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045 食べ物がかかればマジになっても仕方ない

 魔法には【火】【水】【風】【土】【光】【闇】【無】のそれぞれ七つの属性があり、上位魔法と呼ばれるものがある。


 火の属性の上位は【蒼炎】と【黒炎】で、水の属性の上位は【氷】と【毒】。

 ……氷、氷はラヴィが使えて、わたしも何度か目にしてきた。

 それに、水には人体を回復する【回復魔法】が存在する。

 これも、わたしは以前ラヴィがスタンプに使っていたのを見た。

 回復の魔法は水の属性の魔法が使える人なら、結構簡単に使える初歩的な魔法らしい。

 と言っても、大怪我を直す程の回復魔法は、かなり高度な魔力コントロールが必要だとラヴィから聞いたっけ。


 風の属性の上位は【嵐】と【雷】で、土の属性の上位は【生物】と【重力】。

 重力の魔法はモーナがよく使っているから、もうおなじみの魔法だ。

 そして、この重力魔法は、わたしの持っている【カリブルヌスの剣】にもかけられている。


 あの時、バンブービレッジでスタンプと戦った時、わたしは剣を一人でまともに持ち上げる事が出来なかった。

 その理由が重力魔法だった。

 どうやら、モーナが持ちやすい様にと持続的な魔法を【カリブルヌスの剣】にかけていた様で、モーナが気絶させられた事で魔法の効果が切れてしまった様だ。

 今はまた魔法のおかげで持ち運び出来るけど、これからの事を考えると、わたし用の剣を調達した方が良いのかもしれない。

 と、まあ、それは今は置いておくとしよう。


「わたしとお姉が使う魔法は【無】の属性。【光】と【闇】の属性と同じく、謎の多い属性で上位もどのようになるかは不明……か」


 わたしは呟いて本を閉じた。


「でも、こっちの本で少し解かったかな」


 もう一度呟いて、わたしは側に置いていた本を取って、ページをめくる。

 そして、無属性の魔法について詳しく書かれたページを読み上げる。


「無属性の一つ【加速魔法】は、その効果を発揮するには使用する対象相手の実力が大きく影響する。最大加速は四倍の【クアドルプルスピード】までだが、研鑽けんさんにより五倍以上の加速も可能となる。だが、そこまで到達したものは、かつて世界を救った英雄の仲間だけである。この加速魔法には注意点が必要だ。加速魔法は対象の強化を目的として使うが、それによる重複効果を得る事が出来ない。よって、重ねがけを行ったとしても、最後に使用した効果が残る結果となってしまう……」


 読み上げて、わたしは本を閉じて、ふうっと一息吐き出した。

 かなり魔力を消費してしまうから連続では使えないけど、わたしも一応だけど、四倍速のクアドルプルスピードまでは使える。

 本に書いてあった説明の通り重ねがけが出来ない欠点もあって、スタンプと戦う時は使うのに慎重になりすぎてしまった節もある。


 スタンプと言えば、結局あの後直ぐに元気になって、モーナに会いに来てたっけ……。

 本当に懲りないなアイツ……はあ。


 そこまで思いだすと、わたしはスタンプを斬った時の感触を思い出した。

 未だに手に残るその感触……だけど、わたしは結局あれからも、手に残るその感触にやっぱりなんとも感じられなくて、自分が酷く醜い何かに思えた。

 普通なら、自分がしてしまった事へ恐怖したり、剣を握れなくなるトラウマなんかが出来るものだと思う。

 だけど、自分で言うのも本当に嫌になるけど、わたしには全くその傾向が感じられない。

 わたしってここまで心が汚れた酷い奴だったんだ、と思えてきて更に嫌になる。

 まあ、だからと言っていつまでも気にしていられないので、その事は今は忘れよう。


 さて、わたしは今、西の国……獣人国家の【王都フロアタム】の王宮にある書庫で本を読んでいた。

 三馬鹿の一人チーリン=ジラーフを捜して、モーナの仮住まいから旅立って早一週間と少し。

 西にある獣人達の国に来たわたし達は、モーナが王族に知り合いがいると言う事で、王宮に招き入れられてもらえたのだ。

 この国は、この世界で一番の知識と情報があると言われているらしく、そして王宮には一番大きな書庫があると言われている。

 そして、わたしはとある事情で暇つぶしとして、その大きな書庫を利用させてもらっていた。


「ん~……。でも、結局基本的な事しか分からないか。加速魔法についても、殆どわたしが知っている事ばっかだし……。確かあっちにも魔法についての本が並んでいたし、そっちも読んでみよう」


