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062 着せ替え大戦争

 時刻は夜。

 奴隷どれい商人たちのアジトに連れて来られた日にメイド兼奴隷として働かされているわたしは、現在夜ご飯を作っていた。

 鳥肉と野菜からとった出汁のスープにワカメや卵を入れて、軽くかき混ぜる。

 パンを焼く為のかまどが無かったから、土の魔法を使えるらしいシーサに頼んで材料だけ出させて、ラヴィにスキル【図画工作】で作って貰う。

 それから炎の魔法が使えるらしいレバーに頼んで火を出してもらって、それを調整してパンを焼く。

 木ウサギと呼ばれる兎の肉を使ったサイコロステーキと、にんじんとじゃがいもによく似た野菜を調理して横にそなえる。 

 最後に新鮮な野菜をお皿に盛りつけてサラダの完成だ。


 うん。

 ざっと百五十人前、これだけあれば捕まった人達の分も足りるでしょ。


「マナちゃん、メイ奴隷やめてアタイの嫁になって?」


「あら? 私も立候補して良い?」


「ばっきゃろおなの! 幼女の嫁は幼女以外認めないなのよ!」


「うるせーよお前等。黙って食え。……うお、マジでうめえ。雇うか?」


「ん~。シップ、あんたがブレてどうすんのよ?」


「じゃあ、わたしは皆にも食事を配ってきますので、ゆっくり召し上がって下さい」


「「「はーい!」」」


 奴隷商人たちの元気な返事を聞いて、わたしはラヴィに食事を渡してから、捕まっている人達の分の食事を運び始める。

 未だにラヴィは檻の中に閉じ込められていて、外には出してもらえていない。

 だけど、一つだけ良い事もあった。


「マナお姉ちゃん、メイドさんの服可愛いね」


「ありがと、チー。チーもちゃんとよく噛んで食べてね」


「うん!」


 そう、チーが戻って来たのだ。

 何か嫌な事をされてるんじゃないかと心配だったから、最初チーが戻って来た時は本当に安心した。

 何処に行っていたのかチーに尋ねると、チーはミーティングルームに連れて行かれて、グランデ王子様と一緒に明日の販売の流れの説明として使われていたそうだ。

 それでミーティングルームにある檻に入れられていたままだったけど、奴隷商人の新人バティンが連れて来てくれた。

 ただグランデ王子様だけ戻って来れなくて、その理由はバティン曰く「野郎は一人でも平気なのよ」だった。

 まあ普通にそんな理由で置いて来るとも思えないし、グランデ王子様は奴隷願望があったから、ミーティング中に何か変な発言をしたのかもしれないなとわたしは思った。

 ちなみに、グランデ王子様のいるミーティングルームにはわたしは入れてもらえないから、食事はシーサが運んでくれる事になった。


愛那まな、おつかれ」


「ん、ありがと」


 食事が終わり、食器を洗って檻の中に戻って来たわたしを、ラヴィが水を差し出して迎えた。

 わたしは差し出された水を受け取ってお礼を言うと、一口飲んでチーが寝転がっている布団の所まで歩く。


「マナお姉ちゃん、おかえりなさい」


「うん、ただいま」


「ゆっくり休んで」


「そうする……あっ」


 返事をしてから座ろうとして、自分が未だにメイド姿のままだと気が付く。

 着替えなんて無いし、かと言ってこのままなのも何だか気が引ける。

 メイド服の下は肌着と下着しか身に着けていないし、さて困ったぞ。と、わたしが頭を悩ませていると、シーサが檻の中に入って来た。


「マナちゅわ~ん、お着替えしましょうね~」


「へ? って、うわ。酒くさ」


 シーサはお酒を飲んでいた様で、顔を少し赤くさせてお酒の臭いを漂わせていた。

 そして、ニヤニヤと笑いながらわたしに抱き付く。

