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064 嗅覚を極めし変態現る

「あーはっはっはっ! それであの龍族のハーフを逃したのか? バカだな、ナオ。ダサいな!」


「ださ!? 元はと言えばモナっちが花火なんか仕掛けるのが悪いんでしょ!」


「ご、ごめんなさい! 反省してます!」


「にゃっ! ナミナミは悪くないよ。気にしないで?」


「で、でも……」


「そうだぞナミキ、あんな物に引っ掛かるこいつが悪いんだ。気にするな!」


「モナっちは気にしろ!」


 話は遡り、場所も変わって、ここは獣人国家ベードラのフロアタム宮殿作戦本部。

 わたしのお姉豊穣瀾姫(ほうじょうなみき)はナオさんに向かって何度も頭を下げていた。


 この作戦本部に集まったのは、お姉とモーナ、そしてナオさんとランさんとこの国の王様と新兵のリープさん。

 それから……。


「おい。僕の妻になるマナが大変な時なんだぞ。ふざけてる場合じゃないだろ!」


「……ごめんなさい」


「ありゃりゃ、ナミキさんは謝る必要無いよ~。ワンド殿下はナオ様とモーナスちゃんに言ってるだけだから」


 そう。

 ラヴィのスキル【図画工作】で作りだされたワンド王子の偽物のおかげで、ワンド王子は無事に救出されていた。

 怪我もしていなかったので、今はこの作戦本部で会議に参加していた。


「あ、あのお……新兵の私が、恐れ多くもこんな大事な会議に参加してもいいのでありますか?」


「気にするな。今回の事件は裏切り者……いや、最初から今回の事を計画していたと考えたら、その言葉は似つかわしくないな。裏切り者ではなく反逆者……いや、敵のスパイか? と、すまない、話が逸れたな」


