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072 奴隷市場の館の決闘 本気モード

 奴隷市場の館の奴隷を売買している会場は広い。

 どれくらい広いかと言うと、分かり易く例えるなら学校の体育館の広さが近いかもしれない。

 現在そんな広い会場には、逃げ遅れた買い手や、おりの中に入れられた捕らわれている人達がいた。

 今はリープのスキルで眠らされているけど、モーナとっての足枷あしかせになってしまっていた。


 戦いが始まり、モーナがレバーに鋭い爪で斬り裂こうと何度も腕を振るう。

 だけど、レバーが人が入れられている檻を掴んで身を守り、モーナが躊躇ためらって何度も爪を引っ込めてしまっていた。

 それは何度も起きて、その度にレバーからのカウンターによる攻撃が繰り出されて、モーナはそれを寸ででかわしていた。

 だけど、それも長くは続かない。

 何度か同じ事が繰り返された後に、ついにモーナに隙が生じてレバーはそれを逃さなかった。

 レバーはモーナに向かって人が入った檻を殴り飛ばす。


「――っくそ」


 モーナは檻を避ける事が出来なかった。

 隙が出来たと言っても、決して避けれないわけではない。

 避けないのは、檻の中に入っている人がリープのスキルで眠らされているからだ。

 眠っている人が受け身をとるなんて決して出来ない。

 もし避けたらどうなるかなんて想像がついた。

 だからこそこれまでは檻を利用させない様に動いていたモーナだったけど、今回ばかりは檻を利用されてしまった。

 これはモーナにとって自分のミスで、ここで避けてしまうのは簡単だけど、そのせいで檻に入れられた人が危険な目に合うのは許せなかった。

 モーナは避ける事をせず檻を受け止めて、更に隙を作りだしてしまった。

 レバーがモーナの背後をとり、モーナの背中に向かって手の平をかざす。


「フレイムショックだモー」


「させません! アイギスの盾! フリスビースタイル!」


 レバーが魔法で炎の衝撃波を放って、間一髪でお姉の魔法がそれを防ぐ。

 モーナは重低音な爆発の音を耳栓で聞く事は無かったけど、その凄まじい威力の衝撃を背中で感じながら、直ぐに檻を重力の魔法で安全な所まで移動させてレバーに振り向いた。


「この盾……ナミキか? 助かった!」


 未だそこに残っていたお姉の盾を見て、聞こえないと分かりながらもモーナは大声を上げて、そのままレバーに向かって鋭い爪をだして斬り払う。


「フレイムアーマーだモー」


 モーナの爪がレバーを斬り裂く寸でのところで、レバーの体を炎の鎧が覆い尽くす。

 炎の鎧がモーナの爪を防いで、更にモーナの爪に炎が移る。


「やっぱりマナの言ってた通りだな」


 モーナはそう呟くと直ぐに爪に移った炎を消して、お姉のいる所に戻った。

 マナの言ってた通り……そう。

 レバーの魔法とスキルの情報は、既にわたしによってモーナは知っている。

 事の発端は鬼ごっこ大会で、わたしはレバーを要注意人物の一人としてチェックしていた。

 だから、その時には既にステチリングでデータを収集済みだったのだ。

 そしてその時のレバーの情報はこうである。



 レバー=ロース

 種族 : 獣人『牛種』

 職業 : フロアタム新兵

 身長 : 329

 装備 : フロアタム兵専用軽鎧

 属性 : 火属性『炎魔法』

 能力 : 『追尾ストーカー』未覚醒



 魔法は属性だけでなく、訓練中に使っていたものを見ていたのでモーナに教えていた。

 実際にはそれが役に立って、リープが現れる前の戦いでは何の苦戦も無くやっつけた筈だったのだけど、結局は反撃のタイミングを窺っていたようだ。

 そして気になるのは、スキルの【追尾ストーカー】の存在だ。

 これだけは何の能力か分からなかった。

 訓練中に使う事も無かったし、かと言ってあの時の私はそこまで気にする事も無かった。

 あの時は、まさかこんな事になるなんて夢にも思っていなかったのだから。


 モーナがお姉の所に戻った直後、レバーがドッヂボールのボールを投げる様な構えをして、ドッヂボールサイズどころか大玉ころがしの大玉サイズの火の玉がレバーの手の平の上に現れる。


