞きの悪い」

「父上も母上も、お前との婚約には渋い顔をしていたではないか!」

「私が幸せになれるのならと、快くサインしてくださいました」


シャーロットはにっこりと微笑んだ。

その笑顔がルーカスには少し怖い。


数年前、ルーカスと結婚の約束をしたことをシャーロットは侯爵夫妻に伝えた。

しかし、夫妻はずっと渋い顔をしていた。

そのことを知っていたルーカスは、まだ彼女との婚約迄に時間があると思っていたのかもしれない。

ルーカスが女遊びに夢中になっている間に、シャーロットはじわじわと、着実に夫妻を丸め込んでいた。


両親がこの婚約に賛成しているのならば、今ここで拒否しても、後で強引に推し進められるかもしれない。

何か逃げ道はないかとルーカスは必死に考える。そして、ふと、ある事を思い出した。


「お前には第二王子との婚約話が来ていたのではないか!それはどうするつもりだ!?」


シャーロットに縁談の話が来ていたことを思い出し、助かったとでも思ったのだろうか。

ルーカスはやや勝ち誇った顔をした。


しかし、シャーロットを侮ってはいけない。

彼女はそんな彼を鼻で笑い、そっと2通目の文を取り出した。それは随分と上質な封筒だった。


その文をルーカスの前に差し出し、また無言で中身を確認するよう促す。

次は何が来るのかとヒヤヒヤしながら、ルーカスはまた、封を切る。


中に入っていたのは3枚の便箋。

1枚目にはこう書かれていた。


《私の愛しいシャーロットを泣かせたら許しません》


2枚目はこう。


《妻がお前達の行く末を心配しているから、もういい加減諦めろ》


そして3枚目。


《この婚約は王命である》


ルーカスはゆっくりと、上質な封筒に描かれた模様を見た。

そこには王家の紋章が描かれていた。


「1枚目は王家に嫁いだお姉さまから。2枚目はお姉さまの旦那様である王太子殿下から。そして3枚目は国王陛下からですわ」


それが何でもない事であるかのように、シャーロットは言う。

王族からの文を簡単に持ってくる彼女に、ルーカスは恐れ慄いた。


「だ、第二王子はどうした?」

「何処でそのお話を耳にされたのかは知りませんが、第二王子殿下が"勝手に"私と婚約したいとおっしゃっているだけです。お姉さまが王家に嫁いでいるのに、私まで王家に嫁ぐとか、ありえないでしょう?」


一つの家から二人の娘を王家に嫁がせるなど、宮廷内のパワーバランスが崩れてしまう。よって、シャーロットと第二王子との婚約など、そもそも実現しない。

その事をルーカスは失念していた。


流石に観念するか、とシャーロットは若干顔色の悪いルーカスを見る。

しかし、彼は往生際が悪かった。


「し、しかし。俺にはフレデリカという人がいてだな…」


ここまで来て、まだ腹を決めないルーカスに内心イラッとしながらも、シャーロットは3通目を差し出す。

もう文は見たくないと思いながらも、ルーカスはまた、封を切った。


中には便箋が1枚と、オペラのチケットが2枚。


《今度、お二人で観劇にいらしてくださいね!》


便箋からは仄かに、歌姫フレデリカの香水の匂いがした。


「フレデリカさんから色々とお話を伺いましたの。そしたらなんと、衝撃の事実が発覚しまして。聞きたいですか?」

「あまり聞きたくない」


ルーカスの顔色はみるみる悪くなる。


「フレデリカさん、ご親切に『ルーカスがしばらく恋人のふりをして欲しいと言うから、それに付き合っていただけよ』って、教えてくれましたわ。欲しいものなんでも買ってあげるから、とお願いしたそうですね?」