 お酒臭いし鬱陶しいしで本当に嫌で顔を押し退けて拒絶したかったけど、部屋には他の奴隷商人たちがいるので、逆らったと言われて状況が悪化する可能性を避けて我慢する。


「愛那から離れて」


「えー? 嫌よ~。マナちゃんは今からアタイと良い事するのよ~」


 ラヴィが眉根を上げてシーサを睨んで、わたしが若干焦ったけど、シーサは気にする事なくそう言って何着もの服を取り出した。


「マナお姉ちゃん、お着替えするの?」


「そうよ~。今からマナちゃんの着せ替えショーの始まりよ~。何ならどっちが可愛い服をコーディネート出来るか勝負する~?」


「うん! チーもやりたい!」


「……そう。私もする」


「ラヴィ!?」


「大丈夫、負けない」


「いや、そうじゃなくて……」


「ちょっと待ったあああああ! なの! その勝負、審判は私に任せてほしいなのよ!」


「あら? 楽しそうね。私も混ぜてもらってもいいかしら?」


「へえ、面白そうじゃねーか。この勝負、俺が勝たせてもらうぜ」


「はあ? シップ~、男のアンタが女のアタイ達に勝てるわけないでしょ?」


「んなもん、やってみなきゃ分かんねーだろうが!」


「ん~。あんた達仲良いわね」


 何だこれ?

 どうしてこうなった?


 困惑せずにはいられない。

 何故かわたしは奴隷商人だけでなく、ラヴィとチーの着せ替え人形にされる事になってしまった。

 と言うかだ。


 わたし達、誘拐されたんだよね?


 そんな事を思ってしまうくらいに、ラヴィとチーまで奴隷商人たちの輪の中に溶けこんでいる。

 何だか調子が狂ってしまう。

 わたしはそんな事を感じながら、ラヴィとチーと奴隷商人たちの着せ替えをされ続けた。

 ちなみに、わたしが着替える時に「このロリコン野郎! 女の子の着替えを覗こうっての!?」とシーサに言われ、その後は着替え直す度にシップは部屋から追い出されていた。

 最初は「ガキの着替えなんて興味ねえよ」と言っていたシップだけど、この部屋にいるのがシップ以外全員女性だったから不利に感じたのか、結局言われるがままになった感じだ。


 わたしが着せ替え人形にされて早二時間。

 ラヴィとチーが眠くなったようで、立ったままうとうとしていたので布団に寝かしつかせる。

 着せ替え対決はまだ終わっていない。

 シーサとバティンが睨み合いながら笑っていて、正直気味が悪い。


「バティン、あなた新人の癖にやるわね」


「そっちこそ中々のロリコンぢからなの。これ程に手強いロリコン力を持つ相手は久しぶりなのよ。マナちゃんの絶壁おっぱいに似合う衣装を見極めるその手腕、称賛に値するなの」


「ふっ。褒めても負けてあげないわよ~。あなたこそ、マナちゃんの幼児体型を引き出す衣装選び、最早驚きを通り越して感嘆のため息が出る程よ」


 よーし、決めた。

 二人ともまとめて三枚におろす。


 二人を始末する為に、わたしが料理に使った包丁を取りに行こうとすると、あくびをしながらオメレンカに肩を掴まれ止められる。


「何処行くの?」


「ちょっと包丁を取りに」


「取りに行ってどうする気?」


「そこの失礼なおっぱいを斬り落としてあげるんです」


「あら、あなた意外と怖い事言うわね。駄目よ、許可できないわ」


「止めないで下さい! 誰が絶壁の幼児体型だ!」


「あら? 気にしてるの? あなたまだ子供なんだから、そんなの気にしなくて良いわよ」


「お姉はわたしと歳が同じくらいの頃には胸が……って、何言わせるんですか!? 気にしてません!」


「……これは重症ね」


 失礼な話だ。

 確かにわたしはお姉と比べて成長は遅いかもしれないけど、そんな事を気にしてはいない。

 そりゃあ、少し……本っ当に少おおおおおおしだけ、比べる事はあるけど、全然これっぽっちも気にした事は無い!


