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046 猫耳美人と生意気王子

 白くて大きな丸い屋根の、わたしの世界のとある国の宮殿に何処か似た見た目のその建物を目の前にして、わたしとお姉とラヴィは見上げて口を大きく開けていた。

 ここまで向かっている途中、王宮が目に入るあたりから思っていた事ではあったけど、本当にデカい。

 それに、王宮だと言うのに一般人の出入が激しい。

 モーナから聞いていた書庫の利用が理由だろうけど、こんなに一般人が出入りして良いものなのかと心配になる。


「人が沢山いますね」


「うん。幾つかある書庫の一つを一般公開してるみたいだからね。だからって、まさかこんなに人が出入りしてると思わなかったけど」


「そうですね。びっくりしちゃいました……あ。モーナちゃんが帰って来ました」


 お姉が王宮の出入口に視線を向ける。

 モーナには先に王宮に入ってもらって、泊めてもらえるかの確認をしてもらっていた。

 わたしも王宮の出入口に視線を向けると、笑顔のモーナと目が合う。

 ……のは良いとして、モーナの隣に誰かが……凄く綺麗な美女がいる。


 身長はお姉と同じ……少し大きいくらいだろうか?

 モーナと同じ猫の獣人なようで、真っ赤な髪の毛に猫耳と、腰のあたりからは長い尻尾が生えていた。

 真っ赤な髪はとても綺麗で、前髪はパッツンで腰まで届くストレート。

 瞳の色は刈安かりやすだろうか?