ルーカスはシャーロットを見ることができない。


「そろそろ観念なさったら?」


俯くルーカスに、シャーロットはにっこりと微笑んで「いい加減腹を決めろ」と言う。

しかし、ルーカスは首を横に振る。

シャーロットはその姿に、心の中で舌打ちした。


「お、俺には他にも心に決めた女が…」

「心に決めた女が複数いる状態は、最早『心に決めた』とは言いませんよ」


そう言って、シャーロットは彼の前に複数の封筒を放り投げた。

ルーカスはそれらの封筒を確かめる。

差出人の名前は全て、過去、ルーカスと浮名を流してきた女性のものだった。

そして皆、フレデリカ同様、恋人のフリを頼まれていたらしい。


「全て読み上げて差し上げましょうか?」

「いや、遠慮する…」

「ちなみに、文は頂けませんでしたが、王都の端、東門街の娼館で働いていらっしゃるアイリスさんからは、『下働きの女と遊ぶくらいなら私を買え』と伝言を預かっております。甲斐性がなさすぎて、逆に恥ずかしくなりました。ほんと、何をしに娼館まで足を運んでいらしたの?」


シャーロットは呆れたように言い放つ。

ルーカスは娼館には通っていたものの、女は買っていなかった。娼館のオーナーに適当に金を握らせ、下働きのメイドとの世間話を楽しんでいたらしい。


シャーロットがチラリとルーカスの方を見ると、彼は恥の感情からか、顔を真っ赤にして俯いていた。


「貴方が私に、"自分との婚約を諦めさせるため"に遊び人のフリをしている事はもうわかっています」

「…わかっているなら、諦めろよ。俺に婚約の意思はない」

「…何がそんなに気に入らないのです?」


シャーロットは社交界の花と言われるほどに完璧な令嬢だ。

美しい容姿に加え、貴族女性としての品性も、侯爵夫人に必要とされるだけの知性もある。

侯爵家の跡取りにとって、シャーロットほど適任な女はいない。


納得できないとむくれるシャーロットに、ルーカスは勢いよく立ち上がり、大きな声で言い放つ。



「だってお前は妹だろう!!」



肩で息をするルーカス。

険しい顔をしてそう言う彼に、シャーロットはシレッと返す。


「妹ですけど、義理です」

「義理でも妹は妹だ!妹と結婚とか、それこそ醜聞だ!」

「その辺はうまくやります」

「うまくやれそうなのが逆に怖いんだよ!」


ルーカスは頭を抱えて座り込んでしまった。



***


ルーカスは侯爵家の養子であった。

女児しか生まれなかった侯爵家は、分家筋の次男だった彼を養子に迎え入れたのだ。

ルーカスが侯爵家の屋敷に来たのは、彼が10歳、シャーロットが7歳の時だった。


当時、貴族女性として、マナーやダンスのレッスンを始めたばかりだったシャーロットは、今まで自由に振る舞うことが許されていた暮らしから一変して、いきなり窮屈になった生活に戸惑っていた。

