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060 捕らわれ仲間は変な人

「嬉しいなあ。こんなに可愛らしいお嬢さん達と一緒のおりに入れてもらえるなんて」


「……はあ」


 わたしは反応に困って、それしか言えずに困惑する。

 昼食を終えた頃、わたし達が入れられている檻の中に、奴隷商人に捕らわれた男の子が新しくやって来た。

 年はわたしと同い年くらいだろうか?

 顔立ちはよく美少年。

 かなり高級そうな服装……と言うか、何処かの国の王子様の様な服装で、檻に入れられたのに凄い笑顔だ。


「その子達に手を出しちゃ駄目よ~」


「ああ、分かってるさ。は幼き頃よりレディへのたしなみを教え込まれてきた。心配は必要ありませんよ。綺麗なお姉さん」


「ま、お上手ね~。本当の事だけど」


 何この会話……?


 シーサと男の子の会話にわたしは唖然とする。

 ラヴィも何やら困惑した様子で、わたしの手を握ってきた。

 チーは枕を抱きしめながら、不思議そうにシーサと男の子を見つめている。

 男の子はシーサと会話を終えると、わたし達に振り向いて、軽く会釈して爽やかな笑顔を見せた。


「はじめまして。余はドワーフ王国の第一王子グランデ。可愛いお嬢さん達、ほんのひと時で終わってしまうかもしれないけど、これからよろしくお願いするよ」


「は、はい……えっ!? ドワーフ王国の第一王子!?」


「ははは。驚かせてしまってすまない」


「い、いえ。こちらこそすみません。あ、わたしは豊穣愛那ほうじょうまなです。よろしくお願いします」


 慌てて頭を下げてお辞儀をする。

 まさか、こんな所でドワーフの国の王子様と出会うなんて思わなかった。

 慌ててお辞儀をしたわたしに爽やかな笑顔を向ける王子様は、ワンド王子とは大分違う印象を受ける。

 なんと言うか爽やかな美少年で、凄く女の子慣れしてるイケメンって感じがする。


 わたしが慌ててお辞儀をしている間に、ラヴィとチーもグランデ王子様に名前を名乗る。

 チーは少し戸惑っていたけど、ラヴィは相変わらずで特に変わった様子も無く、ただ「ラヴィーナ」とだけ名乗っていた。


「ラヴィーナにチーか。良い名だね。ところで失礼な事を聞くようだけど、ホウジョウマナは珍しい名前だね。何処の国の出身なんだい?」


「それは……」


 困った。

 何て説明すれば良いのか分からない。

 モーナやラヴィには本当の事を言ったけど、今までこの世界で冒険をしてきて、わたしとお姉の情報をあまり詳しく言いふらさない方が良いと思ったからだ。

 髪の毛が黒いと言うだけでこれだけ酷い目に合っているのに、もし違う世界から来ましたなんて言ってしまったら、その内もっと大変な事になるかもしれない。

 それにわたしの考えが正しければ、この世界の住人達は異世界の存在を知っている。

 モーナのストーカーのスタンプもお姉のスマホを見て最初に驚いていたし、フロアタム宮殿の書庫にあった本にも、実は異世界について少し書かれていたのだ。

 更に今更ながら思うのは、モーナとラヴィにわたしとお姉が違う世界から来たと教えた時の反応があまりにも薄かった。

 だからこそ思う事なのだけど、違う世界から来た事を奴隷商人たちがいるこんな所で話すのは、かなり危険だと考えられる。


 わたしが答えられずにいると、ラヴィがわたしの前に出て眉根を上げてグランデ王子様を見る。


「愛那の名前が珍しいのは分かる。でも、いきなり女性のプライベートを聞き出そうとするのは失礼」


「おっと。確かに君の言う通りだね、ラヴィーナ。すまない。気を悪くしないでおくれ、マナ」


「い、いえ。気にしないで下さい」


「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ」


 グランデ王子様が爽やかな笑顔をわたしに向けて、それを見てわたしが「はい」と言って微笑むと、ラヴィが更にへの字口になった。 

 すると、グランデ王子様は苦笑して、ラヴィに目線を合わせた。


「心配しなくても、君の大事な人をとろうなんて思わないよ。余には心に決めた女性がいるんだ」


「心に決めた女性?」


「ああ。余が産まれる少し前に、ドワーフの国を救った女神様なんだ。とても美しい女性でね。一度お会いした事があるけど、あれ程に心の清らかで優しく強い女性は他にいない」


