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084 反撃の狼煙を上げる時

 言いませんでした? からの、お姉からの突然の情報の嵐に「聞いてない!」と文句を言いたかったけど、今はお姉に文句を言っている場合でも無い。


「深夜0時までって本当なの? まだ大丈夫かもって言ってたよね?」


 わたしが驚いている間にも、チーがラリーゼとスタシアナにすがりついていた。

 ラリーゼは鬱陶うっとうしそうに、そして面倒臭そうにチーに視線を向ける。


「さあね」


「お願い教えて? 本当にもう時間がないの?」


「ん~。そうねえ、確かに大丈夫かもしれないって言ったけど、その事を知りたければついてらっしゃい。あの場所(・・・・)に向かうわ」


「……分かった」


 ラリーゼとスタシアナ、そしてチーが何処かへ向かって走り出した。

 わたしはチーを追いかけようとしたけど、スーロパに目の前を立たれて行く手を阻まれた。

 お姉の目の前にもチュウベエが立ち、ゆっくりと刀を構える。


「お姉、後で色々ちゃんと教えてよ?」


「はい! さっさと奴隷商人さんをやっつけちゃいましょう」


 お姉とわたしが言葉を交わした直後、スーロパとチュウベエが動いた。

 チュウベエはお姉に向かって刀を振るい、スーロパはわたしに向かってナイフの切っ先を向けて襲い掛かる。


「アイギスの盾・ダブル!」


 瞬間――わたしとお姉の目の前に魔法の盾が出現して、スーロパとチュウベエの斬撃を防いだ。

 スーロパとチュウベエは驚いて後退し、わたしとお姉から距離をとった。


「お姉、魔法……」


 驚いたのはわたしもだった。

 魔法が封じられていて使えないこの国で、まさかお姉が魔法を使うなんて思いもしなかった。


「あ、忘れてました。愛那まなちゃんにラヴィーナちゃんとサガーチャさんからのお届けものです」


「へ?」


 お姉が胸の谷間に手をつっこんで、そこからさやに収まっている短剣と、シュシュを取り出した。


「短剣はラヴィーナちゃんがスキルを使って作ってくれた物で、こっちのシュシュはサガーチャさんが愛那の為に作ってくれたんですよ。私のこれとお揃いです」


 お姉が自分のサイドテールの部分につけているシュシュをわたしに「ほら」と見せる。


「う、うん。ありがと」


 お姉から短剣とシュシュを受け取って、シュシュは髪の毛に付けている暇が無いのでポケットにしまおうとすると、お姉に「せめて腕につけて下さい」と止められた。

 何故? と思ったのも束の間で、今は戦闘中でのんびりしている暇はない。

 スーロパがわたしに接近し、水の剣を振り下ろした。


 油断していて反応が遅れたわたしは防ぐ事が出来なかったけど、お姉は反応が早かった。

 いや違う。

 お姉と言うよりは、お姉のシュシュの反応が早かったのだ。

 お姉のシュシュが淡く発行して、その瞬間にお姉の魔法が自動で発動されたかのように見えた。

 そして、スーロパの斬撃から、魔法の盾がわたしを護ってくれた。


 一度ならず二度までも攻撃を防がれたから、スーロパが動揺して隙を見せる。

 その隙を逃がさずに短剣を振るいたかったけど、残念ながらそれは出来なかった。

 わたしが短剣を鞘から抜くよりも早く、スーロパが直ぐに正気に戻って後ろに跳躍してしまった。


 やっぱり動きについていけない。

 これじゃあシーサの時と一緒だ。


 悔しいけど、考えるまでも無く当たり前の事だけど、実力差は目に見えていた。

 でも、弱音なんて吐いてる場合じゃない。

 ここを切り抜けないと、きっと何も出来ない。


「愛那、シュシュを腕につけて下さい。このシュシュはマジックアイテムです! 装着すると魔法が使える様になるだけじゃなくて、自動でサポートしてくれるんです」


「え?」


 魔法が使えるようになって、サポートまでしてくれる?

 ああ、そうか。

 だからお姉は魔法が使えるのか。

 それにさっき自動で魔法が出た様に見えたけど、あれって本当に魔法が自動で出たのか。


 直ぐにシュシュを腕にはめる。

 すると、シュシュが淡く光り、その瞬間にわたしの全身が一瞬だけ同じ様に淡く光った。


 分かる。

 魔法が使える!

