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041 竹取の合戦 その2

 お姉とモーナのおかげで牢屋から脱出したわたしは、ラヴィを助け出す為に、お姉と一緒にラリューヌの住む村長の家に急いで向かっていた。

 この村の地理には詳しくないけど、田舎の村で見渡しがいいから道に迷う事は無かった。

 だけど、わたしとお姉は村長の家に辿り着く事は出来なかった。

 何故なら、わたし達が脱出して直ぐに、モーナがくい止めてくれていた筈のスタンプが目の前に現れてしまったからだ。


「こんな夜更けに女の子だけで出歩くなんて危ないよ?」


「そうだね。おじさんみたいな怪しい男の人が出歩いてるからね」


 目の前に現れたスタンプの言葉にそう返すと、スタンプはため息混じりに苦笑した。


「へう。どうしましょう? モーナちゃんは無事でしょうか?」


 お姉の言葉に、わたしも少しだけ焦る。

 スタンプは争ったとは思えない程に無傷で、それに身に着けている服も全然汚れてすらいなかった。

 まさか、モーナが抵抗も出来ずに呆気なくやられたなんて思えないけど……。


「ははは、安心してくれ。モーナちゃんは無事さ。俺は君に用があって来たんだよ、マナちゃん」


「……わたしに?」


「そうさ」


 スタンプは返事をすると、ニヤリと笑う。


「俺もこの村の人間も、高い山の上にあるこの村から外に出た事が無い。だから気がつかなかったのさ。黒い髪を持つ君が、如何に珍しい存在なのかを」


 またそれか……。


 わたしは眉間にしわを寄せた。

 わたしとお姉の黒色の髪の毛は、この世界では珍しい様だけど、だから何だって言うんだって話だ。


「氷雪の花を君のせいで失った俺は、その後それを知ったのさ。だからこそ俺は考えた。マナちゃん、君を俺の愛人にしてあげようと!」


「お断りします」


 わたしは即答する。

 それはもう、一秒だって間を置かない勢いで。


うち愛那まなちゃんは貴方なんかの愛人なんかにさせません!」


 お姉が眉根を上げて、わたしを力強く抱きしめる。

 スタンプはお姉を睨み見て、お姉とスタンプが睨み合う。

 男の人がお姉に目もくれず、わたしをめぐってお姉と言い争うなんて珍しいなと、睨み合う二人を見てわたしは呑気に考えた。

 まあ、そんな呑気な事を考えている場合でも無いので、わたしは直ぐに気持ちを切り替える。


「スタンプさん、そこをどいてもらえない? わたし達はラヴィを助けに行かなきゃいけないの」


「ラヴィ? ああ、あの幼女か。安心すると良い。あの子はラリューヌちゃんのお気に入りだから、危険な目には合わないよ」


「ラヴィがあの子のお気に入り? それ、本当なの?」


「間違いないさ。同じ捨て子同士、仲良くなれそうと言っていたからね」


「同じ捨て子って、どう言う事ですか? ケプリさんはラリューヌちゃんを捨てたんですか!? 家出じゃなかったんですね!」


「ケプリ? それがラリューヌちゃんの本当の親の名前なのか? 俺が聞いた話では、ラリューヌちゃんは森に捨てられて、フンコロガシの父に育てられたという話だったが……」


「その捨てたフンコロガシさんの名前がケプリです」


「フンコロガシがケプリ?」


 お姉とスタンプの会話は、どちらも何か勘違いしている感じだったけど、わたしには理解出来た。

 ようするに、ラリューヌは森に捨てられて、フンコロガシのケプリに育てられて、今はこの村の村長の家に養子としてやって来たのだ。

 わたしは説明しようとも思ったけど、お姉に後で教えるだけで良いと判断してやめる。

 今はそんな事よりも、ラヴィの事が優先だ。


「ラヴィがお気に入りにされたのは分かったけど、それならそれでラヴィに会いに行きたいし、やっぱりそこをどいてくれない?」


「それは出来ない相談だな。君は今から俺の家に来てもらう」


「は? 嫌なんだけど?」


「そうですよ! 愛那をお持ち帰りなんてさせません!」


「ババアは黙ってろ」


「黙りません!」


「おい。お姉にババアとか喧嘩売ってる?」


 これには流石にわたしも聞き流せない。

 お姉に向かってババアとか、こいつの目は腐ってるんじゃないだろうか?


