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042 竹取の合戦 その3

 ラリューヌが集めようとしていた【三つの宝】。

 それ等が何故三つの宝と言われているのか、わたしは考えなかった。

 その内の一つの【打ち出の小槌】の名前を聞いたからか、漠然と理由もなくただそうなのかと受け入れていた。

 それでも【氷雪の花】だけで言えば、凄く貴重な花だからと言うのは知っていた。

 だけど、その【氷雪の花】と【鶴羽かくうの振袖】に、まさか【打ち出の小槌】の様に力があるだなんて思いもしなかった。


 スタンプはわたしとお姉を見上げながら、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。

 そして、取り出した三つの宝の内、凍豚の皮で作られた袋に入っている氷雪の花を取り出した。


「へう。氷雪の花が溶けちゃいます」


 お姉の心配も分からなくはないけど、今はそれどころでは無い。

 スタンプが何かをする前に、先手を打つべきだと考えた。


「お姉、アイツに向かって氷のブレスを吐いて!」


「は、はい! わかりました!」


 お姉が返事をして、スタンプに向かって氷のブレスを勢いよく吐き出した。

 だけど、それよりも早く、スタンプは行動した。

 スタンプの周囲に微量な電流が音を立てて目に映ったと思うと、スタンプは目の前からいなくなる。

 ううん、違う。

 一瞬で氷のブレスの範囲外に移動してかわしたのだ。

 わたしはスタンプの姿を見つけて、目を見開いて驚いた。


「大変です! 食べちゃいましたよ!?」


 お姉が驚いて口から出たその言葉は、そのままわたしが驚いた原因だった。

 スタンプは氷雪の花の花びらを食べたのだ。

 刹那せつな――スタンプの体が一瞬だけ青く光り、スタンプはニヤリと笑う。


 何が起きた!?

 嫌な予感がする。


「お姉、もう一回!」


「はい!」


 お姉がもう一度スタンプに向かって氷のブレスを吐き出す。

 今度はスタンプに命中するも、わたしは氷のブレスの直撃を受けるスタンプが口角を上げて笑ったのを見逃さなかった。

 その笑みを見て、嫌な予感が加速する。

 そして、その予感は直ぐに当たってしまった。


「氷雪の花の力は、花びらを食べる事によって発揮されるのさ」


 氷のブレスに包まれたスタンプが姿を現す。

 わたしとお姉はその姿を驚きのまなこで見つめて、息を呑みこんだ。

 スタンプは驚くわたし達を見て、機嫌良さげに言葉を続ける。


「氷雪の花の力、それは【氷の加護】を一時的に得る事だよ、マナちゃん。と言っても、得る事が出来るのはほんの少しだけで、微々たるもの。まあ、化け物女の氷の息程度なら防げるようだがね」


