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071 奴隷市場の館の決闘 裏切りの子守唄

「が、勘弁しでぐれモー!」


「はあ? なんだもう終わりか? 張り合いの無い牛肉だな」


 お姉とワンド王子がオメレンカを降伏させたのと時を同じくして、モーナもレバーとの決着をつけていた。

 モーナの周囲には奴隷商人たちが何人も倒れていて、レバーはモーナにどこから持って来たのか白旗をヒラヒラとはためかせて、負けを認めて見逃してほしいと懇願していた。


「お前強すぎだモー。オデじゃ全く歯が立たないモー」


「当たり前だ。私は世界で二番目に強いからな!」


 モーナが得意気に胸を張ってドヤ顔になる。

 そんなモーナの許に、オメレンカと決着をつけたお姉とワンド王子がやって来る。


「モーナちゃん凄いです。この数を一人で相手にしていたんですね」


「1……2……3…………10人以上はいるぞ。モーナス、お前本当に強かったんだな? ここの奴等は道中に襲って来た盗賊や山賊と比べてかなり強い筈なのに、たった一人でこんな直ぐに倒すなんて驚いたぞ」


「だから言っただろ。私は強いんだ。……それより、おい牛肉!」


「はい!」


 モーナがぎゅうに……レバーを睨んで近づく。

 レバーはモーナに近づかれると、体を震わせて一歩後退った。


「ひき肉にしてやるのは勘弁してやるから、今直ぐお前等のボスの所に案内しろ」


「――モ゛ッッ!?」


「も、モーナちゃん!? どうしたんですか!? そんなの作戦にはありませんよ?」


「気が変わったんだ。こいつ等のボスを倒せば全部解決だからな!」


「えええっっ!? で、でもでも、愛那まなちゃんとラヴィーナちゃんを放っておくって事になりますよね?」


「いや。義姉君あねぎみ、意外とモーナスの言う通りかもしれないぞ」


「どう言う事ですか?」


「元々マナとラヴィーナはスミレに任せているし、ここ以外はナオ達に任せているんだ。僕達はあくまでもシーサとレバーの討伐。結果的にはシーサは逃がしてレバーだけになってしまったけど、シーサの代わりにボクと義姉君だけで筋肉女を無力化出来たんだ。モーナスも奴隷商人の何人かを無力化したし、何よりも僕が思っていた以上にモーナが強い事が分かった。このまま僕達三人で力を合わせれば、元々予定になかったボスを倒すと言う手段を使っても良いかもしれない」