 呟いて、早速新しい本をと本棚に手を伸ばす。

 だけど、「愛那まな」と、わたしを呼ぶ声が背後から聞こえて手を引っ込める。

 振り向くと、そこにはラヴィが立っていた。


「そろそろお昼。呼んで来てって言われた」


「ああ、うん。ありがと、ラヴィ」


 どうやらお昼ご飯の時間らしい。

 わたしはラヴィと手を繋いで、一緒に王宮の客人用食事スペースへと向かう。

 そしてその途中、ラヴィがわたしの顔を見上げながら話しかけてきた。


瀾姫なみきとモーナス、大丈夫かな?」


「ん~……どうだろ? まあ、あの二人なら大丈夫でしょ。それより、ラヴィはどう? ワンド王子と一緒に勉強してるんでしょ?」


「そう。勉強楽しい」


「良かったね」


 ラヴィは口角を少し上げて頷いた。

 それを見て、わたしはラヴィに微笑んで、ここにいないお姉とモーナの事を考える。


 お姉、モーナ、しっかりね!







 話は大分遡る。

 モーナの家から旅立ったわたし達は、獣人達の国の王様がいる【王都フロアタム】にやって来た。

 獣人達の国の王都と言うだけあって道行く人は獣人達ばかりで、モーナの様な猫の獣人だけでなく、他にも色々な動物の獣人が沢山いる。

 それに、モーナみたいに人間に耳と尻尾が生えただけの見た目の獣人だけじゃなく、動物がそのまま二足歩行で歩いている様な、そんな見た目の獣人達もいた。


「モーナちゃん、今日はここで泊まって行くんですよね?」


「そうだな。王宮に知り合いがいるから泊めてもらうぞ」


「え!? 知り合いがいるとは聞いてたけど、王族だったの?」


「凄い……」


「はい、驚きました」


「そうか?」


「うん……。って、あ。もしかして、以前言ってた王族の知り合いって……」


 確か港町だったかで、以前モーナに聞いた事がある。

 あの時は、モーナにお金を持たせたら駄目だなんて思ったっけ。


「あー、それは違う奴だ。ここの奴は、王族って言っても半分は平民だからな」


「半分は平民ですか?」


「そうだな! 王族なのに田舎の奴と結婚した奴がいたらしくて、私の知り合いはその子供らしいぞ。今はフロアタムの新兵の教官をしてるって言ってたわ」


「へ~、王族と平民の結婚で出来た子供か~。そう言うのって本当にあるんだね」


「何だか素敵ですね」


 お姉がニコニコ笑ってラヴィを見て、ラヴィも口角を上げて頷いた。

 そうして、暫らくの間王都を歩いて王宮に向かっている途中で、モーナが突然目を輝かせて走り出した。

 モーナが走り出した先には人だかりが出来ていて、モーナはそこまで行くと、わたし達に振り向いて大声を上げる。


「凄いぞ、マナ! 年に一度の鬼ごっこ大会だ!」


「は?」


「楽しそうですね!」


「モーナの頭の中は楽しそうだね」


「愛那、行こ」


「え? ラヴィ?」


 珍しく、ラヴィが目を輝かせてわたしの手を引っ張る。

 わたしはラヴィの様子に驚いて、引っ張られるままモーナがいる人だかりまでやって来た。


「鬼ごっこ大会って、今から始まるんですか?」


 わたしとラヴィの後ろについて来たお姉がモーナに訊ねると、モーナが胸を張ってドヤ顔で答える。


「二日後よ!」


「二日後ですか。楽しみですね」


「そうだな!」


「いやいや。二日後って、予定では明日には王都を出るんでしょ? 楽しみも何も、そんなの出てる暇は無いって」


「へう、そうでした」


「残念」


 お姉はともかく、まさかラヴィまで落ち込むとは……。

 ……少し罪悪感。


 ラヴィの落ち込む顔を見て、わたしが罪悪感を覚えていると、モーナが胸を張った体勢をそのままに話す。


