表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/291

059 奴隷商人たちのアジト

 何日経っただろうか?

 宮殿で捕らわれてから数日が過ぎて、わたし達は洞窟の目の前に連れて来られた。


「出ろ」


 手足に重りをつけられて、おりの中から出されたわたしの目に映るのは、洞窟のある背の高い山。

 山は岩山で、草木が殆ど生えていなかった。

 洞窟の前には見張りの男が二人いて、目が合うと睨まれた。


「おい、余所見してないでさっさと歩け」


「っきゃ」


 立ち止まって周囲を見ていると、奴隷商人の一人に背中を蹴られた。

 その反動で左腕が少し痛む。

 そう。

 実は、わたしの左腕はまだ完治していなかった。

 原因は手足の重りだ。


 わたしが檻の中で目を覚ました日の事だ。

 わたし達は念の為にと、漫画とかでよく見る様な重りを手足に付けられた。

 因みに両手は手錠をかけられたような状態だ。

 そしてこの重りには、魔力を無力化する仕掛けがあるらしく、そのせいでラヴィが魔法を使えなくなってしまったのだ。

 左腕の傷は完治しないままになってしまい、しかも医者もいないから放置する事になってしまった。

 正直、後遺症が残らないか心配だ。

 と、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 わたしは蹴られた事に苛立ちながらも、従って歩き始める。

 ラヴィがわたしの隣を歩きながら、心配そうに眉根を少し下げてわたしを見つめるので、わたしは心配させない様に微笑んで見せた。


「はあ!? 人形と王子を間違えて連れて来ただあ!?」


「そうなのよこいつ。レバーってば、本当にどんくさいわよね」


「ちっ。どうすんだ? ボスにドヤされるだけじゃすまねーかもしれないぞ」


「困ったモー」


「はっはー! まあ気にすんなよ。今回は珍しい商品も手に入ったんだ。ある意味王子様より価値が上がるぜ」


 見張りの男とシーサ達が何かを話すと、わたしの方に視線を向けてきた。

 わたしは奴隷商人たちの注目の的になり、居心地の悪さを感じる。


「ほお、黒髪のヒューマンか。珍しいな。初めて見たぞ」


「でしょう? でも、そう簡単には手放さないわよ。アタイがたっぷりと楽しむんだから」


「ほんとに懲りねー女だな、シーサ」


 奴隷商人たちの会話を横目に、わたしは洞窟の中に足を踏み入れた。

 洞窟の中は少しひんやりしていて、何も見えない程に目の前が真っ暗だった。

 だけど、獣人達には見えている様で、躊躇ためらう事も無く足元も見ずに皆は歩いている。


 こんな暗い所、まともに歩ける気がしないな。


 そう思ったわたしは、周囲に聞こえない様に声を潜めてラヴィに話しかける。


「ラヴィ、目の前が全然見えないんだけど、ラヴィには見える?」


「見えない。困った」


「そうだよね……」


 本当に困った。

 雪女が夜目が効くなんて聞いた事ないし、やっぱりラヴィも真っ暗で何も見えないらしい。

 流石に真っ暗な洞窟を歩くなんて出来ずに躊躇ちゅうちょして足を止めていると、それに気がついた奴隷商人の一人が、眉根を上げて「おい」と話しかけてきた。


「何してる? 早く歩け」


「えっと、真っ暗で何も見えなくて」


「ああ、お前はヒューマンのガキだから見えないのか」


 奴隷商人は呟くと、洞窟の見張りと話しているシーサさんに顔を向けた。


「シーサ、このガキを連れてってくれ」


「は~い」


 シーサさんは返事をすると、わたしの許までやって来た。

 そして、微笑んでからわたしの体を持ち上げてお姫様抱っこをした。


「ちょ、ちょっと……!」


「マナちゃん、特別に運んで行ってあげるわ」


 わたしは驚いて、今直ぐに降ろしてと言いたかったけど、それはやめておいた。

 こんな真っ暗の洞窟の中を歩くなんて出来ないし、それに一つ思いついた事があったからだ。


「待って! 出来ればラヴィも一緒に連れて行ってほしいんだけど?」


「ラヴィってこのお嬢ちゃん?」


 シーサがラヴィに視線を向ける。

 わたしは「うん」と頷いて、シーサに真剣な眼差しを向けた。

 するとシーサはラヴィを器用に背中に乗せて、ラヴィの両手に手錠の様にくっついた重りを利用して、自分の首にラビの両腕を絡ませる。


「これでよし」


「あ、ありがとう」


「いいのよ」


 思わずお礼を言ってしまうと、シーサは微笑んだ。


「マナお姉ちゃん」


 不意に名前を呼ばれて視線を向けると、チーが側まで来て、シーサにお姫様抱っこされているわたしを見上げていた。

 わたしは恥ずかしい所を見られてしまったと、恥ずかしさからくる顔の熱を感じて苦笑する。

 すると、チーはシーサの顔を見上げて、勇気を振り絞る様に「マナお姉ちゃんの側にいさせて」とお願いした。

 チーとシーサは見つめ合い、シーサはチーに微笑んだ。


「いいわよ。ついてらっしゃい」


「ありがとう」


 シーサはチーに答えると歩き出して、チーもお礼を言ってシーサの後を追う。

 洞窟の中を暫らく進むと、遠くの方に小さな明かりが見えてきた。

 その明かりを見て、わたしは少しだけホッとする。

 このままずっと明かりも無く暗いままだったら、本当にどうしようかと思っていた。

 何故ならわたしはラヴィとチーを連れて、この奴隷商人たちのアジトから逃げ出そうと考えているからだ。

 真っ暗では逃げ出そうにも前が見えなくて逃げられない。


 明かりの在り処まで来ると、明かりのおかげで周囲が見える様になった。

 どうやらここは大きな部屋になっていて、檻が幾つも並べられている。

 それに、この先にも何かがあるようで、道が二手に別れていた。

 わたし達より先にこの部屋まで歩いてきた獣人達は皆檻の中に入れられていたけど、何か基準があるのか、奴隷商人たちが一人一人に命令してそれぞれの檻に入らせていた。


「マナちゃんはこっち」


 シーサはそう言って、わたしをお姫様抱っこしたまま二手に別れていた道の片方を進みだす。


「おい、シーサ。お前そのガキは……」


「なによ? 文句あるわけ? アタイが連れて来たんだから好きにさせてよ」


「ちっ、仕方ねーなあ」


 シーサは奴隷商人たちの中でも、それなりに地位があるのだろうか?