「愛那」


 不意にラヴィに名前を呼ばれて振り返る。

 すると、ラヴィは布団から出て、眠気眼を擦りながらわたしの側に立っていた。


「どうしたの?」


「一緒に寝る」


「……うん、そうだね」


 シーサとバティンを三枚におろすのは、一先ず保留にしておこう。

 わたしはラヴィと手を繋いで、布団に向かった。

 背後からは「子供は寝る時間だから、もうお終いよ」と、オメレンカがシーサとバティンの睨み合いを止める声が聞こえた。


 丁度今着ている服は寝るのには良さそうなパジャマの様な服だったので、わたしはそのままラヴィと一緒にチーが眠っている布団に入る。

 布団に入る時、横になったラヴィの手首から鎖が床に当たる音が聞こえた。


 そう、忘れちゃ駄目だ。

 まだわたし達はあいつ等に捕まってるんだ。


 ラヴィとチーの手足には、まだ重りが付けられている。

 奴隷商人たちのノリに調子が狂って、つい忘れてしまったけど、わたし達は捕らわれた身だ。

 明日は遂に奴隷として売られる日。

 だけど、リングイさんと再会できるかもしれないと言う希望もある。


 わたしはラヴィとチーの手を握って、ゆっくりと目を閉じた。

 必ず二人と……そして、捕まった皆で奴隷商人たちから逃げ出すんだと、誓いながらわたしの意識は深い眠りの中へ消えていった。



 そして、目を覚まして奴隷商人たちに連れて来られた【港町トライアングル】で、わたしは最悪な事態に見舞われてしまった。



 次の日に目を覚まして初めに感じたのは、少し心地の良い揺れと、ガラガラと回る車輪の音だった。

 寝ぼけた頭で上半身を起こして周囲を見まわすと、相変わらず檻の中ではあったけど、馬車の荷台の中でもあった。

 わたしとラヴィとチーの入った檻以外にも、他の捕まった人達の檻もあって、既に移動が開始しているのだと気がついた。

 それに、自分の手足に視線を向けると、魔法を使えなくする重りがついていた。


 いつの間に運び出されて、いつの間に目的地に向かって移動を始めたのかは分からないけれど、わたし以外にも既に何人かは目を覚ましていた。

 わたしが目を覚ました事に気がついたからか、起きていた人達がわたしに向けて「おはよう」と弱々しくだけど笑顔を向けたので、わたしも挨拶を返した。

 ラヴィとチーに視線を向けると二人はまだ眠っている様なので、二人の捲れた布団を掛け直す。

 するとそこで、馬車が止まったのか揺れと車輪の音が聞こえなくなった。


「奴隷ども、よく眠れたか?」


 そう言って、荷台に顔を出したのはシップだった。

 シップはわたし達を入れた檻をそのまま持ち上げて、檻を荷台の外に出す。

 外はまだ薄暗く、朝陽が昇る前だった。

 馬車は一つだけでは無かったようで、三つの馬車が並んでいて、奴隷商人たちが檻を外に出していた。


「愛那」


「あ、ラヴィ。おはよ」


「おはよう」


 ラヴィがわたしの手を強く握る。

 わたしはラヴィに微笑んで、その手を強く握り返した。

 するとその時だ。

 檻を運んでいたシップに「ほっほお。ご苦労ご苦労」と、背後から話しかける声が聞こえた。


「へえ、あんたがリングイ=トータスか?」


「如何にも。ボクちんが悪名高きリングイ=トータスその人だよ」


「確かに、絵にかいた様ななりしてんじゃねーか」


 わたしは耳を疑った。

 そして目も。


「だが、来るのがちょいと早いな」


「いやあ、悪いね。獣人のメスの奴隷が手に入ると思ったら、こんなに朝早くに目が覚めてしまって、ついつい早く来てしまったよ」


 わたしの頭は混乱していた。

 昨日の話では、リングイさんが子供の奴隷を買いに来ると言う話だった。

 だけど、わたしの目の前に現れたこの男は……。


「ほっほお。こいつ等がお前等がボクちんに売り渡したい奴隷なのか?」


「ああ、そうだ。ちと早いが、どれでも好きなガキを選びな。どうせお前に選ばせて売れ残ったのを他の連中に売るつもりだったんだ」


「ほっほお、良いね良いね~。そりゃ嬉しい。それに、ボクちん好みの可愛い女の子ばかりじゃないか。獣人のメスは大好物だよ」


 違う、全然違う。

 この男はリングイさんじゃない!


 わたし達の目の前に現れたリングイ=トータスと名乗る男は、アイスマウンテンで出会ったリングイさんとは全くの別人だった。

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