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057 教官の苦悩は続く

※今回は56話の続きのナオ視点のお話です。

 新兵のリープに助けられたニャーは国の第一王子であるワンワンが奴隷商人に誘拐された事などを話して、ランに伝える様に指示を出した。

 それから直ぐにワンワンやマナナ達を救出する為に街に行き、そこで更に最悪な状況を目のあたりにした。

 それは、奴隷商人達の暴動の数々。

 町のあらゆる場所で火の手が上がっていて、とんでもない事態になっていた。


「にゃあ……あいつ等やってくれたな。でも、仲間がいるなら丁度良いわ」


 ニャーは直ぐに視界に入った暴れる奴隷商人の一人に向かって駆ける。


 奴隷商人は【鬼ごっこ大会】に参加していた様で、腕章を幾つか腕につけていた。

 そして、この大会に参加した何人かの子供達を鎖で縛り上げて、その鎖を持って移動しながら建物を破壊していた。

 目的は金品では無く子供の様で、見つけ出した子供を鎖で縛りあげていた。

 しかし、奴隷商人はニャーに気が付いて、直ぐにニャーから逃げ出した。


「くそっ、思っていたより教官が出てくるのが早いぞ!? あいつ等しくりやがったのか!?」


 にゃっ?

 あの奴隷商人……まさか。


 悪態をついて逃げる奴隷商人の正体に気付く。

 よく見れば、この奴隷商人も新兵の一人であるヘビの獣人のミネークと言う名の男だった。


「ミネーク! どう言うつもりだ!」


「すみませんねえ、教官! 悪いけどそれにはお答え出来ませんので、ここは俺も鬼らしく、教官から逃げさせてもらいますよ!」


「逃がさないわ!」


 こんな裏切り者と鬼ごっこをしてる暇はない。

 ニャーは魔力を足に集中して、一気に解放する。


「エクスプロージョン・ブーストラン!」


 瞬間――ニャーの足が起爆剤になって爆発し、ニャーは大砲の如く地面を跳ねて、一気にミネークとの距離を詰める。


「――っやば……っあが!!」


 ニャーは一瞬でミネークに近づくと、そのままミネークの背中を爪で斬り裂いた。

 ミネークは背中から血しぶきを上げて転がって倒れる。


「がはっがはっ……ぢくしょう。強すぎだろ教官。ふざっけんな……」


「ミネーク、洗いざらい喋ってもらうからな」


 ニャーは魔法で炎の鎖を生み出して、悪態をつくミネークの手足を縛り上げる。

 それから、捕まっていた子供達の鎖を爪で斬って解放してあげた。


「さて、今直ぐシーサとレバーが向かった先を教えてもらうわよ」


「はんっ。誰が言うかよ!」


 ニャーとミネークが睨み合う。

 聞き出すのに時間をかけてもいられないし、手っ取り早く痛めつけて無理矢理聞き出してやろうかとニャーは考える。

 するとそこで、大会で使用していた【えーぞー君】の一つが、ニャーの目の前にやって来た。


『ナオ様大変です。ラン様と新兵のボーアが反逆者シップに敗北し、ラン様が少女二人と一緒に連れ去られました!』


「にゃあ!?」


『現場に残っていたボーアも危険な状態です。えーぞー君でシップの後を追跡しているので、そちらに映像を流します! 至急、シップの後を追うようにと国王陛下からの伝言です!』