「何言ってるんだ。こいつ等奴隷商人のボスくらい、私だけで十分だ」


「あのな、万が一って事も――」


「ま、ままま待って下さい二人とも!」


 モーナとワンド王子が言い争いそうな空気になって……と言うよりは、予定にない事をしようと考える二人を止める為に、慌ててお姉が二人の会話を止める。

 すると、モーナとワンド王子は慌てるお姉に対して不満気に視線を向けた。


「仮にボスさんを倒しに行くとして、ここから出て行ったシーサさんはどうするんですか? シーサさんはあの様子ですと、愛那ちゃんの所に向かっちゃいましたよ!」


「義姉君、それなら心配ないさ。スミレが失敗しても、奴隷商人のボスを倒せば、流石に奴隷商人たちも諦める筈だ」


「だな。集団は頭を潰せば全部解決するのが基本だからな」


「……そう言うものでしょうか?」


「ああ。間違いない」


 お姉が不安を抱えながらうつむくと、モーナがお姉の肩を「心配するな」と言って肩を叩いた。

 そして、モーナは一度周囲を見回して腰を抜かしたり逃げ遅れて怯える人々を見てから、レバーに視線を向けた。


「念の為にさっき使っていた土草をこいつ等に使え。仲間を呼ばれたら面倒だからな」


「わ、わがっだモー」


「それから……おい、筋肉女。お前も一緒に案内しろ」


「嫌よ。負けは認めてあげるけど、協力する気は無いわ」


 オメレンカが断ると、モーナはオメレンカを一度睨んでからお姉に視線を向けた。


「こいつはナミキが倒したからな。流石に獲物を横取りするみたいで気が引けるけど……ナミキ、こいつは殺しておいて良いか? 放っておくと厄介だ」


「駄目ですよ!」


「むう……」


 お姉に断られて、モーナが珍しく真剣な面持ちで考え事をする。

 その間にも、モーナに命令されたレバーは、土草を使って会場内にいる人達を拘束していた。

 そんな時だった。

 突然ワンド王子が「耳栓をしろ!」と大声を上げた。


「はい?」


 お姉は首を傾げながらも、以前ナオさんから貰った耳栓をつけた。

 そして次の瞬間、お姉は目の前の光景を見て、何が起きたのかと困惑する。


「あれ? 皆さん急に倒れ……眠り始めちゃいましたよ?」


 そう。

 困惑したのは、周囲にいた人々の中で何人かが急に眠り始めたからだった。

 しかも、それは全て獣人達ばかりだった。

 お姉は困惑しながらモーナに視線を向けると、モーナも周囲の獣人達と同様で眠り始める所だった


「モーナちゃん! 大丈夫ですか!?」


「おい! モーナス、早く耳栓をしろ!」


「ふぁあ……忘れたわ…………」


「何だって? くそっ。耳栓が邪魔で聞こえない。もう一度言え!」


 ワンド王子が耳栓を片方だけ外してモーナに聞き返すと、モーナは眠気眼を擦って答える。


「忘れ……た…………わ」


「――なっ!?」


 モーナの答えにワンド王子は驚いて、そしてその時、この場に笑い声が響き渡った。

 その笑い声は誰かを愚弄する様な笑い声で、声の主はレバーでもオメレンカでもこの場に残っていた人達の声でも無い、新しい人物の笑い声だった。

 お姉とワンド王子は笑い声に驚いて、声の発生源へと視線を向ける。

 するとそこには、フロアタム兵の羊の獣人リープが立っていた。


「リープ……さん?」


「やっぱりお前だったのか。リープ!」


 お姉が呟き、ワンド王子が声を上げると、リープが笑うのをやめて二人に視線を向けた。


「はい。ご明察であります、殿下」


 リープはニヤリと笑みを浮かべて、土草を持って動きを止めているレバーと足を拘束されて動けないオメレンカに視線を向けた。


「無様なものでありますね。この様な子供に良いようにやられてしまうとは……」


「あらあら。憎まれ口なら後にしてくれない? それより、貴方がここに来たって事は」


「そうでありますな。教官……ナオ=キャトフリーに正体が完全にバレてしまったので、隠す必要も無くなったであります。さて、反撃といきましょう。レバーさんも演技をやめるでありますよ」


「演技だと!?」


「……わがっだモー。やられだフリはやめるモー」


「くそっ。最悪だ」


「どどど、どうしましょう!?」


 会場内の空気は一変して、お姉とワンド王子は緊張のあまり唾を飲み込んだ。

 リープは草笛を取り出して、ワンド王子がそれを見た瞬間に自分に付けていた耳栓を外した。

 そして、モーナの顔……と言うよりは鼻をおもいきり殴った。


「んにゃ!」


「ワンドくん!?」


「モーナス! しっかりしろ! お前がいないと勝てないだろ!」


 モーナが目を覚まして鼻を押さえて、お姉がワンド王子の突然の行動に驚く中、ワンド王子は自分の耳栓をモーナにつけた。


「お前……」


 瞬間――リープが取り出した草笛で音を奏でて、会場内に草笛の綺麗な音色が響き渡る。

 その草笛を聞いた途端に、まだ眠っていなかった会場内にいる人達も全員が眠っていく。 

 以前ナオさんがお姉達に渡した耳栓の意味をお姉は目のあたりにして、そして、ワンド王子に駆け寄った。

 ワンド王子は自分の耳栓をモーナ付けさせた事で、草笛の音を聞いてしまったせいで眠ってしまった。

 モーナはワンド王子を優しく両手で支えながら地面に降ろしてリープに視線を向けると、リープが草笛を吹くのをやめて、モーナに下卑た笑みを浮かべて二人の目がかち合う。

 お姉もモーナの隣に立って、リープに視線を向けた。


「ワンド、お前の死は無駄にしないからな! あの世で見てろよ!」


「はい! まだお昼寝の時間じゃありません! モーナちゃんの為に眠らされたワンドくんの為にも、お昼寝は美味しいご飯を食べてからって教えてあげましょう!」


 最早どこからつっこめば良いのか分からない馬鹿な二人が真剣な面持ちで頷き合う。

 これはきっと耳栓でお互い何を言っているのか分からないけど、何となく雰囲気でお互いが同じ気持ちで理解しあっていると勘違いしているのだろう。

 つっこみたいけど、わたしは生憎この場にいない。

 この二人にかかれば、どんな状況もこの通り意味不明な状況へと姿を変えてしまうのだろう。

 お姉とモーナの息があっている様で全くあっていない様子を見て、オメレンカとリープが冷や汗を流していた。

 レバーだけはお姉とモーナと同類なのか、お姉とモーナの様子を真剣な面持ちで見つめていた。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 リープが右手を前に出して、茶色く淡い光を放つ魔法陣を浮かび上がらせる。

 

「念の為、私は今からスキルを使い続けるであります。レバーは耳栓を取り外させる事だけに集中するであります。まあ、猫の獣人の方は殺してしまっても構わないでありますがね」


「まがせろ!」


 リープが左手で草笛を口元に持っていき、再び草笛を吹き始めた。

 そしてそれと同時に、レバーがお姉とモーナに向かって走り出す。


「ナミキ! 羊の魔法陣に気をつけろ! 何処かのタイミングで何か仕掛けるつもりだ!」


「オメレンカさんが動かないか注意しながら戦います! それと足手纏いにならない様に頑張ります!」


 やはりお互い耳が聞こえていないせいで何を言っているのか分からないらしい。

 だけど、お姉もモーナもお互い今誰を相手にして、何をすべきなのかは息が合っていて分かっていた。

 モーナがレバーに向かって走り、お姉がその場で魔力を集中してモーナのサポートをする為に魔法で盾を生成する。

 息が合っているのかいないのか分からない二人を見て、リープが下卑た笑みを浮かべ舌なめずりをした。


「さて、おままごとは終わりでありますよ。子供達」

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