「氷の……加護?」


 そう言えば、ステチリングで何度か【○の加護】って見た事あるなと、わたしは思いだした。

 情報を見ても特にそこまで気にせずに今まで流してたけど、加護と言うのは結構凄いものなのかもしれない。

 氷の加護の詳しい力の内容までは分からないけど、少なくともお姉の氷のブレスは封印されたも同然だ。


「愛那、どうしましょう? 元の姿に戻った方が良いですかね?」


「……ううん、このままいこう。氷のブレスは効かないかもだけど、今の方が戦える筈だよ」


「わかりました。頑張ります!」


 でも、まだ分かったのは氷雪の花の力だけ。

 油断は禁物だ。と、わたしは地上にいるスタンプを警戒する。

 その時、スタンプが鶴羽の振袖を腰に巻き付けて電石板を左脇に挟み、右手に打ち出の小槌を握って左手で何かを取り出した。


「何あれ? 木の実?」


「今から残り二つの力を見せてあげるよ」


 わたしが疑問を呟くと、スタンプはそれに答える様に話した。

 そして、野球のノックの様に打ち出の小槌を振るって、木の実をわたしとお姉目掛けて打ってきた。

 瞬間――木の実が紫色に染まって巨大化。

 その大きさは、運動会で見かける大玉ころがしの大玉のような大きさで、当たっただけでも只では済まなさそうな大きさだった。


「お姉避けて!」


「はいー!」


 お姉が慌てて巨大化した木の実を避けた。

 そこへ、間髪入れずに次の木の実が飛んで――次なんてもんじゃない。

 次々と大量に木の実が飛んで来る。

 しかも、今度のは電流付きで、どれもがバチバチと音を立てていた。


 このままじゃ不味いと感じたわたしは、直ぐにお姉に向かって魔法を使う。


「ダブルスピード」


「助かりますー!」


 わたしの魔法で、お姉の動く速度が倍速になる。

 おかげで、何とか木の実をかわし続ける事が出来た。

 わたしはお姉がスタンプの木の実ノックを避け続けている間に、この状況を打開する策を思案する。

 そして……。


「お姉、木の実が飛んで来なくなったら、直ぐに大きく息を吸い込んでから氷のブレスを吐いて!」


「え!? でも、それはもう効かないみたいですよ?」


「多分、わたしの考えがあってれば効く筈だよ」


「本当ですか!?」


「うん」


 どうしてわたしがそう思ったのかは、スタンプの発言から得た答えだった。

 氷雪の花の花びらを食べる事で一時的に氷の加護を得る。

 だけどそれは微々たるもので、お姉の吐き出す氷のブレス程度(・・)なら防げる。

 程度・・……つまり、強い威力のものは、防ぎきる事が出来ないって事だ。

 それを裏付けるものも、実はわたしは実際に見た事があった。


 あれは、白蟻ホワイトアントの巣から逃げ出す前……氷雪の花を採取している時の事だった。

 ラヴィが雪だるまの中に氷雪の花を入れている時、ラヴィをじーじさんが護っていたのだけど、あの大群を一人で護りきるなんて出来なかった。

 だから、ラヴィも氷雪の花を採取しながら、近づくホワイトアントに魔法で攻撃していた。

 ラヴィの魔法は氷の魔法で、白蟻ホワイトアントにも氷の加護があった。

 つまり、氷の加護を持つ白蟻ホワイトアントに、ラヴィの魔法が効いていたのだ。


 鶴羽の振袖の力は未だに謎だけど、それでも氷雪の花と同じ効果だとは思えない。

 それなら、鶴羽の振袖の力を見せられる前に決着をつけるべきだ。


 木の実ノックが終わり、全ての木の実をお姉が避け終えると、スタンプは少し苛立った様な表情を顔に出した。

 お姉は大きく息を吸い込む。

 そしてその時、わたしの頬に何かがかする。


「……っ!」


 右の頬に痛みを感じて手で触れると、触れた右手に血がついた。

 わたしがそれを何だろうと疑問を抱く前に、お姉がスタンプに向かって氷のブレスを吐き出した。

 その威力は凄まじく、お姉の背中に乗るわたしでさえ冷気を肌で感じとる。

 スタンプはそれを食らって、今度こそ終わったかに思えた。


 周囲は一気に気温が下がり、吐息が白く吐き出される。

 多分、顔色が優れていないのだろうなと分かる程に、わたしの顔から熱が引いていく。

 でも、それは決して寒くなった周囲の気温からくるものでは無かった。

 お姉の吐き出した氷のブレスを食らったと思えたスタンプが、ニヤニヤと下卑た笑みをわたし達に向けて平然と立っていたからだ。


「酷い事をする。氷雪の花で氷の加護を得ていなければ、凍ってしまっていたじゃないか。ほら、見てごらんよ。打ち出の小槌が凍ってしまって、これでは使い物にならない」


 本気で不味い事になったと思った。

 わたしは氷の加護の力を見誤ってしまった。

 打ち出の小槌は使えないと言っていたけど、スタンプのあの余裕のある笑みを見ると、まだ何かあるのではないかと思えてしょうがない。


「お姉、駄目だ。やっぱり逃げよう。今のわたし達じゃ勝てない」


「は、はい」


「逃がさないよ、マナちゃん」


 スタンプの周囲にバチバチと音を立てて電流が走る。