「おいだと? 君が愛する俺にそんな汚い言葉を使ったら駄目じゃないか。これは今直ぐに教育が必要だな。さあ、俺の家に行こう」


「は? マジで何なの。お姉、もう良いよ。行こ?」


 わたしがそう言ってお姉の手を掴んだ瞬間に、わたしとお姉の周囲に突然微量な電流が音を立ててはじいた。

 わたしとお姉は一瞬だけ怯んで、電流の出所を目で探る。


「へう。今のバチバチは何だったんでしょう!?」


「わかんない。……けど、犯人はコイツだよ、お姉」


 わたしは電流の原因に……スタンプに指をさす。

 スタンプは手に筆記用具でお馴染みの下敷きの様な物を持っていて、そこから目に見える電流が見えたのだ。

 お姉はわたしの指の先にいるスタンプを見て、驚きながらわたしを護るように抱きしめる。

 スタンプがわたしを見てため息を吐き出した。


「コイツ……とは、本当に随分と失礼だね。どうやら、俺の家に連れて行く前にお説教が必要らしいな」


「必要ありません! 愛那には私から、お姉ちゃんとして後でお説教します!」


「いや、お姉の説教もお断りなんだけど?」


 わたしは抱き付くお姉から離れて、しわくちゃになった服を手で払って整える。

 お姉は心配そうな顔でわたしを見つめるけど、電流を使う相手を前にくっついていたら、二人仲良く良い的だから離れる方が良いに決まってる。


「で、アンタのその下敷き……薄い板から、目に見えて電流が流れているのがわかるんだけど何なの?」


「これか? これは【電石板でんせきばん】と言う名のマジックアイテムさ」


「電石板……?」


 成程……と、わたしは納得する。

 名前からして、あの電石板と言うマジックアイテムは、電流を発生させる為の物なのだろう。

 ただ、一つ気になる事はあった。

 スタンプがさっきから、その電石板をずっとさすって……いいや、撫で続けていたのだ。

 スタンプのスキルは確か【高速なでなで】だった筈。

 もしかすると、あの電流は、あのスキルと電石板があるからこそ使える代物なのかもしれない。

 まあ、例えそうだとして、それが分かったとしても対策方法が思いつかないのだけど。


「さて、そろそろお話は終わりだよ、マナちゃん。モーナちゃんを一緒に迎えに行って、俺の家に行こう」


「お断りって言ったよね」


 わたしがスタンプを睨み、スタンプがため息を吐き出す。

 そして、それと同時に、わたし達に向かってスタンプが持っている電石板から電流が放たれた。


「アイギスの盾です!」


 お姉が魔法で盾を目の前に作りだして、襲いくる電流を防いだ。


「俺の電撃を防いだだと……っ!? ならば!」


 スタンプは一瞬だけ驚いて、直ぐに電石板を高速に撫で始めた。

 電石板からは大量の電気が放出され、更にスタンプの目の前に緑色の魔法陣が浮かび上がる。


「何あれ!? 魔法?」


「愛那、私の後ろに隠れて下さい!」


「逃がさないよ、俺のマナちゃん! エアシュート!」


 お姉が叫び、スタンプも叫ぶ。

 わたしは直ぐにお姉の背後に隠れて、その瞬間に、スタンプの前に浮かび上がった魔法陣から魔法が放たれた。

 それは、もの凄い密度の空気の塊……そして、それにはスタンプの手に持つ電石板から発生している電流が、大量に混ぜ合わされていた。


「――っぅく!」


 お姉はスタンプの電流付の魔法を防いだ。

 だけど、かなりの威力があったせいで、お姉は顔を歪めて地面に膝をついた。


「お姉!」


「だ、大丈夫です。この位へっちゃらですよ」


 お姉が笑顔を私に向けて立ち上がったけど、それが無理したものだとわたしには分かる。

 その時、お姉の額に青い光があたった。


「俺の魔法を防いだのは魔法か……。中々に厄介な魔法を使う様だな」


 お姉のデータを見られた!?