「そう」


 グランデ王子様の話を聞くと、ラヴィのへの字口と釣り上がった眉が元に戻る。

 そして、グランデ王子様に改めて「グランデ、よろしく」と挨拶した。

 どうやら今の話で、グランデ王子様に対する印象が良くなったようだ。

 それにしても、一国の王子様にそこまで言わせる女性だなんてちょっと気になる。

 国を救った女神様なんて言われるくらいだから、とても綺麗な……まあ、それは今は置いておくとしよう。


 ラヴィとグランデ王子様が打ち解けると、部屋に奴隷商人のシップが入って来た。

 シップは檻の前に立って、グランデ王子様を見た後にシーサ達に振り向いた。


「ドワーフの方は上手くいったようだな」


「みたいね~。アタイ等と違って」


「けっ。それはお前とレバーの奴のせいじゃねーか」


「アタイは関係無いわよ。文句があるならレバーに言ってくれない?」


「ん~。二人とも喧嘩するなら煩いから外でやってくれない?」


「嫌よ。アタイはマナちゃんをこれからデートに誘うつもりなの。ラヴラヴデートで今夜は帰さないわ」


「へえ、良い御身分だなシーサ。だが残念だったな。俺がここに来たのはお前等を招集する為だ」


「うそマジ最悪~」


「ん~。もうミーティングの時間?」


「そう言う事だ。ドワーフの国に行ってた奴等が戻って来たからな。さっさと向こうの部屋に行くぞ」


「了解~」


 シーサが返事をすると、奴隷商人たちは全員この部屋から出て行った。

 わたしはシーサの冗談に聞こえないデート発言に寒気を感じながらも、気持ちを切り替えてラヴィと目を合わす。


「向こうの部屋って、多分別れ道のもう片方の事だよね?」


「分からないけど可能性は高い。他の捕まってる人達のいる所で話し合いするとは思えない」


「だね。なら、今がチャンスだ」


 わたしとラヴィは頷き合う。

 と、何故かグランデ王子様が困惑した様な表情で「君達はここから逃げようとしてるのかい?」と、話しかけてきた。

 その言葉にわたしとラヴィが頷くと、今度は悲しそうな表情を見せる。


「そうか残念だよ。本当に短い間だったね。せめて、余はここから君達の幸運を祈ってるよ」


「へ? ま、待って下さい。グランデ王子様一人を置いて逃げるなんてするつもりないです。一緒に逃げましょう」


「マナ、君の気持ちは嬉しいけど、そう言うわけにはいかないんだ」


「どう言う事……まさか、誰か人質にとられてるんですか?」


 もしそうなら大変だ。

 このままただ逃げ出すと言うわけにもいかなくなってくる。

 と、わたしは心配したのだけど、どうやらそれはいらぬ心配だったらしい。

 グランデ王子様が何を考えているのか知らないけれど、わたしの質問にグランデ王子様が出した答えは、とてもおかしな答えだった。


「余は奴隷と言うものに興味があるんだ。どんなものか一度なってみたい」


「……はい?」


 一瞬何を言われたのか理解できず、わたしはそれだけ言って固まった。


「余は知らないものを見ると、ついそれを体験してみたくなるんだ。それが今回は奴隷なのさ。話に聞くだけだと、本当に辛いものかどうか実際には分からないだろう? 余は自ら体験して学ぶ事で、それがどんなものかを知りたいのさ」


 この王子様は本当に何言ってんだろう?

 失礼な事を言うけど、平和ボケして頭のネジが外れてるんじゃないだろうか?