 少し緑みのある黄色で、とても綺麗で美しかった。

 服装は大胆な服装で、肩と背中が丸見えの上着に、綺麗な足がハッキリと見える短めのパンツ。

 ちなみにパンツと言っても下着では無く、スキニ―パンツの様なズボンだ。


 モーナが謎の美女と並んでわたし達の所まで歩いて来ると、「待たせたな」と言って、早速その謎の美女の紹介を始める。


「こいつはナオだ。話してた新兵の教官をやってる奴だ。王族の血を引いてるけど、気にせず話せ」


「ナオ=キャトフリーよ。よろしくね」


 ナオさんが柔らかく微笑む。

 わたしはお姉の事を美人だと思っているけど、ナオさんもかなりの美人だと思った。

 お姉とはまた違った大人の魅力を感じて、王族の血がとか関係なく、少しドキドキして緊張してしまう。


「ほ、豊穣愛那ほうじょうまなです。よろしくお願いします」


「姉の瀾姫なみきです。よろしくお願いしますね」


「ラヴィーナ、よろしく」


「皆の事を好きに呼ばせてもらうから、ニャーの事も好きに呼んでね。マナナとナミナミとラビちゃん」


「は、はい……」


 拍子抜けしてしまった。

 凄い美人で緊張していただけに、出会って直ぐに垢抜けたあだ名をつけられて……しかも、こう言っては失礼だけど、一人称が、自分を呼ぶ言葉が「ニャー」なのだ。

 本当に失礼な事を言うけど、美人と言うよりは親しみやすい可愛い人と感じた。


「なあ、ナオ。明後日に鬼ごっこ大会があるから、荷物を置いてから特訓したいんだ。騎士か兵の訓練所を貸してくれ」


「それはニャーの一存では決められないな~。この後も訓練があるし……一緒に訓練受ける?」


「鬼ごっこの訓練でもするのか?」


「そんなわけないでしょ。普通の訓練だよ」


「使えないわね」


 ……慣れていないから。と言うだけの事だろうけど、正直心臓に悪い会話だ。

 相手はこの王宮で新兵の訓練を受け持つ教官をしている偉い人で、しかも、王族の血を引いている相手。

 そんな相手……ナオさんに、あろう事かこの馬鹿モーナは、とても馴れ馴れしい言葉使いに失礼な言動。

 見て聞いているだけで、めまいがしてきそうだった。


「仕方ないでしょ。でも、マモマモは訓練なんてしなくても、優勝出来そうだけど?」


「マモマモ?」


 ナオさんがモーナを呼んだあだ名を復唱すると、モーナが目を大きく開けて驚いて、ナオさんの肩を両手で掴んで揺らす。


「あ、ああ、そーだった。マモマモじゃなくてモナっちだった」


「二回も言わなくて良いわよ!」


「そ、そんな焦らなくても」


「焦ってないわよ!」


「姉様くらいに面倒臭いな~」


「お前の姉と一緒にするな!」


 何だ何だ? と、わたしは訝しんで二人を眺める。

 お姉とラヴィも首を傾げて二人の様子を見ていた。

 多分だけど、ナオさんは元々モーナの事を「マモマモ」と呼んでいて、モーナはそれをわたし達に聞かせたくなかったのだろう。

 理由は分からないけど、もしかしたら、未だ不明なモーナの何かに関係しているのかもしれない。

 まあ、別にどうでも良いけどね。

 正直わたしは本当に気にしてない。

 最初は気になったりもしたけど、モーナの事が分からない事だらけでも、モーナのおかげで毎日が楽しいし満足してる。

 モーナが話したくないなら、それで良いと今では思ってるから。


「こんな奴と話していても時間の無駄だ! 早く荷物を置きに行くぞ!」


 モーナが怒鳴りながら王宮の出入口に向かって歩き出す。

 それに慌ててお姉がついて行き、わたしはラヴィと手を繋いで、ゆっくり歩いて後に続いた。

 ナオさんはモーナを苦笑して見て、わたしの隣を歩いて話しかけてきた。


「この国は初めて?」


「あ、はい。とても良い国ですね。ここに来る途中でお昼を食べたんですけど、お店の人もとても良い人でした」


「デザートをサービスで貰った」


 ラヴィが口角を少し上げて言うと、ナオさんが微笑んだ。


「良かったね。でも……一つだけ気をつけてほしい事があるの」


「気をつけてほしい事? 何かあるんですか?」


 わたしが訊ねると、ナオさんは真剣な面持ちで答える。


「最近、この国でも奴隷商人の動きが活発になってきているの。法律で奴隷を固く禁じているけど、最近は世界中で奴隷の売買が増えてるからね。それが今この国でも影響が出てしまったの。本当に困った連中で、最近この国では子供の……特に女の子が攫われて困ってるのよ」


 不意に、わたしの手を握るラヴィの力が強くなる。

 ラヴィの母親は人身売買に手を出していた。

 だから、奴隷と言う言葉を聞いて、ラヴィはその事を思いだしたのだろう。


「奴隷商人って捕まえる事が出来ないんですか?」 


「難しいわね。ニャー達この国の兵や騎士も奴隷商人を追っているけど、中々その親玉を特定出来ないのよ」


「そうなんですね」


 と、わたしが返事をした所で、王宮の中に入った。

 王宮の中は外から見た通りでとても広く、人も沢山いた。

 そして気になったのは兵士の数だ。

 書庫の一部が一般開放されているだけあって、兵士の数もそれなりにいて、何処を見ても鎧を身に纏った兵が立っていた。


「奴隷商人の動きが活発になる前までは、こんなに兵もいなかったんだけど、今はどうしても警備を厳重にしないとなの」


 ナオさんがどこか悲し気な表情で苦笑して呟いた。

 すると、前を歩いていたお姉がいつの間にか戻って来ていて、何も悩みが無さそうな能天気な笑顔を見せる。


「何のお話ですか?」


「お姉……」


 お姉のその能天気な笑顔にわたしがジト目を向けると、お姉が首を傾げて目を点にする。

 とにかくだ。

 奴隷商人に気をつけようと、わたしはお姉に説明しながら、少しの間泊めてもらう部屋へと案内してもらった。


 王宮の中は、出入口こそ一般向けに開放されて人が沢山いたけど、少し道を外れれば人気は一気に減っていった。

 見張りや巡回をしている兵士や、この王宮で働いているのであろう人達とすれ違うくらいで、一般人は一人もいない。

 兵士達はナオさんを見るなり、皆道を開けて敬礼などをしていた。

 それに、たまに顔を赤くする若い兵士達もいて、ナオさんが兵士達から人気なのが直ぐに分かった。


 まあ、こんだけ美人だもん。

 人気でるよね。

 でも……。


 と、わたしはナオさんの胸部に視線を向けて、自分の胸を見下ろす。


 うん。

 おかげで、大切なのは胸じゃないって分かった!

 ありがとう! ナオさん!


