004 スキルのご使用は計画的に行いましょう
わたしが玄関の扉を開けて、外に出ようとした時だ。
わたしが外に出る前に、扉を開けた瞬間にガバッと両脇を掴まれる。
「え?」
わたしが驚くのも束の間。
わたしは外にいたモーナのストーカーに両脇を掴まれたまま、持ち上げられてしまった。
「キャー!」
叫び声が森に響き渡る。
だけど、その叫び声はわたしのでは無い。
わたしがストーカーに持ち上げられて叫んだのは、わたしのお姉だ。
わたしはと言うと、実はこうなる事は予想の一つとして持っていたので冷静だ。
モーナとわたしの身長は5センチしか変わらないし、もしストーカーが大男なら、パッと見は気がつかない筈。
そうなると、家の中から出て来た瞬間に何かアクションを起こすかもしれないと予想していた。
だから、わたしは冷静にステチリングで、ストーカーの情報を読み込んだ。
スタンプ=ウドマン
種族 : 半魔
職業 : 木こり
身長 : 210
装備 : ベアクロウズ・ベアシューズ
属性 : 風属性『風魔法』
能力 : 『高速なでなで』未覚醒
男にはスリーサイズの表示は出ないんだ?
あれ?
種族の半魔って何だろう?
アニメとかで見た事ある半妖の魔族版かな?
って、何このスキル?
高速なでなで?
「愛那が大人の階段を上ってしまいますー!」
お姉が喚くと、それを聞いたストーカーが、お姉とわたしを交互に見た。
「むむむ!? モーナちゃんじゃないぞ!?」
ストーカーは顔を顰めて、わたしを地面に下ろす。
わたしは地面に降りて、改めてストーカーを見ると、ストーカーの身長の大きさを実感した。
流石は210センチね。
もの凄くデカい。
それに、何となくそうなんじゃないかと思ってたけど……。
わたしは顔を上げて、モーナの姿をキョロキョロと周囲を見て捜すストーカーの顔を見る。
こいつロリコンね!
私がストーカーを見て確信したその時、ストーカーが私の頭の上に手を乗せた。
「え?」
私が驚くのも束の間。
ストーカーが、突然わたしの頭を撫で始める。
「ちょっと! やめ!」
って、何これ!?
めちゃくちゃ速い!
分かった!
これが高速なでなでだ!
何このスキル!?
こんな変なスキルもあるの!?
「さあ。お嬢ちゃんは、俺のナデナデに耐えられるかな?」
確かにおかしなスキルだけど、嫌なスキルかもしれない。
知らない男に頭を撫でられるし、髪の毛が乱れ……てない!?
わたしは持ち歩いている手鏡をポケットから取り出して、自分の頭を映して確認して、髪の毛が乱れていない事に驚いた。
凄い!
この高速なでなで、凄い高等なテクニックだ!
だから何って感じだけど……。
「やめて下さい! 愛那の頭を撫でるのは、私の特権なんです!」
「はっはっはっはっ! ならば今日からは俺の特権だ! 俺の最強スキル、高速なでなでを受けて落ちなかった小動物はいない!」
「そんな!?」
お姉が口に手を当てて驚く。
「ちょっと! わたしを小動物と一緒にしないでよ! お姉も真に受けないで!」
「でも、愛那は小動物より可愛いんですよ!?」
「はっはっはっはっ! よーしよしよし!」
「鬱陶しい!」
わたしは小動物扱いされたのがムカついたので、手鏡をポケットにしまいながら、ストーカーの高速なでなでから逃れて距離をとる。
すると、高速なでなでから逃れたわたしを見て、ストーカーが若干引くぐらいに大袈裟に驚いた。
それはもう、ネットで有名な人が動画のサムネに使うような顔だ。
わたしはストーカーの驚く姿を見て、若干引きながら冷や汗をかく。
そこへ、お姉が眉根を下げて心配そうに顔を曇らせて、わたしに近寄って来た。
「愛那。大丈夫ですか?」
「うん。頭を撫でられただけだからね」
と言っても、ここが異世界じゃなくて元の世界なら、確実に事案で逮捕させてやりたい所だ。
「良かったです」
お姉が安堵のため息を零す。
するとその時、家の屋根の上から突然声が聞こえてきた。
「待たせたわね!」
屋根の上を見ると、そこにはモーナの姿が。
何やってるのあの子?