 それにこの感じ……。


 シュシュの使い方が頭の中に直接流れてくる。

 サガーチャさんが作ったと言うこのマジックアイテムは、わたしが魔力を込めて念じれば、魔法を最大限に活かせるようにサポートしてくれる仕組みになっている事が分かった。


 ……これならっ!


「まさかとは思ったけど、ボク達と同じで無効化用の装置持ちだったか~。厄介な事で!」


 スーロパが再びわたしに接近して水の剣を振りかぶる。

 だけど、もうわたしだって何も出来ないわけじゃない。


 魔力を集中して、わたしは強く念じる。

 そして、同時に短剣のつかを持って、居合切りをするように構える。

 この短剣を振るうのに必要な体の筋肉の隅々に、魔法がのる様にイメージをしてスーロパに狙いを定める。


「クアドルプルスピード!」


 瞬間――スキル【必斬】を同時に発動し、スーロパ目掛けて一閃。

 居合切りの様に素早く斬撃を飛ばして、水の剣を斬撃が斬り裂いた。

 だけど、あとちょっとの所で斬撃はスーロパには届かなかった。

 わたしの斬撃が水の剣を斬り裂くと、スーロパは危険を感知したのか咄嗟に斬撃をかわして、わたしから距離をとった。


「あれが【必斬】。厄介なスキルを使うもんだ」


 スーロパは愚痴を零すと、直ぐに魔法で水の剣を作って構えた。

 わたしは短剣を構えて、目の前の敵、スーロパに集中する。


 大丈夫。

 シュシュのおかげでわたしでも戦える。


「マナちゃんさ、ボクに勝てる気でいるの? 悪いけど、それは無理だよ」


「そうだね」


 わたしはスーロパに向かって走る。

 魔力を無駄に消費しない為にも魔法は使わない。

 先程使った【クアドルプルスピード】だけで、この場を切り抜ける事を考える。

 今までは最初から全力でいっていたけど、今はまだその時じゃない。


 スーロパは羽を大きく広げて、わたしに向かって飛翔した。

 そのスピードは驚くほど速くて、スーロパが一瞬でわたしの目の前に飛んできて剣を振るう。

 だけど、シーサ程じゃない。


 わたしは横っ飛びしてスーロパの斬撃を避けて、そのまま短剣を左下から右上に払う様にして振るう。

 しかし、スーロパが羽ばたいて宙を舞い、斬撃を避けられてしまった。

 わたしは次の攻撃をする為に、直ぐにその場でスーロパに向かって構えた。

 そして次の瞬間。


「――っな……っに!? かはっ」


 一瞬だった。

 スーロパが背後から2メートルくらいありそうな大きな斧で斬られて、そのまま地面に落下した。

 そして、その大きな斧でスーロパに攻撃した人物も、そのまま地面に着地する。

 その人物が着地と同時に地面が大きく揺れる。

 だけど、そんな事は全く気にならない。

 わたしはその人物を見て、驚いて目が離せなかった。


「ぐ、グランデ王子様……?」


「奴隷生活も潮時の様だし、これ以上は姉君からお叱りを受けてしまいそうだから、もマナに力を貸そう」


 そう。

 2メートルはありそうな大きな斧を持って現れたのは、ドワーフの国の王子にして奴隷願望のある変わり者のグランデ王子様だった。

 グランデ王子様はわたしと背丈があまり変わらないのだけど、その体で軽々と大きな斧を肩に担いで爽やかに微笑んだ。


 ドワーフは魔法が使えないけど、その代わりに力が強い種族。

 この世界では常識で、それはわたしも知っていた。

 だけど、実際に力が強い所を目の前で見ると、流石に驚かずにはいられなかった。


「勝った気にならないで……もらえるかなあ?」


 不意に声が聞こえて視線を向けると、倒れていたスーロパが起き上がっていた。

 スーロパの目つきはさっきまでと違っていて、目は鋭く殺気を放っていた。


「あれで起き上がるのか。困ったな」


「魔法を使えないドワーフ風情がよくも……。死ぬ覚悟は出来てるんだろうね?」


「そんなものあるわけないだろう? 死なないんだから」


「死ぬんだよ! ここで!」


「遠慮したいっね!」


 スーロパがグランデ王子様に斬りかかり、グランデ王子様がそれを避けてわたしの隣に移動する。


「マナ、すまないが共同戦線をしてくれないか? 彼女、凄く怒ってて怖いんだ。やっぱり姉君の言う通り、女性には優しくしないとよくないね」


「怖いって……はあ。爽やかに何言ってるんですか。優しくとかの問題じゃないと思いますけど? まあ、良いですよ。元々わたしが戦っていた相手ですし、わたしとしても助かります」