「オデのとっでおぎを見せでやるモー」


「アイギスの盾!」


 レバーが火の玉をモーナに向かって投げて、お姉がモーナの目の前に魔法で盾を出現させた。

 しかし、盾は火の玉を防ぐ事が出来なかった。

 決して盾を出すのが間に合わなかったからじゃない。

 火の玉は真っ直ぐと飛ばずに、カーブして盾を避けたのだ。


 近くにお姉と眠っているワンド王子がいた為、モーナが火の玉を避けずに両手で受け止める。

 瞬間――火の玉は爆散してモーナの両腕を焼いた。


「――っく」


「――モーナちゃん!」


 モーナが怯み、お姉が顔を真っ青にさせてモーナに視線を向けた直後に、二人を大きな影が覆う。

 大きな影の正体はレバーだ。

 レバーはその大きな体から想像できない程に大きく跳躍して、モーナの真上で拳を握っていて、それを今にも振り下ろそうとしていた。


「ペヂャンコにしでやるモー!」


「させませ――っきゃ!」


 お姉がモーナを護る為に魔法で盾を出そうとした瞬間だった。

 いつの間にかにリープがお姉の側に立っていて、お姉の腕を掴んでそれを防いだ。


「ナミ――っ!」


 モーナがお姉とリープに気を取られて、後頭部にレバーの拳を食らってしまった。

 モーナはその場に倒れて、レバーが重い音を床に響かせて着地した。

 そして、お姉は土草で縛られて身動きが取れなくされてしまった。


「離して下さい! モーナちゃ――っんんー!」


 倒れ込んだモーナを見て騒ぐお姉の口を、リープが不機嫌そうに布で縛って黙らせた。

 そして、お姉が何も言えなくなると、リープはレバーに視線を向けてニヤリと笑みを浮かべた。


「思った通りでありますな。あらかじめ先にスキルを使うと思わせる事で、私へ向ける警戒心をある程度無くせると思っていましたが、これ程までに上手くいくとは思いもよらなかったであります」


「流石はリープ、ずる賢いモー」


「はは、褒めても何も出ないでありますよ。さて、猫の獣人は生かしておいても邪魔なだけなので止めをさしておく方が身の為でありますな」


「わがっだモー」


 レバーがモーナの腕を掴んで持ち上げる。

 モーナはだらんと持ち上げられて、そして、そのままレバーに止めをさされ――る事は無かった。

 レバーの攻撃を受けて気絶したと思われたモーナは、実際には気絶していたわけではなかった。

 この場にいた全員はモーナに騙されていた。

 モーナは確かに後頭部に拳を受けた。

 だけど、そんなもの効いていなかったのだ。


 瞬間――モーナを持ち上げたレバーの腕が、鉄骨が折れたかのような音を上げて垂れ下がる。

 そして、一瞬にしてモーナがレバーの背後に回り込み、レバーの背中を拳を作って勢いよく殴りつけた。


「――――モ゛ア゛アアアアアアアアアッッ!!」


 巨体とは思えない程の勢いでレバーは吹っ飛ぶ。

 それはまるで銃弾のような鋭いスピードで、そのまま勢いよく壁に衝突して突き破った。

 突然の出来事にリープが驚いて硬直し、お姉を掴む手を緩めた。


「ナミキを返してもらうぞ」


「――っ!」


 リープが正気に戻ってお姉を再び強く掴もうとした瞬間に、リープの体が宙に浮く。

 そして、リープの周囲に大量の魔法陣が浮かび上がった。


「なっ……これは!? どうなってるでありますか!?」


「ロックロック」


 モーナが呟くと、直後にリープの周囲に浮かび上がった魔法陣から大量の岩が飛び出した。

 そして全てリープに向かって飛翔して、リープを大量の岩が閉じ込めて、それは空中に留まった。


「ナミキ大丈夫か?」


 モーナがお姉を縛っていた土草や口の布を外して訊ねると、お姉は目尻に涙を浮かべてモーナに抱き付いた。


「良かったです! モーナちゃんが殺されちゃうかと思いました!」


「そうか、泣くほど痛く縛られたんだな。ごめんなナミキ。あいつ等を油断させる為に、牛男みたいにやられたフリをしたんだ。ナミキに乱暴するなんて思わなかったわ」


「はい! モーナちゃんなら大丈夫って、私は信じていましたよ!」


「それにしても、ついつい本気を出しちゃったわ。おまえは暫らく人前で本気で戦うなって言われてたのに……でも、ナミキになら良いか」


「私の事なら大丈夫です。少し強く掴まれただけです」


 相変わらず耳栓で話がかみ合っていない二人に、小さな人物が近づいた。

 そして、その人物はお姉の左耳につけた耳栓とモーナの右耳につけた耳栓を同時に外して「二人とも会話になってないぞ」とツッコミを入れる。

 二人がその声に驚いて振り向くと、そこにはワンド王子が呆れた顔をして立っていた。


「ワンドくん!?」


「おー、起きたか」


「起きたか、じゃない……はあ。それはまあ良い。凄い音と床からの振動で起きたんだ。モーナスがレバーに捕まった時だ。僕が目を覚ました事にあいつ等が気が付いていなかったから、隙を見て義姉君あねぎみとモーナスを助けようと思ったが、その必要は無かったみたいだな」


