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051 鬼ごっこ大会 開幕

「さああ! やって参りました! 今年も無事迎える事が出来る【鬼ごっこ大会】も、今回で139回目! 実況は私、我等が第一王子ワンド様のお目付け役ランが担当いたします! そして! なんと解説を勤めてくれるのはこの人! 我等獣人の英雄ナオ=キャトフリー様です!」


「にゃー……。ラン、テンション高くない?」


「おやおやー? 解説役のナオ様は、どうやら朝は弱いようですなー」


 会場にドッと大きな笑い声が湧き出す。

 さて、わたしがフロアタム宮殿の書庫で本を読み漁っている中、ついに【鬼ごっこ大会】が始まろうとしていた。

 少し意外だったのが、今日はワンド王子の従者のランさんが大会の実況をすると言う事。

 一国の王子の従者が主の許を離れるのって良いのかな? とも思ったけど大丈夫らしい。

 鬼ごっこ大会の日のワンド王子の護衛は、他の人に頼んでいるようだ。

 そんなわけで、実況をするランさんの声や観客達の歓声が、わたしのいる書庫まで響いていた。


「それでは皆さん聞き飽きたであろうルールを説明してやるぜー! 受付時に渡した【鬼の腕章】。これを皆さんには奪い合って頂きます。しかーっし! ただ奪うだけではいかないのが、この鬼ごっこ大会の面倒臭い所!」


「面倒臭いって……。ランラン、もう少し言い方を変えようね?」


「いえいえ、そう言うわけにはまいりません! 皆さん毎年面倒だなって言ってます。って、そんな事はどうでも良い事! ただ腕章を奪うのではなく、奪うのと同時に相手を拘束して動きを封じなければなりません! では、それは何故なのか教えて下さい、ナオ様」


「はい。本来の【鬼ごっこ】のルールとして、鬼でない側が鬼の腕章を奪ってそれを自分の腕につけて、最後まで腕章を腕につけた者が勝ち。とあります。ですがこの大会においては、腕章を外されて拘束された鬼は、その時点で敗者となり復帰できません。逆に腕章を奪っても拘束が出来なければ、奪った側が敗者となり、拘束されなかった鬼が復帰できます」


「ご解説ありがとうございます! と言うわけで、毎年皆様のおかげで参加者の人数が多いこの【鬼ごっこ大会】では、この様なルールが設けられています! そして、更に大会の特別ルールをお願いします!」


「はい。鬼ごっこ大会では、最後まで腕章を盗られなければ、それで良いと言うわけではありません。腕章を奪い合い、最後により多くの腕章を持っていた選手が優勝となります」


「皆さん……いいや、この大会にかしこまった言葉は相応しくないぜ! 魑魅魍魎も怯える総勢千人を超える参加者の野郎ども! ナオ様が言った通り、これは鬼ごっこであり鬼ごっこではないんだぜー! 良いか野郎ども! 主役はお前達だ! この壮絶なる戦いを生き延びて、血肉湧き踊るこの大会を盛り上げろおおーっ!」


「「「うおおおおおおおおおおっっっっっ!!!」」」


 参加者と観客が雄叫びを上げて、それは振動となって建物が揺れる。

 さて、そんなわけでこの鬼ごっこ大会は、わたし達の世界のおにごっことは全然別物だ。

 わたし達の世界のおにごっこは、皆お馴染みの鬼と逃げる人で別れて、ただ追いかけ合うだけのものだ。

 だけど、この世界の鬼ごっこはそうじゃない。

 鬼と逃げる人の立場が逆で、鬼には腕章をつけてもらって、腕章をつけた鬼が逃げてそれを奪うというものだ。

 元々は、わたしの世界の様に腕章をつける必要は無いものだった。

 だけど、大人数が集まる大会では、鬼とそうで無い者の見分けがつかない。

 だからこそ、この腕章を身につけると言うのは、この鬼ごっこ大会の為に追加されたルールの様だ。

 そして、さっきの説明にあった通りで、鬼ごっこ大会は全員が腕章をつけて奪い合う。

 ただ、詳しいルールの説明の案内用紙を見てみると、最後まで逃げきった鬼には参加賞が与えられるらしい。

 それのおかげで、優勝は無理でも逃げきって参加賞を貰おうと考える参加者も、しっかり毎年いるのだそうだ。

 尚、我等が代表のお姉とモーナは優勝狙い。

 参加者全員の腕章を奪ってやるとドヤ顔で豪語していた。

 と言うか、最早鬼ごっこでは無いのでは? と、わたしは思ったけど、それを言ったらモーナだけでなくラヴィにまで首を傾げられた。

 モーナはともかく、ラヴィにまでそんな反応をされたので、そう言うものなんだなと思った。


「よーし! 盛り上がってきた所で、今大会の大会使用区域を発表するぜーい!」


「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」


「えー、今回は王都フロアタムの街中全部が大会の使用区域となります。但し、民家や宮殿には立ち入り禁止。あくまで街道などに限るので、今大会に関係の無い人には迷惑かけないようにして下さい」