そう言えば猫って高い所に直ぐ上るし、モーナも猫の獣人だから上ったのかな?
……流石にそれは無いか。
って、何で出て来たんだろう?
「今日こそは決着をつけてやるわ! スタンプ! 覚悟しなさい!」
「モーナちゃん! そんな所にいたんだね? 危ないから今すぐ俺の胸に飛び込んでおいで!」
「お断りだ!」
「モーナ、何で出て来たの? 任せたって言ってたでしょ?」
「かっこいい登場の仕方をしたら、かっこいいと思ったからだ!」
うわぁ。
モーナって、何となく思ってたけど、想像以上に頭が残念な子だ。
「モーナちゃん! かっこいいですよ!」
お姉はモーナを褒めながら、スマホのカメラ機能を使って、パシャリとモーナの写真を撮る。
すると、モーナはお姉のそれに気がついて、ポーズをとりだした。
お姉もモーナがポーズをとりだすと、それに合わせて写真を何度も撮り始める。
「お姉。スマホの電池、そんな事してたら直ぐ無くなっちゃうよ?」
「あっ! そうでした!」
「もう終わり? もう少し撮っても構わないわよ!」
「アンタ何しに来たのよ?」
わたしが冷や汗をかきながら質問したその時、ストーカーが雄叫びを上げる。
「うおおおおおおおおっっ!」
その声に、わたしとお姉とモーナが驚いてストーカーを見ると、ストーカーは鼻息を荒くしながらお姉を見た。
「それは伝説の異世界道具スマホではないか!? それがあれば、いついかなる時でも幼女達のエッチな姿を保存できると聞いたぞ!」
つい何の疑問も持たずにモーナとお姉を見てたけど、そういう事なのね。
わたし達の世界の物も、この世界で知られてるんだ。
だから、モーナも写真に気付いてポーズをとってたのね。
それにしても……。
わたしは頭から血の気が引くのを感じながら、鼻息の荒いストーカーに視線を向ける。
幼女達のエッチな姿を保存って、この男ヤバい。
本当にロリコンじゃん。
「さあ! 今すぐそれを俺に譲るんだ!?」
「嫌です! これには私と愛那の思い出の写真が詰まってるんです!」
お姉とストーカーが睨み合う。
そして、モーナが屋根の上から回転しながら飛び降りて地面に着地すると、ドヤ顔で私に視線を向ける。
わたしは馬鹿だな~と思いつつも、モーナに拍手を適当に送ってあげると、モーナは満足そうに口角を上げて鼻から息を大きく吐き出した。
と、その時、ストーカーがとんでもない事を言い出す。
「どうしても俺に異世界道具スマホを渡さないと言うのなら、仕方がない! 貴様を村に連れ帰り、村の連中の花嫁にして、俺好みの幼女を産ませてくれるわ!」
「へうー!?」
よし。
殺そう。
わたしはカリブルヌスの剣を横に構えて、ストーカー目掛けて薙ぎ払う。
その瞬間、真空の刃が勢いよくストーカーに命中し、ストーカーの身に着けている服が綺麗に横に両断され地面に落ちる。
そして、それだけでは終わらない。
更にわたしの放った斬撃は、ストーカーの背後にあった草木までも薙ぎ払い、木々は音を立てて何処までも倒れていった。
ストーカーは目を見開いて硬直して、壊れたロボットの様に私に顔を向けて視線が合う。
お姉もモーナも驚きながら、わたしに視線を向けた。
「おいストーカー。お姉に何かあれば、次はお前の下半身についてる物を薙ぎ払うよ」
わたしが睨みつけてストーカーを脅すと、ストーカーは顔を青ざめさせて股間を握る。
そして、勢いよく後退り、わたしから距離を置いてから大声を上げた。