「ありがとう。感謝するよ」


「どういたしまして」


 わたしとグランデ王子様、そして、スーロパが同時に動く。


 グランデ王子様のスピードはそこまでではなく、わたしでも簡単に目で捉えれる速度だ。

 それどころか、魔法を使っているからではあるけど、多分わたしの方が速い。

 だけど、パワーが凄まじい。

 一歩の重量感が桁違いで、前に進むごとに大地を揺らしていた。


 スーロパはグランデ王子様を先に狙った。

 恐らくだけどスピードが遅いからではなく、背中に一撃を食らわせたのと、さっきの会話が原因だ。

 爽やかに挑発まがいな事を言っていたし、スーロパはかなり怒っていた。

 いや、怒るなんてもんじゃない。

 今も尚グランデ王子様に対して殺気を放ち、鋭い目つきで睨んでいる。


 グランデ王子様、ありがとう。


 わたしは加勢に入ってくれたグランデ王子様に感謝した。

 おかげでスーロパを狙うのに集中出来る。


 今にして思えば、フロアタム宮殿でシーサとレバーに襲われてから、本当に何をやっても裏目に出ていた。

 フロアタム宮殿ではシーサに敗れ、奴隷商人のアジトではオメレンカのスキルの前に手足が出なかった。

 奴隷市場の館ではせっかくシーサにリベンジが出来たのに、最後には気を失ってバーノルドに買われて奴隷にされた。

 奴隷になってからは結局何も進展がなくて、お姉と再会出来たと思えば、再会を喜ぶなんて事も無く相変わらずのお姉に呆れさせられる。

 まあ、それは裏目も何もないんだけど……とまあ、それは今は置いておくとしよう。


 気がつけば、わたしは何も出来ないまま……何も知らないままここまで流されてきてしまった。

 モーナが奴隷商人に追われていたり、サガーチャさんとお姉に繋がりがあったり、色々とありすぎて本当に何も知らない自分が情けない。


 そして、チーの事だって…………本当に、何もわからない。

 何も知らない。

 知ろうとすらしなかった。


 悔しかった。

 チーはあんなにわたしの事を好いてくれてるのに、チーの為に何も出来ないなんて絶対に我慢できるわけない。

 だから、わたしはもう何もしないじゃいられない。

 何も知らないなら知らないなりに、チーの為に思う存分暴れてやろうじゃないか。


 2人の刃が激しくぶつかり合い、わたしはそこから間合いを10メートル空けて、スーロパに狙いを定めて短剣を構える。

 もう直ぐで【クアドルプルスピード】の効果が切れてしまうけど、これ以上の魔法は使わない。

 これは絶対条件だ。

 スタシアナ、そしてラリーゼを相手に戦う余力を残さなければならない。

 あの時……ラリーゼから斬りかかられてチーに助けてもらった時、ラリーゼの力を垣間見て分かったのは、ラリーゼの圧倒的な強さ。

 恐らくあの時わたしはまともに動けたとしても、無傷ではすまなかった。

 だからこそ思う。

 ここはまだただの通過点だと。


 スーロパとグランデ王子様の距離は近い。

 普通であれば、ここで斬撃を飛ばしたらまき込むだろう。

 だけど、わたしのスキル【必斬】であれば、スーロパだけを狙う事が出来る。

 だからこそわたしは躊躇ためらわない。

 グランデ王子様がスーロパを引きつけてくれている今が、これ程とないチャンスなのだから。


 これで決める。


 スキル【必斬】を短剣の刃にのせて、その場でスーロパ目掛けて斬り払った。

 10メートルの距離をまるで感じさせないその斬撃は、瞬きをする間もなくスーロパを斬り裂いた。


「――斬ら……れ…………っ……たあ?」


 スーロパは信じられないとでも言いたげな顔をして、血を吐き出してその場で倒れた。


「安心してよ。わたし人殺しするつもりないし、それ、一応みねうちだから」


 そう言って、気絶したスーロパに向かってわたしはイタズラっぽく笑ってやった。




 反撃開始だ。

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