そんな中、突然やってきた義兄。生家を出て、侯爵家の次期当主として厳しい教育を受けることになったルーカスに、彼女は同情し、哀れんだ。

しかし、当のルーカスは弱音を吐かず、厳しい教育に黙って耐えた。自分に求められる役目を果たそうと、必死にしがみつくその姿に、シャーロットは心惹かれた。


そこから彼女は心を入れ替え、ルーカスに恥じることのない立派な淑女になれるよう努力した。


成長するとともに、ルーカスへの恋心は増していったが、同時に、この恋が叶わない事も理解していった。

シャーロットは、ルーカスへの想いを胸に秘め、いつかこの恋を忘れられる日が来ることを願っていた。



あの日までは…。




***




「大体!お前は俺と結婚の約束をしたと言うが、俺はそんな血迷った事などした覚えはない」

「まぁ!あの夜のことを覚えていらっしゃらないとおっしゃるの!?」


およよ、ソファの肘掛けにしなだれかかるシャーロット。

それを見て、ルーカスはギョッとする。

自分が覚えていないだけで、もしかすると酒に飲まれてシャーロットに手を出したのかもしれない、などと考えて青ざめた。

彼のその顔を見て、シャーロットはクスッと笑い、姿勢を戻す。


「まあ冗談はさておき」

「冗談かよ…」


記憶のない状態で義妹に手を出したなど、きっと世間も父も許さない。

シャーロットのその言葉に、ルーカスは心の底から安堵した。


わかりやすく安堵の表情を見せるルーカスを、シャーロットはジッと見つめる。


「…お兄様は何故、誰ともご婚約なさらないのです?」

「それは……」


その質問に、本心で答えることができないルーカスは、すぐさま言い訳を探す。

しかし、シャーロットの真剣な眼差しに気圧され、言い淀む。



「お兄様は、確かに顔は平均よりちょい上くらいですけど、結構おモテになるでしょう?」

「顔は関係ないだろう」

「いくつも縁談が来ているのは知っています。お父様はいつも従順なお兄様が、婚約だけは頑なに拒否すると困っていらしたわ」

「婚約をしないのは、まだ遊びたいからで…」

「遊ぶって、娼館で下働きの女の子と楽しくお茶する事ですか?それとも女友達にひたすら貢ぐ事ですか?」


シャーロットは、ルーカスを半眼で見る。

その視線が彼には痛く突き刺さる。


シャーロットはふぅ、と小さく息を吐いて語り出した。


「お父様にお聞きしましたの。お兄様、『好きな人が幸せになるのを見届けてから結婚したい』と仰っていたそうですね?」


不敵に笑う彼女の顔を直視できないルーカスは、咄嗟に、視線を窓の方に向けた。

庭の木の枝に留まっていた烏と目が合う。

彼は外の烏が「アホー」と鳴いた気がした。


シャーロットはスッと、ルーカスの前に小瓶と1枚の紙を差し出した。

差し出された物を横目で見るルーカスに、シャーロットはまたしても、無言でそれを手に取るように促す。

紙は何かの説明書のようだった。

説明書の頭には《自白剤の取り扱いについて》と書かれていた。


「じ、自白剤?」

「この自白剤は、人体に無害です。そして使用後は一度眠れば、飲んだ後に話した内容とか綺麗さっぱり忘れてしまう代物だそうです」

「すごいな。ご都合主義の塊のような代物だ」

「3年ほど前、お姉様にお兄様の事を相談したんです。すると、お姉様はコレと睡眠薬をくださったの。この自白剤をルーカスに飲ませて『私の事好き?』って聞いてみなさいと言われました」