 スタンプはステチリングを身に着けていた。

 最悪な事に、スタンプにステチリングを使われて、お姉のデータを見られてしまった。

 わたしはお姉の後ろにいるからか、スタンプからデータを見られる事は無かったけど、それも時間の問題だろう。

 正直、このままだと不味い気がする。

 わたしには攻撃するすべが今は無く、お姉だって攻撃する魔法とスキルを持ち合わせていない。


「だが、俺の魔法とこの電石板があれば、それも意味の無いものさ。はっはっはっ。お遊びはここまでだ!」


 スタンプが再び電石板を撫で始める。

 電石板から電流が発生して、徐々にスタンプの周囲にも広がっていく。


 わたしは何か良い手は無いかと考える。

 わたしの魔法を使って逃げる事も考えたけど、多分出来ない。

 魔法を使ってラリューヌのいる村長の家に向かっていたわたし達に、スタンプは追いついて目の前に現れた。

 そう考えると、ここで魔法を使って逃げ切るなんて事は出来ない可能性が高い。

 それどころか、下手に魔法を使いすぎて魔力を消耗してしまうと、その結果動けなくなってしまうかもしれない。

 そうで無くても、この後ラヴィの所にいる筈のラリューヌと一戦交えるかもしれないので、出来ればここでスタンプを追いかけて来れないようにしたかった。

 その時、ふと、ラヴィの事を思い出して一つの可能性を見つけた。


「お姉、凍竜フローズンドラゴンに変身できない?」


「フローズンドラゴン……あの時のドラゴンさんですか?」


「うん。凍竜フローズンドラゴンなら、アイツと戦えると思うんだ」


 そう、アイスマウンテンで戦った凍竜フローズンドラゴンは、かなり厄介な相手だった。

 あの時は同時に白蟻ホワイトアントに襲われていたのもあったけど、それを差し引いても手強かった。

 モーナも凍竜フローズンドラゴンが相手なら少し本気を出すなんて事を言っていたような気がする。

 それなら、お姉のスキルで凍竜フローズンドラゴンに変身できれば、スタンプを相手に上手く戦えるかもしれない。


「わかりました。やってみます!」


 お姉がスキルを使って変身する。

 お姉の体はみるみると変形していって、薄い水色模様の如何にもなドラゴンへと姿を変えた。


「この女、あんな化け物に変身出来るのか!? だが遅い! これでもくらえ!」


 スタンプが驚きながらも、直ぐにお姉を睨んで、また目の前に魔法陣を浮かび上がらせた。


「愛那、私の背中に乗って下さい!」

「死ね! 化け物女! ストームカッター!」


 お姉とスタンプの声が重なる。

 わたしはお姉の背中に直ぐに飛び乗って、その瞬間にスタンプの電撃を乗せた魔法がわたし達を襲う。

 その魔法は、例えるなら電気を帯びたかまいたち。

 でも、ただのかまいたちなんかでは無い。

 それは台風の様な暴風で、広範囲に及んで周囲を巻き込み突き進む。


「お姉!」


「任せて下さい!」


 お姉が羽ばたきながら、口から氷のブレスを吐き出す。

 しかも、それはかなりの広範囲で、スタンプの魔法とぶつかった。

 お姉の氷のブレスとスタンプの魔法は、ぶつかった瞬間に爆発の様な衝撃を生み出して、周囲が爆風の様な突風に包まれた。

 寒波と静電気の様な微量な電流が、わたしの肌を撫でて通り過ぎる。


 スタンプは自分が放った魔法と電撃を防がれた事に、今度こそ本気で驚いて目を見開いた。

 わたしはお姉の背中の上で、上空からスタンプを見下ろして自然と口角が上がる。

 お姉の吐き出した氷のブレスは、あの時戦った凍竜フローズンドラゴンの吐き出した氷のブレスと違って、まだまだ威力が弱かった。

 でも、多分原因は大きく息を吸わなかったからだ。

 確かに実力的な問題もあるかもしれないけれど、それでも、咄嗟に出した氷のブレスでスタンプの攻撃と渡り合えるなら上出来だ。

 わたしは確信する。


「これならいける。あいつに対抗出来る……ううん。勝てるよ、お姉!」


「はい。愛那、しっかりと掴まってて下さい!」


「うん!」


 スタンプがわたし達を見上げて眉間にしわを寄せて、何かを取り出した。

 わたしはスタンプが取り出した物を見て驚く。


「嘘? アレって……」


「君達相手にこいつを使うつもりは無かったけど、仕方が無いか。俺も本気を出させてもらう」


 スタンプが取り出したのは、わたしもよく知る代物で、スタンプが持っている筈の無い物……。


「打ち出の小槌と鶴羽の振袖……? それに、凍豚で作って貰った袋……氷雪の花? なんでアンタがそれを……?」


「モーナちゃんの家にお邪魔して見つけたのさ」


「最低! まさか、こんな奴に集めた宝を全て奪われるなんて!」


「不法侵入と窃盗は犯罪です! 直ぐに返して下さい!」


「はっはっはっ。返すも何も、俺とモーナちゃんは夫婦になる愛し合っている仲だ。モーナちゃんの所有物は全て俺の物も同然。何も問題は無いさ」


 本当に頭がおかしい。

 やはりスタンプは根っからのストーカー野郎だ。

 こんな奴と話をしていても、何も解決なんて出来やしない。

 わたしはスタンプを睨みつけた。

 すると、スタンプがわたしと目を合わせて下卑た笑みを浮かべた。


「マナちゃん、君はこの三つの宝の力を知らないと見た。だから、俺が教えてあげるよ! この三つの宝の力を使って、君達に罰を与える事でね! さあ、覚悟するんだ!」


「三つの宝の力……?」


 打ち出の小槌は対象の大きさを変える力の筈……。

 だけど、鶴羽の振袖と氷雪の花の力は分からない。

 どうやら、わたしの確信は早とちりだったようだ。

 残念ながら、戦いはまだ始まったばかりで、この先どうなるか分からない。

 わたしは緊張で唾を飲み込んだ。

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