 刹那――スタンプが消えて、わたしの体が宙に浮く。

 そして、わたしは微弱な電流に襲われる。


「――っぅ」


 訳も分からない状況の中、わたしは今まで味わった事の無い衝撃を受けて体を一瞬震わせる。

 だけど、わたしよりお姉の方がやばい事になってしまった。

 お姉が受けたのは微弱な電流なんかじゃなかったのだ。

 消えたスタンプはお姉の目の前に現れていて、それを見て、わたしは瞬時に理解した。


 スタンプはお姉を何らかの方法で攻撃……恐らくお姉の頭を殴って、その反動でわたしは宙に浮いた。

 そして、わたしがお姉から離れた瞬間に、スタンプはお姉に電撃を浴びせたのだ。

 電撃を受けたお姉は声を上げる事も出来ずに気を失い、地面に落下していく。

 わたしも落ちながら、なんとか必死にもがいて、お姉の翼に掴まる事が出来た。


「お姉! お姉!」


「安心してくれ、マナちゃん。手加減してやったから、君のお姉さんは生きてるよ。さあ、一緒に家に帰ろう」


 スタンプがわたし触れようと近づき、わたしはスタンプを睨んだ。


「絶対に嫌! 誰があんたなんかと――」 


「そ……うです! 私の可愛い妹、愛那ちゃんは貴方なんかに渡しません!」


「お姉! 良かった……」


 お姉が目を覚まして、地面に落ちきる前に羽ばたいて空に舞う。

 わたしはお姉の背中に掴まって、安堵のため息を吐き出した。

 でも、安心している場合でも無い。

 安心して冷静になる事で気がついたけど、スタンプは宙に浮いて……空を飛んでいたのだ。

 スタンプは風属性の魔法を操る。

 そう考えると、風の魔法で空を飛ぶ事が出来るのかもしれない。


「しぶとい化け物め。マナちゃんの姉だから手加減してやったら、調子に乗って偉そうに! また電撃を浴びせてやる!」


「させない! トリプルスピード!」


 わたしはお姉に魔法を使い、お姉はわたしの魔法を受けて、更に飛ぶ速度が上が――らない!?

 違う。

 上がらないんじゃない。

 わたしの魔法が発動しなかったのだ。

 理由が解からない。

 わたしは焦りながら、自分の右手の手のひらを見つめた。

 そして、未だに残っていた頬に触れた時に見たわたしの血を見て、魔法が使えなかった可能性を見つけた。


 スタンプが腰に巻いた鶴羽の振袖は、元々じーじさんがわたし達の為に用意してくれた物。

 じーじさんは熊鶴と言う種族で、魔法を封印する事が出来る毒を持っている。

 もし、あの鶴羽の振袖の力に、身につけた者にその力を与える効果があるとしたら……。

 それは、あくまで可能性の話ではあったけど、この考えがあたっているなら説明がつく。

 それに何より、残り二つの力を見せるとスタンプは言っていた。

 わたしは熊鶴の毒を受けて、魔法を封印されてしまったのだ。


「愛那、今のうちに一度変身を解きます! ドラゴンさんじゃ、あの人に勝てません!」


「え――」


 わたしは魔法が使えなくなった事に焦って動揺してしまった為に、周りが見えなくなっていたようだ。

 スタンプが脇に挟んでいた電石板を手に持っていて、それを物凄い速度で撫でていた。


「――電気切れ?」


「はい。あの人が私達に向かって手を向けたから、バチバチが来ると思ったんですけど来なかったんです。そしたら、下敷きを取り出して擦り始めたんですよ。愛那は見てなかったんですか?」


「う、うん……」


 下敷きって、お姉……って、今はそんなお姉のボケはどうでも良いか。

 それより、あの電撃は無限じゃないのか。

 スタンプの攻撃手段は電撃だけの筈だし……それなら。


「お姉、このまま元に戻らずにラリューヌの家に向かって!」


「え!? でも、あのバチバチで追いつかれちゃいますよ?」


「うん、分かってる。でも、今のうちなんだ」


「……分かりました。しっかり捕まっていて下さい!」


「うん!」


 一か八か、わたしは駆けに出る事にした。

 お姉の氷のブレスと言う攻撃手段が意味をなさない以上、他に攻撃手段が無いわたし達は、このまま戦っていても負けるだけだ。

 それなら、スタンプが電撃を使えない今のうちに、出来るだけ目的地に向かった方が良い。

 何故かと言うと、ラリューヌの家に辿り着ければ、運が良ければカリブルヌスの剣が手に入るかもしれないからだ。

 それに、無かったとしても、そこで刃物を借りてわたしのスキル【必斬】が使える。

 ラヴィを巻き込む事になるかもしれないけど、このまま何も出来ないで、ラヴィを助け出せないより絶対に良い筈だ。


「あっ! 待て! こういう時は待つのが礼儀だぞ! くそ! さっきの攻撃で使いすぎた! 早く充電しろおおおおっっ!」


 お姉がラリューヌの家に向かって飛び始めると、背後からスタンプの声が聞こえてきた。

 スタンプのそんな情けない声を聞きながら、わたしは今のうちにとはやる気持ちを抑えながら、お姉の背中にしっかりとしがみ付いた。

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