 知らないものを体験したいって言う部分は分からなくもないけど、流石に奴隷は無いでしょ。

 この王子様……言っちゃなんだけど変人だ。


「愛那、グランデを放っておいて逃げよう。準備出来た」


「放っておいてとは酷いね」


「早っ。流石ラヴィ、仕事が早いね」


「はは、余の話を聞いてない。困ったお嬢さん達だ」


「王子様、チーとお話する?」


「ありがとう。でも、君も一緒に逃げるんだろう? それなら、余と話をせずに、彼女達の話を聞いておいた方が良いだろう」


「うん」


 チーの優しさにグランデ王子様が苦笑して答えると、チーは微笑んで頷いた。

 と、まあ、それは今は置いておくとしよう。

 ラヴィは口角を上げて、カッターの刃の様な刃物をわたしに見せた。

 何故そんな物があるのかは簡単な話だ。

 ラヴィが頭につけていたうさ耳のカチューシャには鉄製のワイヤーが使われていて、ラヴィは【図画工作】のスキルでそれで刃物を作りだしたのだ。

 刃物と言っても、元々がうさ耳に使われていたワイヤーなので切れ味が良いわけでは無い。

 だけど、わたしの【必斬】のスキルがあれば十分だ。

 わたしは直ぐにそれを受け取り、まずはラヴィの重りを斬り落とす。


「凄い。それがマナのスキルなのかい?」


「はい。必斬って言って、基本は何でも斬れます」


「おお、素晴らしいね」


 グランデ王子様が感心したように頷いて微笑む。

 チーもわたしのスキルを見て驚いていて、無言で口を大きく開けていた。


「愛那、少しじっとしてて。先に回復す――」


「あら、あなた怖いスキルを持ってるわね」


「――っ!?」


 突然だった。

 いつの間にそこに立っていたのか、不意に声が聞こえて振り向くと、檻の中……わたし達の直ぐ側に奴隷商人の筋肉質な女性の一人が立っていた。

 本当にあまりにも突然で、声を聞くまで気がつかなかったわたし達は奴隷商人を見上げてそのまま身動きが取れなくなってしまった。

 ラヴィはわたしに回復の魔法を使おうとしていたようだけど、目の前に立つ奴隷商人の存在に驚いて息を呑んで固まってしまった。


「まさか兎種の獣人と雪女のハーフの子が、ただの雪女だったなんてがっかりね」


「ラヴィ」


「分かった」


 わたしとラヴィは頷き合う。

 奴隷商人はまだ油断してる。

 それなら、直ぐに気絶させれば、まだこの状況を打開出来る。

 わたしは刃物を口でくわえて、自分の重りを切り落とす。

 ラヴィは魔力を両手に溜めて、目の前に水色の魔法陣を浮かび上がらせた。


「あら。お嬢ちゃん達、活きが良いわね」 


 奴隷商人がニヤリと笑い、両手で拳を作って、拳と拳を拍手をするように打ちつけ合う。

 瞬間――拳同士が重なった所から衝撃波の様な風が発生して、その風でわたしとラヴィは一瞬よろめいた。


「だけど、おいたはいけないわ」


 奴隷商人が眼光を光らせて、一瞬でラヴィの腕を掴んで持ち上げる。

 そして、ラヴィの顔に手のひらを近づけて、その瞬間にラヴィが目の前から消えてしまった。


「ラヴィ!?」


 わたしは焦った。

 本当に何が起きたのか分からない。

 奴隷商人に持ち上げられたラヴィは、本当に突然消えてしまったのだ。


「慌てなくて大丈夫よ。私のスキル【背景同化バックグラウンド】で背景と同化して、認識できなくなってるだけよ」


「背景と同化……?」


「そうよ。そしてこのスキルで背景と同化してしまったこのお嬢ちゃんは、私がスキルを解除するまで、もうあなた達に干渉できないわ。そして、私はスキル所有者だから、背景と同化したこの子の事を一方的に干渉できる。つまり、下手な事をするとどうなるか分かるわよね?」


 やられた。

 だから、さっき声をかけられるまで気がつかなかったんだ。

 まさかそんなスキルがあるなんて……それだけじゃない。

 スキルを解除してもらわないとラヴィを認識できないどころか、奴隷商人が一方的にラヴィに干渉できるだなんて、流石に洒落しゃれになってない。

 ラヴィの身が危険なのは言うまでもなく明らかじゃんか。


「さて、お嬢ちゃん。たっぷりと可愛がってあげるわ」


 奴隷商人……オメレンカは、わたしに視線を向け舌なめずりをして、ニヤリと微笑んだ。

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