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044 結果報告

「以上で報告終わり。……ごめん。結局ラリューヌは連れて来れなかった」


「……しゃあなしやな。えろう苦労させてしもたな」


「全くだ! お前のせいで大変だったんだぞ!」


「モーナ」


 モーナの横腹を肘で小突く。

 モーナは不満そうに顔をしかめて、何故か木に登り始めた。


 さて、わたし達が村でスタンプ達を相手に戦ってから、既に二日も経っていた。

 スタンプの傷はだいぶ癒えていて命に別状はないらしく、今は村で療養中だ。

 ラリューヌは結局説得できず、結果だけ言えば、勝負には勝てたけど試合には負けた感じだ。

 まあ、そう言うわけだから、わたし達はこうして森の主である巨大なフンコロガシのケプリに報告に来ていた。


 時刻はまだ早朝で、森の中は小鳥たちのさえずりだけが聞こえていた。

 背の高い木々の合間から差す木漏れ日はとても綺麗で、ケプリの近くに転がっている巨大な糞が無ければ、とても爽やかな気持ちに包まれていたに違いない。

 と言っても目的が果たせずここまで来たから、そんな物が無くても、そんな爽やかな気持ちにはなれなかったかもだけど。


「ほんなら、約束のチーリン=ジラーフの事を教えたるわ」


「……え?」


 思わず自分の耳を疑った。

 元々ケプリとの約束では、ケプリの娘であるラリューヌを連れて来る事だった。

 だけど、それは失敗に終わって、ケプリには連れて来る事が出来ないとたった今報告したばかり。

 それなのに、報酬として要求していた三馬鹿の一人【チーリン=ジラーフ】の事を教えてくれると言ったのだ。

 聞き間違いでもしたのかと、自分の耳を疑ってもおかしくない。


「なんで? ラリューヌを連れて来れなかったのに……」


「教えて貰っちゃって良いんですか?」


 わたしの言葉にお姉が続いて訊ねると、ケプリは頷いた。


「言い訳すんなら追い返そお思っとったんやけどな。昨晩娘に聞いた通りの事しか言わへんし、サービスしたるわ」


「うそ!? 娘に聞いたって、ラリューヌが来たの?」


「せやな。ほんまはワテに金輪際こんりんざい会うつもりは無かった言うとったわ。おのれ等があの子の心を動かしてくれたんや。ほんまおおきに」


「……そうなんだ」


 正直なところ、わたし自身はラリューヌとそこまで話をしていない。

 あの後も、ケプリの所に戻ってほしいと頼んだけど、一つ宝を紛失してるから駄目だと門前払いされた。

 だから、ラリューヌが昨晩にケプリの所に来たって聞いた時は、嘘なんじゃないかと思った。

 もしかしたらラヴィとの間に何かあったのかもしれないなと、わたしはラヴィに視線を向ける。


 ラヴィの反応を見れば何かわかるかなとも思ったけど、残念ながらわからなかった。

 と言うか、ラヴィはケプリの話を聞いておらず、ケプリの例のでかい糞を口を開けて眺めていた。


「ほんなら、本題のチーリン=ジラーフについてや」


 ケプリが真剣な声色で話し始めて、わたしはケプリに視線を戻す。

 わたし達の結果がどうあれ、ケプリが真剣に話をしてくれるのだから感謝しないといけないなと考えながら、わたしも真剣にケプリの話に耳を傾ける。


「ちーっとばかし話が長くなりそうやし、先にそこの茂みで大きい方を出して来てもええで? 後処理はワテがしたる」


 一瞬にして、わたしは感謝の気持ちが薄れたのを感じた。

 ケプリの突拍子も無い気持ちの悪い言葉に、わたしは眉間にしわを寄せてケプリを睨んだ。

 そして、思わず本音が口から零れる。


「煩い早く言え」


「せ、せやな。……あれは、ワテが西にあるドワーフの国に行った時の事や。ワテはドワーフにおるええ女の糞を集めようと思っとったんやけどな」


「ちょっと待って」


「なんや?」


「話の流れからすると、チーリン=ジラーフはそのドワーフの国にいるって事? わたしはてっきりここ等へん、なんだったらこの森の何処かで見かけたんだと思ってたんだけど?」