「…そ、それで?」


ルーカスは恐る恐る聞く。

シャーロットはにっこりと笑いかけた。


「お兄様は『好きだよ。初めて会った時からずっとシャーロットが好きだ』ってそう囁いて、優しく抱きしめてくださいましたわ」


当時を思い出したのか、シャーロットは少し頬を染めた。

対するルーカスは顔を真っ赤にして、項垂れた。


「私と結婚したいか、と聞いたら『叶うなら結婚したい。でもシャーロットには皆に祝福されるような結婚をしてほしい』とおっしゃいました」

「も、やめて…」

「私が、皆に祝福される状況を用意できたら結婚してくれるのか、と聞いたら『そんな時が来たらな』と優しく微笑んでくださいましたわ」

「ほんと、勘弁してください…」


ルーカスは俯きながら両手を挙げ、降参のポーズをした。

義兄のライフはもうゼロだ。


ルーカスも同じ気持ちだと知ったシャーロットは、すぐに『ルーカスと婚約したい』と侯爵夫妻に申し出た。

何だかんだでシャーロットに甘い夫妻は、すぐに許可してくれると思っていたが、予想外に渋い顔をした。

『義理といえども兄妹での結婚は外聞が悪い』と言うのだ。

だからシャーロットは、その外聞の悪さをどうにかしようと、持ち得る人脈を駆使し、"皆に祝福される結婚"ができるよう動いた。

そして今、少し時間はかかったが、ルーカスの言う"その時"を用意することができた。


ルーカスは、シャーロットが自分と婚約したがっている事は薄々勘付いていた。

しかし、直接婚約を申し込まれていたわけではないので、ハッキリと断ることもできなかった。

仕方なく、何度かそれとなく『兄妹で結婚はできないんだよー』と伝えてはきたが、シャーロットは察しの悪いフリをして聞き分けようとしない。

どうしたものかと困り果てた結果、彼女が自分との婚約を考えなくなればと、シャーロットが嫌いな『軽薄な男』を演じていたのだ。




「ねぇ、お兄様。私のこと好きでしょう?」

「好きじゃない」


嬉しそうに聞くシャーロットに、ルーカスは俯いたまま答えた。

だが、シャーロットは逃がさない。


「ではもう一度、私の目を見て仰って?」


ルーカスの前に膝を突き、彼の頬を両手で掴む。

長く癖のある前髪で隠れ、彼の表情は見えない。

しかし、その頬は熱く、茹でた蛸のように赤く染まっていた。


シャーロットは優しく語りかける。


「ねえ、お兄様?『軽薄な男』に成り下がったお兄様の事を、私が嫌いになると思っていらしたでしょう?」

「…思ってた」


だからルーカスは、シャーロットが一番嫌いな男になろうとした。


「でも、お兄様は『軽薄な男』になりきれなかった」

「…そうだな」

「それはどうしてかしら?」

「…さあ?」


結局、ルーカスはシャーロットに本当に嫌われてしまう事を恐れ、真に『軽薄な男』にはなれなかった。

もうその事まで全部バレているのに、前髪で隠れた彼の三白眼は、頑なにシャーロットを映そうとしない。

往生際の悪いルーカスに、シャーロットは頬を膨らませた。


「手に入るとわかっているのに、それを諦められるほど、私は聞き分けがよくありません」

「…それは知っている」

「知っているなら、お兄様の方が諦めてください」


シャーロットは、ルーカスの頬に添えていた手に少し力をいれ、自分の方へと引いた。

そしてそっと口づけた。


ルーカスは目を見開いて、数秒、思考を停止させる。

彼の三白眼は、確かにシャーロットを映した。


「おまっ!?」


状況を理解できたルーカスは驚いて、勢いよく体を後ろに引いた。

首まで真っ赤に染め上げた彼は、手で口元を押さえたまま、それ以上言葉が出てこなかった。


「完璧な淑女に成長した私が、こんな事をするなんて思わなかったでしょう?」


シャーロットは花の蕾が綻ぶように、にっこりと笑った。そして。


「ねぇお兄様。もう観念なさって?」


と、ルーカスに羽ペンを差し出す。

ルーカスはその笑顔に「負けた」と一言呟き、それを受け取った。



***


シャーロットは誓約書にサインするルーカスの隣に座り、ずっと疑問に思っていたことを尋ねる。


「結局、お兄様はどうして私との婚約を嫌がっておられたのです?」


不思議そうに首をかしげる可愛い婚約者に、ルーカスは複雑そうな顔をして言う。


「だって、なんか背徳感が凄いだろ。義妹に手を出すとか」


*誤字報告ありがとうございます!大量の誤字脱字、大変失礼しましたああああ:(;゛゜'ω゜'):


では、後書きです↓

便箋を無駄遣いする一作となりましたね。

1枚にまとめなさいよって思いました(´⊙ω⊙`)


気が向いたら、ルーカス視点でもう一作書こうかとは思っています。

気が向いたら…気が向いたら……_:(´ཀ`」 ∠):


読んでいただき、ありがとうございました!


……………………………………………


※ここからは補足(?)的なやつです。補足されたくない方はご注意ください。


私の中のルーカスのイメージは、ハーレム系ラノベの主人公です(笑)

特に目立つ容姿でもないが、優しくて細かい所に気づくから割とモテる。あと、押しに弱くてヘタレ。


シャーロットは人心を掌握する術を心得ているのか、色んなところにパイプを持ちます。敵に回すと怖いタイプです。

ルーカスとの婚約に反対しそうな家は、あらかじめシャーロットが丸め込んでます。そこはご都合主義で押し通します!←

ルーカスは結婚後、シャーロットの尻に敷かれていることでしょう。


ちなみにどうでも良い事ですが、フレデリカさんは売名目的でルーカスの恋人を演じた面もあります。

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― 新着の感想 ―
クズ男かと思ったら、超ピュアちゃんだった! 思いもよらない結果で、ビックリしました。 侯爵家の姉妹、怖えぇー。。。自白剤て(笑) 詰めの甘いルーカスなので、これくらいの奥さんの方がいいのかもw 今…
[良い点] お兄様かわい過ぎです。シャーロットちゃんも最高です! 外の鳥とみんなからの便箋がとてもツボです♡ [気になる点] 結婚までのお話が読みたいです。周囲がどう丸め込まれたのかとか笑 婚約してか…
[一言] 確かに割と創作界隈だと良くあるけどほんとそれよね<背徳感すごいだろ
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