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048 よい子達の決戦

 王宮に来て早々に色々とあったけど、その後は何事も無く王宮の中を見学して、ナオさんと一緒に美味しい晩御飯を頂いた。

 晩御飯を食べ終わる時間になると、一般公開されている書庫は閉鎖されるらしいので、わたしはナオさんに頼んで使っても良い書庫の場所を聞いて一緒に向かう。

 目的はもちろん元の世界に戻る方法を調べる事。

 ついでに魔法やスキルについても調べたいし、他にも気になる事があれば調べたいので今から楽しみだ。


 モーナとお姉は鬼ごっこ大会に備えて、今からまた特訓らしい。

 王宮の見学をせずにずっと昼間っから特訓してるけど、いったい何をしている事やら……。


 ラヴィはわたしと一緒に行動していた。

 この国の第一王子のワンド様との事があったからか、今日はやけに手を繋いでくっついて来るので、何だか甘えん坊な妹が出来たみたいで少し嬉しい。


 ナオさんの案内で書庫まで辿り着くと、ナオさんも一緒に入って、備え付けの椅子に座って適当な本を読み始めた。

 何の本か気になって聞いてみると、ナオさんはとても綺麗な微笑みを見せて、「相手を苦しませて殺す方法が書かれた本」と爽やかに答えた。

 わたしは聞き間違いである事を願いながら、早速自分の調べものに取り掛かる。


 それにしても広いな……。


 わたしは書庫の中を見回した。

 かなり広く、そして、天井まで伸びる本棚がびっしりと並んでいた。


 試しに、何も考えず選ばずに適当に本を取ってページをめくってみる。

 するとそこには、この国の歴史と思われる事が書かれていた。


 獣人国家ベードラ。

 獣人達を中心に暮らす国で、他国の毛薄人けうすびと(ヒューマン)との交流も盛んである。


 毛薄人? ヒューマンってゲームで見た事ある。

 確か、ゲームでは人間の事だったな。

 つまり、この世界でも人間はヒューマンって呼ばれてるのか。

 それにしても毛薄人って、なんかハゲの人を呼ぶみたいで少し変かも。

 人間は皆ハゲって言ってるみたい。


 何だか可笑しくなってクスクス笑う。

 すると、わたしの笑い声が聞こえたのか、ナオさんが不思議そうな表情をわたしに向けた。


「にゃー? どうしたの?」


「人の呼び方が毛薄人って言うのが面白くて」


 そう言って、わたしがまたクスクス笑うと、ナオさんもまた不思議そうな表情をわたしに向けて首を傾げた。

 その時に気がついたのだけど、ラヴィも少しだけ不思議そうな表情をしていて、どうやらこの世界では人間が毛薄人と言われるのが普通の事らしいとわたしは気がつく。


 ラヴィは何を読んでいるんだろう? と気になって、ラヴィが読んでいる本に視線を向ける。

 ラヴィが読んでいるのは、表紙にお姫様のイラストが描かれた本で絵本の様だった。

 絵本まであるなんて、流石は世界一の書庫って感じだ。


「ラヴィ、あっちで座って読も」


「わかった」


 せっかくだからと、わたしはそのまま本を読む事にした。

 ラヴィと一緒に椅子に座って、本を机の上に置いて読み始める。


 暫らく本を読んでいると、一つ気になる内容を見つけた。

 それは、例の【鬼ごっこ大会】の事だ。

 この国の鬼ごっこ大会の鬼ごっこは、わたしの世界の鬼ごっことはかなりルールが違うようだった。

 それに……。


「ナオさん、今度開かれる鬼ごっこ大会に、兵士の人達も出るんですか?」


「うん、勿論だよ。ニャーが面倒を見てあげてる新兵も、今度の鬼ごっこ大会で優勝するんだってはりきってるよ」


 ナオさんが楽しそうに微笑む。

 ナオさんは本当に綺麗な人だな。と、その微笑みを見て思ったわたしだけど、そんな呑気な事を考えてばかりもいられない。

 鬼ごっこ大会にはお姉も参加予定で、鬼ごっこ大会はわたしが知ったルールを見る限りではかなり危険な競技だ。

 本当に大丈夫だろうかと、わたしはお姉の事が若干心配になった。

 そしてその結果、わたしは意味が無いかもしれないけれどジッとはしていられないと、行動に出ようとナオさんに聞いてみる。


「明日……明日、訓練の見学に行っても良いですか?」


 どうせお姉は危ないと言っても聞かないに違いない。

 それなら、兵士達の訓練を見る事で少しでもお姉の役に立とうと、わたしは考えた。

 ナオさんはわたしが質問すると、少し考える素振りをして「にゃ~」と呟き、苦笑しながら答える。


「良いよ。その代わり、危ないから何かあっても責任とれないからね?」


「はい、大丈夫です。お願いします」


 やっぱり兵士達の訓練は危険な様だ。

 きっと国を守る為に、とても厳しい訓練をしているに違いない。

 と、わたしは思ったんだけど……。


「一応ニャーから新兵達には、可愛い子だからって手を出さないようにって伝えておくね」


「はい……はい?」


「でも、皆小さい女の子好きだから心配だな~。本当に危ないから気をつけてね」


「危ないってそっちの事ですか? 訓練とかじゃなくて」


「訓練? 一緒にするわけじゃないし危なくないよ?」


「……そうですか」


 なんだか、別の意味で心配になってきたな……。

 そう言えば、この世界に来たばかりの頃に、ナオがロリコンだか変態だかが多いみたいな事言ってたっけ?