 そんな風に思うくらいに、シーサを呼び止めた奴隷商人は顔を顰めながらも、それ以上何も言わなかった。


 別れ道の片方を暫らく進むと、10畳くらいの広さの部屋に辿り着いた。

 そこにあるのは少し真新しい檻と、高そうなテーブルとソファ。

 それに高そうな獣の絨毯じゅうたんも敷かれていた。

 強面の女性が二人いて、二人とも凄い筋肉だった。


「着いたわ」


 シーサはそう言うと、わたしとラヴィとチーを真新しい檻の中に入れた。

 檻の中も今までの檻と違っていて、大きめでフカフカの枕と柔らかい布団があった。

 チーは檻の中に入ると、我先にとテテテと駆け足して、フカフカの枕に飛び込んで顔を埋める。


「本当は王子様とマナちゃんだけをこの檻に入れるつもりだったんだけど、王子様には逃げられちゃったし良いわよね?」


 シーサが強面の女性二人に訊ねると、二人は一度顔を見合わせてから、わたしとラヴィとチーをそれぞれ順番に見た。


「あら、珍しい。雪女と兎種の獣人のハーフ?」


「ん~。それに黒髪のヒューマン。良いんじゃない? どっちも珍しくて高く売れるわ」


「でしょう?」


 シーサと強面の女性たちが笑い合う。

 何処か不気味に笑う三人を見て、わたしは緊張して唾を飲み込んだ。


「あら? そこのキリンのお嬢ちゃんは何故その子達と一緒の檻に入れるの? あなたの趣味って確か……まさか、自分が楽しむ為じゃないでしょうね?」


「違うわよ~。アタイのお気に入りの子について来たの」


「お気に入りって?」


「黒髪のヒューマンの子よ。名前はマナちゃん。可愛いでしょ~」


「ん~。アンタが好きそうな顔だわ」


 背筋に悪寒が走って寒気を感じる。

 あまり考えない様にしていたけど、正直身の危険を感じずにはいられない。

 これ以上あの奴隷商人達の会話を聞いていても仕方ないと判断して、わたしはラヴィを連れて枕に顔を埋めるチーの所まで行った。


 まずは作戦会議だ。

 奴隷商人たちに聞こえてしまっては元も子もないので、勿論声を潜めて話し合う。

 最初の問題はこの手足についている重りだ。

 鉄で出来ているのか何で出来ているのかは分からないけど、これのせいで魔法が使えない。

 魔法が使えさえすれば、隙さえあればわたしの魔法で素早く逃げだす事も出来るかもしてないし、何よりラヴィの氷の魔法で雪だるまのゴーレムを出してもらえる。

 雪だるまのゴーレムが出せれば、わたし達を運んでもらう事だって可能だ。


 作戦会議をしている途中で、わたしはふと気になった事をチーに質問してみる。


「そう言えば、チーの魔法属性とスキルって何?」


「チーは土の魔法と防御力がアップするスキルを使えるよ」


 土属性の魔法と防御力アップか……。

 ここから逃げる時に必要になるかもしれない。


 魔法は他者の魔法と重ねがけが出来ないけど、スキルであれば別だ。

 わたしの加速魔法と、チーの防御力アップのスキルを上手に使えば、かなりの肉体強化が得られるかもしれない。

 だけど、やっぱり問題の重りを外す手段にはならない。

 正直言ってお手上げ状態だ。


「愛那、うさ耳を使おう」


 不意にラヴィにそんな事を言われて、わたしは頭にハテナを浮かべた。

 ラヴィには悪いけど、うさ耳が何の役に立つのか分からない。

 頭に装着する以外の使い道なんて……と、思っていたけど、わたしはうさ耳に使われている素材を思いだした。


「そっか。うさ耳を使えば、この重りをどうにか出来る」


「そう、後は逃げるだけ。でも、今逃げても捕まる」


「うん。シーサを含めて三人も見張りがいるからね」


「マナお姉ちゃん、ラヴィちゃんのお耳で何するの?」


「それは――」


「ん~。何話してるの?」


「――っ!」


 不意に話しかけられて、わたしは少しだけ体を震わせて驚いた。

 危ない。

 作戦の内容を聞かれてしまう所だった。

 わたしは直ぐに奴隷商人に振り向いて、愛想笑いを向けて誤魔化す。


「何でもないですよ。ご飯って食べられるのかな? って話してただけです」


「そう。お腹空いた」


「ぺ、ペコペコだよね」


 ラヴィとチーがわたしの意図を察して話を合わすと、奴隷商人は疑う様にわたしの目を見てから、シーサに顔を向けた。


「ん~。この子達のご飯どうする?」


「そう言えばお昼まだだったわね~。食事にしましょ」


 奴隷商人はシーサの側まで歩いて行き、一先ず誤魔化せた事にホッと胸を撫で下ろす。

 とにかく、重りを外す方法は出来た。

 その方法なら、わたし達を閉じ込める檻もどうにか出来る。

 後は脱出の方法を考えるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