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053 奴隷商人の蛮行

 へう……どうしましょう?

 モーナちゃんと仕掛けた花火がもの凄い勢いで爆発しちゃいました。


 今はお日様がポカポカで天気の良い昼下がりです。

 モーナちゃんと一緒に【鬼ごっこ大会】と言う楽しいイベントに参加している時の今朝の事でした。

 私とモーナちゃんは罠の落とし穴を作りながら、更にもう一つ、相手をビックリさせて油断させる為の花火を仕掛けました。

 まさに完璧な作戦です。

 しめしめうひひです。

 だけど、大変な事が起こってしまいました。


「さあ! 待ちに待った俺達の祭りの時間だ! 今日この時の為に俺達で計画してきた祭りのな! 今日は最高の商品が手に入る最高の日になるぞ!」


 路地裏を移動中に突然私とモーナちゃんの目の前に登場したシップさんと名乗る龍のハーフさんが、そう言った時でした。

 私とモーナちゃんが仕掛けた花火が爆発してしまったんです!

 勿論私もモーナちゃんも驚きました。

 だって、悲鳴とかも聞こえてきちゃったんです。

 大事件です。

 怒られちゃいます!

 我が家の愛那まなちゃんも「お姉何やってるの!」って、絶対怒ってしまいます!


「鬼ごっこ大会はお終いだ。だが喜べ。代わりと言っちゃなんだが、この国に集まった獣人どもを全員奴隷にする祭りが始まるのさ!」


 目の前にいるシップさんが突然そんな事を言いだして、モーナちゃんが私に顔を近づけて耳打ちします。


「獣人を全員奴隷とか無理に決まってるのに馬鹿だなアイツ。あんな奴放っておいて花火の回収……証拠を隠滅しに行くぞ」


「駄目です。犯人は現場に戻って捕まるのがセオリーです。ここで戻ったら花火罪で捕まっちゃいます。愛那ちゃんのお説教コース間違いなしです」


「うっ……マナは一々煩いんだよな~」


「綺麗なバラにはトゲがあるのと同じで、可愛い愛那ちゃんの言葉にも毒があるんです」


 私がそう言って、モーナちゃんと一緒にため息を同時に吐き出した時です。

 目の前で何やら興奮した様子のシップさんが、私達を睨みました。


「何をこそこそと話しているか知らないが、お前達も今の爆発音を聞いただろう? 俺の仲間たちが予定通り暴れ回ってるあの音を」


 どうしましょう?

 何か勘違いをしているようです。

 あれは花火の音です。

 毎年愛那ちゃんと一緒に綺麗な花火を見る為に、花火ソムリエになった私には分かるんです。

 しかし、困ってしまいます。

 このシップさんと言う男性は奴隷商人らしいのです。

 このまま勘違いさせておいて、ナオさん達に教えた方がいいかもしれません。


「運が良かったな! おまえに構ってやる暇が無くなったから見逃してあげるわ!」


「見逃すだと? 何を勘違いしている?」


「勘違いしてるのはおまえだ」


「いいや、お前の方さ。俺は奴隷商人と言っても、今ではこの国の新兵をやっている。だが、それだけじゃない。俺は元々獣どもの狩りや人殺しを生業とした仕事をしていた。まあ、俺が今所属する奴隷商人達は、俺の様な存在の寄せ集めで成り立っている場所なんだが、俺はその中でも一番の実力者なのさ」


「話が長いしウザい。そんな事はどうでも良いわ! 私の方が強いに決まってるからな!」


「へえ、随分と自信があるな。だったらその自身をへし折って、精神をぐちゃぐちゃにしてから売り飛ばしてやるよ」


 モーナちゃんとシップさんが睨み合って、私は焦りました。

 今は本当にこの変な人に関わっている場合ではないんです!

 言ってる事がサイコすぎますし、ヤバ気な感じがアクセル全開で針を振りきっちゃってる感じです。

 だけど、この時私は思ってしまいました。


 果たして、本当に罪から逃れる為に逃げても良いのかと。です。


 よく考えてみて下さい。

 悲鳴が聞こえてきたんです。

 もしかしたら、花火の熱で火傷をしてしまった人が出てしまったかもしれません。

 もしそうだったら大事件です。

 こんな奴隷商人と名乗る怪しいサイコで変な人の相手をしている場合ではありません。

 だから、私はモーナちゃんの言う通り、現場に戻ろうと思いました。


「モーナちゃん、私が馬鹿でした。やっぱり現場に戻りましょう」


「どうした? やっぱり証拠を隠滅するのか?」


「違います! 怪我人がいないか見に行くんです!」


 と、私がモーナちゃんに声を上げた瞬間です。

 シップさんが私達を睨んで、苛立ちを顔に出して向かって来ました。

 モーナちゃんがそれに気が付いて、シップさんに向かって構えると、それと同時にシップさんの拳がモーナちゃんを殴ろうと出されます。


「アイギスの盾!」


 私は叫びました。

 魔法で盾を出して、モーナちゃんを護る為です。


「ちっ、またか。厄介な魔法を使いやがる」


 私が出した魔法の盾は、モーナちゃんを見事に護りました。

 その瞬間に、まるでお寺の鐘の音を更に鈍くした様な低い音が、周囲に大音量で響きました。

 そしてそれは、近くにいる人達と【えーぞー君】を呼ぶには十分過ぎる程の大きな音でした。

 音を聞きつけて、大会を見ている人達が「何だ何だ?」と集まってきてしまいました。

 更に【えーぞー君】からランさんの声が聞こえてきます。


『見つけたぞシップ! 貴方が犯人の一人と言うのは既に分かっている! ワンド殿下とその時一緒にさらった女の子を返しなさい!』


 ――っ!?