 大丈夫か? この世界……。


 わたしがそんな風にこの世界に不安を覚えた時だった。

 突然書庫の扉が開かれて、誰かが書庫に入って来た。


「ここにいたのか。捜したぞ、マナ」


「ワンド様!?」


 書庫に入って来たのは、この国の第一王子のワンド様だった。

 わたしは驚いて椅子から立ち上がって、ワンド様と目を合わす。

 ワンド様はわたしと目が合うと、口角を上げてニヤリと笑みを浮かべて、ズカズカと歩いてわたしの側までやって来た。

 すると、ラヴィが椅子から立ち上がって、わたしとワンド様の間に割って入る。


「なんだ? またお前か」


「それはお互い様」


 ラヴィとワンド様が睨み合い、ワンド様がニヤリと笑みを浮かべて、何かを取り出してラヴィに見せる。


「昼間は邪魔が入ったから出来なかったけど、お前、僕とこれからこれで勝負しろ」


「――さんすうっ!?」


 ワンド様がラヴィに見せたそれは、『よい子のさんすう』と表紙に書かれた本だった。


「そうだ。僕とお前、どちらがマナに相応しいか、このさんすうで勝負するんだ!」


「……分かった」


 ラヴィとワンド様が睨み合う。

 わたしは何故算数? と、疑問に思いながら、ナオさんが止めに入るか確認する為に視線を向けた。

 ナオさんはニコニコと微笑ましく笑顔でラヴィとワンド様を見て、二度ほど頷いていた。


 これ、このまま二人を見守るつもりだ。

 ……まあ、算数なら危ない事なんて無いし大丈夫か。


 と、わたしもラヴィとワンド様を見守る事にした。


「良い覚悟だ。いいぞ、僕のライバルだと認めてやる」


「どうでも良い。早く勝負する」


「そんな生意気な事を言ってられるのも今の内だぞ。僕はさんすうの天才なんだ。この国の王子である僕の実力を見せてやる」


 そうして始まったラヴィとワンド様のさんすう対決。

 二人は向かい合って机を挟んで座り、何処からともなく音も無く突然現れたメイド姿のお姉さん達から、問題が書かれていると思われる紙を受け取る。

 そして、ナオさんの合図で、二人は問題を解き始めた。


 その様子を見て、わたしは学校を思い出して、何だか懐かしいと感じながら再び本を読み始める。

 ……つもりだったけど、何だか気になって、ラヴィが問題を解いている紙を覗き見る。


 うわあ、懐かしい。

 掛け算と割り算はないのか……って、まあ、ラヴィが五歳でワンド様は四歳だし当然か。

 って、今更だけど、二人とも年齢の割にはしっかりしてるな。

 わたしが二人くらいの時は多分もっと何も考えてなかったし、なんなら算数なんて……って、わたしも物心つく前から英語だとか算数だとかを勉強させられてたな。

 お姉は公園で遊び回ってたみたいだけど……。

 この世界の子は、皆わたしみたいに、物心つく前から勉強するのかな?


 そんな事を考えていると、ナオさんがわたしの側まで来て耳打ちする。


「ワンワンとの事は聞いたよ。大変だったみたいだね」


「え? ワンワ……あ、いえ。そんな事ないです」


 ワンワンと言われて一瞬意味が分からなかったけど、直ぐにそれがワンド様の事だと気がついて否定すると、ナオさんが苦笑した。


「にゃはは。あまり相手が王子様だからって、気にしたりしなくても良いよ」


「はあ……」


「ワンワンのパパ……王様は王族とか平民とか気にしない奴だから、侮辱罪みたいなものは滅多な事でもない限り適用されないんだよ」


 王様に向かってなんて言いだすもんだから、わたしは驚いてナオさんを見た。

 ナオさんは特に気にした様子も無く、再び微笑ましい笑顔をラヴィ達に向けた。


 そう言えば、ナオさんも王族なんだっけ?

 それにしたって王様に凄い無礼な気がする。

 ……あれ?

 よく考えてみれば、モーナもかなり無礼な性格だな……。

 もしかして、獣人って皆こんな感じなのかな?

 いやいや、それは無い。

 メリーさん達は全然そんな事なかった。


 わたしとナオさんが見守る中、ラヴィとワンド様がついに問題を解き終わる。

 早速答え合わせをする事になり、わたしも手伝う。

 そしてその結果はと言うと……。


「二人とも満点。ラヴィ、凄いじゃん」


 わたしはラヴィの頭を撫でる。

 ラヴィは嬉しそうに少しだけ口角を上げて微笑んだ。

 それから、ワンド様の視線を感じて振り向くと、何処か羨ましそうな眼差しをラヴィに向けていた。

 それを見て、わたしは苦笑しながら「凄いですね」と、ワンド様の頭を撫でた。


 ナオさんが気にしなくて良いって言ってたし、これ位は失礼にならないよね?


 ワンド様は一瞬だけ驚いた顔をして、直ぐに顔を俯かせて顔を赤く染めてはにかんだ。

 少しの間撫でていると、ワンド様は俯いたままラヴィに視線を向けて話す。


「お前、ラヴィーナっていったな? 認めてやるよ。僕の家来にしてやる」


「いらない」


「――なにいっ!?」


 ワンド様が顔を上げてラヴィを睨む。


「本当に生意気な奴だな! 光栄な事なんだぞ! 今度はこれで勝負しろ!」


 と、ワンド様が今度は『よい子のまほう』と書かれた本を取り出した。


「望む所」


 ラヴィが少しだけへの字口でワンド様と睨み合う。

 どうやら、二人の勝負はまだ続くらしい。

 まあ、でも……わたしはラヴィとワンド様を微笑ましく見ているナオさんの気持ちが、何となく分かったような気がした。


 ……ワンド様、何だか楽しそう。


 ワンド様はラヴィと相変わらず睨み合っていたけど、それでもわたしには楽しそうに見えた。

 だから、わたしもナオさんに習って、二人を微笑んで見守る事にした。

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