「森で見かけるわけないやろ。けったいな事言う子やな」


「……分かった。とにかく、そのドワーフの国に行けば、チーリン=ジラーフに会えるのか……」


「恐らくはやけどな。……ん? 何結論付けしとんねん。話はまだ終わってへんで」


「いや、もう良いよ。居場所聞けただけで十分だし」


 これ以上話を聞いても意味があるとは思えなかった。

 ドワーフの国に糞集めに行ってたとか言ってるし、どうせ碌でもない話をして終わりに違いない。

 そんなの聞きたくないし、時間の無駄な気がする。


「愛那ちゃん、聞いてあげましょう!」


「はあ?」


「ケプリさんが私達の為にせっかくお話をしてくれるんです」


「流石ええ女は言う事が違うなあ。ほんまええ女やで」


 最悪だ。

 お姉のせいでケプリの無駄に長い話を聞く事になってしまった。

 ケプリの話は本当に無駄に長く全てを聞き終わる頃には、とっくにお昼は過ぎていた。

 わたしは仕方が無いからお姉につきあって、ケプリの話を聞いてあげていた。

 その途中で気がついたけど、いつの間にかラヴィはモーナと一緒に背の高い木の上でお昼寝していて、わたしも混ざってお昼寝してしまおうかと思ってしまった。

 とまあ、何はともあれケプリの長話が終わって、意外にもそれなりに実のある話もあったので、一部抜擢して話の内容をまとめようと思う。


 ケプリ曰く、ドワーフの国で動き回っていると、成金のドワーフに目を付けられたらしい。

 ドワーフは身長が低い種族。

 そんな身長が低い種族達からすれば、ケプリは見ての通り身長が280センチもあって体がとても大きいので、ドワーフの国ではとても目立っていたようだ。

 その結果、珍しい生き物を我が家のペットにしたいと成金のドワーフが考えた。

 成金のドワーフは言葉巧みにケプリを騙して家に連れて帰って、ケプリはそこでチーリン=ジラーフに出会った。

 とまあ、チーリン=ジラーフを見た……と言うより出会ったケプリは、その後色々あってこの森に戻って来たようだ。

 本当はチーリン=ジラーフと出会ったここからが凄く長い話だったけど、どうでも良いのでこの話はここで終了にしたい。


 あ、そうそう。

 それと最後に少しだけ余談だけど、この森に戻って来るとラリューヌがいなくなっていた。

 その後にラリューヌが村長の養子になってしまっている事を知って、長く戻って来なかった事に怒って出て行ったと勘違いした。

 ケプリはチーリン=ジラーフやドワーフ達のせいだと村人達の前で言った事により、回り回ってその情報が三馬鹿を追うモーナの耳に届いた様だ。


 ケプリからチーリン=ジラーフの話を聞き終わり、わたしはモーナとラヴィを起こしてモーナの家に帰る。

 ケプリから情報を聞き出す為に色々あったけど、とりあえずは一区切りって感じだ。

 と言っても、結局は元の世界に戻る方法は全く分からなかった。


 いったいいつになったら家に帰れるんだろう?


 そう考えていた帰り道に、ふと、ある事が気になってモーナに問う。


「あのさ、目的のチーリン=ジラーフの情報を聞き出せたわけだけど、やっぱりあの家にはもう住まないの?」


「そうだな。何かあった時の為に、家自体は残して行くけどな」


「ふーん、やっぱりそうなんだ」


「なんだ? 住みたいのか? 良いぞ」


「別にそう言う意味で聞いたわけじゃ無いよ。でも、そうか。それなら、私とお姉……それにラヴィも、今度はあんたと一緒にドワーフの国だね」


 微笑んで話すと、モーナがどこか驚いたような表情を見せた。

 不思議に思い、わたしが「どうしたの?」と笑って聞くと、モーナは尻尾をピンと伸ばして笑顔で答える。


「そうだな! ドワーフの国に一緒に行くぞ!」


「うん、頼りにしてるよ」


「ドワーフさんの国、私も楽しみです~」


「私もドワーフ見た事ないから楽しみ」


 わたし達は四人で笑い合って、その後もくだらない話をしながらモーナの家に帰った。

 ラリューヌの説得は失敗してしまったし、かぐや姫のお話みたいに月……ケプリの許には帰す事が出来なかったけど、これはこれで良かったんじゃないかなって私は思う。

 ケプリがわたし達に「ほんまおおきに」と、お礼を言っていたし、悪いようにはならなかった筈なのだから……。


 次の目的地は西にあるドワーフの国。

 漫画とかアニメとかゲームではよく耳にする種族。

 この世界でドワーフがどんな種族なのかはまだ知らないけれど、きっとお姉とモーナとラヴィが一緒なら何があっても大丈夫だろう。

 最初はどうなる事かと思ったけど、この世界での冒険……お姉とモーナとラヴィと一緒にする冒険は結構楽しい。

 元の世界に帰る目途は全然立っていないけど、こういう生活も意外と悪くないかもしれないと、わたしは心からそう思えた。



 この時のわたしは、ドワーフの国で大きな選択に迫られる事をまだ知らなかった……。

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