「と言う事だぜ野郎ども! 若干テンション低いナオ様の言う通りしっかりしろよー!」


「「「うおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」」」


「それじゃあ最後にー!」


 ランさんが実況者と解説者の為に用意されていた机の上に立ち上がる。

 ナオさんはそれを見て、頭を抱えてため息を吐き出した。


「シビケイ食いたいかああああっっ!?」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」」」


「優勝したいかああああああああ!?」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」」」


「優勝して手に入るワンド殿下の近衛兵推薦状をゲットしたいかああああああ!?」


「「「うおおおおおおお――おおおっっ!?」」」


「にゃああ!? ちょっと馬鹿ランラン! なんでそれ言うの!?」


「あ、すみません。口が滑っちゃいました」


 グダグダである。

 と言うかだ。

 ランさんはテンションを上げ過ぎて、公に言ってはならない事まで言ってしまって、会場はかなり騒めいてしまった。

 盛り上がっていた観客達は動揺を隠せず、そして、皆が鬼ごっこ大会に期待に胸を高鳴らせる。

 そう。

 今回の鬼ごっこ大会は今までにない程に盛り上がると、皆が心を躍らせたのだ。

 それ程に、ランさんが言ってしまった【ワンド王子殿下の近衛兵推薦状】と言うものが、魅力的だったからだ。

 実際に参加する選手の目の色は変わり、参加賞目当ての参加者も優勝を狙おうと考える者も増えていた。

 だけど、まあ、それは今は置いておくとしよう。

 こうして、波乱の予感しかない鬼ごっこ大会の開会式の幕が閉じて、シビケイにしか興味の無いお姉とモーナは目指せ優勝の準備に取り掛かる。


「参加者皆さんと腕章を奪い合うのは怖いですけど、開始の場所を自分達で決めて良いのは助かりますね」


「そうか? どうぜ全員殺すんだから、全員同じ場所でよくないか?」 


「モーナちゃんは強いから良いですけど、私はよわよわなので逆に瞬殺されちゃいます」


「あーっはっはっはっ! それもそうだな! でも、私がナミキを護ってやるから安心すると良いわ!」


「モーナちゃん、頼もしいです!」


「当たり前だ!」


 モーナはドヤ顔で誇らしげに胸を張る。

 お姉もそんなをモーナを見て、目を輝かせて喜んだ。


「よし、とりあえず私が教えた通りにすれば、特訓の成果が得られる筈だぞ」


「はい! 頑張ります!」


 お姉が力強く頷いて、準備を終えて大会開始の時間を待つ。

 さて、そんなわけでこの二人。

 大会が開始される前の準備時間に、町の中で何やら作業を行っていた。

 周りは結構人通りも多く、二人の様子を何だ何だと眺めている。

 特にお姉は目立っていて、多くの人から視線を集めていた。胸に……。


「モーナちゃん、何だか皆さんから視線を感じます。敵のスパイさんでしょうか?」


「ナミキはおっぱいデカいからな。バインバインだから見てるだけだろ」


「スパイさんが私のおっぱいを見てるんですか!?」


「だな!」


 誰かこの馬鹿二人にツッコミをいれてほしい。

 この場にわたしがいたら、周囲にいる鼻の下を伸ばした男共を睨みつけてやって、馬鹿な事を言ってる二人にツッコミを入れる所だ。


「そう言えば、この可愛いおめ目さんが、例の【えーぞー君】ですか? 確か実況者さんの声が聞こえるようにスピーカーが付いてるんですよね?」


「そうだな。周囲の観客に現場に実況者の声をお届けをする為らしいぞ」


「凄いですね。これもマジックアイテムなんですよね?」


「元々はそうだな」


 お姉とモーナが話している【えーぞー君】とは、空飛ぶ目玉の事だ。

 魔法で生み出された【マジックアイテム】なんだけど、正直見た目が凄く怖い。

 このマジックアイテムは、この大会で使われているビデオカメラの様な物で、実況者達のいる観客席側に現場の映像を映し出す事が出来るようだ。

 更に街中での腕章の奪い合いを実際に生で見たいと言う野次馬……観客達の為に、映像を見て実況をする実況者の声を聞く為のスピーカーも付いている。

 ただ、現場の音声はお届けしない仕様になっているらしい。

 と言うのも、そもそも音声をながす為のスピーカーも本来無い物を、この大会の為に流せるように改良したらしい。

 モーナが言うには……まあ、それは今は置いておくとしよう。


 お姉とモーナの怪しげな作業も終わりを迎える頃、えーぞー君から実況者の声が大きく響く。


「野郎ども準備は出来たか!? それでは、第139回鬼ごっこ大会を開始するぜえええっっ!」


 こうして、お姉とモーナを含む、総勢千人以上にも及ぶ【鬼ごっこ大会】の幕が上がった。

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