 そう口にしたのはワンド王子の父親にして、この国の国王【ウルベ=アーフ】その人だ。

 ワンド王子と同じく犬耳と犬尻尾が生えた獣人で、眼鏡を掛けたイケメンだ。

 国王様は「ラン」と言って視線をランさんに向けて、顎に手を当てて話を続ける。


「ミネークの件だが、情報を聞き出す前に奴が逃げ出したと言うのは本当か?」


「あ、はい。そうなんですよ~。マジで困っちゃったぜこんちくしょうって感じですよね~」


「そうか。……まだ敵のスパイが宮殿内にいると見た方が良いかもしれないな」


「ですね~。今回の事件の犯人は殆どが新兵なのもあって、一応残った新兵には監視をつけてます。そこにいるリープは信用出来ると判断して、この場にいる事を許可しました」


「こ、光栄であります!」


「にゃ~。まあ、リープには助けられたからね。おかげでランランとモナっちとナミナミを助けられたしね」


「龍族のハーフは逃がしたけどな」


「その龍族のハーフに負けて捕まったモナっちに言われたくないんだけど?」


「なにをー!」


「やめろ二人とも、今はくだらない事で喧嘩してる場合ではないだろ」


「そうですよ。……あ、そう言えばモーナスちゃん、助っ人を呼ぶって言ってましたけど誰を呼んだんですか?」


「あ~、それなら――」


 モーナが答えようとしたその時だ。

 会議室の扉が勢いよく開かれて、赤い髪でスタイルの良い綺麗な女性が入って来た。


「お待たせなの――よっ!?」


「魔族! 貴様、どうやってここに侵入したでありますか!」


 一瞬だった。

 女性が入って来て言葉を発して直後に、リープさんが間髪入れずに女性の首元を剣の切っ先で触れた。

 女性は驚いて手を上げて、こめかみから汗を流して唾を飲み込んだ。


「待てリープ。その人は味方だ」


 ナオさんがリープさんに向かってそう言うと、リープさんは剣を引っ込めて鞘に納める。

 女性はため息を一つ零して、モーナにジト目を向けた。


「危うく殺される所だったなの」


「そうか? おまえならその気になれば、その新兵程度なら返り討ちに出来るだろ?」


「油断してたしそれはないなの」


 女性が肩を落として呟くと、お姉が不思議そうに女性をマジマジと見つめた。


「あの、失礼かもですけど……お姉さんの目、白い所がありません。凄く真っ黒です。何かの病気ですか?」


「私はこれがデフォルトなの」


「でふぉると……そうなんですか?」


「そうなの。あ、自己紹介するなの。私は魔族のスミレなのよ」


「ま、魔族さんなんですか!? 初めて見ました!」


「あれ? 初めてなの?」


「はい。ハーフの人は見た事ありますけど、そうじゃない人は初めてです」


「……そうなの?」


 お姉の言葉に何か引っ掛かったのか、スミレと名乗った魔族の女性は首を傾げてモーナに視線を向けた。


「そんな事より、ナオとランはスミレの事は知ってるから、他の連中に紹介するわ! こいつは魔族のスミレだ!」


「スミレ、スミレ……ああ、思いだしたよ。ナオとランから聞いたがある。嗅覚に優れた魔族らしいな」


 国王様がそう呟くと、モーナは得意気に胸を張ってドヤ顔になる。 


「その通りだ! スミレの嗅覚を使って、マナの匂いを辿って居場所を突き止めるわ!」


「……はあ? おい馬鹿猫。何を言ってるんだ? 匂いなんかでマナの居場所が分かるわけないだろ。犬種の獣族である僕ですら分からないんだぞ?」


 ワンド王子の言う事は最もだった。

 余程訓練された犬でも無ければ、今となっては匂いを辿って後を追うなんて出来るわけがない。

 仮に匂いで後を追う事が出来たとしても、奴隷商人達だって馬鹿じゃない。

 そんなの対策しているに決まっていて、匂いを頼りにした所で、途中で匂いを断たれるに違いなかった。

 それなのに、モーナのドヤ顔はなくならなかった。

 むしろドヤ顔が悪化したまである。


「スミレの嗅覚をそんじょそこらの獣人共と一緒にするなんて、ワンドはやっぱりお子様だな」


「なんだと!?」


「ワンド、落ち着きなさい」


「は、はい……父上」


「ナオとランはモーナスの言葉を聞いても動揺した様子が無い所を見ると、モーナスの言っている事は本当の様だな。説明を頼めるか?」


 国王様が訊ねると、スミレさんが笑顔で「そう言う事なら、本人である私が説明するなのよ」と答えて言葉を続ける。


「私は幼女の匂いを嗅ぐのが得意なの」


 突然出た「幼女の匂いを嗅ぐのが得意」と言うその言葉に、この場の空気が凍りつく。

 沈黙が訪れて、ただ、時だけが流れ出した。

 そんな事を言われたら、わたしだって一瞬何を言われたか理解出来なくなるし、そりゃそうなるって話だ。

 ここにいるスミレさんの事を知らない人であれば、誰でも頭にハテナを浮かべて当然と言うもの。

 だけど、この沈黙を破るものが現れた。

 それは意外にも新兵のリープさんだった。


「し、失礼を承知で申すでありますが、得意……と言うだけでは少々信用性に欠けるのでは? 匂いを嗅いだ所で何も出来ませんし、いったいそれが何の役に立つのでありますか? それとも、それは特殊なスキルでありますか?」


「違うなの。私のスキルは、あらゆる障害物を透視してパンツを見るスキルと、スタイルを維持出来る脂肪を燃焼させるスキルなの」


 再び沈黙が訪れる。

 わたしがこの場にいたら、失礼を承知でステチリングを使って、変な冗談かどうか確認してしまう所だ。

 と言うか、スキルを二つを持ってるなんて驚きなのに、その驚きを上回るおかしなスキルの内容の濃さに脱帽するしかない。

 しかも「幼女の匂いを嗅ぐのが得意」の綺麗で汚い三連符。

 最早意味が分からない。


「そうだ。忘れる所だったわ! スミレ、マナの着替えのパンツだ。これでマナの状態が分かるか?」


「確認するなの」


 本当に意味が分からない。

 モーナがわたしのパンツを持って来ていたらしく、それをスミレさんに渡した。

 スミレさんはわたしのパンツを受け取ると、何の躊躇ためらいも無く匂いを嗅ぎ始める。

 そして……。


「なるほど、分かったなの。ドワーフの国の方に向かっているみたいなのよ。それに左腕から血の匂いが混ざってるから、怪我をしてるみたいなの。でも、重症ではないなの。多分近くに回復の魔法を使ってる幼女がいるみたいだから、その幼女のおかげなのね」


「すすすすすす、凄いです!? なんでそんなに詳しく分かるんですか!?」


 お姉が驚いて大声を出して、もの凄く動揺した。

 いや、お姉だけじゃない。

 国王様とワンド王子とリープさんも驚いて、スミレさんに注目した。

 すると、スミレさんでは無く、モーナが得意気に胸を張ってドヤ顔になる。


「スミレは変態だからな!」


 そう言う問題じゃないだろ。と、わたしがいたらツッコミを入れていたに違いない。

 実際、国王様はあまりのアホさ加減に頭痛がしたのか、眉を顰めて頭を押さえていた。


「モーナちゃん、変態は否定しないけど、私の事は匂いマスターと呼んでほしいなの」


「長いから変態で良いだろ」


「酷いなの」


「でも安心したわ。マナは無事みたいだな」


「そ、そうですね。何だか信じられないですけど、愛那まなちゃんが無事なら、それを信じたい……信じます!」


 まあ、確かにわたしはラヴィのおかげで左腕の怪我はだいぶ治まっていたので、スミレさんの言った事は間違ってはいなかった。

 だけど、匂いとか言うあやふやで不確かなもので信じるなんて、流石はお姉って感じだ。

 わたしだったら、奴隷商人のスパイなんじゃないかって怪しむに違いない。


「おい、スミレとか言ったな? 本当にマナは無事なんだろうな?」


 ワンド王子はスミレさんを睨み上げて質問すると、スミレさんはスンスンと匂いを嗅ぐしぐさを見せてニッコリと微笑んだ。


「今の所は大丈夫なのよ。早くドワーフの国の方に向かって、その女の子を助けてあげるなのよ。……あ、そう言えば、ドワーフの国で思いだしたなの。先日ドワーフの国の奴隷商人にスカウトされたなのよ」


「にゃ!? スミスミ、本当なの?」


「本当なのよ。私のこの嗅覚が役に立ちそうだって言われたなの」


「にゃ~……にゃ! 良い事思いついた!」


「ナオ()か」


()? って事は、ウルウルも思いついたの?」


「ああ。スミレさん、少し危険だがやってもらいたい事が出来た」


「ウルウル奇遇だね。ニャーもスミスミにちょっと危険な事を頼もうと思ったんだよね」


 ナオさんと国王様がニヤリと笑う。

 お姉とモーナ、それにランさんとワンド王子とリープさんはそれを見て、頭にハテナを浮かべて二人を見た。

 そして、スミレさんはと言うと、嫌な予感がしたのか額に汗を流して困惑していた。

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