「分かった。今直ぐ映像をよこせ。それと兵を誰かここに向かわせろ。反逆者の一人、新兵のミネークを捕まえた」


『はっ! 直ちに手配します』


 この【えーぞー君】と言うマジックアイテムは、緊急時に備えて、他のえーぞー君の映像を流す事が出来る機密の仕掛けがある。

 ニャーは直ぐにその仕掛けを使って、シップを追跡しているえーぞー君の映像をその場に流した。


 一緒に捕らえられたのは、やっぱりモナっちとナミナミ……か。

 訓練中の実力を考えればランランとモナっちの二人が負ける筈がないけど、シップめ……実力を隠してたな。

 場所は……ここから近い。


 ニャーは急いで映像に映し出された場所へ向かう。

 念の為、子供達にはこの場に残る様にお願いして、子供達に反逆者が近づいたら魔法の罠が発動する様に仕掛けておいた。


 不幸中の幸いと言うべきか、シップはナミナミを縛り上げる事なく一緒に移動していて、そのおかげで移動速度も遅く直ぐに見つける事が出来た。

 ニャーとシップとの距離は数十メートル。

 既に魔法の射程圏内だ。

 ニャーは魔力を集中してシップに狙いを定めて、目の前に魔法陣を浮かび上がらせた。


「先手必勝! フレイムファング・デスバイト!」


 瞬間――シップに向かって、魔法陣から牙を剥き出しにして獲物を噛み殺す虎の顔を模した炎の集合体が飛び出した。


「――っ!?」


 シップがニャーの魔法に気付き、後ろを振り向くがもう遅い。

 ニャーの魔法はシップに直撃して、炎の牙で噛み千切られ丸焦げにな――――らなかった。


「にゃあ!? どれだけ実力隠してたんだ?」


 思わずそんな言葉が口から漏れる。

 シップは咄嗟にニャーの放った魔法に手を出して、ぐにゃりと折り曲げる様に指先を動かして、魔法を折り曲げて打ち消したのだ。

 勿論ただで済んだわけでは無い。

 ニャーの魔法に触れたシップの手は、炎で焼かれて未だに燃えていた。

 と言っても、シップは苦虫を噛む様な表情を見せながらも、直ぐに風の魔法で炎を消してしまった。


「……流石は隊長様だ。他の奴等とは魔法の質が桁違いじゃねーか」


「シップ、直ぐに三人を解放して、今回の騒動の目的を説明しなさい」


「目的? んなもん、奴隷商人としての仕事をこなしているだけだぜ? 隊長さんよ」


「お前――」


「ナオさん、待って下さい! 大変なんです! 妹が! 愛那まなが大怪我をしてるそうなんです! だから、直ぐ側に行ってあげないと!」


「ナミナミ……知ってるよ。ごめんね、ニャーはその場にいたんだ。助けてあげられなかった」


「そうだったんですか……」


「でも、マナナの怪我は大丈夫。あの子……ラビちゃんがマナナの為に捕まったの。だから、きっとマナナの怪我を治してくれる」


「ラヴィーナちゃんが? そうですか、愛那の為に……」


 ナミナミが顔の表情を暗く曇らせる。

 今にも泣き出しそうな表情を見て、ニャーは自分の不甲斐無さに胸が苦しくなった。

 だけど、今はそんな弱音を吐いてなんていられない。

 ニャーは直ぐにシップに視線を戻して、魔力を集中する。


「隊長、お話は終わったか? 待ちくたびれたぜ!」


 シップはニャー達の会話を待っていたかのように、わざわざそう言ってニャーに向かって駆けだした。

 ニャーもシップに向かって走り出す。

 出し惜しみはしない。

 本気で潰す。


「シップ、わざわざ待ってくれてたの? 反逆者の癖に随分と優しいな!」


「俺は隊長と一度本気で戦ってみたかったのさ!」


 ニャーとシップの会話が交わる瞬間、ニャーの爪とシップの爪がぶつかり合う。

 それは、まるで鉄と鉄がぶつかり合う様に甲高い音を奏でて、振動が波紋の如く周囲に広がった。


 互角……もしくは自分が勝っている。と、恐らくシップはそう考えたのだろう。

 シップはニヤニヤと笑みを浮かべ、そのまま押し切ろうと爪に力を込めてきた。

 だけど、なめてもらっては困る。

 ニャーは神経を研ぎ澄ませて、一気に魔力を解放する。


蒼獄の炎舞(ヘルフレイム)


 瞬間――ニャーとシップを囲む様に、拳サイズの魔法陣が大量に浮かび上がり、それは浮かび上がると同時に蒼炎の玉を放出させた。

 数にして、放たれた蒼炎の玉は千以上。

 全てがシップに向かって飛翔して、その数の多さにシップは「マジかよ」と呟いて逃げ出した。

 一目見てこの魔法の危険さが分かるとは、流石はランランとモナっちに勝っただけはある。

 この魔法は当たれば最後で、よっぽどの実力者でなければ、一つ当たっただけでも炭になる程の威力だ。

 それほど強力な魔法で、しかも千を超える量が追尾機能付きで襲ってくるわけだ。

 ただ、一つ欠点はある。


「隊長相手は流石にヤバそうだ! 悪いが連れて行くのは無しだ!」


 シップが逃げながらナミナミに叫んで、この場から離れていく。

 更に、地面の砂を掴んで蒼炎の玉に向かってまき散らした。

 蒼炎の玉は砂に当たると、その場で燃え尽きて消えていく。


 もう魔法の欠点に気がついた!?


