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幕間 異世界煮物フェスティバル

 煮物が無いです!


 私、豊穣瀾姫ほうじょうなみきがそれに気がついたのは、ラリューヌちゃんが開いてくれた歓迎パーティーに参加した時でした。

 これは忌々しき事態です。

 本当に煮物が無いのか、パーティーに参加した村人に聞いたら「煮物? ポトフの事だべか?」なんて事を言われちゃいました!

 大事件です!

 ポトフも食べたいです!

 でも、今はポトフに涎を垂らしている場合ではありません。

 私は煮物を食べる為に、一世一代の大革命を起こすと決めました!


 そうして迎えた三日後の朝、私はラヴィーナちゃんと一緒に、森に煮物の材料を集めに出かけました。


「キノコさーん、タケノコさーん、何処ですか~?」


「瀾姫、キノコとタケノコは呼んでも返事しない」


「こう言うのは気持ちが大事なんですよ~」


「気持ち……そう」


「はい、そうですよ~。気持ちです。では、ラヴィーナちゃんもご一緒に~」


「「キノコさーん、タケノコさーん、何処」ですか~?」


 そうやって、暫らくの間ラヴィーナちゃんと一緒にキノコさんとタケノコさんを呼びながら探していると、ラヴィーナちゃんが私のお尻をペチペチと叩きました。


「ラヴィーナちゃん、どうしましたか? 見つかりました?」


 少しだけ期待しながらラヴィーナちゃんに振り向くと、ラヴィーナちゃんではありませんでした。

 私のお尻を叩いたのは、なんといつも半裸なうさぎの獣人さんのラリューヌちゃんだったのです! 驚きました。

 ラリューヌちゃんと目が合って、私が驚いてお口をパクパクさせていると、ラリューヌちゃんが私にジトっとした目を向けました。


「なんやのその顔……。て、あ、そんなんどうでもええわ。ラヴィーナに変な事教えんといて?」


「変な事? 煮物は美味しいですよ? それより、ラリューヌちゃんはこんな所でどうしましたか? もしかしてケプリさんに会いに行く途中でしたか?」


「……そんなわけないやろ。アンタ等に届け物しに行く所や」


「届け物ですか? でも、村とモーナちゃんのお家ですと、ここからだと真逆の方向ですよ?」


「一々うっさいなあ! 私のスキル【迷子】のせいに決まっとるやろ!」


「あ~、そう言えばそうでした。楽しそうなスキルですね」


「楽しいわけないやろ! ……はあ。私の事はどうでもええやろ。そんなんより、これ」


「はい?」


 ラリューヌちゃんが何かを私に見せたので、それに視線を向けると、それは打ち出の小槌でした。


「スタンプの阿呆が他のお宝を駄目にしよったで、もうこれしか残っとらんかったわ」


「あれ? 鶴羽かくうの振袖もありませんでしたか?」


「あかんあかん。あの阿呆の電気せいで、ボロボロになっとったわ」


「そうなんですか。じーじさんに申し訳ないです」


「とにかくや。打ち出の小槌なんてあっても、私は使わんし返したるわ」


「ありがとうございます」


 お礼を言って打ち出の小槌を受け取ると、いつの間にか側まで来ていたラヴィーナちゃんが、打ち出の小槌に視線を向けて私に問いかけます。


「瀾姫、それ貰って良い?」


「良いですよ」


「ありがとう」


 この場に愛那ちゃんがいたら、きっと同じ事を言うだろうと思って笑顔で打ち出の小槌をラヴィーナちゃんに渡しました。

 すると、ラヴィーナちゃんは嬉しそうに少しだけ微笑みました。

 喜んでもらえて良かったです。


「さて、用事は済んだし村に戻ろか」


「いえ、私はキノコさんとタケノコさんを探しているので戻りません」


「ラリューヌ、バイバイ」


 私とラヴィーナちゃんはラリューヌちゃんに手を振って、笑顔でお別れをします……しませんでした。


「私一人で、こないな森から村に帰れるわけないやろ!」


「ラリューヌはこの森で育った。なのに分からない?」


「そんなん関係無い。こんなけったいなとこ、何処見たって同じやん」


「一理あります」


 最もだと私は思って頷きました。

 でも、ラヴィーナちゃんは何故か眉根を下げてラリューヌちゃんを見てました。


「せや。家まで送ってくれたら、アンタ等が探しとるキノコとタケノコ分けたるわ。私んちによーさんあんねん」


「本当ですか!?」


「ほんまやで」


「やりました! ラヴィーナちゃん、ラリューヌちゃんをお家までお届けしましょう!」


「分かった」


 そうと決まれば善は急げです!

 ラヴィーナちゃんと一緒に、ラリューヌちゃんをお家までお届けの緊急クエスト開始です!

 そうして私とラヴィーナちゃんで、ラリューヌちゃんをお家までお届けしている道中に、私は一つ気になってしまいました。

 私の隣を歩くラリューヌちゃんは、可愛らしいうさぎさんのお耳と尻尾と半裸がトレンドマークですが、半裸なのは何故でしょうか?

 一度気になり出すと、凄く気になって仕方がありません。

 このままでは気になってしまって、夜にぐっすり眠れなくなってしまいそうです!