「そうだったんですか」


「はい。しかしだな、モーナス。お前、あれだけの力がある事を今まで隠していたのか?」


「面倒なのに見られたわね」


「面倒ぅう!?」


「モーナちゃんは力を隠してたんですか?」


「……そうだ。でもそんな事より、今は奴隷商人たちのボスが先だわ」


「逃げた。……って、ん? おい、モーナス。お前、その背中のあざは何だ?」


「痣?」


 ワンド王子に質問されて、モーナは背中を見ようと首を曲げる。

 そんな事しても背中なんて見えるわけも無く、モーナが眉間にしわを寄せて背中を見ようと必死にもがく中、お姉がワンド王子と一緒にモーナの背中の痣を確認した。

 それは5センチ程はある大きな痣で、まるで炎の様な形で少し赤みがかっていた。


「リープさんの魔法でしょうか? 戦闘をする前に何か魔法を使おうとしてましたし……」


「多分違うぞ。あいつは魔法で土草を出してたからな。それでナミキも縛られてただろ?」


「あれってリープさんが出した魔法だったんですね」


「そうだな」


「ん? もしかして、リープがこいつ等のボスなんじゃないか? 確か報告では、こいつ等のボスが土草を魔法で生み出すと言ってなかったか?」


「そう言えばそうでした!」


「いや、それはない。土草なら性能はともかく、土の属性を使える者なら誰でも作れるからな」


「そうなんですか?」


「誰でもってお前な……土草はかなり上級の魔法だぞ? そう簡単に作れてたまるか」


「……じゃあ、やっぱりボスさんなんでしょうか?」


「考えても時間の無駄だし本人に聞くぞ」


 モーナが宙に浮いたままの岩の塊を床に降ろす。

 そして、魔法で岩を解除しようとした時、ワンド王子がモーナの顔の目の前に手向けて制止させた。


「いや待て、モーナス」


「なんだ?」


「リープのスキルは厄介だ。岩の中に閉じ込められるなら、暫らくは閉じ込めていた方が良い」


「耳栓すれば大丈夫だろ。気にする事ないわ」


「あのなあ……」


 ワンド王子がモーナに呆れた視線を向ける。

 するとその時、床に降ろした岩の塊の近くの床が膨れ上がって破裂した。

 三人が驚いて視線を向けると、破裂した床の中からリープが姿を現した。


「私と同じ土属性の魔法で閉じ込められたのが幸いしたと言った所でありますか。おかげで脱出できたでありますよ」


「それなら今度は強めに閉じ込めてやるわ!」


 モーナがリープに向かって手をかざして魔法陣が浮かび上がる。

 そして、モーナが再びリープを岩の塊に閉じ込めようとしたけど、リープが自分の目の前に天井まで届く大きな土石の壁を作り上げてしまった。


「冗談じゃないであります! 私はここで撤退させてもらうでありますよ!」


 壁の向こうからリープの声が聞こえて、それっきりリープの気配は完全に消えてしまった。

 モーナが逃げられてしまった事に悔しがり、お姉とワンド王子は突然の出来事に呆然と立ち尽くす。

 すると、今まで黙って事の顛末を見ていたオメレンカがクスクスと笑いだした。


「あらあら、逃げられちゃったわね~」


「笑うな! ……って、あ。そう言えば、まだおまえがいたな。忘れてたわ」


「あらやだ。忘れるなんて酷いわね。でも、それなら忘れてたついでに逃がしてくれないかしら?」


「誰が逃がすか!」


「そうだな。モーナスがレバーを吹っ飛ばした以上、お前を捕虜にして色々聞き出すしかないしな」


「オメレンカさん、私は忘れてないですよ!」


「あらそう? ありがと。ま、とにかく私は協力してあげても良いわよ」


「本当ですか!?」


「ええ。だって、そこの猫のお嬢ちゃんの実力を目のあたりにしたんだもの。あんなもの見せられたら、身動きの取れないこの状況で逆らったりなんて考えられないわよ。私は仲間より自分が大事だもの。ちなみにボスはリープみたいな小物じゃないわよ」


「お前結構良い性格してるな」


「うふふ。ありがと」


「褒めてないぞ」


「仲間より自分が大事とか、おまえ中々見所があるな! 気にいったわ! 早速ボスの所まで案内しなさい!」


「ええ、もちろん」


「そうと決まれば早く行きましょう! オメレンカさんが仲間になってくれるなんて百人力です! 愛那まなちゃん、ラヴィーナちゃん、待ってて下さい! お姉ちゃんが今直ぐボスさんを倒して助けに行きますよ!」


「奴隷商人の仲間も入ったし迷子にならなくて済むな! もう勝ったも同然だ!」


「なんだろう……不安だ…………」

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