 ニャーの放った魔法の欠点。

 それは、対象物以外に当たった場合であっても、そのまま燃え尽きる事だ。

 それは砂でも例外ではなく、それなりの量の砂が同時に当たれば、その場で砂を燃やし尽くして一緒に消えてしまうのだ。

 しかし、まさかこんなにも早く、この弱点とも言える欠点を見つけられるとは思わなかった。


「はっはーっ! 予想的中! このまま逃げさせてもらうぜ!」


 シップは嬉々として叫び、そしてそのまま走る。

 逃げるにはランランとモナっちも邪魔と判断したのか、二人をナミナミと一緒にその場に置いて一目散に逃げていた。

 だけど、ニャーはシップを逃がしてやるつもりはない。


「逃がさない! エクスプロージョン・ブーストラン!」


 瞬間――ニャーの足が起爆剤になって爆発し、ニャーは大砲の如く地面を跳ねて、魔法で爪に蒼い炎をまとわせて一気にシップとの距離を詰めた。

 だけどその時だ。


「ちっ。隊長ヤバすぎだろ!」


 シップがそう言って、その時たまたま近くに合ったタルをニャーに向かって投げ飛ばした。

 よっぽど慌てていたんだろうとしか思えないその行動は、正直ニャーには無意味だった。

 そう……それが、ただのタルであれば。


「へう! ナオさん危ないです!」


 背後からナミナミの大声が聞こえた直後だった。

 飛んできたタルを爪で斬り裂いた瞬間に、爪を纏っていた蒼い炎が何かの起爆剤になりタルが爆発した。


「――っにゃ!?」


 突然の爆発と、色鮮やかな爆発の火花の眩しい光に視界を遮られて、ニャーはバランスを崩してその場で勢いよく転がった。


「ラッキー!」


 シップがニャーの転がる姿を見て喜び、そのまま速度を上げて逃げて行く。

 ニャーは民家に衝突して、民家を瓦礫がれきに変えて生き埋めになって勢いが止まった。


「にゃあああああああああっっっっ!!」


 本当に最悪だ。

 自分の不甲斐無さにニャーは本当に腹が立って、苛立ちのあまり叫んで瓦礫から這い上がる。

 ニャーが瓦礫から這い上がると、ナミナミが心配そうに顔の表情を曇らせながらニャーに近づいてきた。


「ナオさん、大丈夫ですか?」


「……にゃあ。大丈夫……それより、ナミナミの方こそ怪我は無い?」


「はい、私は平気です。私より、モーナちゃんとランさんが……」


「そうだね、早く二人を衛生兵の所に連れて行かないと」


「はい。……それと、ナオさん、あの…………ごめんなさい!」


 突然ナミナミが頭を下げる。

 訳が分からずニャーが困惑していると、ナミナミはゆっくりと頭を上げてニャーと目を合わせた。


「さっきの花火、私とモーナちゃんで仕掛けた物だったんです」


「にゃ? 花火……? ああ、さっきのタルのあれ、花火だったんだね」


「はい。本当にごめんなさい! ナオさんは私達を助けてくれていたのに、足を引っ張ってしまいました」


「にゃはは、気にしないで。こんな事になるなんて、誰にも予想出来なかったんだし仕方が無いよ」


「ナオさん……本当にごめんなさい!」


 ナミナミはそう言って、もう一度深々と頭を下げた。

 ナミナミは悪くない。

 ナミナミにも言った事だけど、こんな事になるなんて誰にも予想出来なかったのだ。


 奴隷商人たちの企みは捕まえたミネークに聞き出すとして、とりあえず今はナミナミとランランとモナっちを救出できた事に一先ず安心する。

 と、言ってもいられない状況だ。

 ニャーはナミナミにランランとモナっちを運ぶのを手伝ってもらい、近くにいたえーぞー君を通して、直ぐに緊急時の作戦本部へと向かった。

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