 私は驚きました。

 聞き捨て出来ない言葉を【えーぞー君】が言ったからです。


「へえ、あいつ等上手くいったのか。まあ、そうでないと困るがな。しかし、一緒に攫った女の子ってのは計画に無いな」


「おい! どう言う事だ!?」


 モーナちゃんがシップさんを睨んで問い詰めます。

 するとその瞬間に「覚悟しろ!」と大声が聞こえたかと思うと、シップさんの近くの壁が突然爆発を上げて破壊されて、そこから獣人の男性が勢いよく出てきました。

 そして、その男性はシップさんに剣で襲い掛かりました。


「ボーアか」


 シップさんは剣を流れるように避けて、襲い掛かった男性にそう言って顔を殴りました。

 だけど、殴られた男性は怯みません。

 直ぐに反撃とばかりに剣を構え直して、シップさんに斬りかかります。

 すると今度は、シップさんが剣を片手で受け止めて、その瞬間に剣がぐにゃりと曲がってしまいました。


「ボーア、俺のスキル【折り畳む手(フォールドハンド)】の存在を忘れたのか?」


「なら、これでどうだ!」


 男性がシップさんに向かって手をかざします。

 途端に男性の目の前に赤色の魔法陣が浮かび上がって、男性が「フレイムニードル」と叫んだ瞬間に針の様な形をした炎が魔法陣から飛び出して、それがシップさんを襲います。


「甘いな」


 シップさんはニヤニヤとした笑みを浮かべます。

 そして、自分に襲い掛かる炎に手を伸ばして、それすらもぐにゃりと曲げて無効化してしまいました。


「くそっ、相変わらず厄介なスキルを使う!」


「お前では俺には勝てないさ、ボーア。しかし、思っていたより来るのが速かったな。お前は確かこの大会には参加せず、会場の警護を任されていた筈だが?」


「ワンド殿下が誘拐されて犯人を捜していた所だ。そこで貴様がえーぞー君に映ったから、一番近くにいた私が来たと言うわけだ」


「なるほどな」


「シップ、悪い事は言わない。私と貴様は同じ釜の飯を食べた仲だ。今直ぐワンド殿下を攫って行ったレバー達と一緒に自首をしろ」


「何を言いだすかと思えばくだらないな。同じ釜の飯を食った仲として、俺からも言わせてもらうぞ。お前達この国の全ての住人は、我等が崇拝するあのお方の商品だ。商品が商人に意見するなどおこがましい。黙って売られればいいんだよ」


「貴様! 仮にも三月みつきもこの国で新兵として生活をして、この国の優しい人々に出会った筈だ! それがそれを見てきた者の言う言葉か!?」


「くだらないんだよ。そんなもの、なんの価値もな――」


「くだらないのはお前さんだよシップく~ん!」


 一瞬でした。

 男性とシップさんが会話をしていると、上空からランさんが現れて、勢いよくシップさんに剣を斬りつけました。

 シップさんは舌打ちをしてギリギリの所でそれをかわして、数歩後退ります。


「もう来やがったか、隊長」


「へいへいへーい! てめえ何してくれちゃったのさシップくんよ~。っと、冗談ぽく言ってる場合でも無いし真面目に言うけど、さっさと殿下とあの子達を返しなさい」


「それは攫ったあいつ等に言ってくれねーか?」


 冗談っぽくシップさんがそう答えると、ランさんが顔をしかめてシップさんを睨みました。


「その攫った連中が見つからないから君に聞いてるんだけど?」


 ランさんから凄まじい殺気の様なオーラが出ているのを私でも感じました。

 だけど、その殺気の矛先であるシップさんは何でもない様に、ケロリとした顔でニヤニヤと呟きます。


「へえ、そいつは朗報だ」


「はあ、仕方ない。殿下を誘拐した裏切り者のお前達とは、元々まともに話が出来るとは思っていなかったしね。シップ、国家への反逆及び殿下とあの子達を誘拐した罪は重いよ。覚悟しな」


「覚悟するのはアンタの方さ。隊長、俺はアンタが思っている以上に強いぜ」


 ランさんとシップさんが睨み合い、その隙にと男性が私達の側までやって来ました。


「ナミキさんとモーナさんですね。ラン隊長とナオ教官から話は伺っています」


「あの……貴方は?」


「私はフロアタム新兵のボーアと言う者です」


「おまえの名前なんてどうでも良いわ! おい、一緒に攫った女の子って誰の事だ?」


 そうです! それです!


 私はモーナちゃんの言葉に同意して頷きます。

 すると、ボーアさんが言い辛そうに顔を一度曇らせました。


「ワンド殿下と一緒に、マナさんとラヴィーナさんがシップの仲間……奴隷商人どもに誘拐されました」


 ――――っ!?


 ボーアさんの言葉を聞いた瞬間に、目の前が真っ暗になりました。


「はあああっっ!? どう言う事だ!?」


「申し訳ございません。我々が至らないばかりか、シップ以外にも、私と同じ新兵だった者達の中に裏切り者がいたんです」


「裏切り者とかそんなのどうでも良い! マナは無事なのか!?」


「すみません。マナさんがワンド殿下を護って下さる為に負傷……大怪我を負われた状態で誘拐されてしまったようです。駆けつけた兵士がそう言っていました」


「愛那ちゃんが誘拐された? それに大怪我って……そんな……愛那……っ!」


「ふざけるなああああっ! おまえ達は兵士は何をやってたんだ! マナが無事ですまなかったらどうしてくれるんだ!? 奴隷商人の連中だけじゃない! 私はおまえ達を許さないぞ!」


 モーナちゃんの叫び声が私の耳に響きました。

 でも、その声は、もう私の頭の中には入ってきませんでした。

 私は立っていられない程動揺してしまって、その場でヘタリと座り込んでしまいました。

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