 と言うわけで、私は聞いてみる事にしました。


「ラリューヌちゃんは、なんでいつも半裸なんですか? おパンツ丸見えです」


「は? なんやの? 急に。そんなんどうでもええやん」


「私も気になってた」


「ですよね! ラヴィーナちゃんも気になりますよね!」


 私とラヴィーナちゃんがラリューヌちゃんの顔をじーっと見つめます。

 すると、ラリューヌちゃんが面倒臭そうにため息を吐き出しました。


「私は元々育てのおとんのとこで育ったやろ? 育てのおとんは見ての通りのフンコロガシ。服なんて着いひんやん? せやから私も元々服なんて着た事も無かったし、それが普通やったんや。せやけど、今のおとんは人間やん。服着ろ煩いで、形だけ着とるんや。ほんまは暑苦しいし着たないんやけどな」


「そうだったんですか。解放的なご家庭で育ったんですね」


「瀾姫、それなんか違う」


「そうですか?」


「まあ、そんなんどうでもええやん。そんなんより、キノコとタケノコなんて集めて何するん? さっきニモノ? 言うとったけど、それと関係あるん?」


「関係ありまくりです!」


 これは一大事です!

 ラリューヌちゃんの反応を見ると、絶対に煮物を知りません!

 ファンタジーな異世界で貴重な和風テイストな暮らしをしているのに、煮物を知らないなんてこの世の終わりです!

 パーティーで村人さんもポトフなんて言ってましたし、これは私の妹の愛那まなちゃんの出番に違いありません!


「解かりました。ラリューヌちゃん、それにラヴィーナちゃんにも、煮物の素晴らしさを教えてあげます! 愛那が!」


「愛那が?」


「は? マナ?」


「はい。私の可愛い妹の愛那ちゃんです」


 私が答えると、何故か二人が立ち止まってしまいました。

 それを見て私も立ち止まって、「どうかしましたか?」と質問すると、ラリューヌちゃんがもの凄く困惑した表情を見せました。


「そのニモノってのがどんなんか知らんけど、アンタが教えるんとちゃうの?」


「違いますよ? 私は食べるのは得意ですけど、作るのは苦手なんです。作るのは愛那の得意分野なので、煮物は愛那に作って貰うんです。今から楽しみです!」


 ムフーっと、私は鼻息を荒々しく吐き出します。本当に楽しみです!

 モーナちゃんのお家には、里いもさんとニンジンさんとゴボウさんに似た様なものはありました。

 鶏肉はモーナちゃんに頼めば、この森で狩って来てくれそうなので、あとはキノコさんとタケノコさんだけなのです!

 思わずよだれが出ちゃいそうですね!?


「……いつもああなん?」


「そう、いつもこんな感じ」


 そろそろお腹が空いてきました。

 ラヴィーナちゃんとラリューヌちゃんが何かこそこそお話をしているみたいですが、今は一刻を争う時です。

 私は早く行きましょうと二人に声をかけて、ラリューヌちゃんのお家を目指しました。







「え? 煮物? 醤油が無いから無理だよ、お姉」


「えええええええええええええええええええええええっっっ!?」


 なんと言う事でしょうか。

 煮物に醤油が必要だったなんて知りませんでした。

 味付けなんてしなくても、具材を煮込めば美味しい味になって出来上がると思ってました……。

 ラリューヌちゃんを無事にお家まで送り届けた私は、ご褒美のキノコさんとタケノコさんを両手いっぱいに抱えて帰ったのですが、愛那ちゃんに煮物が食べたいと言った結果の返事がこれでした。

 私は愛那ちゃんのそのグサりと心臓を抉るような切れ味の良い言葉に、床に膝をつけて打ちのめされてしまいました。


「あんまりです! 楽しみにしていて下さいって、ラリューヌちゃんにも言って来たのに、醤油が必要だなんて残酷です!」


「瀾姫、しっかり」


「へう。ラヴィーナちゃん、ありがとうございます。でも、もうこの世の終わりです……」


「この世の終わりって、お姉、そんなにショック受けなくても……。あ、そうだ。お姉、ポトフなら作れるよ?」


「またポトフですか!? おのれポトフさんです! ポトフさんが煮物さんを亡き者にしたんですね!?」


「いや、もう、意味わかんないし。と言うか、お姉どうしたの? なんか今日凄く面倒臭いよ?」


「面倒臭いなんて酷いです! お姉ちゃんは必死なんです!」


「うん、まあ、見れば必死なのは分かるけど……」


 なんと言う事でしょうか。

 私の可愛い愛那ちゃんが、いつもより口が悪いです。

 お姉ちゃん泣きそうです。

 このままだと、愛那ちゃんより先にお姉ちゃんが反抗期になって、ぐれちゃいそうです。

 髪の毛を染めて、ピアスを耳に着けて、お洒落な不良になっちゃいます!


「お姉……なんかろくでもない事考えてる?」


「考えてません! お洒落な不良を夢見ただけです!」


「よく分からないけど、本当に面倒臭いな」


「愛那、瀾姫は煮物楽しみにしてた。可哀想」


「ラヴィーナちゃん……」


 ラヴィーナちゃんは優しい子です。

 我が家に連れて帰りたい可愛さです。


「……はあ。醤油に似た調味料あるか探してみるよ。無かったらポトフで諦めてね」


「――愛那ちゃん! 大好きです!」


 やっぱり愛那ちゃんは流石です!

 私の自慢の妹です!

 私は幸せ者ですね!


 嬉しくなって愛那ちゃんを力強く抱きしめると、愛那ちゃんは私の胸に顔を埋めながら、何やら「ギブギブ」と私の横腹を叩き始めました。

 本当に素直じゃない妹です。

 きっと照れてるに違いありませんね!

 可愛いからもう少しこのままハグしましょう!

 それから数分後、様子を見に来たモーナちゃんが大笑いして、それを見たラヴィーナちゃんが慌てて何故か私に愛那ちゃんを離すように言ったので、言われた通りに離したら愛那ちゃんがぐったりしてました。

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