「心配するな! 予定なんて変更すればいいんだ! 鬼ごっこ大会で優勝だ!」


「その通りです! 賛成です! 私も頑張ります!」


「マ? って言うか、お姉も出るの?」


「はい! あれを見て下さい」


「あれ?」


 お姉が鼻息を荒げて、何かに向かって指をさす。

 それをいぶかしんで見てみると、お姉が指をさしたその先には、綺麗なイラストで描かれたポスターが壁に貼ってあった。

 そして、そのポスターには鬼ごっこ大会の事が書かれていて、わたしは直ぐに納得した。

 どうやら、鬼ごっこ大会は国の催しらしく、主催者はこの国の王様の様だ。

 それとこれは後で分かったんだけど、獣人達は基本足が速くて自分の足に自信がある人が多く、それで鬼ごっこ大会が開かれるのだとか。

 さて、それはそうと、わたしが納得した理由。それは……。


「優勝賞品、高級魚鳥(ぎょちょう)類【シビケイ】の一年分……」


 わたしは脱力しながら呟いた。

 モーナとお姉の目当ては、どう考えてもこれだ。

 と言うか、これ以外ありえない。


 シビケイ……モーナの家で見た本の中に載っていたから、一応わたしも知っている。

 魚鳥類とは、魚と鳥を足して二で割った様な生き物だ。

 シビケイはその魚鳥類で、まぐろの様な下半身とにわとりの様な上半身を持つ奇妙な見た目の生物である。

 と言うか、最初に本で見た時は、冗談かと思ったくらいには奇妙な見た目だ。

 味は食べた事が無いから分からないけれど、本に載っていた内容では、食感がプリプリとコリコリで美味しいらしい。

 鳥と魚を一度に楽しめる食材なのが特徴でもあると、確か本には載っていたっけ……。


「シビケイ、食べてみたいです!」


「私も食べたい」


 やっぱりね。

 お姉の事だから、そうなんじゃないかと……って、あれ?

 ラヴィも? ……ああ、そう言えば。


「ラヴィって鳥肉好きなんだっけ?」


「そう」


 実は、先日何故かお姉が煮物が食べたいとか言いだして、その時に作った煮物に入れた鳥肉を食べたラヴィが目を輝かせて喜んでいた。

 ラヴィは今まで鳥肉を食べた事が無いらしくて、わたしはじーじさんの事を思い出して、それで食べた事が無かったのかな? なんて事を思った。

 まあ、そんなわけで初めて鳥肉を食べたラヴィは、鳥肉がかなり気に入って好きな食べ物になったのだった。


「私もシビケイはあまり食べた事ないけど、飛び上がる美味さだぞ!」


「今から楽しみです!」


「楽しみ」


 もう優勝した気でいる……。

 まあ、それは兎も角、仕方が無いか。


「それじゃ、鬼ごっこ大会の為に、少しの間ここで泊まって行こうか」


「流石はマナだ! 分かってるな! よし! そうと決まれば特訓だな! 早く王宮に行って、荷物を置いて特訓するぞー!」


「おー!」


「おー」


 モーナの掛け声に続いてお姉とラヴィが声を上げ、わたしは苦笑して意気込む三人を眺めた。


 何はともあれ、これは良い機会かもしれない。

 何故なら、ここ王都に来る途中で、わたしはモーナから王都がこの異世界の中で最も知識と情報に優れている国だと聞いていたからだ。

 つまり、ここに滞在する期間が長くなれば、その分だけ元の世界に戻る為の情報を得る事が出来るかもしれない。

 王宮にある書庫に、色んな本があるとも聞いているし、今から調べるのが少し楽しみでもある。

 ついでに魔法やスキルを強化する為に、それ等の本を探して調べるのも良いかもしれない。


 こうして、ドワーフの国に行くのは少しの間お預けとなり、わたし達はモーナの案内で王宮へと足を運んだのだった……。

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