「愛那ちゃん、どうかしましたか?」


 お姉がそう言って、わたしへの当てつけなのかと言いたくなるくらいに、その大きな胸を顔に押し付ける。

 歩き辛いし邪魔だしで鬱陶うっとうしいので、わたしはお姉の疑問には答えず、無言でお姉の胸を押して引き離した。


「何だ何だ? ナミキのおっぱいなんか触って。恋しくなったか?」


「違う。邪魔だから押しただけ」


「愛那ちゃんは甘えたいんですよね?」


「そんなわけないでしょ! 鬱陶しいの!」


「へう」


「にゃはは。マナマナ達って面白いね~。……と、着いたよ」


 ナオさんが楽しそうに笑いながら、やって来た場所にある扉を開ける。

 扉を開けてもらって目に飛び込んだのは、とても大きな広い部屋。

 高そうな家具が並び、寝心地の良さそうな二つのベッド。

 中庭があって、そこにはプールと思われる施設までついていた。

 わたしはナオさんに続いて部屋の中に入って、その豪華さに圧倒される。


「ベッドは二つしかないけど、本当に良かったの?」


「問題無いぞ。どうせベッドは一つしか使わないからな」


「はい。皆で愛那ちゃんを抱きしめて眠るので問題ありません!」


「おい」


 ナオさんに答えたモーナとお姉にツッコミを入れると、ナオさんが楽しそうに笑った。

 それから、この後ナオさんは新兵の訓練があるからと言って出て行った。

 部屋にはわたし達だけになり、荷物を置いて――


「ナオの知り合いが来ると聞いて見に来てやったのに、来たのは馬鹿猫と品の無い乳の女に乳臭いガキが二人か。来て損したぞ」


「――っ!?」


 突然声が聞こえて振り向くと、ベッドの下から小さな男の子……多分ラヴィより年下の男の子が現れた。

 その男の子は偉そうにあごをもの凄く上げて、綺麗な狐色の瞳で見下すようにわたし達を見ていた。

 服装は高級そうな……と言うか、王子様が着そうな如何にもな服装。

 髪の毛は黄土色で恐らく犬耳が生えていて、腰のあたりからはモフモフの尻尾が生えていた。

 パッと見は本当にとても可愛らしい姿だったけど、その態度が全てを台無しにしている。

 思いっきり生意気な子供と言う印象だ。


「ワンドか、相変わらずクソガキだな」


「クソガキだと!? 僕はこの国の第一王子だぞ! 無礼者!」


「私はこの国の新兵の教官の知り合いだ!」


 モーナと王子と名乗った男の子がお互い胸を張って睨み合う……王子!?


「も、モーナ、どう言う事? この子が王子……様って本当なの?」


「そうだな」


「そうだな、じゃないでしょ! アンタが高すぎるよ! ヤバいって!」


「そうか? こいつの方が頭が高いぞ?」


「王子様なんだから頭が高くて良いんだよ!」


 わたしが慌ててモーナに抗議すると、王子様がわたしのお尻を突然叩いた。

 お尻を叩かれたわたしはそれに驚いて、緊張しながら王子様に視線を向けると、王子様は機嫌良さそうに笑顔を私に向けた。


「お前は中々見込みがあるな。僕を敬って偉いぞ」


「は、はあ……」


 と、わたしが困惑していると、今度は眉根を少し上げたラヴィが王子様とわたしの間に入って来て、王子様を睨んだ。


「お尻叩いたら駄目。愛那に謝って」


「ラヴィ!?」


「何だお前? その髪の毛と瞳、お前雪女だろ? ここ等辺にはいない種族だな」


「謝って」


「ふん。一国の王子が、たかが平民に謝るわけないだろ。常識を勉強しろ」


 今度はラヴィと王子様が睨み合う。

 わたしはと言うと、ここまで誰かに敵意を向けるラヴィを初めて見て動揺してしまう。

 でも、このままもしラヴィが不敬罪とかで大変な事になったらと考えて、わたしは直ぐにラヴィを抱き寄せて王子様に頭を下げた。


「ごめんなさい、王子様! ラヴィ……この子なりに私を気遣ってくれたんです! 凄く優しい子なんです!」


「ただ謝るでなく、この無礼なガキもフォローするとは、やっぱりお前は見込みがあるな。よし、お前を僕の妃にしてやっても良いぞ」


「…………は?」


「喜べ女。僕はこの国の第一王子ワンド=アーフだ。お前は今この場で、僕の婚約者になったんだ」


「えええええええええええええええっっっっっ!?」


 部屋中に驚きの叫び声がこだまする。

 それは決して私の声では無く、今まで様子を黙って見ていたお姉の声で、わたしはと言うと、驚きを通り越して時間が止まったかのようにピクリとも動かなくなったのだった……。

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