「お嬢ちゃん! 今日の所は見逃してやる! だが、次はこうはいかない! 必ず俺を敵に回した事を後悔させてやる! 覚えておくんだな!」
ストーカーが大声を上げると、わたしは返事の代わりにストーカーを睨む。
すると、ストーカーは大量に汗を流しながら、一目散に逃げて行った。
「本当に最低。何なのあのクズ」
「愛那ー!」
「わっ!? お姉!?」
お姉がわたしの名前を呼びながら、わたしに勢いよく飛びついて、わたしを抱きしめる。
わたしがお姉の胸に顔を埋まらせながら驚いていると、モーナがケラケラと笑いながら話しかけてきた。
「マナ。おまえ凄いな。私が思っていた以上だわ。きっと私の教え方が上手かったのね」
「その自信は何処から来るの?」
「本当の事じゃない」
「……そうだね。もう、それでいいよ。って、お姉、いい加減離して」
わたしがお姉に頼むと、お姉はわたしから離れ……ない。
今度はわたしの背後にまわって、後ろからわたしを抱きしめる。
わたしは半ば諦めて、モーナに話を振る。
「ストーカーって、いつもあんな感じなの? 酷いってもんじゃないんだけど? あれもうただの犯罪者じゃん」
「犯罪者? この世界の男は、あんなのばっかりよ?」
「え? それってヤバくない? 異世界って、犯罪者の巣窟なの?」
「そんな事より、マナは私が思っていた以上に強いから、頼みたい事が増えたわ!」
「そんな事って……。頼みって何?」
「ふふん。良いわ! 教えてあげる! でも、その前に約束の場所まで案内してあげるから、ついて来なさい!」
何で上から目線なんだと思いながら、わたしは呆れながら返事をする。
「わかった」
◇
モーナの後をついて行き、わたしとお姉は念願の場所、初めて異世界に来てしまった扉まで辿り着く。
だけど、扉を見たわたしは、大きく落胆と後悔をして膝から崩れ落ち、がっくりと項垂れる。
何故なら、何故ならそれは……。
「扉が真っ二つになってますね」
「わたしの馬鹿ーっ!」
なんとなく、そんな気はしていた。
何故ならば、モーナの案内で進む先が、ストーカーに目掛けてわたしが斬撃を飛ばした方角だったからだ。
しかも、進めど進めど延々と草木が倒れていて、そのまま森の外に出てしまった。
そして、辿り着いた先にある扉も、綺麗に横に薙ぎ払われてしまっていたのだ。
わたしは恐る恐る真っ二つの扉を開けて、扉の先を見る。
だけど、真っ二つになった無残な姿の扉からは、わたし達の世界の風景が見える事は無かった。
「やっちまったわね!」
「そうね……」
やりすぎた。
いくら脅しの為だとは言え、もう少し威力を抑えるべきだった。
本当に何やってるのよわたしー!
「元気出しなさいよ! この世界も捨てたもんじゃないわよ! 気持ちの悪い男はいっぱいいるけど、楽しい所よ!」
気持ちの悪い男がいっぱい?
まさか、本当にストーカーみたいなのが他にも沢山いるって事?
「そうですよ。愛那、元気出して下さい。お姉ちゃんと一緒に、異世界生活をエンジョイしちゃいましょう!」
モーナが嬉しそうに喜び、お姉がワクワクしながら話す。
そんな2人を見ながら、わたしは泣き出したくなる気持ちを抑えて、どんよりした表情で考える。
何方か、わたしとお姉を家に帰らせてくれませんか?
5話目に入る前に、一旦登場人物のイメージイラスト(ラフ画)が入ります。
挿絵などが苦手な方は気をつけて下さい。